コロナ禍で一層盛り上がるフードテック、今後の傾向は?

コロナ禍で一層盛り上がるフードテック、今後の傾向は?

食に関して地球規模での課題が顕在化している今、プラントベースや販売のDX化などテクノロジーで解決する機運が高まっています。コロナ禍によってフードテックのトレンドはどのように変化しつつあるのか?収束後の傾向とは?フードテックに詳しい住氏にうかがいました。

お話をうかがった方

クックパッド株式会社
Bis Dev & Strategy Manager
東京大学大学院非常勤講師
住 朋享 氏

フードテックのメガトレンドは
どのように変化したのか?

ー フードテックのメガトレンドを改めて振り返らせてください。

住:まずは、2019年頃からプラントベースフードの技術が目覚ましく進化しています。これは皆さんも実感があると思いますが、プラントベースの食品が身近なものになってきましたよね。

背景としては地球人口が急増するという予測のもと、タンパク質源を牛や豚などに依存していると、将来的にまかない切れないという強い危機感がベースにあります。さらに、温室効果ガスの排出や膨大な飼料や畜産など、地球環境への負荷が大きいものへの配慮から2017年頃に注目されたのが「コオロギ」なわけです。

コオロギせんべいなど話題となる商品もリリースされましたが、爆発的な普及には至りませんでした。なぜかというと、栄養面だけで見るとコオロギは高タンパク質ですが、これまでの食文化にはないので、食事として根付きにくいんですよね。笑

やはり、人間が口にするものとしておいしさや食べやすさは大前提でしょう。その視点から注目されているのが、2020年に登場したアメリカの「インポッシブルミート」や「ゼロエッグ」などのプラントベースフードです。彼らの開発の根底にあるのは、「本物を代替するのではなく、本物を超えていくこと」。バイオミルク、プラント母乳など、環境負荷が少なく完成度の高いプラントベースフードが次々に開発されています。

急成長を後押しするようにVC投資も活発になっていて、アメリカでの小売の売上高も2018年からの2年間で47%の成長を見せています。「セーフウェイ」というミドルクラスのスーパーでも、棚一個をプラントベースフードが占めるようになりました。


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ー フードテック加速に、コロナ禍はどんな影響を与えたのでしょう?

住:コロナ禍のパンデミックによって、世界的なサプライチェーンの崩壊が起こり、食料の流通が止まりました。これを受けて、生産国は自国の食料を守るために輸出をストップしたんです。自国の自給率だけでいかないとやばいぞと。日本でも、牛乳や外食用の高級食材が行き場を失った、という現象は皆さん記憶にありますよね。

動物を食べる食文化を続けていると、動物が育つまでに時間がかかり過ぎることや生産が過剰になっても調整が効かないことなど、さまざまな弊害があると世界中の人が気づきました。コロナ禍によって自国で安定生産・調整ができるよう、より融通の効く食のエコシステムを確立する必要があるという意識が高まっているように感じます。そうした背景を受けて、プラントベースフードへの投資が加熱していると言えるでしょう。


ー プラントベースフードは、今後日本でも普及していくのでしょうか。

住:日本のタンパク質源は、もともと欧米に比べて肉だけに多くを依存しているわけではありません。大豆製品などさまざまな種類のタンパク質を組み合わせながら摂取しているので、プラントベースフードがどこまで普及するかは未知数です。

個人的にはプラントベースフードが日本で普及に至るには、2つのポイントがあると思っています。まず1つ目は環境問題への意識の高まり。2つ目は、プラントベースフードという製品自体に、本物よりも優れた品質や付加価値など、生活者にとって「選ぶべき要素」があること。

日本でも2020年頃からSDGsへの意識が少しずつ高まってきています。2021年2月にインテージで実施した生活者2,544人を対象にした調査では、2020年1年間で認知率50%超とかなりの勢いで認知率が上がっていました。こうした調査結果からも、普及する素地が育ってきている感はあります。
また、日本の食事情を鑑みると、2016年に創業した「ベースフード」のように、主食を健康目的でアップデートするほうが身近に感じられるかもしれません。


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サプライチェーンの崩壊と行動様式の変容

ー コロナ禍では生活者の購買行動や流通サプライチェーンにも変化がありましたね?

住:シンプルに外食が減って中食や自炊が増えましたよね。世界共通の動きとして、これまでレストラン向けだった食材が余り、生活者向けに小売しようと直販の流れが増えてきました。業務用食材や取引先の商品をファーマーズマーケットのように販売する、食の流通DXが加速しています。

1年以上の長期におよぶ巣ごもり生活で、家を中心に過ごす生活者が増えました。これによって世界中で買い物体験の変化が起きています。ネットスーパーや買い物代行しかりです。アメリカでは「ダーク食料品店」という、買い物代行専門のお店も登場しています。看板もなく、外観からは食料品店だとわからないつくり。商品ピックアップに特化し、買い物客が店内に入らない店舗になっています。産直ECなども増えましたよね。

消費データにも変化が起こっています。鯛や鰻などの高級食材の消費が増加しています。外食が減ってるので、家で贅沢しようという動きです。出前やミールキットといった、食事づくりへの負担を軽減するものへの消費も増えています。


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出典:経済産業省 統計利活用事例集 【家飲みでプチ贅沢?】withコロナにおける食品市場の変化を探る
https://www.meti.go.jp/statistics/pr/rikatuyou_20210305/rikatuyou_20210305.html



コロナ禍で顕在化した食へのアイデンティティ

ー コロナ禍でコミュニケーションが遮断される中、生活者の価値観が変化しています。食領域では、どんな意識変化が見られますか?

住:「食のロングテール」、すなわち多様な価値観を食に投影しようという消費が急増した1年でした。コロナ禍でコミュニケーションが遮断される中、家でパンを焼くなど「家庭内での食を豊かに、自分らしい食の体験をしたい」と考える人が増えています。D2Cの増加にともなって、選択肢も豊かになりました。コロナ禍で自分のアイデンティティを何に求めるかと向き合った時、今までは、人間関係の中で確認していたものが、食に移っているのではないでしょうか。

そうした生活者のアイデンティティに訴える取り組みも出てきています。例えば、「Coca-Cola(コカ・コーラ)」の「Insider's Club」。限定1,000名のみが登録可能で、毎月自宅に発売予定のドリンクが配送されるというサブスクリプションサービスです。新商品をいち早く手にできて、フィードバックが商品に反映されるというもの。「インサイダーになりたい、マル秘の情報を得たい」という生活者の気持ちををくすぐる画期的な取り組みです。

さらに、海外の大きな食品メーカーでは急成長するD2Cスタートアップを買収する動きもあります。パーソナライゼーションがキーワードとなる中で、生活者の選択肢を豊かにするD2Cは注目の的です。一方、日本では買収よりも、社内ベンチャーや新規ブランドを立ち上げるといった動きが顕著ですが、最新ではスタートアップと大手食品メーカーの協業で開発スピードを上げていく動きも活発化していきそうです。


ー こうした潮流をふまえて、アフターコロナのフードテックをどう見据えたら良いのでしょうか?

住:アフターコロナでは、元に戻るという概念ではなく進化していく、あるいは次のスタンダードが生まれるというイメージです。コロナ禍でさまざまなサービスが生まれ、構造変化が起きました。
今は、新しい生活・価値観にシフトする大きなタイミング。今後の潮流を捉えるには、アーリーアダプターの動きがヒントになります。彼らがどう変化し、どんな体験をし、どう考えているのか。

例えば、コロナ禍で料理にチャレンジする男性や、家族でパン作りをする人が増えました。そうした生活者の体験をより楽しく、より継続的なものへと導いていくには、企業として何ができるか? プロダクトが生み出す体験や、生活者に起こる変化、世の中へのインパクトなど、淘汰されずに進化していくための視点を持つことが、新たな一歩に繋がっていくと思います。



writing support:Sayaka Takahashi



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