
ニューノーマル
カオスマップ|飲食業界の進化、レストランテック(前編)
コロナ禍以降、長期化する営業時間の短縮や酒類の提供禁止など、深刻なダメージを受けているレストラン業界。いまどのような変化を迫られ、今後どのように進化していくのか?フードテックに精通する住さんによる前後編の2回に渡る解説。今回は前編をお届けいたします。
世界共通で危機的状況にあるレストラン業界
東京商工リサーチによると、2020年の国内飲食業の倒産件数は過去最悪の842件となりましたが、平年と比較すると突出して多いというわけではありません。
しかし売上ベースで見ると複数回におよぶ緊急事態宣言の発令に伴い、特に飲食店やディナーレストランは通年で深刻な売上減となっており、いまだに回復する兆しがありません。
月別売上高:日本フードサービス協会のデータを基に作成(いずれもコロナ前の2019年同月比)
海外においても同様の状況にあり、北米では2020年におよそ全体で100万軒ほどあるレストランのうち11万軒が閉店または長期休業をする状態に陥っており、業界全体では24%、およそ20兆円の売上高が減少しています。
今後については、コロナワクチンの接種拡大や感染収束によって緩やかに元に戻っていくと予想されています。ただ、回復するスピードは業態により異なり、ファーストフードやカジュアルレストランのほうがより早く、居酒屋やディナーレストランはより遅く回復していくと思われます。
コロナ後のレストランはどう進化するのか?
withコロナの生活が長引いたことにより、生活者とレストランの関係に変化が生じており、コロナ後はただ元に戻るだけではなく、新しいレストランの形に進化すると思われます。
大きく影響する要因を見ていきましょう。
1.人々の生活と働き方の変化
リモートワークの実施率は都道府県や業態によって大きく異なり、最も多い東京都では現在65%の企業でリモートワークが実施されています。また、業態としてはIT・情報通信系が突出して高い実施率となっています。
長引く感染拡大の影響により、オフィスを縮小したりリモートワーク前提のシステムや制度に移行した企業も増えており、1,000人未満の規模では約半数、5,000人以上の規模では80%程度の企業が収束後もリモートワークを継続するとしており、人々の働き方や生活が確実に変化していくと考えられます。
またこのことは、人々の生活が今後も変化したままの状態になることを意味しており、完全に元に戻ることはないと思われます。
2.レストランのデジタル化
コロナ禍において、レストラン業界に起きた世界共通の変化として「デジタル化の急加速」が挙げられます。人々が家中心の生活に移行したことにより、デリバリー需要が急激に発展しました。
この急激な発展により、スマートフォンを介してオンラインオーダーをするというデジタル接点が大幅に増えたため、これまで紙でおこなっていた店内での注文とデジタルの注文の両方を管理する必要がでてきました。
紙とデジタルの注文が混在することは、調理や会計等のオペレーションが非効率となっていくため、オーダーシステムやPOSからその周辺領域も含めてデジタル化が急速に進んできています。
また、デリバリーだけでなく「マクドナルド」のモバイルオーダーのように、店内注文もスマートフォンでおこなうといったように、ユーザーもデジタルを介してレストランと接触することが当たり前になりつつあります。
これらの流れはコロナ後もさらに加速していくと予想されており、多くの進化をレストランとユーザーにもたらします。
3.非接触と衛生
コロナの感染拡大は、人々の安全、清潔、衛生といった意識を格段に引き上げました。今や入店前や食事前に消毒をするのが当たり前になりましたし、他の客との距離感も大きく変わりました。
これらは従業員との接触頻度を下げるための仕組みや、店内飲食ではなく持ち帰りのための専用レジを設けるなどの構造的な変化を起こしています。
また、衛生や非接触といった意識と同時に業務効率を上げるという両方の観点から、キッチンやレストランフロアにおけるロボットなどの自動化ソリューションの普及を後押ししています。
進む外食の内食化
上段が海外、下段が国内のカテゴリ
デリバリーの急増、ゴーストレストランの急発展の光と闇
デリバリー需要が急増している裏側で、今爆発的に増えているのがゴーストレストラン(ゴーストキッチン)です。
ゴーストレストランとは客席を持たない調理のみをおこなうレストランのことで、調理人以外のスタッフが不要のため、低いコスト投資で開店をすることができます。
「KitchenBASE」は、多くのキッチン設備を備えた共有スペースとなっており、最短1ヶ月でゴーストレストランを開設することができます。また、入居者同士のコミュニティやビジネス、マーケティングの支援もおこなっており、自分の店を持つチャレンジをしたい料理人が入居をして切磋琢磨しています。
また、「Lilly Cloud Restaurant」など、チェーン店と同様にマーケティングやメニュー開発はチェーン本部にまかせつつ、誰でも低リスクでゴーストレストランを開設できるというバーチャルフランチャイズという新しい業態も生まれています。
そういったゴーストレストランの闇の部分としては、従来数多くあった異なるジャンルのメニューをすべて個別の〇〇専門店と偽って販売するケースもあり、さまざまなクリエイターが参入しやすくなった一方で、ビジネス的にも新しい展開をみせています。
参考:KitchenBASE/https://kitchenbase.jp/
Lilly Cloud Restaurant/https://lillyholdings.co.jp/service/lillycloudrestaurant
日本で活性化しているデリバリーシェフ
最近では、自宅に出張シェフを招く「Share Dine」などのサービスが活性化しています。
コロナ以前から多くのサービスが存在していたものの、利用ユーザーは一部の高所得者のみと限られていました。しかし、コロナ禍の影響でその状況は一変しています。
その背景には前述でご説明した、ディナーレストランの稼働が大幅に減少したことや巣ごもり需要の増加があります。ディナーレストランの稼働が大幅に減ったことでシェフの稼働や収入も減少したため、新たな働き口を求めて多くの魅力あるシェフが出張サービスに登録するようになりました。
一方ユーザーも、巣ごもりの長期化によってレストラン体験に飢えており、家族で囲む食卓やホームパーティーなどのシーンで出張シェフサービスを利用する人が増えています。また、パーティーのような非日常的な体験だけではなく、日々の食事をカバーする作り置きメニューや料理のスキルアップといったより日常性の高いニーズまで広がってきています。
こうした動きは、ユーザー体験の満足度やシェフの収入面などでレストランサービスよりも優れた点も多くあり、コロナ収束後も継続していくと予想されます。
参考:Share Dine/https://sharedine.me/
後編はこちら
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著者情報

- 住 朋享
- 2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。