[お茶の話と、私たち]秋のお茶、熟成茶の魅力

[お茶の話と、私たち]秋のお茶、熟成茶の魅力

食や料理への「偏愛」を語ってもらうHolicClip。日本茶インストラクターで、株式会社 茶淹の代表取締役でもある伊藤尚哉さんの連載[お茶の話と、私たち]。今回は、熟成茶について語っていただきました。

前回の記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/9869/

秋のお茶「熟成茶」とは?

収穫した茶葉を蒸して揉みながら乾燥させて作られるお茶は、海苔や鰹節のような保存食品にも似ています。

4月から5月に摘み取った新鮮な茶葉も空気に触れる状態や高温になる場所での保管など、保存状態が適切でないと、日が経てば経つほど劣化してしまいますが、正しい保存方法で寝かせると、お茶もワインやウイスキーのように"熟成"します。これが「熟成茶」と呼ばれるものです。

まろやかな旨味とコクのある味わいが特徴である熟成茶は、ゆったりとした秋のお茶時間にとてもぴったりです。

江戸時代、お茶好きの徳川家康は熟成したお茶の深い味わいを愛し、5月に採れた新茶を壷に入れて、標高1200mの静岡市の大日峠という山奥に運ばせ、夏の間冷涼な高地で大切に保管して、秋になると駿府城にお茶を運ばせていたといわれています。

「新茶」と「熟成茶」の味わい

春に収穫される「新茶」は、新鮮でフレッシュな味わいと爽やかな香りが特徴ですが、新茶を半年ほど寝かせた「熟成茶」は角が取れ、まろやかな旨味が楽しめる優しい味わいのお茶です。

初物である新茶は縁起物として贈り物に喜ばれ、何かと重宝される存在ですが、じっくりと長い時間を経て深みが増す熟成茶には、新茶にはない豊かな味わいがあります。

熟成と発酵の違い

寝かせておくだけで味わいが変化する熟成茶。熟成中のお茶の中では、いろいろな成分変化が起きています。ここから化学的なお話になりますが、少しだけお付き合いください。

お茶には、カテキンなどのポリフェノールと酸化酵素が含まれており、収穫後に茶葉を放置しておくとこの2つが混ざり、発酵が進みます。一方、お茶の熟成は無酸素状態でおこなわれます。ポリフェノールは無色の物質で香りがしませんが、酸化すると揮発性の高い独特の香りが生成される物質に変化します。

このような成分変化は無酸素状態でもゆっくりと進み、ポリフェノールはカテキンではなく、お茶に含まれている旨味成分アミノ酸とのバランスにより独特な香りを生成します。その成分変化により、新茶特有の新鮮な若葉の香りから、ほのかに華やかさを感じる甘い香りに。角の取れた旨みとコクが深い熟成茶になるのです!

お茶の保管方法と熟成茶の作り方

日本茶専門店やスーパーに流通しているお茶は、長期保存がきく状態で販売されているため、未開封の状態であればご自宅でも熟成茶を作ることができます。

お茶は直射日光、湿気、温度変化、移り香、酸化に弱いため、適切でない保管方法では、日が経つにつれて茶葉は徐々に赤みを帯びて香りが失われるので要注意。未開封の状態のお茶を冷蔵庫や温度変化の少ない冷暗所で半年間保管しておくと、まろやかな味わいの熟成茶が完成します。

熟成茶にするなら、100g 1500円くらいの少し高価な「浅蒸し茶」がおすすめ。安価な「深蒸し茶」は、最初の製造工程の「蒸し」が不完全なお茶もあり、熟成中に傷んでしまうことがあるので、熟成にはあまり向いていません。
ちょっと手の込んだお茶の楽しみ方ですが、自分でやってみるとお茶の楽しみが広がるので、ぜひ試してみてください。

秋から冬にかけて日本茶専門店などで「蔵出し煎茶」や「秋茶」といった名前でも売られていることが多い熟成茶。この時期にしか味わえない優しい味わいを探しにお茶屋さんの暖簾をくぐってみてはいかがでしょうか?



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著者プロフィール

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伊藤尚哉
株式会社 茶淹 代表取締役

1991年愛知県出身。24歳のときに日本茶のおいしさに魅了され、2016年から名古屋の日本茶専門店・茶問屋に勤務。
2018年日本茶インストラクターの資格を取得(認定番号19-4318)愛知県支部役員
2019年日本茶ブランド「美濃加茂茶舗」の立ち上げに参画、店長に就任。
2020年美濃加茂茶舗を運営する「株式会社 茶淹(ちゃえん)」を設立。