
グローバルフードトレンド
中国スナック菓子市場におけるマーケティング戦略
中国製品は”安かろう悪かろう”のイメージがありましたが、年々品質が向上し、安くても質の良い商品が市場に出回るようになりました。中国スナック菓子業界にも同様の変化が起こっています。日本製品は、安心安全だが単価が高いという点から、価格競争で負けることも増えてきました。日本製の良さをPRしつつ、中国生活者の心を掴むには?現在の中国スナック菓子市場におけるトレンドから、マーケティング施策のポイントをご紹介します。
中国スナック菓子市場で押さえるべき
3つのターゲット層
ターゲット1:チーフォー
元々の意味では「ただ飯食い・ごく潰し」を意味するけなし言葉ですが、現在では 「食いしん坊」を意味する中国の流行語で、ドラマや日常での会話、美食ブログなどで近年使われるようになりました。中国の食品市場において重要な存在です。
ターゲット2:Z世代
主に1990年代後半から2000年代前半に生まれた世代を指します。厳密な定義はありませんが、2010年から2020年代にかけて社会進出する世代で「ジェネレーションZ」とも呼ばれます。デジタルネイティブである点が特徴で、オンライン市場が一般的となった現在、注目のターゲット層です。
ターゲット3:子ども
おやつは子どもにとって欠かせない楽しみですが、中国で流通している子ども向けスナック菓子の多くは、栄養に配慮せず油や砂糖を多量に使用しているものが多いという現状があります。子どもを大切にする文化が根強い中国では、発育に良いものを与えたいという親のニーズが非常に大きくなっています。栄養面での不満を解消するスナック菓子の開発によって、市場を獲得できる可能性があります。
彼らが食に対して何を求めているのか、Tmallのビックデータを基にマーケティングトレンドを分析していきます。
ターゲット別に見る
4つのマーケティングトレンド
トレンド1:チーフォーのキーワードは「期間限定」「新鮮」「健康的」
2020年Tmallプラットフォームのデータによると、食品消費における3大トレンドは、①旬の食材 ②鮮度を維持する技術 ③無添加商品、であることが分かりました。これらは、生活者の健康に対する意識が高まっていることを示しています。
中国のスナック菓子においては、新鮮な素材や添加物の少ない商品が求められています。2018年4月スナック菓子市場の総売上は、578億元(日本円で約9千億円)でした。そのうち、新鮮や健康を謳った商品の売上は68億元(1千億円)と、前年比8%増となっています。「新鮮」「健康」などのコンセプトは、スナック菓子業界の伸びしろと捉えられています。
トレンド2:チーフォーにとって魅力的なパッケージを開発する
中国の生活者は、以前よりも品質の良いものを求める傾向にあり、直近2年間で高級スナック菓子の市場は、上昇傾向がみられます。「2020 Tmallスナック菓子市場分析報告書(※)」によると2020年高級スナック菓子売上高は前年比46%増、平均月間売上は1億元(17億円)に達しています。こうした流れを受け、スナック菓子業界では高価格・高性能・高品質志向を求めるハイエンド化がトレンドとなっています。
参考:2020 Tmallスナック菓子市場分析報告書:魔鏡市場情報より
若者の間でトレンドの高級スナック菓子。いずれも平均価格が高くブランド規模が大きいのが特徴。
バリエーション豊富な味の商品展開、個包装ではなくファスナー付きパッケージ等の商品が多く見られます。
ハイエンド化の例としては、革新的な味の開発とパッケージの改良がよく見られる手段です。味のグレードアップはもちろんのこと、中国のメーカーやブランドは、より質の高いパッケージがスタンダードになっていくと考え、開発をおこなっています。
また、昨今の中国生活者は、環境への意識も高まっており、過剰梱包に抵抗を持つ人も増えてきました。こうした背景から、簡易的なパッケージの開発も進んでいくことが考えられます。
トレンド3:Z世代の興味を引くIPコラボレーション
新興から老舗のブランドまで、さまざまなブランドがZ世代の興味関心を引くため、商品のクリエイティビティやマーケティング手法をアップデートしています。特に市場に大きく影響を与えている施策が、ゲームやアニメのキャラクターなどを利用した「IPコラボレーション」です。中でも高い売上実績を実現したブランドが、「OREO」と「喜茶HEYTEA」でした。
菓子食品ブランド「OREO」のIPコラボ事例
左がポケモンとのコラボ、右は文化用品・工芸品ブランド「故宮」とのコラボ
飲料・菓子食品ブランド「喜茶HEYTEA」と
老舗アイスクリームブランド「和路雪(Wall’s)」とのIPコラボ
業界の垣根を越えたコラボもおこなっている。
パーソナルケアブランド「Dove」がおこなった「喜茶HEYTEA」とのIPコラボ
「OREO」のIPコラボ施策では、キャラクターやブランドとコラボレーションしたパッケージやプロモーションによって、Z世代の興味を引くことに成功しました。「HEYTEA」のIPコラボ施策では、老舗アイスクリームブランドとコラボレーションしたカップアイスの新商品を発売し、業界の垣根を越え、ブランドや商品そのもののクリエイティビティを高めています。
「2021年オンラインスナック菓子ギフトボックス年間トレンド報告書(※)」によると、オンライン市場では、直近2年間で異業間でのIPコラボ商品が増加しており、売上高は12.3倍上昇しています。Z世代の興味を惹きつけたのは、ゲーム関係IP(崩壊3rdやポケモン)と、子ども時代の思い出を喚起させるIP(ドラえもん)でした。
参考:2021年オンラインスナック菓子ギフトボックス年間トレンド報告書 :
CBNDate《2021线上零食礼盒年度趋势报告》 を指す。
トレンド4:子ども向けスナック菓子市場に起きている変化「健康化の促進」
子ども向けスナック菓子市場では、さらに「健康」へのニーズが高まっています。健康を意識せずに多くの油や砂糖を加えたお菓子が多く流通している ことを受けて、2020年5月17日中国副食流通協会が「儿童零食通用要求」を発表しました。
この要求では、子ども向けスナック菓子の製造において「足し算と引き算」をおこなううべきだと指摘しています。「足し算」は栄養強化成分を加えることを表しており、「引き算」は砂糖や塩分、食品添加物の量を最小限に抑える、あるいは加えないことを意味しています。この要求を受けて、子ども向けスナック菓子業界では急速に「健康化」が推進されています。
中国スナック菓子市場参入時のポイント
現在の中国スナック菓子市場において、ターゲット層やトレンドは、今後さらに深掘りできる可能性を秘めています。彼らのニーズや価値観を押さえることは、中国スナック菓子市場へ参入するために必要不可欠でしょう。
子ども向け商品は購入する保護者の心をつかむ
スナック菓子の機能性を保護者に伝えることが市場開拓のカギとなります。おやつとしての機能以外にも、DHA・タンパク質・カルシウムなどの栄養素を加えることで、子どもにとっての栄養源のひとつだと認識させることができます。
他商品との差別化
中国のスナック菓子市場では、商品の同質化が深刻になっています。吃货(チーフォー)やZ世代の味覚、そして子どもの栄養を満たすこと以外にも、生活者とのコミュニケーションによって、商品やブランドへの関心を高めていくことは、企業全体が考えるべき課題となっています。前述のような「IP戦略」もそうした戦略対策のひとつです。
オンラインによるプロモーションを活用する
EC販売の規模が拡大している現在、ライブコマースやソーシャルメディアによるクチコミの発信などを活用し、オンラインからの流入増を狙うことをお勧めします。特にライブコマースによるビジネスチャンスは大きな可能性を秘めており、芸能人・有名人による広告や宣伝のアプローチを深掘りしていくことが、大きな成功に繋がっていると言えるでしょう。
細分化するターゲットと
トレンドを押さえた戦略を
中国における生活者の価値観やニーズを踏まえたマーケティング戦略をおこなうことで、ブランドを中国市場へ浸透させることが可能になります。
本記事では、現在のスナック菓子市場で注目すべき消費者として吃货(チーフォー)・Z世代・子どもを対象に分析しましたが、大きな国土を持つ中国では地域差や住んでいる都市など、ターゲットをさらに細分化することができます。トレンドを読み、どのターゲット層に向けてどんな付加価値を提案していくかを考え、戦略を立てていくかが重要です。
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著者情報

- (株)ポリスター
- 日中双方のスタッフによる、日本企業様の中国進出のサポートをおこなっています。中国進出の戦略立案からリスク管理、消費者向けのブランディングやプロモーション、販路開拓などのサービスを提供しています。
https://www.polystar.yokohama/