
広告・販促事例
どうすれば事業系食品ロスは減るのか
2021年現在、最新で発表されている食品廃棄物及び食品ロスの発生量は年間600万トン(H30年度)。そのうち事業系が324万トン(54%)となっており、前年度(H29年度)から横ばいで推移しています。事業系食品ロスはどのような背景で生まれ、どこに課題があるのでしょうか。食品ロス問題専門家の井出氏にうかがいました。
お話をうかがった方
井出留美 氏
食品ロス問題専門家、消費生活アドバイザー
ライオン、青年海外協力隊を経て日本ケロッグ広報室長等歴任。3.11で廃棄に衝撃を受け、誕生日を冠した(株)office3.11設立。食品ロス削減推進法成立に協力。著書に『SDGs時代の食べ方』『捨てないパン屋の挑戦』『食料危機』『あるものでまかなう生活』『賞味期限のウソ』『捨てられる食べものたち』他。食品ロスを全国的に注目させたとして第二回食生活ジャーナリスト大賞食文化部門受賞。Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2018/食品ロス削減推進大賞消費者庁長官賞受賞。
事業系廃棄食品は、どの工程で発生するか
ーー今回は主に事業系食品ロスについてお話をお聞きしたいと思います。まずは発生量など教えてください。
井出氏(以下、井出):2021年現在で確認できる最新の食品ロス発生量は、環境省と農林水産省が公表している2018年(平成30年度)のレポートになります。このレポートをみると、食品ロス発生量は600万トンで、事業系の割合は54%の324万トンです。
廃棄量や割合は前年からあまり変化はありません。
参照:食品ロス発生量の年ごとの変化と事業系(青)家庭系(緑)の内訳(環境省公式サイトより)
ーー事業系食品ロスの中では、主にどのようなタイミング・業態で発生しているのでしょうか。
井出:環境省や農林水産省は「製造業」「外食産業」「小売業」「卸売業」と分類しており、発生量は下記の通りです。
食品製造業・・126万トン
外食 産業・・116万トン
食品小売業・・66万トン
食品卸売業・・16万トン
最も多いのは食品製造業、次いで外食産業となっていますが、農林水産省がコロナ禍に最新のアンケート調査をしており、その結果をみると「外食産業」は減っているようです。要因はシンプルに休業や店内営業やストップしたからのようですね。
こうやって発生量としてみると「食品製造業」に課題があるようにみえますが、「多く作りすぎてしまう」業界構造に課題があって、小売業や卸売業での改善が重要だと思います。
ーー作りすぎてしまう構造とは。
スーパーマーケットなどの小売では、商品が欠品すると卸やメーカーにペナルティを課すようになっています。欠品するとクレームが増えますし、販売機会の損失になります。また、欠品している棚が多いと見映えも悪く、他のお店へ流れてしまう可能性もある。そのため、「欠品防止」として、様々なペナルティがあるのです。
また、コンビニエンスストアの業態では「コンビニ会計」というものがあります。コンビニ本部と加盟店で「利益相反」してしまう構造です。本部としては値引き販売するよりも廃棄して発注したほうが利益があがる一方、加盟店は見切りしてでも売り切ったほうが利益があがる仕組みです。最近では改善の方向にありますが、そのようなビジネス構造によって作りすぎで廃棄しなくてはならない状態になっているのも事実です。あとは1/3ルールも要因として大きいでしょう。
ーー業界内でよく聞く「1/3ルール」とはどんなルールなのでしょうか。
井出:1/3ルールとは、賞味期限(※)の期間全体の1/3のところに「納品期限」、2/3のところに「販売期限」を設定し、そこに達すると棚から撤去する商慣習のことです。
※賞味期限‥おいしく食べられる期限のこと。たいていの食品は実際より2割以上短く設定されているため、きちんと管理されていればその日付が過ぎてもおいしく食べられる場合がほとんど。なお、消費期限とは安全に食べられる期限のこと。
アメリカの納品期限は1/2、イタリアやフランスは2/3、イギリスでは3/4ですから、2012年ぐらいから農林水産省と業界がこの1/3を1/2に伸ばしましょうと働きかけています。ただし品目が限られており、ペットボトル飲料や菓子で緩和の動きがみられます。
また「日付後退品」というものがあります。小売店は当日に納品した賞味期限表示が、前日に納品した商品の賞味期限より1日でも古いと、納品を拒否する場合があります。賞味期限表示を年月日表示しているものが多いことから起こる逆転現象です。消費者庁は3ヶ月以上の賞味期間があるものについては年月表示でいい(日付表示を抜いてよい)としていますが、未だ年月日表示の食品が多くみられます。
ーー製造から小売と食品業界は複雑な業界構造ですから、様々な利害から調整しにくいところがありそうですね。例えば、メーカーが速やかに改善できることはなんですか?
井出:賞味期限表示の年月化の徹底だと思います。自社内で完結しますし、短期的に実施することが可能ですから。
ーー年月表示化はメーカーに限らず、小売にとってもメリットがありますか?
井出:あると思います。小売では「先入れ先出し」が原則ですが、お客様がそれを崩してしまうことも多いです。年月日まで表示されていると管理が大変ですよね。メーカーが気になる点は、トレーサビリティの視点だと思います。自主回収などのトラブルの時に、商品がどの工場でどういったロットで作られたのか、把握しておかなくてはなりません。
私が過去在籍していた食品メーカーでは、アルファベット5文字の中に製造年月日と製造ライン、どのグループが製造したのかがわかるようにしていました。
生活者にはわからないけど、トレーサビリティ(追跡可能性)を向上させられる。だからトレーサビリティの観点から製造年月日を記載しなくても可能なんですよね。
飲料業界の場合は「上旬」「中旬」「下旬」という表記に改定しています。
また容器の改善で賞味期限を伸ばしているメーカーもあります。例えばキユーピー社では少しでも長く日持ちするように研究を重ね、少しでも酸化しないような製造方法に変えています。また容器の改良によって10ヶ月の賞味期限を12ヶ月まで伸ばしているんですよ。素晴らしい企業努力だと思います。
ーー生活者として、賞味期限が長い時に「何か特別な添加物が入っているのかも」と疑ってしまいますが、そんなことはないんですよね。このような真摯な企業努力が世の中に伝わってほしいと強く思います。
業界の構造を変えるには
生活者の意識改革も欠かせない
ーー事業系食品ロスを改善していくために、どの分野でどんなテコ入れが足りないと感じますか?
井出:冒頭に伝えましたが、変える余地があって影響範囲が大きいのは小売・卸でしょう。欠品ペナルティ緩和、1/3ルールなどの商慣習の見直しによって、大きく前進しますから。ただ一方で、それは業界内だけで改善できることではなく、生活者である私たちの理解がなくてはなりません。
ーー具体的に教えてください。
井出:スーパーマーケットをはじめ小売業は「お客さまを第一」に考え、営業活動をしています。商品をつい欠品してしまったことで、お客さまからクレームをいただいてしまうなら、改善しなくてはいけません。小売や卸に過剰なルールを強いているのは、私たち生活者だったりするわけですよね。
「欠品なら他の代替商品を買おう」といったように、私たちが欠品に対して大らかな気持ちで向き合えれば、過剰生産による食品廃棄量を減らすことは可能です。もし棚が埋まっていなくても「過剰に配荷していなくて、いいスーパーだな、応援したい」と思えたらいいですよね。
ーー確かに事業系食品ロスといっても、生活者の意識も変わらなくては抜本的な改善にはならなそうですね。
井出:「お客様は神さま」。そんな言葉に、生活者は甘えているかもしれません。諸外国では、食品パッケージの一部を使って啓発している場面を多くみます。スウェーデンは生活者を啓発する活動にも積極的です。賞味期限とはおいしさの目安で、過ぎても大抵は飲食可能と伝えていたり。デンマークではそうした複数の活動により、食品ロスを25%達成しています。
安全性と資源活用は、常にバランスを取る天秤の関係にあります。日本は、さまざまな背景を経て、過剰なほど安全面に偏っているのかもしれません。その意識を変えていくのは、業界はもちろん、生活者です。誰が悪いとかではなく、手を取り合って着実に課題解決にむけて前進できることを願います。
この記事が気に入ったらフォロー
ニュースレター登録で最新情報をお届けします!
著者情報

- FoodClip
- 「食マーケティングの解像度をあげる」をコンセプトに、市場の動向やトレンドを発信する専門メディア。
月2-5回配信されるニュースレターにぜひご登録ください。
登録はこちら>>> https://foodclip.cookpad.com/newsletter/
twitter : https://twitter.com/foodclip