
飲料
岡山のワイナリーが企てる生産者視点のブランディング術
生活者の購買行動が多様化するなか、新たなユーザーの獲得や販路拡大、ブランド戦略の一環として、ECサイトやネットショップに注力をしていきたいとお考えの方は多いかと思います。そうした方々の参考になるよう、ネットショップでこだわりの商品を多くの生活者に届けることに成功した事例をご紹介していきます。
※この記事は「カラーミーショップ by GMOペパボ株式会社」が運営する「よむよむカラーミー」からの転載記事です。
今回ご紹介するショップ
domaine tetta(ドメーヌ・テッタ)
岡山県北西部、新見市哲多町で2016年に誕生したワイナリー。国内でも稀な石灰質の土壌、長い日照時間や寒暖差を生かしてぶどう栽培に取り組み、ワイン造りを行っています。今回は、tettaの代表を務める高橋 竜太さんに、設立の経緯やネットショップの運営状況などをうかがいました。
10年の月日をかけて耕作放棄地を再生
ーー「domaine tetta」を立ち上げた経緯について教えてください。
今tettaがぶどうを栽培している畑というのは、かつて他の農業生産法人が生食用ぶどうを大規模に栽培していた場所なのですが、それが頓挫して以降はほとんど耕作放棄地になっていました。
僕は地元・新見市で家業の建設業をやっていた関係で、10年ほど前、農地の再生事業を請け負う形で土地と会社を引き受けることになりました。新たに事業計画を練るために土壌や環境を調べていくうちに、ここでワインを作ったらおもしろいんじゃないか?と考えたのがワイナリー設立のきっかけです。
ーーもともとワイン醸造や農業に携わっていたわけではないのですね。
はい。とはいえ以前の会社にいたスタッフもそのまま引き受けたので、ぶどう栽培は継続することができていました。当時の常勤スタッフは僕の他に2名、あとは地元のおじいちゃんおばあちゃんがパートで入ってくれてて。
ーー今はどれくらいの人数に?
今はワイナリーにカフェも併設しているので、そちらのアルバイトも含めると23名ですね。
ーーかなり人数が増えたんですね。耕作放棄地はどれくらいの時間をかけて再生したのでしょうか?
開業から10年かけて、8ヘクタールの土地をすべて再生させました。
もともとは1ヘクタール程度しかぶどうが植わっていない状態で引き受けたので、残りの7ヘクタールは自分たちで少しずつ開墾して苗木を植えて、今はだいたい25,000本くらいを栽培しています。
それから、事業を引き継いだ時点で将来的にワイナリーも作ることを計画していたので、設立した年の春からさっそくワイン用ぶどうも育て始めました。
ーー長い時間をかけて畑を再生しながら、次のステップに向けて準備していたんですね。
流通もデザインも徹底的にブランディングを
ーーtettaさんが自社のぶどうをブランド化したのにはどういった理由があるのでしょうか。
単純に周りと同じように生食用ぶどうを作るだけではおもしろくないなと思っていました。
畑を引き継いだ当時も生食用ぶどうは栽培していましたが、ほとんどは農協や市場に出していたんです。農協に出すとなると誰が作ったかに関係なく箱詰めされていくので、作り手のモチベーションも上がらないし、何より自分たちで単価が決められないからビジネスの観点でも採算がとりにくいのが課題でした。
だったら自分たちのブランドを立ち上げて、自分たちの名前を出して、自分たちの単価で売ったほうが収益性は絶対に高い。そこで、流通の手段やデザインも含めて自社でブランディングをしようと考えました。
ーーなるほど。実際、tettaさんの商品デザインは他のワイナリーとは一味も二味も違いますよね。
グラフィック周りのデザインは平林奈緒美さん(※1)にお願いしています。
特にワインは嗜好品なので、誰もが必要なものではないという点に目を向けなければなりませんでした。店頭の什器で世界各国のワインと一緒に並べられて、なおかつ海外ワインよりも価格の高いそれをどう手に取ってもらうかといえば、視覚的に入ってくる情報でのブランディングが必要不可欠だったのです。
開業当時は単に「おいしいものを作れば売れる」という時代ではありましたが、それでも持続性のあるやり方を考えなければならない。僕たちは生産者であってもきちんとブランディングを図って、自分たちの価値を発信するということに注力しました。
(※1) アートディレクター/グラフィックデザイナー。『UNITED ARROWS』や『ARTS & SCIENCE』、雑誌『GINZA』のアートディレクション、サカナクションのCDジャケットのデザインなど多数の実績を持つ。
ーーワイナリーも、Wonderwallの片山正通さん(※2)が建築デザインとインテリアデザインを手掛けているそうですね。
片山さんって岡山県のご出身なんですよ。僕自身も建築の仕事をする中でもちろん存じ上げていましたが、もともと面識もなくて。それでもNHK『プロフェッショナル 仕事の流儀』で見た片山さんの特集がずっと心に残っていたんですよね。せっかくワイナリーのデザインを依頼するなら、岡山にゆかりのある片山さんにしようと思い、いろんなツテを辿ってやっとお会いすることができました。
(※2)インテリアデザイナー。ワンダーウォール代表、武蔵野美術大学空間演出デザイン学科 教授。近作に、INTERSECT BY LEXUS – NYC、外務省主導の海外拠点事業 JAPAN HOUSE LONDON、2020年開業の虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー(商業施設環境/ARCH)など。
ーーいろいろな方がtettaに携わっていますが、こうした仲間集めはどのようにしているのでしょうか。
基本的には誰かから紹介してもらうことが多いですね。先ほどの平林さんも片山さんから紹介していただきましたし、ホームページやネットショップを制作してくれたWebデザイナーも友人からの紹介です。
有名ブランドの社長も驚かせた、小さなおまけ
ーー卸と自社での販売の割合はどれくらいですか。
基本的にはだいたい50:50くらいですね。
自社チャネルとしては、ネットショップ以外に、実店舗でもあるワイナリーカフェでの販売もおこなっています。
ーーネットショップを立ち上げたのはどういったきっかけが?
やはり顧客を集めるには販路を広げる必要がありましたし、実店舗以外でも定価で売れる自社チャネルを一つは持っておきたかったのが大きな理由です。仲卸が入ればそのぶん自分たちの収益性は下がってしまうので、実店舗や自社ECで販売するのは欠かせないなと。
ーーコロナ禍での影響はいかがでしょうか。
コロナ以前は新しい商品をアップすることが多かったのですが、最初の緊急事態宣言が出た4月にバックヴィンテージの販売などをおこなったことで、2020年4月~翌1月についてはネットショップの売上は過去最高ですね。家飲みが主流になっている影響でお客さまがECに移っているのが大きいと思います。
ーーコロナ前後に限らず、購入者層はどういった方が多いですか。
新規の方はもちろん、リピート購入してくださる方も多くいらっしゃいますね。老若男女を問わず、ワイン好きに限らず購入層が広がっているように感じます。うちはお中元やお歳暮シーズンでも売上が大きく伸びることは少ないのですが、そのかわり安定して売上が出ています。
ーー実は以前tettaさんのぶどうを購入したことがあり、納品書やメッセージカードと一緒にぶどうの葉っぱが添えられていたのが印象的でした。
ぶどうの葉っぱってみんな見たことないですし、あれはけっこう評判がよかったですね。
ある高級ファッションブランドの社長さんが偶然うちのぶどうを購入してくださって、あの葉っぱを見てわざわざメールをくれたんですよ。「大企業やうちのブランドではできない、すごいブランディングだ」と。
ーーメールまで送ってくださったのはすごいですね。
単純にモノを売って送るだけでなく、何かプラスアルファの付加価値を提供していきたいという意識は常にしています。ぶどうの葉っぱは添えられないこともありますが、毎月スタッフ間で担当を決めて、商品と一緒に手書きのメッセージをコピーしてお送りするようにしています。
ーープロモーション的な取り組みは何かされていますか。たとえばSNS運用とか。
SNSはInstagramとFacebookだけですね。あとはありがたいことに雑誌取材のお声掛けをけっこういただけるので、それでほぼ全部です。特にお金をかけて広告を出したり、PR会社に依頼するといったことはしていないです。
ーー日頃のSNS更新は高橋さんがされているのでしょうか? 更新する上での決め事はありますか。
僕以外にもカフェやワイン醸造の担当者など、いろんな視点から投稿するようにしています。
特にリアクションの多いInstagramではなるべく視覚に訴えかけるような写真を意識はしていますが、細かなルールを決めても、いろんな人が投稿すればクオリティに差が出るので特にレギュレーションを設けてはいないです。
ーーありがとうございます。
ところで近年は、ECをなかなか始められずにいる酒造業の方が増えていると耳にします。最後に、高橋さんから何かメッセージをお願いします。
商品をアップして在庫を管理したり、説明文を書くといった作業が苦手な方もいるでしょうからね。
ですがコロナ禍の時代、うちも2020年の3月から4月にかけてネットショップでの売上は3倍以上に増加しました。お客さまの志向も、ネット通販を使っての家飲みにシフトしているのを感じます。自社でネットショップを持っているかどうかで売上の減少幅はかなり変わると思うので、ぜひ始められてはいかがでしょうか。
ーー今日はありがとうございました!
Photo by Senichiro Nogami / Eiji Honda
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元記事はこちらから(「よむよむカラーミー」に遷移します)
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