【聞いた】吉野家が公式アカで松屋55周年を祝った裏側

【聞いた】吉野家が公式アカで松屋55周年を祝った裏側

時は1899年。東京は日本橋に個人商店として開店したのが吉野家のはじまりです。多くの国民の心と胃袋を牛丼で満たし続けて122年、全国に1,183店舗(2021年8月末時点)。長い歴史と伝統は時として新しいチャレンジの障壁になりますが、吉野家に関してはその定説は通用しないようです。店舗のみならずSNSも同様。これほどの規模の企業ですが、たった一人の担当者が社内の承認も得ずに、自身の判断だけで投稿をしているのだとか。そうなった経緯にも驚きました。公式Twitterアカウントを担当している、企画本部宣伝企画の金井氏にお話をうかがいます。

お話をうかがった方

株式会社吉野家
企画本部 宣伝企画
金井 瑞樹 氏

ブランドや商品の認知度は十分
公式Twitterに注力する理由は?

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ー情報発信にとどまらずフォロワーさんと積極的に会話をしたりとTwitterを活用されていますが、金井さんはいつ頃から公式アカウントを担当されていますか? また、普段はどんなお仕事をされていますか??

2016年冬にTwitter担当を引き継いだのでそろそろ丸5年になります。当時は店内POPなど販促やオウンドメディアの業務をしていましたが、そこにプラスオンで仕事が増えました。部内のメンバーの産休が続き、たまたま一番若かったこと、社内でツイッタラーと認知されていたので、Twitter得意だよね?という流れで任されました。今はTwitter含めてデジタルプロモーションの業務をしています。


ーはじまりは偶然だったのですね。吉野家はすでに高い認知があり、他にも様々な情報発信チャネルがある中で、公式アカウントとしてTwitterを活用する目的を一言で表すと何ですか?

優先度が高い順に、想起、認知、拡散、ユーザーコミュニケーションです。


ー食べる場所がたくさんあるなかで「想起」、思い出してもらうことは大切だしTwitterだと気軽にあいさつができるので実現しやすそうですね。公式アカウントを金井さんが担当して5年。その目的に合わせた企画や投稿を行いつつも、実際に感じるTwitterの価値は何ですか?

自分たちの情報を発信するだけでなく、Twitterという特別な世界で色んな方と繋がれることですね。他の企業アカウントの担当者だったり、お店を使ってくださっているお客さまだったり。Twitter以外ではこう簡単には色んな方と出会えないです。そして出会った方々と会話できる素晴らしいツールだなぁと感じています。

担当半年で「全部まかせた」
公式アカウントの一番の理解者とは

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ー少し具体的な話をうかがいます。よく他社のSNS担当者からは、投稿の社内承認に時間がかかりスピーディーな返信ができなかったり、多くの修正が入って硬い文章になったりすると聞きます。。吉野家さんではどういう投稿フローで実施していますか?
また経営陣のSNS理解も高い印象がありますが、どうやってSNSの価値を説明し、レポートされていますか?

実は、投稿は誰の承認もとっていません。私ひとりで確認、判断しています。担当になって最初の半年は投稿前に上長に承認をもらっていました。ある日、河村社長が「好きに運用していいよ。金井さんにまかせます」と言ってくれました。日々の投稿を見てくださっていて、内容や方向性が合っていることを認めてくれたのだと思います。しかも大きな会議で話してくれたので、経営陣含めた会社全体の理解にも繋がりました。本当にありがたかったです。
今でもTwitterの話が出ると「いいね」って言ってくれるので、その分責任とプレッシャーを改めて感じながらやっています。河村社長がTwitterの一番の理解者だと思っています。

数字のレポートは定期的に実施し、フォロワーさんの反応が良かった投稿や、他社さんの事例を見る場にしています。
ただ、オーガニック運用の投稿は無理に数字を追っていません。売上や客数の証明ができないのもありますが、目的はそこではないからです。

Twitterの世界のみなさんはピュアで素直。レポートで振り返る度に、お願したり相談すると色んなリアクションをもらえるのも大きな価値だと感じています。


ー6月に松屋さんの55周年をツイートでお祝いされていました。驚きました。同業他社の商品を紹介するのは多くの企業では理解を得るのは難しいと思います。それを「いいね」と言ってもらえる風土があるのかと思いますが、あえて松屋さんを祝う投稿をした理由を教えてください。


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他の外食企業を競争相手として見るのではなく、共創って言うんですかね…一緒に盛り上げていきたい気持ちがあります。実店舗でやるのは難しいけど、公式Twitterで紹介して不幸になる人はいないし、むしろ自分がやってもらって嬉しいことはやってあげたい。みんなハッピーになるならやってよくない?という気持ちです。社内にもそれを投稿したことを怒る人はいないです。会社全体の思想なのかもしれません。


ー松屋さんに声掛けをした時はどんな反応でしたか?

実は松屋さんには事前にお知らせはしていないんです。サプライズ。打ち合わせがあると仕込み感が出てしまうのでこういうのは自然に。松屋さんも自然な流れで返信くださいました。


ー金井さんがTwitterでこだわっていることは何ですか?

ぎゅうちゃんというキャラクターが過去にいて、彼の気持ちを引き継いでいます。まさに吉野家。みんなが自由に寄ることができるおうちみたいなアカウント。お店の名前にも吉野「家」って文字が入っています。マーケティングとかブランドのトンマナとかは意識していません。

仕組まないからこそ面白い
ニクレンジャーで想像以上の盛り上がり


ー先ほど、友だちができる話が出ましたが、どうやって他社の公式アカウントの中の人と人脈を作りましたか?友達を増やしたいという担当者が多いと思うのでぜひアドバイスをお願いします。

紹介や紹介の紹介で輪が広がっていきました。現実での友だちの作り方と一緒…ですね。どうしても話をしてみたい方には、企業の問い合わせフォームから突撃したこともあります。ちなみに、日常では友達を作るのが上手なタイプではなくて、いわゆるコミュ障です(笑)


ーなるほど…。(笑)企業との絡みやTwitterらしさを活かして、吉野家さんはSNS上に様々な話題を提供してくれています。金井さんの中で思い出に残っているツイートや出来事を1つだけ教えてください。

ニクレンジャーですね。始まる前は内輪ネタで終わると思っていましたが、どんどん広がって、テレビで取り上げてもらったり、バッジを作ってくれたり、主題歌ができたり、絵本になったり、スマホゲームからタイアップしたいとお声かけいただいたり。自分たちが楽しいことがこうやって伝わるんだなぁって、強く印象に残りました。これこそ、Twitterで繋がった「友だち」みんながいたからできたもの。一人じゃできなかったものです。

ー公式アカウントでは、ご自身のスマホで撮影した商品画像を多く使っています。金井さんは週何回くらい吉野家商品を食べていますか? 一番好きな吉野家商品は何ですか? トッピングや食べ方の工夫などもあれば知りたいです。

週1~週4回とバラバラですが、平均すると週2回くらいです。店内で食べる時もあるし、お持ち帰りすることもあります。一番好きな商品は…回答として面白くない気がしますが「牛丼」です。何もトッピングしないプレーンなのが好きです。つゆだくも勉強のために1回しか食べたことがありません。


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ー最後に、あえての質問です。共創として外食全体の盛り上がりを作っていきたいと話してくださいましたが、ここだけの話、他社飲食店で金井さんの好きなメニューを一つ教えてください。

実は外食が本当に好きなので365日外食です。それぞれのお店で好きなものがありますが、びっくりドンキーさんのポテサラパケットディッシュが大好きです。社会人になったばかりの19歳の時に、お給料でプチご褒美で食べたのが最初でした。ハマって週1で食べていた時代もあります。何年経っても変わらない味の魅力です。食べたことがない方はぜひ召し上がってください!

SNS担当者に必要なスキルとは

終始にこやかに楽しそうに話をしてくれた金井さん。松屋さんへのお祝いツイートも、何かしらの仕込みはあると疑っていましたが、思いつき…というよりも、友人の誕生日を祝うようなごく自然な感情があの投稿に繋がっていることがわかりました。

社内で公式SNSアカウントの価値がなかなか認められないと悩む方は多いでしょう。ただここで「吉野家さんは社長の後押しがある恵まれた環境…」と受け止めてしまうのは早計と思います。認めてもらうまでの半年間、そしてその後の4年半。ブレずに吉野家のスタンスをTwitterで表現する姿がしっかり伝わったからこそ、今の姿があるのではないでしょうか。公式SNS担当者に必要なのはTwitterのセンスや、SNSマーケティングの知識ではなく、会社のことを理解していること、そしてお客さまのことを理解していること。この2つに尽きると改めて感じました。(吉田啓介)

※2021年9月の取材時点での情報です。



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著者情報

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よしだけいすけ
2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
note:https://note.com/yoshiwo_note