数百年に一度の大変革。SDGsとフードテック【後編】

数百年に一度の大変革。SDGsとフードテック【後編】

2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標、SDGs。食品の生産、流通、消費のあらゆる分野において、これまでの経済合理性優先の大量生産・大量消費から脱却し、持続可能なあり方への変化が迫られています。変化へのカギとなるフードテックは、今後どのように進化していくのか?フードテックに精通するクックパッド住さんによる、カオスマップを交えた前後編の2回に渡る解説。後編は資源・流通・廃棄削減についてお届けいたします。


SDGsフードテックカオスマップ

SDGsフードテックカオスマップ 2021年度版

フードテックが産み出すエネルギーと新たな価値

主要国の一次エネルギー自給率比較(2018年)


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経済産業省によると、現在多くの国のエネルギー源は石油、石炭、ガスなどの化石燃料が85%を占め、他水力6.8%、原子力4.4%、再生可能エネルギー4%となっています。人類はCO2の排出が多い化石燃料由来のエネルギーに頼っているのが実情です。

図の通り、化石燃料の採掘量が少ない国は、全面的に輸入に頼らざるを得ません。原子力は震災の影響で稼働率を増やせない状況にあり、再生可能エネルギーの太陽光発電は安定性に欠けています。水資源は豊富でありながら、大規模発電所を設置できる地形がほとんどない日本は、新しいエネルギーを模索しなければならない状況にあります。

化石燃料は、発電だけではなく軽量で加工が容易なプラスチック製品にも多く利用されています。永久に自然に還らないプラスチック製品は、深刻な海洋汚染を引き起こしており、このままいくと2050年には、海は魚よりもプラスチックごみのほうが多くなってしまうと推定されています。

化石燃料依存を減らすフードテック

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こうした状況の中、注目されているのが食物由来のバイオマスエネルギーや代替製品です。

国内のユーグレナは、藻の一種であるミドリムシを世界で初めて大量培養する技術を確立したスタートアップです。ミドリムシが含む豊富な栄養素から、機能性食品や化粧品などを展開。2018年からはバイオプラントを稼働し、バイオディーゼル燃料や、バイオジェット燃料を実用化しています。
また、Green Earth Instituteはトウモロコシ、小麦、サトウキビを燃料にしたバイオファイナリー事業を展開。Biomass Resinは日本人の主食である米をバイオマスプラスチックにアップサイクルしている他、丸繁製菓は製菓技術を活用し、食べることの出来る皿や箸などの食器などを製造するなど、国内でもさまざまなチャレンジが行われています。

化石燃料資源に乏しい日本でも、フードテックとバイオマスによって、次世代のエネルギーを生み出し、新たな方向へ進むことが出来るようになるかもしれません。

流通と地産地消

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産地で生産された食品は、販売するために輸送する必要があります。生産から輸送、販売されるまでに、トータルでかかる温室効果ガスをCO2に換算したものをカーボンフットプリントといいます。
その中で、食の輸送距離に注目したものをフードマイレージといいますが、日本は食料自給率の低さと、島国であるということから突出して世界一という状況になっています。

また、生産された食品の13.8%は流通の中で廃棄されており、流通距離をなるべく短くし、廃棄を減らすことがSDGs達成のために重要とされています。

新しい流通技術がロスを減らす

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Apeelは、果物や野菜の表面に無味、無臭、植物ベースの保護層を追加し、鮮度を保つ技術を開発。腐敗を遅らせる植物由来の物質を、果物や生鮮食品にスプレーすることで、第二の皮と言えるものでコーティング。農産物の鮮度を2倍長持ちさせます。StixFreshは、細菌の繁殖を抑制し、貼るだけで農産物の鮮度が2週間長持ちするステッカーを開発。常温で輸送する野菜を、低コストで長持ちさせる新技術が産まれています。

また国内企業のMars Companyが、細胞を凍結させずに魚の鮮度を長時間保つことができる、魔法のような氷「Sea Snow」をリリース。エイジングシートを主力とするMeat Epochは、貼り付けておくことで、輸送時間を劣化防止から旨み成分向上に変化させる、熟成シートを生み出しています。こうした製品の登場により、流通ロスを減らすだけでなく、従来よりもさらに美味しく消費者に食品を届けることが出来るようになってきています。

コロナによって変化する流通は
地産地消を加速させる

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コロナの流行により飲食店の稼働が世界的に減っているため、農家をはじめとし、生産物は商流を変えざるを得ない状況となっております。
またカーボンフットプリントの観点から、輸送距離はなるべく短くした方がよいとされています。国内ではまだ多くありませんが、地産地消をテーマとしたチャレンジも多く生まれてきています。

日本国内の場合、地産地消は道の駅やマルシェ等のリアルでの取引がメインです。一方、海外では新たな動きが見られます。good eggsはサンフランシスコ周辺で展開している生鮮ECで、2021年に約100億円の資金調達をしました。特徴としては、扱っている食材の70%以上が地産の物であり、注文後数時間で食材が届くサービスとなっています。

日本も同様ですが、小売価格1ドルのうち86%を流通や小売が取り、農家は残りの14%ほどの収入しか得る事が出来ません。持続可能な農業のためには、コスト高な流通の仕組みを根本から変え、農家に収入が多く落ちる構造にする必要があります。クックパッドマートでは、美味しい食材を生産者や市場から直接届けるサービスを展開しています。

削減するだけではない食の有効活用

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日本国内における、まだ食べられるが廃棄されてしまう「食品ロス」は世界でワースト7位、アジアではワースト1位という現状です。その裏側には製造過程等で廃棄される大量の「食品廃棄物」があり、食品ロスの4倍にもあたる2,531万トンもの膨大な量の廃棄物が産み出されています。

製造過程で捨てられていた宝の山たち

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アップサイクルは主に食品廃棄物だったものが、新たな価値に生まれ変わるものを指しています。今まで費用を支払って廃棄していた食品が、ユーザーがお金を支払って買いたくなる商品として価値向上する活動となっています。

有機・無添加食品のECで有名なOisixは、アップサイクル専用のブランドUpcycle by Oisixを2021年7月に立上げました。ブロッコリーの茎や大根の皮などを活用した製品をリリースし、発売後即完売してしまうほどの人気商品に。2ヶ月で3トンの削減を達成してます。
また、規格外野菜がシートに生まれ変わり、野菜を美味しく手軽に食べることができるVEGHEETや、乳製品の製造過程で発生する副産物を活用した、たんぱく質等の栄養が豊富な飲料SUPER FRAUなど、国内外でさまざまなアップサイクル製品が生まれています。食品廃棄物は、新たな魅力ある製品に生まれ変わっているのです。

食品ロスは「救う」から
「新しい価値」創出へ

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流通過程では、小売店頭に並ぶまでに最初の3割、店頭から購入されるまでに次の3割の賞味期限が消費されると、自動的に廃棄される「3割ルール」という商習慣があります。食品ロス系のサービスは、3割ルールに該当し廃棄される食品をお得に購入できるKuradashiや、外食やデパ地下等で日々発生する余剰料理をお得に買えるTabeteなど、低価格でフードレスキュー的なサービスがこれまで主流でした。一方、海外では新しい食品ロスの体験が生まれています。

サンフランシスコのImperfect Foodsは、今年1月シリーズDとして99億円を調達したネットスーパーです。Imperfect、つまり規格外であったり傷があったりする不完全な野菜を中心に扱っています。
最も注力しているのは、有機野菜やオーガニックのような高品質な商品で、利用者に「安くお得に買った」ではなく、「良い商品を救った」と感じる体験を提供し、成長しています。


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Noshは家庭における賞味期限切れによる廃棄を減らすとともに、生活に便利な買物体験の両立を狙ったサービスを提供しています。
スーパーで買い物し、バーコードをスキャンすることで、在庫と賞味期限が自動的に登録され、消費を促す注意喚起や消費するためのレシピ提案、買物リストの生成などを手伝ってくれます。
また近隣の生産者から直接食品を買うことが出来る、Nosh Marketを展開するなど、生活を便利にしつつ食品ロスを削減する体験をつくっています。

まとめ

「数百年に一度の大変革」と題しましたが、自動車産業が思い切って電気自動車に転換していくように、次の10年はSDGsに関連してフードテックは、人類が生きていくために必須な「食」を産み出すフードシステム全体にとって、大きな転換期になっていくでしょう。

今回ご紹介したさまざまな事例は、SDGsが「環境に良い」だけではなく、「より良い進化」をともなって新しい仕組みに改革されていくことが、非常に重要である事を示しています。またそうした進化を作っていけるプレイヤーが、変化していくユーザーの心を掴むことができるでしょう。

今、フードテックは最も注目が熱く、日々新しいチャレンジが生まれ続けているという状況です。ぜひ今後も動向に注目してみてください。



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著者情報

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住 朋享
2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。