
企業・業界動向
食品ロスをテクノロジーで解決するには?NECが語る課題
各企業が検討をすすめる食品ロス。FoodClipが実施したアンケートでは、6割近い企業が「具体的に改善の動きがある」と答えています。業界特有の慣習やコスト、効率面の壁を越え、取り組みを前進させていくには、仕組みの見直しやそれに伴うツール、テクノロジーの導入など抜本的な改革が必要なケースも多いようです。需給最適化プラットフォームなど、食品企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)促進に向けたソリューションを提供する日本電気株式会社に、業界が抱える課題や今後の可能性について聞きました。
お話をうかがった方
日本電気株式会社 デジタルインテグレーション本部
シニアマネージャー
森田 亮一 氏
食品業界が抱える人にまつわる課題を
テクノロジーで解決
ー まずはデジタルインテグレーション本部の役割について、おしえてください。
森田氏(以下、森田):NECでは、今まで一企業では解決できなかった社会課題を企業間、業種間で連携し解決する「NEC Value Chain Innovation」を推し進め、デジタルを活用したソリューションを提供しています。我々は事業とマーケットを繋ぐハブ的な存在です。そのなかで私は食品業界向けに、AIによる需要予測というテクノロジーを用いて、需給最適化を実現し、食品ロス・廃棄削減に貢献するソリューションを担当しています。
ー 業界を問わずSDGsというキーワードに注目が集まる中、食品業界の方から課題の実現に向けたご相談は増えていますか。
森田:どの業界においても、SDGsは経営課題であるという認識自体は高まっている印象です。
背景には、人手不足や労働環境の改善、労働負荷の軽減、業務効率化など人に関わる課題が顕在化していることがあるようです。
特に食品関連企業は、人手不足に関するお問い合わせを多くいただいています。従来のシステムでは、環境改善や効率化に限界があり、そこにITの力を使っていきたいと。
ー 人手不足の背景には技術継承の難しさなどもあるのでしょうか。
森田:そうですね。特に我々が提供している需要予測という領域は、これまで属人性が高いものでした。ベテランの方ほど、ご自身なりの経験値や勘所をお持ちです。技術に勝るノウハウですね。
我々もそこを一気にシステムに代替するのは不可能だと考えており、需給最適化プラットフォームでは、段階的にAIにスキルを学習させ、需要予測を可能にしていきます。ホワイトボックス型といって、AIが学習した内容から、数字だけでなく判断根拠も併せて提示し、そこに人ならではの感覚をプラスして最終判断をしていただく。機械に対して、色をつけていくようなイメージです。
これまでは一から十まで人頼みだった部分に、AIのサポートが入ることで、労働負荷の軽減と効率化に繋げていきたいと考えています。
ー 属人的におこなってきた領域の可視化がカギになるのですね。食品業界の方と接するなかで、食品ロスに対してはどういったご相談がありますか。
森田:小売業の方からは、「発注精度の効率化でロスや廃棄の削減に繋げたい」との声をいただきます。店頭の品揃えおよびコストと表裏一体になる部分ですので、最小限のロスで済む発注に留めたいというご要望です。
卸売・食品メーカーがお持ちの課題は、在庫です。発注がきた時点での欠品はNGですし、リードタイムが長いことから、どうしても安全在庫を抱えざるをえない現実があります。需要予測の精度を高めることで、出荷予定に確実な目処が立てば生産効率も上がります。
ーこれらは今までは企業ごとのノウハウでやっていた部分かと思います。そこに限界が来ている、ということでしょうか。
森田:これまでも部門単位などで、独自のシステム運用されてはいるんですね。ですが、もはや単体の部署だけでは、全体的な課題解決にはならないと、みなさんお気づきです。組織に閉じずに、部署間やグループ会社間などで連携した仕組みにすることで、より効率的な課題解決に繋げたい、という機運の高まりを感じます。実際にご相談もいただいています。
カギは「競争」から「協調」への転換
ー ご提案活動を行われる中で、食品企業がテクノロジーを導入する際のボトルネックはどの部分にあると感じますか?
森田:各々が営利企業であり、目の前のお客さまへの対応が先決、ということでしょうか。納品における賞味期間の制限であるいわゆる「1/3ルール」をはじめ、既存の商慣習による多くの課題は、みなさん既に認識されています。
それに対し、例えば小売りと卸売・メーカー間で在庫量などの情報を開示すれば、商品量もコントロール可能で対応しやすくなります。一方で、そうした情報は自社の価値を高めるものでもあります。戦うための武器でもあるんですね。そこを容易に公開・共有するにはまだまだ壁があると感じます。
総論としては、みなさん「ぜひやりたい」という気持ちをお持ちです。一方で、対価が発生するとなると、KPIを満たすのか、廃棄は何%減るのか、生産能力、配送も含めて考えると、「需要予測は大きな成果に結びつくのだろうか」という懸念があるのも事実。
積載コストや生産ロットを変えてまで、ロス削減をつきすすめるのか?そこまではやりきれないという部分もあります。
利害関係が一致するグループ内やサプライチェーン内などでは、情報開示が進んでいますが、まだまだ特定の領域での話です。
競争領域であるデータを、技術を用いてセキュリティ面を担保しながら、「協調領域」に転換していく。異なるプレイヤー間でのデータの利活用が今後の変革のカギとなると思いますし我々が力を発揮できると感じています。
ー効果やメリットへの懸念がボトルネックになっているのですね。それ以外で、なかなか話が進まない部分などありますか?
森田:川上に行くほど生活者のマインドと時差が生じてしまうことでしょうか。サプライチェーンは本来、価値の連鎖。生活者は買いたいと思ったタイミングで店舗に向かいますが、卸・メーカーは、その前手にあります。時差が積み重なっていくことで、結果的に機会損失に繋がります。食品ロスを減らしたいという願いは同じでも、各々の粒度は低くなってしまっているのが現実です。
現状、予測に使用できるのは過去実績。しかし本当に把握したいのは、未来の天気、来客数、販売数といった、未来のデータです。今はデジタル化とプラットフォームの普及によって、少しずつ情報共有が進んでいるところ。もう少し時間はかかりますが、みなさんがメリットを理解できると、情報共有の壁が崩れ、需給最適化サービスの精度もより高まります。
ここ最近は、中小企業のお客さまも動き出している印象です。中小企業においては、属人化、高齢化という課題がより深刻。大企業の動きやDXの推進など、社会的機運の高まりもあり、意識高く対応されるところが増えています。我々もより簡便に利用できる需給最適化プラットフォームのWebサービス版の提供を進めていますが、中小企業は人が少ない分、システムの導入がダイレクトに効いてきます。
課題意識は共通。裾野への広がりも
ー 企業規模によっての違いや課題はありますか?
森田:規模やジャンルによる違いはありますが、構図や課題意識は同じです。
直前の注文数変更には対応しがたい、という点は、レイヤーが異なっても同じ課題感です。見立てと根拠が開示され、連携できると課題にコミットメントできる。そこに寄与できるのがテクノロジーの力だと思います。
ー 導入されている企業からはどのような反響がありますか?
森田:サービスの提供開始が2018年の夏です。ご利用いただいて2年くらいなので、定量的な評価には、もう少し時間がかかりますが、業務効率が50%上がった、在庫が減った、発注効率があがった、などのお声はいただいています。
業界、マーケットのお客さまごとに、ベネフィットをご提供し、プラットフォームに参加いただくお客さまをこれから増やしていくところですね。
ー 食品ロスをはじめ、これから課題解決の為のテクノロジーの導入に取り組んでいく企業が考えるべき点や、やるべきことはどういったことでしょう?
森田:自社の情報を可視化すること、つまりデータ、販売実績、在庫の推移など、過去の実績を可能な限りストックしておくことが重要です。
当社のAIを使ったソリューションでいうと、AIは2年分のデータを学習することで、需要やトレンドの予測が可能になります。2020年からは、コロナで生活者の消費行動が変化した中で、新しい消費マインドを記録しておくことも非常に有効です。最低限3ヶ月〜半年のデータを可能な限りストックしていただくことが、未来の資産になります。
需給最適化プラットフォームは、食品ロスの削減という一つの課題を解決するだけではありません。無駄がなくなることは、バリューチェーン全体が効率化され、企業の競争力も向上します。システムが広がっていくことで、ゆくゆくは環境破壊や食糧危機、貧困といった大きな社会課題の解決にも繋がるでしょう。
企業のSDGsへの取り組みは、生活者にとってもプラスになるというメッセージを届けていくこと、そこにテクノロジーが寄与できることを今後も伝えていきたいですね。
画像提供:NEC
writing support:Sayaka Takahashi
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