
企業・業界動向
スーパー・コンビニから選ばれる和菓子メーカーの商品力
スーパーのPB拡大や、コンビニスイーツの競争激化が叫ばれるなか、小売チェーンストアと向き合い続けているメーカーの想いと、その商品力の強さを探ります。本特集では「おいしさの現場から」と題して、食をもっと楽しくもっとおいしく、をテーマにものづくりをされている企業をご紹介していきます。今回は、北海道の和菓子メーカー「とかち製菓」にお話をうかがいました。
お話をうかがった方
株式会社とかち製菓
代表取締役社長
駒野 裕之 氏
経験と実績が信用となり
全国展開を可能に
ー 御社の和菓子は、道内のみならず全国各地のスーパー・コンビニチェーンで取り扱われています。北海道から全国へ展開拡大していったきっかけや経緯を教えてください。
もともと私の実家は和菓子メーカーで、1956年に私の父が創業しました。北海道十勝はあずきの最大産地ですが、特に創業当時は先物取引の花形であったあずきが「赤いダイヤ」と呼ばれていた時代です。そのあずきをあんこにして、道外へ冷凍で出荷することに着手したのですが、これは北海道メーカーの中でも先駆け的な取り組みでした。
私は家業で約15年間、営業部門の責任者として統括し、冷凍物流や品質管理に関する知見とノウハウを学んできました。その経験を活かして、2011年に独立し「とかち製菓」を創業するに至ります。道外の全国各地へと展開拡大できたのは、これまで培ってきた物流の知識と経験、商品開発力、さらには価格調整面においても対応できたという点が大きな要因になっていますね。
ー 特にコンビニ業界は商品の入れ替わりも早く、要望も多いと思います。御社が評価されているポイントはどんなところでしょうか?
理由は、大きく2つあると思います。ひとつは、家業に従事していた頃から、営業担当としての関係基盤を作っていたことです。それによって商談の機会が持て、冷凍物流の知見があるという安心感を持っていただけたと思います。
もうひとつは、間違いなく商品開発力です。創業当時は、和をベースにしたシンプルな商品がメインでした。ですが、生活者のニーズと共にコンビニスイーツが成長していくのに合わせて、同じようにメーカーも成長していかねばなりません。求められるものに応えようと一生懸命ついていったことが、結果として当社の商品開発力につながっていきました。そして、そうした商品を要望に見合った価格で提案できたという点が、評価いただけたのだと思いますね。
ー 成城石井など、食の感度が高い客層を持つ食品店からも御社の商品が選ばれていますよね?
成城石井様との出会いは、毎年参加していた展示会でした。数年間に渡ってご提案をし続けていたのですが、
やはりこのときも「流通がわかっている」というのが、大きなメリットになりました。供給キャパシティ、商品開発、品質管理、流通を含めて実績があることが強みになり、今までやってきたことが信用につながったと思っています。流通の安心感があって、そのうえで価格と味を含めて求められるものを提供できるかどうかが鍵だと思います。
厳しい流通の世界
選ばれ続ける理由とは?
ー 選ばれ続けるというのは大変で、難易度の高い課題もあるのではないでしょうか?
そうですね。たとえば、最近ではSDGsの観点からも、ロスを減らしたい。賞味期限を延ばしたいという要望をいただくことがありました。これには工場での品質管理の徹底はもちろん、何度も検査を重ねることが必要で、賞味期限を1日延ばすだけでも非常に難しいことなんです。ただ、やはりそういった課題もあきらめずにやり抜き、実現できるように努力を重ねます。
コンビニ、スーパー、小売チェーン店、各社それぞれ仕入れ体制もバイヤーさんのカラーも違います。まずは商品のコンセプトや内容がぐっと刺さるもの、目に叶うものでないと、そもそも興味さえ持ってもらえません。一方で、こんなものが欲しいという提案をもらって一緒に開発しながら商品をつくっていくという場合もあります。お取引先ごとに、その時々に合ったかたちで商品の開発や改良をしていくことが求められます。
そして、共通しているのは安定供給できるかどうかです。供給量ももちろんですが、品質不良などは絶対にあってはいけないことですし、何かあれば大きな信用問題になります。安全に安定供給できるというのは重要不可欠な要素です。さらにそのうえで、お客様がおいしいと買ってくださり、商品が売れたので続けていただけているのだと思います。やはり、売れなければ置いていただけないので、常に緊張感が伴いますね。
― 御社といえば、白玉の商品が人気です。おいしさの秘密はどんなところにあるのでしょうか?
取引先のコンビニチェーンでの売れ筋は、「白玉ぜんざい(白玉&あんこ&クリーム)」です。バイヤーさんには「あんこもおいしいけど、白玉が本当においしい」と言っていただいています。我々が思っている以上に、白玉を高く評価いただいています。
コンビニチェーンは価格を押さえなければいけないので、材料原価を上げるのは難しくなります。そのため、配合のレシピや作り方は常に工夫しています。さらに、商品ごとに求められるクオリティや課題をクリアできるよう、毎年毎年進化させていますね。
BtoCへの拡大、海外への展開
その背景にある想いとは
ー 北海道食材へのこだわり、北海道メーカーとしての想いはありますか?
これまでBtoBをメインにやってきましたが、今後はBtoCにも力を入れていきたいという想いがあります。
BtoBでは、価格調整の面から北海道産のものを使えなくなることもあります。実際、3年前にあずきの値段が大きく上がった時期があったのですが、価格を維持しようとすればボリューム感は減る、ボリュームを維持しようとすれば価格を上げざるを得ないという状況がありました。北海道産にこだわって十勝産あずきのままでいくか、安価な北米産のものでいくかといった判断は、各社チェーンによっても異なりました。
これがBtoC向けであれば、北海道産の原料にこだわりつつ、より自由なアイデアで当社オリジナルのヒット商品を生み出せる可能性も広がります。よりおいしさを追求した商品をお客様にダイレクトに届けることができるのではないかと。
そうすることで、北海道の農家さんがこだわって作っている良いものを「正しい値段」で仕入れ、多少値段が高くてもお客様にしっかり評価して商品を購入してもらう、という環境も作っていけるのではないかと思っています。
ー 3年前には、和菓子で日本初となるJAKIMハラル認証を取得されました。国内だけでなく、インバウンド対応含めた海外への展開へも力を入れてらっしゃいますよね。
海外にも出ていかないといけないという想いは、以前からずっとありました。きっかけになったのが、JICA(国際協力機構)の草の根技術協力事業で、マレーシアのメーカーへ日本のメーカー技術を教えるという取り組みでした。その後、現地材料・現地生産を目標に事業を始めたんです。
マレーシアはムスリムが多く、彼らが日本へ来たときに何を食べてよいかわからず不便な思いをしているのを知って「ハラル認証を取れば、安心して食べてもらえる」と思ったのが取得した理由です。
ただ、マレーシアではあずきのみの商品がなかなか売れませんでした。ニーズがあるのはやはり和洋折衷のスイーツで、あずき×クリームなど当社が得意としているものでもあるんですが、そうなると一気にハラル認証のハードルが高くなります。大きなビジネスチャンスがある市場ですがなかなか難しく、現在もまだ試行錯誤を繰り返している段階です。ただ、日本だけとか、ムスリムだけといった限られたものではなく、誰にでも食べられるものを目指していかないと意味がないと思っています。
現在、マレーシア以外では香港にも出荷していますが、今後はもっと海外出荷を強化していきたいですね。なるべく低価格で販売できる方法を考えていきたいと思います。
ー 先日、クックパッドでのモニター調査なども実施されましたが、新たな取り組みとしてご感想はいかがでしたか?
お客様の声を直接聞けるのはとても嬉しいことですし、商品に対しても高い評価をいただけて良かったです。今後のBtoC展開の方向性を考えることができました。
そしてまた、とかち製菓の商品がどこで売っているのかという情報発信をもっとしていかなければと実感することができました。BtoCにおいてはとても重要なことですし、それがBtoBのさらなる強さにも繋がっていくだろうと思っています。
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厳しい流通の世界で評価されている理由は、常にパートナーが求める以上の提案をし、現状に甘んじることなく挑戦をし続ける姿勢にありました。今後の事業拡大において大きな強みであり、企業があるべき姿に他なりません。とかち製菓の商品を、今後さまざまな場所で目にする機会が増え、生活者にとってもより身近なものとなっていくでしょう。
writing support:Miyuki Yajima
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