家業の再生で新たなマーケット拡大と地域活性化も実現

家業の再生で新たなマーケット拡大と地域活性化も実現

地方においてより深刻な少子高齢化の波に、縮小していく地方産業・地域経済。そんな中で、地域社会における食の企業がのぞむべき姿勢とは。本特集では「おいしさの現場から」と題して、食をもっと楽しくもっとおいしく、をテーマにものづくりをされている企業をご紹介していきます。今回は、鹿児島で水産物加工販売をおこなう「下園薩男商店」にお話をうかがいました。

お話をうかがった方

株式会社下園薩男商店(しもぞのさつおしょうてん)
代表取締役社長
下園 正博氏

商品がただ知られていないだけ
新たなコンセプト商品で幅広い層へ

12471_image01.jpg

ー「旅する丸干しシリーズ」「旅する焼エビシリーズ」など、鹿児島県の地域に根ざした食品を展開されています。こうした新しいブランド立ち上げの背景と経緯を教えて下さい。

当社は昭和14年創業で、私の祖父の代から鹿児島県阿久根市で主にウルメイワシの丸干しを取り扱っています。私は家業を継ぐつもりで東京の水産関連の商社に勤めた後、10年ほど前に帰郷したのですが、その頃から丸干し産業の衰退を危惧していました。

丸干しを食べている世代は、70代・80代の年配の方々が中心。若い世代は「丸干し」という言葉さえ知りません。このままいくと産業そのものがなくなってしまうのではという危機感がありました。

12471_image02.jpg

ー 将来性が厳しい産業では、取り扱うものを切り替えたり、事業の方向性そのものを変えるといった企業も多くあります。御社はウルメイワシ以外のもので展開していこうという判断はされなかったのですね。

昔からずっとウルメイワシを作り続けてきたので、やはり残していきたいと思いました。むしろ、これを残していくのが私の指名ではないかと。

また、若い世代に実際に丸干しを食べてもらうと、「おいしい」「どこで売ってるんですか」などと言ってもらえていたので、単に売り場が知られていないだけだとも思ったんですね。どう知ってもらうか、広めていくかにつなげていこうと考えました。

偶然であり必然の出会いで生まれた
「旅する丸干し」

12471_image03.jpg

ー「旅する」シリーズは、若い方が好まれるデザインだと感じました。ブランディングにおいては、デザインも強くこだわった部分なのでしょうか?

私自身、東京のいろいろなセレクトショップや、旅先でその地域にしかない変わったお店などを見て回るのが好きなんです。そういったお店は、やはりデザイン的に面白いものが多くこだわっています。デザインの重要性を感じていたので、自社でもこだわっていこうと思っていましたね。


ー「旅する丸干し」という商品のネーミングや、世界観もとても素敵ですよね。

「旅する丸干し」という新しいコンセプト、商品の開発については、いろいろな人の力を借りて形にしていきました。

数年前、地元が取材する若手経営者セミナーに参加することになって、その中でプランナーさんやフードコーディネーターさんとの出会いがあったんです。こうした方と関わっていく中で、日本の丸干しが世界を歩いてきたような「旅する丸干し」という商品が生まれました。もともと丸干しのオイル漬け自体は作っていましたが、この出会いがなかったら、「旅する丸干し」は出来ていなかったと思います。

事業を継いでから、大きなターニングポイントが毎年のようにあるような気がしています。
経営者セミナーに参加したことや、元々イタリアンのシェフだったスタッフが、当社の新商品開発を担ってくれていることもそうです。私は「偶発的必然性」と言っているのですが、本当にいろいろな方たちとの偶然かつ、必然的な出会いによって繋がっていると思っています。

複数の販路開拓がリスク分散
新たなアプローチでマーケット拡大に

12471_image04.jpg

ー コロナ前後での変化、大きな影響はありましたか?

コロナ禍で、全体の半分以上占めていた業務用の売り上げが大きく落ち込みましたが、一方では、スーパーや量販店の商品販売を増やすことが出来ました。また、偶然にもコロナ禍に入る直前に、ネット販売に力を入れようと考えて自社ECサイトや大手ECプラットフォームの出店を始めていたので、タイミング的にも若い世代へのアプローチ方法としても非常に良かったと思います。

販路を複数開拓してきたことで、リスク分散できていたというところはありますね。私が引き継いでからこの10年の間で、既存の取引企業の売上は6割ほど落ちているんです。つまり、何もしなかったら売上は4割程度まで落ち込んでいたと思います。

新規の顧客を獲得したり、今まで新たに取り組んできたことがいろいろと実ってきたおかげなのかなと。何もしなかったら会社も事業も続かなかったのではと感じています。


ー 積極的に新しいことに取り組まれてきたからこそ、未曾有の変化にも対応できたということですね。なかでもECという新たな販路を取り入れてみて、反応はいかがですか?

自社サイトの場合は、もともと当社の商品やブランドを知っている方が購入してくださいます。一方のECサイトでは、当社のことは知らず、検索ボリュームのあるパスタソース、焼きエビといったキーワードからたどり着いて、購入いただいているんですよね。

会社やブランドは知らなかったけれど、商品を食べてみたらおいしかったから他の商品に波及するというのは、今までと違ったアプローチなので、マーケットとしてとても面白いなと思っています。

地域活性のゴールは世代や立場でさまざま
仲間との推進が共感の輪を広げていく

12471_image05.jpg

ー 下園さんは、地域循環や地域課題の解決にも取り組まれているとお聞きしました。

鹿児島県阿久根は私が生まれ育った町なので、「自分がイメージしている面白い街」を目指しているんです。

阿久根は食の豊富なエリアです。農産物が盛んな地域で、しいたけ、たけのこ、柑橘系などの果物も獲れます。山の養分が豊富だからこそ水産物にも恵まれていて、獲れる魚は少量多品種で鯛も有名な港町なんです。

たとえば阿久根はウニも有名ですが、このまま温暖化進むとウニが無くなってしまいます。そこで、私が理事を務めているNPO法人のメンバーに元南極大陸の観測員の方がいたので、その方にアドバイスをもらったり、ウニの畜産事業をおこなう企業と協力したりして、ウニの養殖・蓄養を計画しています。また、まったく別の分野では、企業と提携して古着の循環事業も企画しています。

こうした活動は自分たちだけでは難しいですが、いろんな方たちと繋がって協力しているからこそ進められていると感じますね。


ー 一緒にやっていく仲間を集めるというのは、簡単なことではないと思いますが、どのように繋がりを作ってらっしゃるのですか?

鹿児島に帰ってきた当時は、ほとんど繋がりはありませんでした。ただ、旅する丸干しを発売してから「なんか変なヤツがいる」と知ってもらえて(笑)、徐々に広がっていましたね。

まさに商品が名刺代わりになって、いろいろな分野の方が今の鹿児島の状況や、面白い企業を教えてくれるようになりました。プロダクトやサービスを創っていくことで、人と人が繋がって、仲間が増えていったと思います。


ー イワシビルの取り組みをはじめ、リーダーシップを持って多角的に推進されていらっしゃるイメージです。活動を進めていく中でさまざまな課題もあったのではないですか?

何をするにしても課題は必ず出てくるので、それを一つずつクリアしていくだけかなと思っています。私が取り組んでいる活動についても、必ずしも賛成してくれる人ばかりではありません。

ひと言で「地域活性」といっても、地域活性の基準や認識は、若い方と年配の方では考えも感性も違います。若者は、1日5人しかお客さんが来なくても面白い店があれば地域活性になると考える。年配の方は、経済が活性することが一番の地域活性だと考えている。「こんな街にしたい」と思い描く未来は違っていて当然なので、それぞれの違いを認識することが大事だと思っています。みんなに理解してもらうのは、時間がかかることです。ですから、違いを理解したうえで、共感してくれる人たちを見つけて、一緒にやっていくのが重要ではないでしょうか。


ー クックパッド・アライアンスでの取り組みは、貴社にとってどのような効果が創出されつつありますか?

「クックパッドと連携しています」というと、バイヤーさんからの関心は高まりましたね。現在は、クックパッドからレシピ検索の傾向データなどを提供してもらって、サバを使った商品、イワシの黒酢梅肉漬け、アジの南蛮漬けなど新しい商品の開発に取り組んでいて、来年の商品化を目指しています。今後はクックパッドユーザーやクックパッドアンバサダーのフィードバックをもらいながら、市場にマッチする商品を出して、新しいマーケットを広げていきたいと考えています。

「阿久根の未来のため」から
世界や世の中にとっていいことを

12471_image06.jpg

ー 今後強化したいと考えている取り組みなどはありますか?

コロナ後は、これまでの団体旅行ではなく、少人数で地域密着型の、より現地らしさを感じたいニーズが増えてくると思います。体験型のプログラムのようなものができるよう、観光会社との連携をより強化していきたいですね。

またこれからは、世界や世の中にも目を向けていかなくてはと思っています。戻ってきたころは「阿久根のために」とばかり考えていたのですが、それだけではダメだなと。全ての人が「それは楽しい!良いことだ!」と思えることを主軸にしないと、自分たちのエゴで終わってしまいますからね。世界のことを考えて、さらに世の中にとって良いことなのかを考えながら、判断していきたいと思っています。

ーーーーーーー

商品力はあれど認知されていない、これは多くの企業が抱える課題のひとつです。実際に衰退しつつある事業を立て直してきた経験、多くの壁を乗り越えてきたからこそ発せられる言葉には重みがありました。自社のプロダクトやサービスをどう認知してもらい、どう価値を伝えていくか、その大きなヒントが得られたのではないでしょうか。

鹿児島県阿久根から世の中、そして世界へ、大きな目線で活動の幅を広げていくこれからの下園薩男商店の取り組みは、食の業界全体を盛り上げてくれることでしょう。



writing support:Miyuki Yajima



この記事が気に入ったらフォロー

ニュースレター登録で最新情報をお届けします!





著者情報

著者アイコン
FoodClip
「食マーケティングの解像度をあげる」をコンセプトに、市場の動向やトレンドを発信する専門メディア。月1-2回配信されるスロー・ニュースレターにぜひご登録ください。