
食品素材
テクノロジーの力で持続可能な食を。カナダ企業8社の目線
2021年10月27日、カナダのフードテック最新情報イベント「Canada future food and food technology Webinar and Pitch sessions」が開催されました。イベントに参加できなかった方に向けて、フードテックに精通する住さんによる前後編2回に渡るイベントレポートをお届けします。前編はこちら。後編の今回は、カナダ企業8社によるプレゼンテーション概要です。
登壇企業
カナダ企業8社による熱のこもったプレゼンテーションがおこなわれ、世界に向けて発信されました。
● Ardra Inc.
● Blue Heron Creamery Ltd.
● GroundUp eco-ventures Ltd.
● Liven Proteins Corp.
● New School Foods Inc.
● Savormetrics
● Canadian Plant Protein Fund
● Top Tier Foods Inc.
Ardra Inc :
持続可能な天然素材を産み出す
私たちは生活者として、自然であること、クリーンラベルであること、そして持続可能な方法で生産された製品を求めるようになっています。自然食品は、食品業界の中でも最も大きく、急速に成長している分野です。2021年は5兆円もの市場に達すると言われています。しかしながら、植物から抽出する必要がある天然素材のサプライチェーンは非常に信頼性が低く不安定で、この成長産業を安定的に支えることができません。
そこでArdraは合成生物学と発酵を利用して、価値の高い天然素材を安定的に作っています。
高度な遺伝子工学技術を用いて、植物の遺伝子を酵母などの工業用微生物に移植し、大規模な工業用発酵槽で育てた酵母を使って天然素材を作ることができます。
その原料となるのが「糖」です。砂糖は植物性であり、発酵は自然なプロセスのため、日本を含むほとんどの国で、糖類を発酵させて作られた原料は、合成素材ではなく天然素材に分類されます。
私たちはこの方法により革新的なフレーバーや着色料、天然の抗菌剤や抗真菌剤を作ることが可能です。米国の香料企業など、さまざまな顧客から高評価をいただき、現在食品原料や化粧品原料を販売するパートナー企業を探しています。
New School Foods :「本物の生の食材」が
肉食生活者を取り込むカギ
水産物の需要は今後30%増加すると予想されていますが、漁業資源は枯渇に向かっています。さらに水銀やマイクロプラスティック、重金属などの懸念もあり、天然の魚は健康とは言えない状態にあります。こうした問題はますます深刻化していくため、私たちは根本的に食を見直す必要があります。
代替肉を求める生活者増えつつありますが、その44%は「現在の植物性の肉の味や食感が好みではないため、楽しむことが出来ない」と答えています。
私たちNew School Foodsは、現在魚や肉を食べる生活者をターゲットにした製品を開発しています。
本物そっくりの見た目、味、食感、調理特性の4つが重要です。サーモンを調理した時と同じように、本物と同等の香りや味が感じられる揮発性物質や、食感を再現するためにたんぱく質繊維を本物と同じようにそろえる技術などの開発に多大な投資をしています。
現在の魚介類の市場を見ると、2030年までに3兆円の市場になると考えられています。
一方、生の肉そのものを代替する市場は完全に未開拓です。私たちは、味、食感、栄養成分などの主要な要件をすべて再現した妥協のない製品を開発し、市場のニーズを満たすことを目指しています。
LIVEN:人工微生物と発酵で
多様なたんぱく質を産み出す
現在のフードシステムはさまざまな課題を抱えています。生産された食品の3分の1は廃棄され、誰の食卓にも上りません。世界のたんぱく質摂取は畜産業に依存しており、世界の土地の3分の1は畜産に用いられています。また人為起源の温室効果ガスの18%を占めています。
私たちLIVENは、こうして廃棄される食品を動物性たんぱく質に変換することで、課題の解決に挑んでいます。失われていく2,600兆円もの食品ロスを、1,400兆円の動物性たんぱく質市場に転換する機会を創出しているのです。
私たちは遺伝子組み換えを用いて、人工的に作った微生物によって食品を発酵させるアプローチを採用しました。さまざまな微生物と遺伝子組み換えツールを組み合わせ、目的に合わせて設計することで、多様な動物性を代替する製品を製造することができます。
現在は豆類のでんぷんから、動物由来ではないゼラチンの開発を手がけています。
ゼラチンは口溶けが良く、強烈なフレーバーを放つ特徴があります。このような食感や口当たりの良さは、今までのの植物由来の食品では得る事ができませんでした。
私たちはアニマルフリーゼラチンや、その他の機能性タンパク質の開発に興味のあるお客さまを探しており、アーリーステージの投資も募集しています。
▶︎https://www.livenproteins.ca
Savormetrics:「食の可視化」で可能になる
高度な経営意思決定
Savormetricsは、高度な分析技術を食品や農作物に応用することで、生産高、品質、味、汚染などの予測を実現。データ主導の経営判断を可能にします。
例えば、汚染物質や成分をリアルタイムで確認できればリコールや事故のリスクを未然に防ぐことが出来ます。
また、トラック内のコンテナに備え付けたセンサーで、在庫を動的に組み替え、腐敗を防ぐことができるとしたらどうでしょう。私たちはセンサーとAIによって、これを実現しています。
実際に倉庫に導入すれば在庫ロスを70%削減し、加工ラインでは規格外の発生を80%削減。
農場や温室に導入すれば収穫量を50%増やし、コストを30%削減するなど、さまざまな場所で、多くのメリットを提供しています。
私たちは、コストの削減、腐敗の低減、顧客満足度の向上、あるいは、賠償責任の可能性を低減するためのサポートなど、各方面でインパクトを与え、誇りを持ってサービスを提供しているのです。
Savormetricsはアジア市場への参入を支援してくれる、戦略的パートナーを探しています。近い将来資金調達を行いますので、そちらに関心がある方も是非コンタクトください。
Ground Up:捨てられる副産物を
スーパーフードに生まれ変わらせる
2019年アップサイクル業界は、約5兆円の市場があると言われ、毎年5%の成長をしています。そして生活者の60%がアップサイクルフードを求めています。
カナダでは年間30万トン、日本では年間40万トンのコーヒーを輸入していますが、コーヒーは淹れる際に一度利用しただけで、廃棄されています。
また、大麦も同様です。カナダでは年間65万トン、日本では120万トンを輸入し、ビールに使用した後は、製造過程で大量に廃棄しています。
私たちは副産物を、栄養価の高いスーパーフラワー(小麦粉)に再生しています。炭水化物が少なく、食物繊維やタンパク質が豊富で、ミネラルやプレバイオティクスなどを含む粉です。また含有量を調整し栄養成分を増やすことも可能です。
また、コーヒーからはオイルを抽出しています。これは化粧品、スキンケア、ヘアケア業界にとって貴重な成分です。コーヒーオイルはスキンケア化粧品原料としての効果や、男性型脱毛症の軽減効果も証明されています。
私たちは、アップサイクルのための優れた新技術の開発のため、技術パートナーや投資家を探しています。
Blue Heron:科学とアートの融合で
ヴィーガンチーズに喜びを
私たちBlue Heronは、技術革新を原動力とした代替乳製品を生産しています。
急速に進化しているヴィーガンチーズの分野では、私たちが認識している問題点が多くあります。
・チーズは本来1,000種類もあるが、ヴィーガンチーズの分野では多様性がない
・溶けた時ののびやソースにした際の食感などがかなり劣る
・そもそも味がものたりない
・栄養価が低い代替品にとどまっている
私たちはこうしたヴィーガンチーズ特有の問題を解決し、鉄分とカリウム、植物繊維が豊富なチーズを作っています。科学と芸術の融合を目指し、技術と芸術を応用。人々を動物性の食事から植物性の未来へと進化させることを目指しています。
植物性チーズの市場は急速に成長しており、2027年には5,000億円に達すると予想されています。
私たちはマーケットとしても技術面でも、日本とのコラボレーションの機会を模索しています。日本の発酵の歴史と私たちの特殊な微生物培養で、革新的な問題解決をしてくれると期待しています。
▶︎https://blueheroncheese.com/
Wamame:日本伝統の和牛を目指し
代替肉の世界を変える
私たちの製品、私たちの社名は、日本に由来しています。私たちは、日本人の口に合う商品を開発するだけでなく、世界で最もおいしい牛肉として知られている和牛をリスペクトしています。その想いが私たちの出発点です。
私たちが開発しているのは「ブロック肉」です。90%以上の代替肉はひき肉や加工食品ですが、現在スーパーで牛肉を買う人はひき肉に限りません。
最初の製品は焼肉用の薄切り肉です。2020年に発売し、世界的にも高い評価を得ています。 世界的に有名なレストランの料理長から、その味と食感に感銘を受けたとの声をいただきました。
私たちのビジョンは、より高品質な代替品として、現在の牛肉市場を置き換えるような植物ベースのプラットフォームを作ることです。和牛は世界でも最も優れた牛肉。私たちの製品「Waygu」は、世界最高の植物性牛肉の代替品になると考えています。
私たちは小売、外食産業との連携や、ブランド提携、ライセンス供与などのさまざまな機会を探しています。また世界の「Wagyu」製品を広めていく戦略的投資パートナーも求めています。
最後に:プラントベースの近未来の姿は?
日本とカナダの新たな投資とパートナーシップのための、新しい扉を開くピッチセッションはいかがでしたでしょうか。
今回の登壇企業はいずれも「アーリーステージ」つまり、まだ産まれて間もないスタートアップ企業ですが、若いスタートアップは次のトレンドを映す鏡となっています。
今回のピッチセッションを見ていくと、プラントベースは、もはやヴィーガンや特定の人のみが関係するようなものではなく、次の地球のフードシステムを支える存在として技術革新が進んでいます。前編でお知らせした通り、カナダは国の次の産業としてこれらを支援しているという図式となっています。
カナダ以外の国も同様に、こうしたプラントベースへの投資が増えており、内容もより高度になっていますので、是非皆様もチェックを。
今回登壇したいずれの企業も、日本企業とのコラボレーションに興味を持っているそうです。興味を持った方は、ぜひカナダ大使館までお問い合わせください(日本語対応可)。
【お問合せ先】 カナダ大使館 商務部 農務・食品担当:tokyofood@international.gc.ca
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著者情報

- 住 朋享
- 2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。