持続可能性は食卓にも。メディア化の食から未来を読み取る

持続可能性は食卓にも。メディア化の食から未来を読み取る

長引くコロナ禍の中でも、新たな食トレンドが生まれた2021年。今後、生活者が求める食の価値はどう変化していくのでしょうか。FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。今回は食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆する作家・生活史研究家の阿古真理さんに、2021年の振り返りと今後の見立てをご寄稿いただきました。

コロナ禍で退屈な日常を彩る食トレンドが
生活者の刺激に

2021年は1年の大半が緊急事態宣言下で外食が制限される異常事態だったが、それでも食はコロナ禍に負けず次々とトレンド化していた。

イタリア・ローマ発のマリトッツォの大きな盛り上がり、コンビニでも買えるピスタチオスイーツ、中東発祥のペースト状合わせ調味料のハリッサ、ダイエット食品としても注目されるオートミール、2018年から製造販売が始まったクラフトコーラなどは、一見コロナと関係がないヒットに見える。

しかし、これまでとは違う生活の中で生まれる流行には、それなりの影響があると考えたほうがよい。例えばマリトッツォについて以前、ハマっている50代女性に聞いたところ、「コロナ禍で以前と異なりトレンドをチェックするようになった」と話していた。外出も友人知人に会うことも制限される中、退屈な日常を彩る刺激を求め流行にハマる、という人はほかにもいるのではないだろうか。コロナ禍は、流行の盛り上がり方を大きくしているかもしれないのだ。


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刺激と言えば、コロナ以前から人気上昇中の炭酸飲料がある。朝日新聞が2020年12月17日、「甘くない炭酸水 巣ごもりバブル」と題した記事で、アサヒ飲料のウィルキンソンタンサンの同年1~11月の販売数量が前年同時期と比べて11%増と、過去最高だった前年の記録を塗り替えたことを報道している。炭酸水市場は以前から上昇中で、全国清涼飲料連合会の調査で2017年までの10年間で約9倍になった、と2018年4月19日の朝日新聞記事も報じていた。強炭酸ドリンクが売れるなど、炭酸飲料自体が人気になっていたところへのコロナ禍。目新しい炭酸ドリンクとして、クラフトコーラがヒットした。ハーブなどを使う健康的なイメージや、ビールやジンなどクラフトアルコールの流行も影響しているだろう。

ノンアルコールの炭酸飲料としては、その前から手作りジンジャーエールも流行っている。炭酸の刺激はあるが、少量生産や手作りのためか、どこかマイルドでハーブが原料というヘルシーな印象を与える両ドリンク。また、コロナ禍で飲食店がアルコールの提供を制限されたこともあるだろう。手作りの温かみがあるノンアルコールドリンクは、コロナ禍で再発見された飲料と言える。

ハリッサの人気は、近年ピスタチオやファラフェルなど、中東発祥の食がいくつも流行していたことが影響していると思われる。日本では中東料理を食べられる店が限られており、あまり身近ではなかった。遠い国ならではのエキゾチックなイメージも、ハリッサの人気に影響しているだろう。

最も大きな要因は、自宅で食事をする機会が増え、マンネリ化する食卓に変化を持たせたい、と考えた台所の担い手が多かったことだ。ハリッサなら、完成した料理につけることもできるし、カレーなどのスパイシーな料理の味を強めるために加えることもできる。ギョウザのタレとして使えば、中華料理だったギョウザが急に中央アジアか中東料理のような味に変化する。スパイスカレーが流行し、クミンやコリアンダーの味や香りに親しむ人が増えた今、辛過ぎないハリッサは適度に物珍しく、適度に食べ慣れた印象を持たせる味である。

コロナ禍であまり出かけなくなったことで体を動かさなくなり、太ったことを気にする人も多い。そういう人にウケているのが、水分を加えて電子レンジにかければごはん替わりになるオートミールだ。食物繊維が白米の19倍も含まれており、ダイエット効果が期待できること、栄養価が高いことが人気の要因だ。SNSで広がり、クックパッドの食トレンド大賞2021の大賞を受賞している。

今年を代表する注目料理は?食トレンド大賞2021を発表
▶︎https://foodclip.cookpad.com/12346/

時短レシピ、調理家電
アップデートされる家庭料理のあり方

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ハリッサもオートミールも、商品の売れ行きなどが市場で確認できる家庭料理の流行だが、コロナ禍で最も大きく変化した食は、商品だけではわからない「家庭料理そのもののあり方」だ。私が去年刊行した、『ラクしておいしい令和のごはん革命』(主婦の友社)では、約150冊の人気レシピ本からトレンドを探っている。

2010年代後半以降、レシピの変化は著しい。それは、SNSで鍛えられた料理家が次々と誕生し、ヒット作を連発するようになったからだ。特に2010年代後半、共働きの子育て世代が増え、切実に求められるようになった、時短レシピの進化は著しい。特に最初の緊急事態宣言下、1日3食家族全員分の料理を作る必要に迫られ、時短レシピを求めた人たちは多い。

近年の時短レシピは、「調理に手間がかかる食材を避ける」「使う食材の種類を減らす」「鍋一つフライパン一つなど調理道具を減らす」などの工夫で、プロセスを簡略化したものが目立つ。一方で、効率的に調理するため、トマトケチャップやめんつゆなどの合わせ調味料を複数使い、複雑な味にするレシピも多い。

また、常備菜を作る、下味をつけた肉などを冷凍しておくなど、週末の作りおきで平日の調理工程を簡略化するレシピも人気だ。特にゆーママこと松本有美さんの下味冷凍のレシピは、人気が高い。

家電に頼る時短術もある。ホットプレート、電気鍋、電子レンジは「令和の3種の神器」と言える調理家電だ。ホットプレートや電気鍋の売り上げは、コロナ禍で大きく伸びた。今、電子レンジレシピは、加工食品の仕上げ調理とそん色ないほど工程を簡略化したものも多い。特に人気が高いのは、山本ゆりさんのレシピ。彼女はいち早く、パスタを具材と一緒に電子レンジに入れ、具材を煮ると同時にパスタもゆでる工程を考案した料理家でもある。

もう一つ目立つのは、一人暮らしや男性の料理など、家族のために女性が作ることを前提にした従来のレシピとは異なるものが充実し始めたことだ。たとえば一人暮らしの場合、食材をたくさん使いすぎると余る、コンロが一口しかないなど、台所環境が貧しいことが多く、制約が多い。そうした中でも、栄養バランスにも配慮した料理を作り続ける方法論が、次々と編み出されているのだ。一人分のカレーレシピもある。

料理の担い手の多様化と
企業に問われる健康意識や社会貢献

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こうした家庭料理のトレンドの変化は、これから起こるだろう変化を予感させるものだ。一つは、家庭料理の担い手が多様化すること。すでにNHK放送文化研究所の「国民生活時間調査2020」でコロナ禍の2020年、在宅時間が長くなったためか、男性の家事時間が増え始めている。日曜日の家事時間、女性は5時間5分に対し、男性は2時間15分になっている。

1995年には男性が1時間19分で、女性は4時間34分だったのだから、25年で男性の日曜日の家事時間は2倍に増えている。クックパッドと住宅ローン専門会社のアルヒによるインターネット調査『おうちじかん白書2021』でも、料理の担い手が複数いる家庭が増えたことがわかっている。
男性に作りたいと思わせるレシピが増加することで、台所の担い手はさらに多様化が進むと考えられる。夫婦が交代で料理する家庭が、一般化するかもしれない。

また、2006年に厚生労働省が、肥満や生活習慣病など心臓病や脳卒中に繋がる危険因子の呼び名、メタボリックシンドロームを紹介し、改善や予防を奨励し始めたことや、家庭科を共修した世代が45歳までと年齢層が厚くなったことなどから、健康意識の高い層が広がったと考えられる。数年前から流行する、糖質制限ダイエットに挑戦する男性も目立つ。

新型コロナウイルスの感染が拡大し始めた頃、生活習慣病にかかっている人が重症化しやすいと報道されたこともあり、今まで以上に食生活に気を遣う人が増えた。今年のトレンドを振り返っても、無糖の炭酸飲料やクラフトコーラ、オートミール、ピスタチオの流行には健康意識の影響もある。

世界的にはSDGsの影響で、植物由来のタンパク質食品が増えている。日本ではまだまだそうした代替肉などの入手は難しく、環境や資源保護への意識も高いとは言えないが、健康意識の観点からも植物由来の食品へのニーズは、高まっていくことが予想される。ヴィーガン料理をヘルシーと謳えば、「健康的かつ環境にいいことをしている」と感じて生活に取り入れる人は増えるのではないか。

また、料理する人は、店頭に並ぶ食品から時代を読み取る。物価の上下にも異常気象にも敏感になる。料理の担い手が多様化して増えていることは、日々の食への関心がより政治化していく時代の到来を予感させる。

一昔前まで、平和を謳歌していた日本では、政治や経済の動きにそれほど関心が高くなくても大丈夫、あるいは政治はどこか遠いところで行われているもの、という感覚の人が多かった。いまだに低い選挙の投票率は、そうした意識を反映している。しかし、格差の拡大やコロナ禍での政治の対応のまずさは、いやが応もなく政治への関心を高める。

これから2030年の達成目標に向けてSDGs関連の報道は、ますます増えていくだろう。持続可能性が高い食への関心は、まず自分自身や家族の心身の持続可能性から、やがて高まっていくと考えられる。

食のトレンドは、食関連企業の商品もメディア化しているからこそ生まれる。例えば2000年代に食の事件が相次いだ結果、安心安全への監視が厳しくなった。もちろん、単発の食品のトレンドは、目新しさが求められるため、中東や南米など、まだ日本人にとって未知の部分が多い外国発の食は、今後もトレンド化するだろう。繰り返しブームが訪れる韓国の流行食への関心も高い。しかし今後は、食を提供する企業の健康意識や社会貢献、政治的な態度なども、大きな意味での食の潮流に影響していくのではないだろうか。

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平成から令和を中心に、約150冊の人気料理レシピ本から「家庭料理と日本人」の歴史と流行を紐解く1冊。

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著者情報

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阿古真理
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『平成・令和食ブーム総ざらい』『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』など。