FoodClipラウンジvol.2外食のこれから[後編]

FoodClipラウンジvol.2外食のこれから[後編]

読者の皆さまとより深くつながり、ビジネスに有用な情報を発信するための定期イベント「FoodClipラウンジ」。2021年11月18日に開催された第2回目は「外食のこれから」をテーマとし、ゲストに2021年の外食業界の総括と今後の戦略をうかがいました。レポート記事は2回にわけ、前編ではカラビナハートの吉田氏による外食業界の動向、後編となる本記事では、株式会社エー・ピーホールディングス取締役 執行役員 COOの野本氏とカラビナハートの吉田氏のディスカッションをお届けします。

今回のラウンジトークメンバー

株式会社エー・ピーホールディングス 
取締役 執行役員 COO
野本 周作 氏

カラビナハート株式会社
吉田 啓介 氏

FoodClip編集長
渥美 まいこ

度重なる緊急事態宣言は明けたが
まだまだ手放しでは喜べない

渥美:野本さん、2021年の外食業界の総括(前編へ)を受けて、いかがでしょうか?

野本氏(以下、野本):見えないことが多くて、少し気持ちが暗くなりそうでしたね。2022年はもちろんですが、今年の12月どうなるんだろうって、目の前のこと自体も気になっています。吉田さんのお話にもありましたが、二次会へ行く人が圧倒的に減っています。最近でこそ、大人数の飲み会の予約も入りつつありますが、まだまだレアケースです。大人数宴会用の座敷などがある店舗は、どのように稼働を上げていくか、中期的に考えなければいけません。また、制限緩和により協力金や助成金がもらえなくなってくる時期に、どのように施策を打つかも重要になってきます。

渥美:この1年半、さまざまな施策を打ってこられたかと思います。印象に残っていることや、手応えのあった施策はありますか。

野本:印象深いことだらけの1年半で、どれといえないですね。2021年に限定すると、1月から緊急事態宣言が出たのは、かなりきつかった。1月から3月まで緊急事態宣言、4月からは緊急事態宣言とまん延防止等重点措置と、なかなか光が見えてこなかったです。第3波以降、時短協力金や雇用調整助成金などが支給されはじめたこともあり、おかげさまで、前年度末の債務超過も解消、今年度上期は最終利益で黒字で着地しています。10月の営業再開後、売上は上がってきているのですが、まだ油断できない状況が続いています。手放しで「このまま行くぞ!」って言えないのは厳しいですね。

職人を生み出し専門店化に注力
コロナ禍での新たな挑戦

野本:2021年は、4月になって当社内の取り組みをギアチェンジしたのも、記憶に残っています。ワクチン接種開始で世の中の潮目が変わったのを受け、来るべき再開の時を見据えてビルドアップに向けた時間の使い方にし、休業中のあいだ他の会社で働いてもらっていたスタッフたちの社内の研修に充てました。例えば、営業していない店舗を利用して焼鳥や寿司といった専門的な職人技術を学ぶ研修をおこないました。吉田さんの話にも出てきたように、今後は専門店化に注力したいと考えたんです。総合居酒屋、鮮魚居酒屋など、私たちはエッジを効かせてきたつもりですが、今後は焼鳥店、寿司居酒屋のように、お客さまの心を捉えるフックとなるコンテンツが重要です。そのために必要な技術を学ぼうと。

私も驚いたんですけど、炭火で焼鳥串を焼くこと、もっと言うと地鶏の焼鳥串を焼くのはガス火で若鶏の串を焼くのに比べ、はるかに高度な技術が必要なんです。塚田農場で料理長をやるにもしっかりと技術を学ぶことは必要なのですが、それとはまた違う技術が必要になる。もともと職人育成は一部の業態では取り組んでいたのですが、上期は「なるべく多くの職人を育てていく」という意気込みで研修を重ねました。新しい業態や、今後の展開にも目処がついてきた手応えを感じています。

渥美:施策を始められて、従業員の表情も変わりましたか?

野本:その施策の先にも弊社代表の米山がもつ壮大な構想がありまして、まだ色々と検討段階ですが、最終的には「個々が身を立てる技術を持って独立できるような制度」まで作っていきたいという話もあります。こういった動きから先が見えた、と思ってくれる従業員も多いです。
加えて、代表をはじめ経営陣は、この1年半で社員がだいぶ減ったこともあり「苦しい状況で残ってくれたメンバーに未来を見せたい」という想いもあり、しっかり旗を振ってみんなで前を向いていこうとしている状況です。

弊社に限らずマーケット全体の話をすると、春以降は、協力金の支給タイミングが遅いなどのキャッシュ的な問題をはじめ従業員のモチベーションなどの問題から、個人店だけでなく、それなりの大きさの飲食企業の店舗も、自治体からの要請に従わずに営業を再開していたのが印象的でした。弊社は要請には応えながら、とにかく腕を磨こうと動いていたのですが、「いつまで休んでるんだ。潰れるんじゃないのか」と厳しいご意見もいただきました。世の中には様々な考え方があるので、何をしても色んな意見をいただくのですが、自分たちの信念をしっかりと持って、なんとかやってきた2021年でしたね。

渥美:吉田さん、野本さんのお話を受けて、いかがでしょう?

吉田氏(以下、吉田):お話にあったことで気になったのは、「なんとなく飲みに行こう」ではなく、「あれ食べに行こう」を作らねばならない、という部分ですね。今後、お店を選ぶことを大切にして時間をかけるお客さまが増えていく中で、飲食店が磨いていかなければいけない道なのかなと感じました。

渥美:時流に合わせたエッジの効いた店づくり、専門店化が必要となり、飲食店の変革が迫られる中で、従業員のキャリアなども考慮し、挑戦されているとお聞きして、胸が熱くなりました。

既存ブランド×専門店で
選ばれる新業態を

渥美:少しずつ規制などが緩和していますが、今後、強化される部分はどんなところでしょうか。

野本:中期的には先ほどお伝えした、エッジの効いた専門店化です。その中でも弊社の塚田農場よりも、単価が若干高く焼鳥専門ブランドとして中目黒や渋谷に展開している「焼鳥つかだ」のように「あれを食べに行こう」が見込める料理と既存ブランドをかけ合わせる方向へも進むと思います。他社さんですが「焼肉の和民」も、まさにそうです。総合居酒屋に行こうという時代ではなくなる中で、いかに名指しで予約してもらえるか。既存店は「〇〇食べたいから、あそこへ行こう」といわれる店に進化するか、もしくは、そうした新業態を作れるか、がポイントです。まだ言えない部分も多いのですが、弊社では12月から1月あたりからより一層動きが加速し始める予定があります。乞うご期待です。

外食の体験価値を最大化する
モバイルオーダーでありたい

野本:また、人員生産性の引き上げに向けた動きとして、デジタル化にも取り組みます。12月に向けて枯渇しているスタッフの穴を埋めたい考えもあります。ただ、どちらかというと、売上高が今までの7、8割しか戻らずに、しっかりと人件費を使えるような状態にならなかった場合でも、今までと同じかそれを超える満足度を味わってほしいという想いが強いです。そのためにデジタル化の推進を考えています。トップライン下がっている状況で、原価率も家賃はそうそう下がりませんから、人件費を調整するしかないのです。ただ、当たり前なんですけど人件費を下げると、あからさまにサービスが落ちます。もともと私たちは、産地直結のいい食材を使用した「おいしい理由」のある料理やドリンクだけではなく、その「おいしい理由」を伝えるサービスがあったのに、それができなくなってお客さまが離れていってしまうのは心苦しいじゃないですか。

ですから、様々な企業が出しているモバイルオーダーをほぼすべて検討しました。ただ、そのほとんどがホールスタッフが注文を取る時のハンディ端末を渡しているだけで、お客さまに負荷をかけている状態。これでは我々のやりたいことができないと思っていたんです。

それが、トレタさんとの取り組みでやりたいことができるモバイルオーダーが作り出せた。接客と同等かそれ以上に情報が伝えられ、体験価値を高めるモバイルオーダーとして「トレタO/X」です。スマホで見られて、シズル感あふれる動画があり、焼酎のペアリングや料理へのこだわりもわかる。 注文ごとに、オススメのメニューもサジェストしてくれます。トライアル店舗では、サジェスト機能のおかげで導入していない店舗に比べて「塚だまプリン」の注文率が上がった、という実証結果も出ました。

飲食業界のデジタル化って、オーナーや本部が導入を決定したら「あとは現場が頑張れ。入れてやったんだから生産性上がるだろ」みたいなことって、ものすごく多いんです。でも私たちは、どう使いこなしたら本当にオペレーショの負荷を軽減できるか、そしてそれだけではなく、最終的に「本当にお客様満足度に繋がっているのか」までを追い求めます。例えば、削減できた時間の半分は、提供時のお客さまとのコミュニケーションに使いたいと考えています。会社の都合だけでなく、外食の体験価値を最大化するためにデジタル化が必要だと感じています。

吉田:塚田農場さんは来店のたびに料理もおいしいけど、ホスピタリティが他のお店と群を抜いていると感じます。その中で、どのようにモバイルオーダーを活用されるのか気になっていたのですが、なんだか、ホッとしました。

野本:デジタルはリッチコンテンツとしてきちんとおさえておいて、人と機械をうまく共存させたいですね。外食業界で提供するものは、頑張っても100%デジタルにはならないので、だからこそのトライです。

夜の外食の在り方が変化し、
外食業界のハードルに

渥美:次の質問に移らせていただきますね。コロナ禍収束の兆しがある中で、お客さまの変化や生活者がニーズが高まっていると感じることはありますか?

野本:少しズレてしまうかもしれないんですけど、10月からの要請緩和以降営業してみて思うのは、皆さんとにかく二次会に行かないんです。現状、遅くの来店が少ないので、1回転で終わってしまいがち。お客さまは早めに帰宅するのが習慣づいていて、外で飲んでないからすぐ酔っ払ってしまうし、電車の終電も早くなっているので帰っちゃう。要するに、二軒目までたどり着きにくいという課題があり、12月以降どこまで回復してくるかは注目しているポイントです。ですから、私たちとしては今できることとして「二次会に行かないんだったら、たくさん食べて、呑んで返ってください」というアプローチをしています。

吉田:お客さま視点での外食シーンの難しさって、個々の外出自粛への価値観の違いからきていると感じています。私は二次会にもよく行くタイプで、SNSでも外食していることを発信しているのですが、私から誘う場合には相手が外食に抵抗がないか気になります。渥美さんが話したように、今の食生活が長く続いたので、遅くまで飲みに出ない生活ってこれはこれでありだと感じている方も増えたでしょうね。いつ戻るかも全く想像がつかないです。

野本:海外にも事業展開しているので、海外のデータも見ているのですが、厳重に対策をしていたシンガポールですら、ほぼ全数検査にしたとか、重症化率しにくいなどの背景はありつつも、規制を緩和した途端に感染者が急増してしまったという現状があります。また、インドのように一度ピークアウトしてそのままという例もあり、日本がどうなるかは予測が難しいですよね。海外の動向を逐一観察して、日本に当てはめて頭をひねる一方で、いつ戻るのかわからないけど「1年後には笑ってられるんじゃない」と楽観的な気持ちも持ってないと、心がやられてしまいます。でも、「昨年よりマシ」とずっと言ってます。

読者からの質問1:
取引先に求めるものは?

渥美:ここからは、事前に読者のみなさまからいただいた質問をお聞きします。まずは「皆さまが取引先に求めるものはなんですか?」とのご質問です。

野本:半分本気、半分冗談ではありますが、今の時点ですと「とにかくたくさん飲みにきてください。少人数、分散で忘年会やりましょう!」とお願いしています。真面目に答えると、コロナ以前は「こんな付加価値があるから、価格が高くても買ってください」と言えました。私もメーカー出身なので、この考え方はすごく理解できるのですが、今は7、8割経済ですが、すぐに単価が上げられるかというとそれは難しいこともあり、同じくらいの単価で付加価値をつけた食材をなんとかご提案いただきたいです。無茶は承知ですが、食材自体の単価が高くなってきているので、コストパフォーマンスの意味がすごく問われています。そこを踏まえて、付加価値があって単価は少ししか上がらないものをご提案いただきたいと、うちの調達担当とも話をしていました。

吉田:お客様とのコミュニケーションも踏まえると、冒頭でもお話しましたが、お店もメニューも“目的的”に選ばれる要素があると捉えています。これまでは前職の経験を例にすると、年に5、6回ぐらい新しいメニューを投下して来店してもらう流れでした。かたや、今までみたいにガンガン新しいメニューを入れ替えて、コミュニケーションのニュースを作っていくというのも、難しい状況になっています。そこで「定番メニューがおいしくなりました」を強いニュースにしてはどうかと考えています。メーカーさんは、食材やメニューの「おいしくなりました」をいかに表現にできるか、ニュースとして打ち出していく価値などを、セットにしてご提案いただくといいかもしれません。人員削減などの観点でいうと、おいしさはそのままに、現場の工数を下げられるよう一歩進んだ段階で食材を納品するのも、ひとつの価値かなと思います。

読者からの質問2:
注目している店やブランドは?

渥美:次の質問です。「最近、注目している店やブランドを教えてほしいです」とのことです。

吉田:私はケンタッキーとスシローのコミュニケーションの部分が、非常に好きです。目的的来店が増えると、「チェーン店ではなく個人店に行きたい」という心理が生まれやすいので、昨今の流れは大手チェーンにとって課題でもあります。こうした逆境の中、2社は工夫を積み重ねた結果で、業績を上げているんですね。

例えば、ケンタッキーは10年ほど前までは、クリスマスなど「ハレのごちそう」のイメージが強かったのですが、いつの間にか普段使いになっています。よくよく見ると、生活者とのコミュニケーションでランチの訴求をしていて、ブランドイメージを日常使いにコツコツとシフトさせたのが、まさに今活きたと感じています。プロモーションもそうですし、アプリの使い勝手、SNSなどの日々の情報発信を見ると、アプローチの工夫で普段使いのお店の上位に居続けるために、個々に向けて心地良い挨拶を投げかけていると思います。

野本:ファミリーマートですね。うちのマーケティング部門のみんなにも「マーケターだったら絶対ウォッチしておけ」と言っています。トップマーケターで日本マクドナルドやナイアンティックにいらっしゃった足立さんがCMOになられて、どうなるのかなと期待していました。やはりすごく動きが早いんですよ。色んな話題作りをされていて、いつも楽しみにしています。コンビニエンスストアを選ぶ時に「近くにある」以外で「〇〇のコンビニに行こう」と指名してもらう、スイッチングコストが高くないはずなんです。「それだったらファミマに行こうかな」となる施策を打たれているのが、すごいです。
居酒屋も、さまざまな会社が、自分たちの考えるエッジの利いたことを色々とやるのですが、コンビニと同じく、塚田農場を選ぶ強烈な理由もなければ、塚田農場を選ばない強烈な理由もないんですね。昔、一世を風靡した時にはあった。六次産業の先駆けだったし、非常に特徴的な接客もしていた。ただ今は時代がキャッチアップして追い抜いて行った。なので、「呑みに行きたい」と思ったときに思い出してもらって、「今日は塚田農場にしよう」となるような「なにか」をどう作るかだなと。最近はハロウィンの時期にはお持ち帰りプリンを作ったり、クリスマスにはローストチキンのテイクアウトを仕込んだり。いかに「塚田農場、頑張ってんじゃん」って思っていただけるか考えています。僕がこういう場に出させていただいているのも、聞いてる方がきっと行きたくなってくれると思っているからなんです。

渥美:ありがとうございます。ここでお時間となりました。野本さん、吉田さん、たっぷりお話を聞かせていただき、本日はありがとうございました。

人員確保が焦点に。
先をいかに予測し、策を打つか

外食業界はコロナ禍によって、多くの壁が立ちはだかる1年半でした。人員確保やデジタル化など、コロナ禍以前から課題となっていたものも大きな影響を及ぼす結果に。パネルディスカッションでは、新業態への挑戦やデジタル化など、エー・ピーホールディングスが外食のこれからを見据えて、軸をブラさずに戦う姿勢をお聞きすることができました。



writing support:Akira Fukui



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