[エスビー食品×今井真実]生活者と料理家の関係の変化とは

[エスビー食品×今井真実]生活者と料理家の関係の変化とは

FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。コロナ禍で生活者の料理への姿勢が変わったことで、レシピにも情緒やエンターテイメント性が求められるようになりました。食卓と向き合い生活者に寄り添いながら、note上で「無理せず、いっしょに。」プロジェクトを運用するエスビー食品株式会社の木下氏と、同プロジェクトで連載をもち「桃ディル」をはじめとするレシピを発信する料理家の今井真実氏に、これからの食卓に必要とされるレシピについてうかがいます。


https://note.sbfoods.co.jp/n/n6106bef5cd6b
エスビー食品株式会社では2020年5月に「無理せず、いっしょに。」プロジェクトを開始し、コロナ禍で料理に不安や不満を抱える生活者に寄り添う形で、note上でレシピなどを発信。2020年12月に料理家の今井真実さんの連載「#旬とスパイス」をスタートさせ、7月に公開した「桃ディル」は、Twitterなどでも話題に。

お話をうかがった方

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エスビー食品株式会社
マーケティング企画室 デザイン広告ユニット
木下 茂氏


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料理家
今井 真実氏

生活者目線で喜びを作る
「桃ディル」ヒットの背景

ーーエスビー食品様のnoteで紹介された「桃ディル」は、今井さんがTwitterで「この夏は桃ディルに決まりです」と投稿されていたのが印象的でした。実際の反響はいかがでしたか?

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今井氏(以下、今井):ものすごく反応が良くて、私の周りではディルを探し求めてお店をまわる現象が起きました。Twitter投稿にもコメントいただいて、「こんなにたくさんの方がこのレシピを受け入れてくださったんだな」とびっくりしました。

特に若い女性がチャレンジしてくださっている印象でしたね。前菜や夜の軽食を想定して作ったのですが、朝食や夕食後のおやつとして食べる方もいらっしゃって、興味深かったです。フルーツとギリシャヨーグルトを使っているので、罪悪感が少なく食べられるのもよかったんでしょうね。旬が過ぎると、いちじくや柿など素材を変えて作られる方もいて、料理をクリエイティブする楽しさが広まったようで嬉しかったです。

木下氏(以下、木下):実売での反響を計測するのは難しいのですが、実感として、社内など周囲の人からも反応があったのが印象的でした。


ーー「桃ディル」のレシピはどのように生まれたのでしょうか。

今井:この連載はすごく自由で、いつも旬の食材をいくつか提案していただいて、私が食材を選んでレシピを作ります。特にしばりなどもないです。ただ、今回に限っては桃と指定がありましたね。

木下:毎月おこなっている編集会議の中で、トレンドの文脈もあり、「桃って面白いですよね」という話になりまして、桃一択でご依頼しました。難しかったら違う食材にしようとお話していたのですが、結果的に非常に良いレシピをいただけました。

最初に「桃ディル」のレシピをご提案いただいたとき、考えもしなかった組み合わせで、新しい視点だとハッとしました。フルーツを合わせるレシピの場合、スパイスならカルダモンやシナモン、ハーブだとミントのように、相性がいいものの訴求からはじまるケースが多いんですよね。ディルはピクルスや肉、魚に合わせるイメージがある中で、フルーツもいけるんだと新鮮でした。

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今井:「桃モッツァレラ」、「桃アールグレイ」など、既にSNSで話題になっていたたレシピがいくつかありますよね。今回はハーブのフレッシュさを活かした組み合わせをと考えて、ディルを選びました。ピンクペッパーやチャービルなども試作しました。しかし、ディルが1番、驚きがあって、味もおいしく仕上がったんです。

ギリシャヨーグルトは、本来ならフレッシュチーズをあわせたいところを、スーパーで入手しやすいものを検討して選びました。ヨーグルトなら身近で、残ってもそこまで困りません。ギリシャヨーグルトそのままだと、桃に絡みにくいのでホイップ状にしました。

木下:「桃ディル」というネーミングの良さもありますよね。あと、この連載が面白いのは、スパイスやハーブを軸に食材を合わせるのではなく、旬の食材が軸なんですよね。例えば私たちが、ゴーヤとカレー粉を使ってレシピを作成してくださいとご依頼すると、どうしてもベタなところに着地しがちです。noteはクリエイティブな発想をお持ちの読者も多く、「そうきたか」と思える驚きや発見が欲しいと考えています。このあたりの温度感は、料理家さんと私たちの間で、言語化して目線をあわせていくことは難しいところ。ただ、今井さんはさじ加減が絶妙で、何回かやる中で「お題となる食材を伝えて、お任せにしちゃった方がいいかもね」となりまして、自由にやっていただいています。毎回大変じゃないかな?と思いつつも。

今井:いや、面白いですよ。やはり、旬の食材というテーマが皆さんに読んでいただけるポイントだなとも思っています。周りにも旬の食材に対して「定番の使い方しか知らない」「たくさん手に入るので大量に消費したい」など、いろいろな悩みをもって目新しいレシピを求めている印象があります。そこで、スパイスやハーブを合わせると、簡単にいつもと違った味わいが作れるんですよね。

時代と共に変化する
生活者が料理家に求めるもの

ーー温度感の共有が難しいという話もありましたが、食品メーカーさんが料理家さんとお仕事をするときに期待していることはありますか?

木下:生活者が料理家やレシピに求める役割が、時代によって変わってきてるような気がします。昔は大御所の料理家の先生がいて、「基本のレシピはこれ」と家庭料理のお手本を教科書的に示すコンテンツも非常に多かった。先生に太鼓判を押してもらう意味合いが強かったんじゃないかなと考えます。
最近は「料理家=先生」というポジションからシフトし、生活者に近い視点で料理を発信される方が増えています。レシピも難易度の高いプロ級のものから、ごく簡単な家庭料理まで幅広く、多様になりました。レシピの探し方も、料理番組や料理本からSNSやレシピサイトまで広がっていて、SNSで発信される料理家さんも非常に多いですよね。

その中で私たちが料理家さんに期待しているのは、より生活者の目線に近く、共感性を持った情報発信です。情緒的に商品や料理の魅力を伝えられれば、潜在層にもプッシュできると思います。実際、料理家さんのフィルターを通して発信してもらった方が「作りました」「保存しました」という声は圧倒的に多いです。


ーー今井さんが食品メーカーさんとお仕事をされるときに、気をつけていることはどんなことでしょう。

今井:ご依頼いただいた商品を知ってもらうことを、大前提として考えていますね。「桃ディル」では、ディルを果物と合わせるとフレッシュさが際立って美味しい、とか「マグロとカルダモンの醤油漬け」なら、カルダモンの爽やかさを知ってもらいたいとか。商品の特徴を捉えて、あらゆる方向から魅力をお伝えしたいと考えています。なおかつ、少し目新しくて、私なりの個性が与えらればいいですね。

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ーー今回の「桃ディル」でも「夢美味しい」というフレーズがあり、料理のおいしさや楽しさが伝わる文章なども今井さんの魅力ですよね。

木下:本当にそうですよね。いただいた原稿の文章は、ほとんど修正していません。今の料理家さんは、料理のレシピだけでなく、文章などの構成力、文章力なども求められているのかもしれないですね。

今井:この連載のレシピは全部自信作で、毎回レシピが出来上がったときに「すごいのができた」と思うんです。だから「このおいしさが伝わるように、文章を書かないと!」と一生懸命書いています。noteの読者は文章でのコミュニケーションがお好きな方も多いので、読んだときに「作ってみたい」と思っていただけるよう工夫していますね。また、食べたときに完成品の味が正解なのか不安になる方もいらっしゃるので、文章で答え合わせできるようにしています。


ーー今井さんの連載をはじめ、「無理せず、いっしょに。」プロジェクトの記事はnoteの読者層にもマッチしていますよね。発信の場にnoteを選んだ理由をうかがえますか?

木下:SNSは投稿が流れて終わってしまいがちなので、どこかでレシピを蓄積して見ていただける環境がいいと考えていました。また今井さんからもあったように、レシピのご提案で終わるのではなく、読んでもらうことで「レシピや食材の後ろにある想い」をきちんと伝えられる場としてnoteを選びました。数あるプラットフォームの中でも、コミュニティが形成されていて、双方向のコミュニケーションも盛んだというのもポイントでした。加えて、肌感になってしまいますが、ユーザーが食に関わらず、社会問題についても感度の高い方が多く、物語やメッセージを受け取っていただけると感じました。

発信方法や企画内容、調理の難易度など、なにをどう発信するかは何度もトライアンドエラーを重ねました。だんだん反応がいいもの悪いものが見え、調整して今の形がありますが、求められるものは刻一刻と変わっています。毎月の編集会議で議論して、少しずつチャレンジするコンテンツを作って成長させているところです。

お料理リズムを掴んだ2021年
料理の楽しさと辛さの双方に寄り添う発信を

ーー生活者の変化はどのように捉えていらっしゃいますか?

今井:最近は2020年のステイホームの期間より、料理に対して前向きになっている方が増えた印象です。2021年も引き続き、あまり外には出られない日々でしたが、2020年のような毎日の料理が辛くなるような悲痛な感じは薄れている気がします。皆さん、オンオフのリズムができて個々にフィットしたお料理リズムを掴まれているんだなと感じました。

木下:2020年はあまりの変化の激しさに戸惑うばかりでしたね。なかなか買い出しに行けず、スーパーに行っても食材が買えない。今まで通りの生活のリズムが通用せず、本当に困っている方が多かったです。「無理せず、いっしょに。」プロジェクトも、その中でお客さまに寄り添いたいと、noteを立ち上げて提案してきたのがスタートでした。
確かに、2021年になって少し環境は変わりました。ただ、自分のライフスタイルの中で食を楽しめる人も増えた一方で、料理の頻度が増えて苦しんでる人はまだまだいらっしゃいます。私たちは双方に寄り添っていく必要があると、思っています。

最近は料理を楽しむときや、食の時間を大切にするシーンで、スパイスやハーブがひとつのソリューションとなっている側面があります。いつもの味付けを変えて、気分やシーンをアップデートしていく。スパイスやハーブが非常に好調に推移する中で、商品を手に取ってくれた皆さんが無理なく続けられて、より世界が広がるような、商品の提案やコミュニケーションを強化していきたいと考えています。具体的なシーンやターゲットをわかりやすく、きめ細やかな提案をもう少し強化していきたいですね。

今井:私も料理の楽しさに目覚めた方や、料理にチャレンジしたい方を後押しする意味でも、不安や面倒臭さよりもワクワクが勝つようなレシピを作っていきたいですね。私も毎日のように子どもを公園に連れて行っては、ママ友と夕食会議するんですけど、毎日の献立に迷う方ってとても多いです。そんな方にとって、スーパーに行くのが楽しみになるようなレシピを作れたらと思います。

旬を教えてくれる隣人のような存在に

料理家との関係性は、先生と生徒から、寄り添いながらアドバイスをくれる隣人のようなポジションになりつつあるようです。今井さんの開発した「桃ディル」は、義務としての料理ではなく、2021年にお料理リズムを掴みはじめ、旬の喜びや食の楽しみを発見したい人の心をキャッチしたともいえるでしょう。今、レシピに求められているのは、簡単やおいしいだけでなく、感情を動かすきっかけなのかもしれません。



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