sirocaの着眼点。調理家電ヒット続出の秘訣は社員の声

sirocaの着眼点。調理家電ヒット続出の秘訣は社員の声

FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。コロナ禍により一層注目を集めている調理家電。大手メーカーに並ぶ勢いでヒット家電を生み出しているsiroca(シロカ)の代表金井氏と開発担当小川氏に、ヒットの秘訣とこれから調理家電に求められることについて、うかがいました。

お話をうかがった方

シロカ株式会社
代表取締役社長
金井 まり 氏


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シロカ株式会社
開発本部 開発部 開発グループ グループマネージャー
小川 大助 氏

ホームベーカリーが累計120万台のヒット
2021年には電子レンジの発売も

ーーホームベーカリーの発売以降、定期的に新商品が話題になっている印象があります。時系列に発売されている代表的な調理家電をうかがえますか?

小川氏(以下、小川):sirocaのことを、2010年に発売したホームベーカリーで知ってくださった方も多いと思います。少しずつ製品の改良をおこなっていて、2020年の8月時点で累計販売数は120万台に達しています。

2015年には電気圧力鍋、全自動炊飯土鍋「かまどさん電気」、全自動コーヒーメーカーを発売。電気圧力鍋は2021年6月時点で累計販売数が40万台を突破しています。2019年に発売したお料理ケトル「ちょいなべ」、90秒で焼きムラのないトーストが焼ける「すばやきトースター」、工事不要で使える「食器洗い乾燥機」も好評いただいており、2021年は電子レンジを発売いたしました。

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調理もできるケトル「ちょいなべ」は2019年に発売し、2020年にリニューアル。コロナ禍の調理負担、孤食が注目される中で話題となった。


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「すばやきトースター」は2019年に初号機を発売し、2021年4月に大幅リニューアル。「いつも、すばやく、うまくいく」がテーマだ。


ーー2019年に発売した「ちょいなべ」や「すばやきトースター」などネーミングもわかりやすく、キャッチーですよね。調理鍋兼用のケトルやトーストを早く焼き上げるトースターなど、どのような着眼点で商品を企画開発しているのでしょうか。

小川:「ちょいなべ」に関しては、お取引先のホテルからの報告がきっかけです。当社が業務用で納めているケトルが故障したとの報告が複数あり、調査すると「ケトルでインスタントラーメン作ってしまうお客さまがいる」のが原因でした。改善策を考えた際、「ラーメンも作れるケトルにしたら面白いのでは?」と社内で盛り上がったのが、そもそもの発想です。ちょっとした鍋ができるサイズで、冷蔵庫にもそのまま入れられて、洗い物も少なく済む。よくあるズボラに鍋のままでラーメンを食べるイメージで開発したところ、コロナ禍もあり、孤食のニーズともマッチしました。

「すばやきトースター」は前身となるトースターから、リニューアルして発売したものです。トーストのおいしさは、焼きあがりにかかっています。「いかに素早くおいしいトーストを焼き上げるか」に注力し、外がサクッと軽く中がモチモチにできるよう、高火力で素早く焼き上げて、トーストの中に水分を閉じ込められる製品を開発しました。

2020年に新体制に
とことん実体験で需要を掴む

ーー「すばやきトースター」は、2021年も機能を追加してリニューアルされたんですよね。

小川:「早く焼けすぎて目を離すと焦げてしまう」「パンの種類によってムラができてしまう」などの声に応えて、誰でもおいしく簡単にトーストが焼けるように改良。厚いパンや焼きいもにも対応できるよう庫内を高くしました。素早く均一に焼ける機能を保ちつつ、庫内を高くするのには苦労しましたね。


ーー改良点はお客さまの声を反映させた形でしょうか。

小川:そうですね。あらゆるカスタマーレビューをしらみ潰しに読んで、反映しました。嬉しい声も厳しい声も開発の原動力になります。また、2020年に代表が変わったことによりものづくりのプロセスを見直し、製品開発の際に社内の声を積極的に取り入れるようにしました。
「すばやきトースター」は社員が一丸となって、必要な機能、不要な機能をとことん考えた製品の第一弾。以前は企画・開発部門のみだったのを、営業やカスタマーサポートなどポジションを問わず、自由に意見を出し合いました。社員ひとりひとりの意見が反映され、各製品への愛着も増し、自分ごととして捉えられるようになったと感じています。
改良後の製品も好評で、お客さまの評価も目に見えてアップしました。


ーー社員の意見やオンラインショップのカスタマーレビューには、あらゆる要望があると思います。調理家電の機能の絞り込みはどう選んでいますか?

小川:商品開発はゴールがありません。お客さまのご要望を聞くと、改良したいという気持ちがわきます。社員からの意見も「絶対に美味しいトーストを焼きたい」「子どもがいる家庭でも安全に」など、着地点が同じであることも多く、1つの機能で課題が2つ解決できることもあります。

やはり開発者だけで製品を作ると、技術ありきの製品開発になりがちです。日本の家電メーカーの悪いクセで、最新鋭の技術を使って、たくさんの機能をつけている製品は少なくありません。お客さまに利点がないものは、技術として成り立っていないと考え、一歩引いて、お客様にどんな価値を提供できるのかを大切にしています。

金井氏(以下、金井):「お客さまがどう使って、どう喜んでいただけるか」をとことん考える。これを全社員同じベクトルで取り組んでいるのが、2020年に生まれた新生sirocaの強みです。そうしたコミュニケーションにより、組織が非常にフラットで、お互いに遠慮せずに課題を出しあえるのが製品のクオリティに繋がっています。


ーー会社という大きなチームで、ひとつの製品を作られているのですね。

金井:sirocaの調理家電で「誰でも栄養が取れておいしい、質の高いお料理を食べられる」を叶えたいと思っています。私は介護経験もあり、実体験も含めて、介護問題をはじめとするこれからの食の課題解決は、ひとつの指標となっていると思います。

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2021年9月に発売した「おうちシェフプロ」。従来の電気圧力鍋に予約調理、低温調理機能をプラスし、圧力調理のほか、炒め、発酵など1台10役をこなす。


ーーここでも、実体験やリアルな声が軸になっているのですね。

金井:そうですね。例えば、電気圧力鍋の「おうちシェフプロ」は将来的には介護職を含めて、さまざまな生活者に喜んでいただける製品にしていきたいと考えています。2021年にプラスした機能も、私たち社員とお客さまの声から生まれたものです。

小川:今回重点を置いたのは、総調理時間の短縮です。実は最近の電気圧力鍋の多くは、表示される調理時間には減圧する時間が含まれておらず、作業する時間は短くすむ一方で、出来上がりまで予想以上に時間がかかってしまうことがあります。そこで自動減圧機能をプラス。小さな子どもがいる家庭やお年寄りにも配慮して、火傷しないように減圧時の湯気の出方にこだわりました。
この10月に発売したばかりの電子レンジも、営業部員の体験から生まれたものなんですよ。

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2021年10月にsiroca初となる電子レンジを発売。解凍がうまくいく「やさしさ解凍(特許出願中)」の機能がついている。


ーーどういった体験だったのでしょうか。

金井:社員の「手巻き寿司が食べたかったのに、外出時に刺身を解凍してくるのを忘れた」体験です。自宅へ帰ってから急いで解凍すると火が通ってしまい、ドリップもでてしまう。本当にリアルな声です。生活者の皆さまにも同じ経験がある方は多いのではないでしょうか。そうした経験から「解凍が上手にできる電子レンジ」を作りたいと思い、電子レンジの機能に絞って開発。特許申請中の機能で理想の解凍を実現し、企画発足から3ヶ月足らずで発売にこぎつけました。


ーーすごいスピードですね。

金井:工場と開発担当の尽力もあって、このスピードが実現できました。siroca初の電子レンジの発売ですから、売れる機能を吟味し開発しました。発売から1ヶ月ほどですが、売れ行きは想定の3倍ほどで、追加生産も急いでいます。

多機能高価格よりも
欲しい機能を手の届く価格で

ーー機能を絞った企画開発で、手の届く価格で調理家電を提供されているイメージでしたが、とことん実体験を掘り下げた製品化が大きな価値に繋がっているんですね。価格面ではどのような工夫をされていますか?

金井:まず、お客さまに喜んでいただける機能と価格を検討し、全体の原価も正しく理解した上で、現地工場といい雰囲気で踏み込んだ交渉をおこなっているのが価格面に繋がっています。中国で家電を開発していた経験や人脈から、商品や部材のコストがわかり、無駄のない生産ラインを実現。電子基板のサイズを何mm縮めたら生産の効率がいい、外箱のサイズを1cm小さくしてコンテナの積み数が増えるなど、本当に細かな部分まで調整しています。


ーー大々的な広告を出されてないのも、価格に反映されているのでしょうか。

金井:すごく正直にお話しすると、お客さまに喜んでもらえる製品が作りたいし、社員の給料は増やしたい。そこにお金をかけていきたいので、広告には多くの予算を割かないと決めています。製品原価に広告費を織り込むのはメーカーの都合です。全く広告を打たない訳ではありませんが、メーカーの独りよがりなプロモーションにならないよう、知恵を絞っています。PRに力を入れることで、テレビや雑誌にも取り上げていただき、実際にお使いになるお客さまの目線で使用した感想などをご紹介いただいています。

加えて、製品を購入して終わりではなく購入後も楽しんでいただけるように、レシピの発信など、既存ユーザーにとって楽しいコンテンツの充実にも力を入れています。2022年からは、さらに購入後のサービスにも力を入れる予定で、sirocaの調理家電を使い続けていただくことで、生活の質が上がるようなサポートをしていきます。
当社のカスタマーサポートセンターは内製でおこなっています。製品の疑問などにお答えするだけでなく、お客さまとコミュニケーションが取れ、暮らしの悩みなどがお聞きできる貴重な場。即日全社員に共有される情報もあります。引き続き、みなさまお声を真摯に受け取っていきたいと思います。

トレンドを捉えるよりも
多様化に応える調理家電を

ーーここ数年、食卓にフィットする調理家電を開発される中で感じる、食の変化はありますか?

小川:ライフスタイルの多様化は日々感じていて、これからは食トレンドも多様化していくと考えています。ニーズに応じた機能拡張など、カスタマイズ可能で、購入後に成長する家電をリリースしたいと考えています。また孤食のトレンドにより、「誰かと過ごす時間の価値」も高まっていると感じます。あえて、みんなで食べる時間を楽しむ機会が提供できる、テーブルを囲むような製品も検討していきたいですね。

金井:ここ数年で、糖質オフや腸活など、健康を気にされる方も多くなるとともに、環境への配慮も必須になっています。お客さまに頑張っていただくのではなく、製品側で健康やSDGsの課題に取り組めればと考えています。電気圧力鍋「おうちシェフプロ」は栄養の残存率も非常によく、食品ロスにも貢献できます。「siroca製品を使っていたら、自然と人間にも地球にも健康な食を実現できた」というのが理想形で、ぜひ実現したいですね。

インタビュー時に度々出てきたワードは「お客さまが本当に求めるもの」。データや技術に頼りすぎず、トレンドを作るのではなく、実体験に基づいた付加価値を泥臭く積み上げていく。多様化する食卓の需要を捉える鍵は、身近な社員の暮らしを知り、需要を立体的に捉えるところから始まるのかもしれません。



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