チーズワンダーから始まるリジェネレイティブなスイーツのあり方

チーズワンダーから始まるリジェネレイティブなスイーツのあり方

発売開始から瞬く間に完売する、まぼろしのチーズケーキ「チーズワンダー」をご存知でしょうか?手がけているのは、BAKE創業者の長沼真太郎氏。酪農からお菓子作りまで一貫した体制で製造しています。持続可能な社会の実現に向け、CO2削減など、酪農のあり方も問われる今。乳製品が持つ「本物のおいしさ」にこだわる理由とは?地球にも動物にも人にも優しいと語る、新時代のお菓子メーカーのあり方をうかがいました。

お話をうかがった方

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本物のおいしさを追求したお菓子を。
シリコンバレーで見えたミッション

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ー SDGsなど環境意識への高まりから、環境負荷の大きい酪農を問題視する声も聞かれるようになりました。そうした中で、酪農から手がけるお菓子作りに取り組むのはなぜでしょう。

長沼氏(以下、長沼):もともと「BAKE」という菓子製造のスタートアップを経営していた当時から、「おいしいお菓子作り」への強い思いがありました。おいしいお菓子に欠かせないのが良質な原材料です。とりわけ原材料の中で一番重要なのが、乳製品と卵でした。

良いストーリーのもの、根っこから理解している原材料を使って、自分たちの持ち味を生かした商品を展開していきたいと考えたときに、納得のいく牛乳の調達が困難だったんです。今の流通システムでは、ひとつの牧場からこだわった牛乳を“安定して”仕入れるというのは難しい。であれば、自分たちでまずやってみよう。同時にそういった流通システムを含め、酪農を勉強したい、という想いでスタートしました。


ー 原材料への想いからのスタートだったのですね。ユートピアアグリカルチャーでは、リジェネレイティブ・アグリカルチャーという新しい酪農のカタチを目指しているとのこと。シリコンバレー滞在中に可能性を掴んだそうですね。

長沼:ええ。スタンフォード大学の客員研究員としてシリコンバレーに滞在した際、食領域ではスタートアップとの絡みも含め、「世界の食が将来的にどうなっていくのか」をダイレクトに感じることができました。オーガニックにこだわり抜くサンフランシスコの牧場や、代替プロテインを追求している企業など、二極化している印象を受けましたね。
そこで直感したのは、これから代替プロテイン市場は価格が安くなり、かつ味や品質も向上していく、ということ。実際、スーパーにも相当数並んでいて、間違いなくその波は日本にも来ると実感しました。

同時に毎日飲む牛乳や肉は、代替製品が主流になっていく未来を予見し、鍵になるのは「本物」の価値だと感じたんです。年に一回、大切な人とお祝いする時のケーキや、大切な人に贈るお菓子。そうしたハレの日において、「本物」が持つ特別感やエモーショナルな価値は、より高まるだろうと。

そこで見えた私のミッションは「本物」の材料を使ったお菓子を極めていくこと。お菓子に使う上での乳製品について考え、牧場に関しても勉強を進めていく中で出会ったのが、リジェネレイティブ・アグリカルチャーというあり方だったんです。

酪農のあり方が問われる時代に目指す、
リジェネレイティブアグリカルチャーとは

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ー 目指していらっしゃる「リジェネレイティブ・アグリカルチャー」とは、どのようなものなのでしょうか。

長沼:リジェネレイティブ・アグリカルチャーは、最近世の中に出てきた言葉で、まだ明確な定義づけがないんです。私の理解としてはリジェネレイティブ・アグリカルチャーは、土壌を再生していくこと。つまり、活力がない土壌を再生をすることで、外部の肥料にも頼らない、その地域・その場所で循環していく農業であり、酪農であり、畜産であり、というのがリジェネレイティブの「理解」ではあります。

私がアメリカに滞在していた2018年頃は、リジェネレイティブ・アグリカルチャーという文脈が出始めた時期。唯一カリフォルニア大学では、放牧酪農の牧場で牛が排出するメタンガスや二酸化炭素を土壌の炭素吸収度が上回り、土壌の質が良くなっている、という研究結果が出始めていました。
環境負荷が非常に高いとされている酪農や畜産に、新たなやり方や可能性がある、という文献を見て、「これを日本でもやってみたい」と思ったのです。


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長沼:今ユートピアアグリカルチャーで挑戦しているのは、酪農です。北海道・日高にある32ヘクタールの牧場では、放牧を主体に土壌をより良くする方法を模索しています。土地に生えている牧草を牛が食べ、ふん尿が落とされることで、徐々に土壌が再生していくことを目指しています。
正直我々はまだ、リジェネレイティブとは言えない状態なんです。ぱっと見では、土壌が良くなっているのかどうかって、誰も分からないですよね。北海道大学の内田先生に、土壌の栄養や炭素循環などの数値を取っていただきながら、一緒に研究を進めているところです。


ー 「リジェネレイティブとはまだ言えない」というのは、土壌の再生にはある程度の時間が必要だから、ということでしょうか。

長沼:はい。「土壌の再生に時間が必要」というのもそうですし、「数値化がまだできていない」のが一番です。
リジェネレイティブの難しいポイントは、「土壌が良くなる」という部分です。過去の状態が悪いところから良くなると、リジェネレイティブ。なので、その辺含めて今我々の状態が、始めた時と比べてどうなのか、というのを数値化し始めているところです。

日本は土地がないので放牧に向いていない、と言われてきましたが、私は山地酪農にも可能性を感じています。日本の国土の7割は森林と言われていますが、なかなか活用できていない現実があります。山にはトラクターは入れませんが、牛なら入れる。人間が栄養にできない、笹や草などさまざまなものを食べて、ふん尿を落とすことで山は再生していきます。山を使った酪農の仕組みができると、日本での放牧酪農っていうのは、まだまだ伸びていく可能性があるんじゃないかな。放牧にすることで、牛乳の価値も高まりますし、市場規模も広がっていく、ポテンシャルを感じています。


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究極のチーズケーキで世の中にインパクトを。
業界のリテラシー向上を目指す

ー シリコンバレーでは、これからの食のあり方に触れた中で「未来のお菓子」へのイメージって、おぼろげながらに見えたりしたんでしょうか。

長沼:正直シリコンバレーは、お菓子という点では全く参考にならなかったんです。むしろ日本の方が進んでいるんじゃないかな。プレーヤーも多いですし。シリコンバレーでは、テクノロジーを活用してオンラインで何かを売るD2C領域での発見が大きかったです。
例えば、冷凍した日本のラーメンをD2Cで販売しているアメリカの起業家がいたりとか。彼には非常に影響を受けましたね。

ただ、何よりもシリコンバレーで感じたのは「本物を使った、とことん追求したお菓子屋をやるのが今後のミッションだな」ということ。自分で手がけた原材料で「本物」を追求した本当においしいお菓子を届けていきたい、と想いを強くしました。


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ー 最初に手がける商品をチーズケーキにしたのは、なぜでしょう。

長沼:まず最初はお菓子、かつ得意なチーズケーキから始めようと。
グラスフェッドのバターやヨーグルトという構想もありましたが、しっかりとした競争力を持つ商品を作るには相当の投資が必要です。ヨーグルトもそこまでのノウハウはない。
やはり、ノウハウもあり得意分野でもあるお菓子で勝負し、世の中にインパクトを出したいと考えました。


ー 得意分野のチーズケーキ。新たな商品開発ということで、こだわった点はありますか?

長沼:「オンラインだからこその価値やおいしさ」に徹底的にこだわりました。
お菓子って結局はクリームだ、と言われているんです。生であればあるほどおいしい。一方で、生すぎる、焼かないことによる制約も出てきます。日持ちがしなかったり、柔らかすぎて形状が保てないなど。

ただ今回はオンライン販売。であれば、最高においしい“生”の状態のチーズケーキを瞬間冷凍して、お客さまの元に届けようと。お客さまが食べたいタイミングで、解凍して食べてもらうことができます。究極の生、究極のふわふわ感、究極のトロトロ感。それを目指して開発したのが「チーズワンダー」です。


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「チーズワンダー」は、一番上がチーズムースで、下がスフレ構造。チーズムースは、常温で置いておくとダレてしまうほどの柔らかさです。ムースの下に控えるスフレは、カスタードとメレンゲを合わせたとろける生スフレ。ふわとろの“生”チーズケーキを受け止めるのは、サクサクのクッキーです。食感のアクセントとしての機能も。
自宅で解凍して食べるからこそ味わえる、とろけるような柔らかさと、サクサクのクッキーの完璧なバランスが叶う商品になりました。

今はチーズケーキにとどまらず、「SNOWS(スノー)」というブランドで、生チョコレートサンドクッキーなどを展開。卵や牛乳、ヨーグルトの製造にも着手しています。

「本物を使いながらも、環境負荷が限りなく小さいやり方を模索する」というのが我々のチャレンジであり、ミッションだと思っています。
いち牧場が与えられる環境へのインパクトは小さいかもしれませんが、環境負荷の少ない事業モデルそのものや、プロセスには大きな意義があります。そして、学んだことや検証結果を対外的に出していくことで、業界全体ひいては日本人のリテラシーを上げることに繋がります。そこが私たちの一番の使命であり、存在価値。

お菓子は、老若男女さまざまな人が興味を持つ愛される存在です。お菓子屋としてのメリットを活かしながら、しっかり発信力を持って、世の中にインパクトを与えていきたいですね。

酪農王国北海道で誕生したユートピア・アグリカルチャー。地球にも動物にも人にも優しいお菓子作りへの挑戦はスタートしたばかりです。取材で山地酪農など新たなチャレンジにも意欲を見せていた長沼氏は、お菓子を通じて社会にどのようなインパクトを与えていくのでしょうか。今後の展開が楽しみです。

▶︎ユートピアアグリカルチャー
▶︎CHEESE WONDER



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