
企業・業界動向
新たな小売店舗のあり方と生活者体験とは?FoodClipラウンジvol.3
読者の皆さまとより深くつながり、食に関するビジネスへのヒントを届ける定期イベント「FoodClipラウンジ」。2021年12月13日に開催された第3回目は「安さだけじゃない商品価値を創るには〜新たな小売店舗のあり方と生活者体験を考える〜」と題し、小売り店舗における今後の戦略について、ゲストにうかがいました。
今回のラウンジトークメンバー
株式会社カスミ 取締役執行役員
ビジネス変革本部マネージャー 兼
ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社
プログラムマネージャー
満行 光史郎 様
モデレーター
クックパッド株式会社
住 朋享
FoodClip編集長
渥美 まいこ
薄れる存在感と信頼感。
スーパーマーケットが抱える危機感とは?
「FoodClipラウンジ」では、冒頭で30分ほど編集長の渥美より、ホールフーズのトレンド予測やクックパッドの「食のトレンド大賞」など、編集部注目の記事をご紹介。また、クックパッドのユーザー動向を独自に調査・分析した定額サービス「食のデータレポート」から、より抜きのレポートをラウンジ限定で解説しました。その後、モデレーターの住氏とゲストの満行氏より「これからの小売店舗のあり方」について、お話しいただきました。
住氏(以下、住):今日はメインテーマとして「安さだけではない商品価値を創っていくためには」を掲げ、新たな小売店舗のあり方と生活体験を考えていきたいと思います。
まずは私個人の話なんですが、2019年に参加した「スマートキッチンサミット」で、U.S.M.Hの藤田社長が「スーパーマーケットに対する存在感や信頼感は、薄れてきている。生活者を中心としたあり方に、変革していかなければならない」という趣旨のことを強く仰っていて、非常に衝撃を受けたんですね。
そこで、最初のトピックとして上げたいのが「危機感」です。「なぜこうした危機感を強く感じるに至っているのか?」「危機感を感じたところから、何をどう取り組んでいくのか?」というところを満行さんにお話いただければと思います。よろしくお願いします。
満行(以下、満行):「危機感」の背景と取り組み、というところですが、まずは当社のことを交えながら、お話しさせてもらえればと思います。
当社ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(以下、U.S.M.H)は、イオン系の共同持株式会社で、マルエツ、カスミ、マックスバリュという関東の3社が参加しています。現在は首都圏を中心に520店舗を展開しており、関東では最大規模の食品小売業です。
我々の社会的な使命として、「デジタルを基盤とした構造改革を推進し、あらゆる人に食を届ける」ことを掲げ、地域社会に欠かすことのできない存在になることを目指しております。スローガンにも「デジタル」の言葉があるように、「非常にデジタルに特化した小売業である」ところが特徴かなと思っております。
「小売り店舗を取り巻く現状課題」についてお話ししますと、日本の小売は元来高コストで低収益なんですね。他業種、他業界では、ビジネスモデルやスタイルが時とともに変化してきましたが、スーパーマーケットは旧態依然的な事業。全く変わらないまま20年、50年続いています。競合との同質化や、差別化不足、商品情報の伝達不足など、お客さまが本当に求めていることと、我々が提供していることの間に大きなギャップが生じている現状があります。
満行:そうした課題への意識を危機として捉え始めたのが、2017年頃のこと。課題への施策として、当社では2020年頃からコスト改革、フォーマット改革、ワークスタイル改革という、大きな3つの改革を掲げて、現在は合計10のプロジェクトを組成。230名ほどのメンバーが、プロジェクトに参画しています。
住:すごく大きな取り組みですね。
満行:先ほど申し上げた危機感の背景に対して、取り組んでいる10のプロジェクトの進捗を週に2〜3回、全経営陣とプロジェクトメンバーで確認・共有して進めているというのが、今の当社の特徴かなと思います。
コロナ収束の兆しが見える今、
2022年をどう見るのか?
住:危機感の背景と取り組みについてお伺いしたところで、二つ目のトピックスである「コロナ収束の兆しが見れる今、2022年をどう見るのか?」というテーマに、うつりたいと思います。
コロナによって大きく変わったこととして、料理の頻度が増えた人が多いことです。クックパッドの「料理と暮らし白書」でも、特に時短や在宅ワークなど、勤務形態が変わったことで料理する人が増えているのは確かで、この後も増えるのかな、と僕らは見ています。
あとは、価値観の変化。今までは時間・効率優先だったのが、時間の使い方や値段よりもクオリティを気にしようとか、さまざまな価値観やライフスタイルの変化が見られるんですね。
満行さんや流通の方からみて、コロナ中に変わったこととか、コロナ後もこれは変わるんじゃないかということは、どのように考えていらっしゃいますか。
満行:コロナ以前の食生活に戻ることは、ないとみています。これはコロナをきっかけにして、生活者の食のあり方が見直されたと思っているんですね。
日々の食生活の中で、「お家での食事をどう楽しむか」が大きく変わった。これはコロナが終息したとしても、生活者の考え方、行動様式の変革は元に戻るのではなく、進化するだろうと考えています。
住:なるほど。ちなみにスーパーマーケットはユーザー、顧客の方が一番敏感に接する現場だと思います。売れているものとかユーザーが求めているものは、肌感として変わっているものはあるんですか。
満行:おそらくスーパーマーケットにおいては、コンビニエンスストアほどの大きな変化はないと思うんですよ。コンビニエンスストアは、どちらかというとエッジのたった商品が求められている部分があって、それを提供することに価値があると思います。その分、商品の移り変わりも多いと思うんですね。
そういう意味でいくと、スーパーマーケットは商品カテゴリの変動はコンビニほどじゃない。ですが、価値や信頼感という根底の部分のゆらぎを感じています。これまでは、そこそこの値段と品質、信頼感があれば、なんとかスーパーマーケットって生き残ってたんです。それがもう、今は通じなくなってきている。数字からも明らかですし、おそらく我々が今までできていなかった部分。一方でお客さまに価値や信頼感を伝えられているスーパーマーケットは、やはりちゃんと選ばれていると感じています。
DXで流通のあり方と生活者体験は
どう変容するのか
住:「安いだけではない価値」をどうやって、スーパーマーケットの中でお客さまに体験して、選んでもらうのか。恐らくDXという手段で応えられるのかな、とも思うんですけれども。DXによって、お客さまにどのような買い物体験であったり、価値を届けるということを考えてらっしゃるんでしょうか。
満行:U.S.M.HのDX基本戦略の中に「デジタルで変わる店内の顧客体験」というものがあります。住さんのご指摘通り、スーパーマーケットとして我々が今後目指さなければいけないのが、「もう、商品を買うだけのところじゃない」ということです。買い物体験そのものをとおして、楽しんでいただく場所であるべきだ、というふうに考えています。
満行:例えば、店内を歩いているお客さまがスマホを片手に、お探しの商品の特典情報をリアルタイムで見たり。商品はQRでそのまま注文ができて、自宅に直送できる仕組みがあったり。購入した商品の情報はデータが溜まって、栄養価についてAIがレコメンドで教えてくれたり。店内のサイネージでは、イベント情報やクッキングスタジオのライブ配信、農場の様子がリアルタイムで流れてきたり。
満行:そういった臨場感とインタラクティブなコミュニケーション、対話の場を創出し、購入したものはチェックゲートを通って、そのまま帰ることができる場所。
また一連の行動はデータとして蓄積をされて、経営指標となり、お客さまにパーソナライズの提案ができる、というようなことは、まず店内で一つあるべきかなと。
もう一つ、例えば「外」においても、「物流をどうやってラストワンマイルの手段と紐づけられるか」が大事かなと構想しています。
住:とにかくスーパーマーケットに来ると新しいものと出会える。「ワクワクするからおいでよ」ということを考えてらっしゃるんだなと、聞いてて感じました。
満行:そうですね。例えば、私コーヒーが大好きなのでスターバックスもよく行くんですけれど、スターバックスのコンセプトって「第三の家」なんですよね。
コーヒーを飲むためだけに、スターバックスに行くわけじゃなくて。仕事や打ち合わせ、友達とのおしゃべりの場にもなって、そこが心地いい。それをスーパーマーケットに求めているわけじゃないですが「商品を買うだけの場所」というのは、寂しいじゃないですか。
来てくれた人がハッピーになるような空間にしたいなと思いますし、皆さんに愛していただけるカスミになりたいですね。「スーパーに行く」じゃなくて「カスミに行く」って思って欲しいんですよ。
協業で目指す、新業態でのブレイクスルー
住:では次のトピックス「スタートアップとの協業」にいきたいんですけれども。
僕はフードテックのスタートアップについて調べているんですが、USMHでは、ウミトロンとプランテックスと協業されていますよね。スタートアップとの協業は、どのような背景なんですか。
満行:2019年からUSMH全体で「新業態プロジェクト」に取り組んでいます。プロジェクトを進める中で、社「内」のリソースだけでは、お客さまが求めている価値が提供できない、という限界があったんです。プロジェクトが始動した2019年から、複数のスタートアップ企業と、積極的にビジネスについての話をしまして。
2020年頃からプランテックスやウミトロンをはじめ、いくつかのスタートアップ企業と、実際にビジネスを開始できるようになり、新しい取り組みを構想中です。
住:僕のイメージですけど、流通さんって安心安全への優先度が高いので、スタートアップは信用できないんじゃないか、と思われるケースも多いんですけれども。それでもあえてスタートアップをやりたい、というのは、どういうモチベーションというかマインドなんでしょうか。
満行:スタートアップだけを好んで選んでいるわけじゃないんですけれども。笑
ただおっしゃる通り、2019年以前は、我々のビジネスのカウンターパートっていうのも、いわゆる大手食品メーカーや大手の食品卸企業だけでした。彼らは今でもコア事業にとって、大事なビジネスパートナーである、ということに変わりはないんですよ。
一方で、ブレイクスルーしようと思うと、どうしても新しいやり方、新しいチャネルなど、今までのビジネスの枠にないところからの情報とか知見、発想を持ってこなければなりません。そうなると必然的にスタートアップの方々、というか。おおよそお会いする方皆さん、明確な社会的課題を感じていて、解決しようとする強い意志を持っていらっしゃる。さらに、発想も豊かであると。
もちろん大手のメーカーの方々であっても、そういうマインドを持ってらっしゃる方もいるので、将来のビジネスについて色々積極的にお話しさせていただいています。
住:スタートアップはメッセージ性が強くて、一緒にチャレンジするんだ、という方が多い印象ですよね。今日参加されてる方は、食品メーカーや卸、小売の方が多いと思いますが、意欲のある方がもし参加者の中にいたら、満行さんは「一緒に何かやりたい」って感じなんですかね。
満行:そうですね。社長の藤田からも「イノベーションをもっと創発させるような、新しい取り組みをやろう」と言われてまして。我々がやろうとしている課題に対して、ソリューションを持たれている方や興味を持っている企業さんとコラボできるような場、創発の場を作っていこうよと。そういったことは非常に大事な、これから優先順位を高くやらなきゃいけないことだと思っています。
メーカーさんであっても新規事業ですとか、「今までの枠ではやっていけない」「明確な課題を解決したい」と思ってらっしゃるチームだとか、そういう方がいれば。それはぜひ、一緒に楽しいことやりましょう、とお伝えしたいですね。
住:それは凄く力強いメッセージですね。
僕は食品メーカーさんの新規事業をサポートしているんですけれども、食品メーカーさんでいうと、新規事業への意欲を持った方が多くて。そういう時に、U.S.M.Hさんのような出口になってくれる存在は、めちゃくちゃ心強いですね。
食業界をゆるやかに繋いでいく
最後に満行氏から、力強いメッセージをいただいた今回のFoodClipラウンジ。トークセッションの後、参加者から寄せられた質問に満行氏が熱心に回答する場面も印象的でした。
FoodClipでは、今後も定期的にラウンジを開催し、読者のみなさまへ食ビジネスの知見をお届けしつつ、ゆるやかな繋がりを作っていきたいと思っております。
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writing support:Sayaka Takahashi
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著者情報

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