世界最大のテック展示会CESレポート。世界企業が狙う「お家アップデート」覇権

世界最大のテック展示会CESレポート。世界企業が狙う「お家アップデート」覇権

「CES(Consumer Electronics Show)」は毎年1月はじめに米国ラスベガスで開催される世界最大のテクノロジー見本市です。53年という長い歴史を持つCESは、大手企業からスタートアップまで、世界中の最新イノベーションが集結し、今後のトレンドを占う一大イベントとなっています。2022年は「フードテック」が正式カテゴリーとして採択され、世界が注目する一大カテゴリに。FoodClipでは、フードテックに造詣の深い住さんによるイベントレポートをお届けします。今回は各社の基調講演や大企業の展示から見る、近未来のライフスタイルトレンドについてです。

コロナ禍がもたらした
「21世紀型ライフスタイル」

コロナ禍において、人々はより快適な生活を求め、テクノロジーやサービスへ投資するようになり、新しいテクノロジーへの需要は歴史的な高水準となっています。

パンデミックは、さまざまな業界に影響を及ぼしました。これまで出費していた旅行や外食が減った分、自由になるお金を手にする人が多数現れるようになったのです。そうした「自由になったお金」は、21世紀型ライフスタイルの象徴とも言える、スマート家電やコネクテッドフィットネス機器など、「おうち時間のアップデート」へと向かっています。

ユーザーは一度レベルアップを図ると、より多くのテクノロジー製品や連携機器を欲しがる傾向に。テクノロジー需要はかつてないほど高い水準となっており、スマート家電関連の普及は今後も確実に加速していくでしょう。


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もう一つの21世紀型ライフスタイルを象徴するものは、サービスの進化です。
パンデミックの中から出現した重要なキーワードは、「コネクテッド」と「プレミアムな体験」。

例えばスマートトレーニング機器は、これまでトレーニングした時間などをアクティビティとして記録し、データを見られるだけでした。

コロナ禍で急成長したエアロバイクのPelotonや、筋トレマシンのHydrowは、現実のジムをはるかに超えるプレミアムな21世紀型の体験を提供しています。自宅からクラス全員と繋がり、雄大な自然の中をお互いに励まし合いながらボートを漕いだり、トレーニングができるのです。こうしたサービスは幅広いユーザーに受け入れられています。


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そしてもう一つ重要なポイントが、サービスの急速な普及です。
多くの人は、パンデミックの時期にさまざまな方法で、今までの行動を調整する必要に迫られました。上のスライドにあるように、映画や運動、買い物といった、今まで当たり前にしていた行動を別の形に変えなければならなかったのです。

ユーザーは「新たなサービスを利用する」(Added new)ようになり、パンデミック前の生活より「便利で良い体験」だと感じている人が非常に多く、今後も継続して利用すると答えています。

これらのことが示しているのは、コロナ禍のパンデミックによって急速にもたらされたデジタル化やサービスへのシフトは、人々を今までより便利な「21世紀型のライフスタイル」へと推し進めており、不可逆な進化だということです。


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世界シェア2位のTVメーカー・LGは、今年“TVのイノベーション”といっても良い画期的な発表をしました。今までコンテンツを見るために存在していたテレビを、外の世界と繋がるための窓へと変え「21世紀型のライフスタイル」を体現するプロダクトです。

離れた知り合いや友人と一緒にコンサートを楽しむ「Live Now」や、100万種のダンスをさまざまな人と学び楽しめる「1M Home Dance」。先ほど例に挙げたPelotonと連携した「コネクテッドフィットネス」や、家にいながら医師の診断が受けられる「Indipenda」など、数々のサービスを立ち上げています。TVがあるリビングという空間を「外と繋がる空間」へアップデートする試みです。


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さらにその先にあるのが、最近ニュース等でも見かけるようになった仮想空間での体験「メタバース」です。CESでも関連の展示が非常に多く、ホットトピックスとなっていました。

GAFAのうちの1社、Facebookは昨年10月にMetaに社名を変更。メタバースに特化していく姿勢を見せています。CESでもパナソニックの子会社ShiftallがVRゴーグルを展示。Samsungや他企業などでもメタバース関連の内容が多く、現地では数メートルごとに見かけるほどの盛況ぶり。

メタバース化が進むことで変わるのが、ショッピングの「体験化」です。近年、小売・流通などでも、モノからコトへ移行する「体験化」が重要視されています。その行き着く先がメタバース内でのショッピング体験です。仮想空間で製品を試し、実際に購入できるといった展示も複数ありました。

コネクテッドとアップデートがキーワード。
未来のキッチン像は?

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後編で詳しく触れる予定ですが、今年のCESはとにかく「サステナブル」が重要なテーマでした。各社の基調講演では、かならず強調して触れるという徹底ぶり。

キッチン家電は昨年から引き続き進化しており、Samsungなどは冷蔵庫の中身とレシピ、生鮮ECを繋ぐ体験をより拡大しています。

また「アップデートと家電ライフサイクルの長期化」も、今年のCESで特に目に留まったポイントです。これまで家電は購入以降、ただ家事をこなし、故障するかあまりに旧型化した場合、買い換えるという存在でした。これが「コネクテッド」になったことにより、ユーザーの利用実態やニーズによって新しい機能の配信や、性能自体のアップデートが可能に。「よりサステナブルで、ユーザーとともに進化する」というコンセプトが打ち出されつつあります。

テクノロジーが急激に進化する過渡期の今だからこそ、ユーザーには進化するのを待ってもらうのではなく、「進化し続けるので、いつ買っても大丈夫ですよ」というメッセージが込められているのでしょう。


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さらに注目のビッグニュースは、サムスン電子が主導する「Home Connectivity Alliance(HCA)」の設立。さまざまなメーカー、ブランドのスマート家電を、相互接続するためのアライアンスとなっています。

今までは、各大手メーカーは独自のプラットフォームとサービスを構築してきました。しかし、同じメーカー、ブランドで全ての家電を揃える人は社員でもなかなかおらず、普及の障壁となっていました。今回設立されたHCAは、サムスン、ハイアール、GE、エレクトロラックスといった、世界シェア10位以内の企業が名を連ねており、合計シェア約30%という世界最大のプラットフォームとなります。サービスを開発するサードパーティやユーザーにとっても、非常に利便性が高く、より一層のスマート家電の発展が期待されます。

「夢みたいな世界」から確実に訪れる進化へ
過熱する主導権争い

2020年2月頃からはじまったパンデミック。およそ2年が経ちましたが、デルタ株やオミクロン株が流行し、未だ終わりが見えない状況となっています。
今回ご紹介したようなコンセプトは以前から存在しましたが、「こんな夢みたいな世界もあるかもしれないけど、今のままで良いね」といった感覚の人が多く、どちらかというと懐疑的に見られてきました。

しかし、以前は当たり前だった「今のまま」自体が失われたことで、急速に人々のニーズは変化しています。新しい生活のあり方や価値観が普及しつつあり、もはや懐疑的ではなく「確実に訪れる進化」に向かった主導権争いへと市場が過熱していることを実感しました。

次回のCESレポート後編は、いよいよ「フードテック領域に関するトレンド」をお送りいたします。どうぞお楽しみに!



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著者情報

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住 朋享
2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。