
企業・業界動向
究極の萌え断「ショートケーキ缶」ブームの裏側を読み解く
SNSなどで話題の「マーケティングトレース」をご存知ですか? 基本のフレームワークを使いながら成功事例を分析し、マーケティング思考を鍛える方法です。今回は、考案者の黒澤友貴さんに一躍話題となったスイーツ「ショートケーキ缶」をトレースしていただきました。
※前回記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/12155/
はじめに「マーケティングトレース」とは?
「マーケティングトレース」とは、企業のマーケティング戦略をフレームワークに落とし込んで分析し、言語化や図解をしながら思考力を鍛えるトレーニング手法です。自分自身がCMO(最高マーケティング責任者)になった想定で、戦略の仮説作りまでをおこないます。マーケティングトレースによってマーケティング脳が鍛えられると、顧客ニーズがわかるようになったり、時代の流れが読めたり、打ち手を考える力が身につきます。
以下が、黒澤さんによる調理家電「ショートケーキ缶」のトレース内容です。
「究極の萌え断」が東京にも上陸ショートケーキ缶とは
みなさん、ショートケーキ缶をご存知でしょうか?
札幌市などで飲食店を複数展開するGAKUが、「パティスリーのケーキを24時間買えるようにしたい」という想いのもと、開発したショートケーキです。
透明なプラスチックのボトル缶に、生クリーム、スポンジ、イチゴを詰め、「究極の萌え断」と表現されたビジュアルと「自販機」で購入するスタイルが話題になりました。現在は北海道2店舗のほか、東京都のソラマチや大阪の心斎橋などにも自動販売機が設置され、着実に販売の場を広げています。
今回は、マーケティングトレースを通じて、ショートケーキ缶のブームの裏側にある仕掛け方を読み解きます。
マーケティングトレーステーマ
ホットクックのマーケティングトレース全体像
今回のテーマは「ショートケーキ缶ブームの背景」です。最初に、ショートケーキ缶のブームに関する外部環境を分析。ポイントを要約してお伝えします。
外部環境分析(PEST分析)
ーショートケーキ缶ブームの背景ー
外部環境分析(PEST分析)
ブームの背景には3つの外部要因が考えられます。
外部要因①自販機を活用したマーケティングに注目が集まる
2021年は「変わり種自販機」のキーワードが注目を集めました。例えば、青山フラワーマーケットがワンコインで生花を購入できる自販機をつくり、注目を集めました。
コロナにより、売り場の体験が見直される中で、ショートケーキ缶も自販機でケーキを販売する"今までにない"方式をとったことは、注目を集める大きな要因だったと考えられます。
外部要因②札幌から全国へ
はじめに札幌と渋谷で販売され、東京、大阪と販売の幅を広げ、ショートケーキ缶のブームが全国へ広がったことは注目したいポイントです。コロナ禍における巣ごもり需要によりEC市場が拡大。おうち時間を優雅に過ごすために、地方の名品・良品を購入する人が増えました。
ショートケーキ缶も、札幌の魅力的な商品がメディアで認知され、全国の人々の心を動かすことにつながったと考えられます。
外部要因③SNSがブームの着火点に
Instagram、TikTokを中心に、印象に残るビジュアルが消費を誘因する流れは強くなってきています。ショートケーキ缶は、ケーキを缶で販売する新しさと、美しい断面をビジュアルで訴求した圧倒的な掛け合わせが、ブームの要因ともいえます。
競合環境の分析
競合環境の分析
続いて、ショートケーキ缶を取り巻く競合環境を整理。マーケティングトレースでは、業界競合と価値競合の2つに分けて、関係するプレイヤーをまとめていきます。
-競合グループ①【業界競合】スイーツ店
街のケーキ屋、ECでケーキやお菓子を販売する業者
-競合グループ②【業界競合】コンビニスイーツ
-競合グループ③【価値競合】ご褒美消費
スターバックスコーヒーのフラペチーノ、取り寄せスイーツ
-競合グループ④【価値競合】プレゼント価値
百貨店のデパ地下
-競合グループ⑤【価値競合】トレンド消費価値
メディアで取り上げられるトレンド商品群
コンビニスイーツは手軽に購入できるスイーツであり、最近は高価格帯(1,000円近い)のスイーツも出しています。また、スイーツのご褒美消費の典型である「パフェ」も、競合カテゴリーとして捉えることができそうです。
ターゲティング
続いて、「誰に対して、どのような認知を獲得して売れたのか」を読み解きます。Twitter、Instagramにて簡易的なソーシャルリスニングをおこなった結果から、ターゲットの特徴を推察し、まとめました。
ターゲット特徴
・20〜30代女性(ミレニアル世代 )
・自分へのご褒美消費を大切にする
・トレンドに敏感で自身の発信頻度も高い
・類似商品では、スターバックスのフラペチーノやマリトッツォのような「トレンド×ビジュアル」訴求商品を消費する傾向にある
・自分へのご褒美消費の許容価格は1,000円を超える
ポジショニングマップ
ポジショニングマップで、ショートケーキ缶がターゲット顧客から選ばれる理由を整理。近年の食トレンドに非常に重要とされる、下記の2つの選ばれる理由があったと考えます。
1. ビジュアル訴求力
2. 非日常・特別感
フラペチーノなどの映えドリンクよりも目新しく、非日常感・特別感(限定感)を得られる体験が選ばれている最大の理由だと考えられます。
マーケティングミックス4P
マーケティングミックスの全体像を整理し、価値の届け方の全体像をまとめます。
【売物Product】
商品特徴:一つ一つパティシエが詰めて作られる
商品ラインナップ:ショートケーキ缶、ふわ缶、ティラミス缶
デザイン特徴:「究極の萌え断」と表現されるパッケージへのこだわり(意匠登録中)
【売値Price】
ショートケーキ缶とふわ缶、3缶セット:¥2,780 税込
ふわ缶3缶セット:¥2,700 税込
店舗で1缶を購入すると1100円となっており、既存のショートケーキを中心としたスイーツの2倍近い価格帯です。
【売場Place】
自販機、ECサイト(BASE)、店舗
【売方Promotion】
PR:メディア露出(ヒルナンデス)
SNS:Instagram、TwitterのUGC
ショートケーキ缶の成功要因
上記のマーケティングトレースから、ホットクックの成功要因をまとめていきます。
【成功要因の要約】
・一度は買ってみたいと思わせるビジュアル力と、販売方法含めた非日常的な体験づくり
・認知の拡大に合わせて、東京、大阪への店舗出店
今までにない商品カテゴリ×今までにない売り方×ビジュアルインパクトの掛け合わせが、特別な体験創出につながったと考えられます。
今後の戦略自分がCMOだったら?
最後に今後のマーケティング戦略として考えられる方向性、アイデアをまとめていきます。
【仮説】
商標とデザインの意匠などの権利を押さえた上でのコラボ展開
今後、ショートケーキ缶を模倣するブランドが増えることは予測できるため、意匠権や商標の登録をおこない、ブランドの価値を保つことが大切だと考えられます。生活者に対しても、GAKUのショートケーキ缶が元祖であることを認知してもらうために、メディア露出をする際は「Gakuのショートケーキ缶」との訴求に一貫性を持たせると良さそうです。
特定のカテゴリー第一想起を獲得する戦略は、高級生食パンの「乃が美」が参考になります。乃が美は、高級「生」食パンのカテゴリー名で商標を獲得しています。
また、GAKUは夜パフェも手掛けているブランドであるため、夜パフェとショートケーキ缶をセットで体験できるプランをつくることで、体験価値を一層高めることができるのではないでしょうか。
一過性のブームで終わらせずに、どのようにショートケーキ缶を日本のお菓子業界に根付かせるか。今後の動向に注目です。
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著者情報

- 黒澤友貴
- 1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに6,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
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