たんぱく質を、もっと自由に。日本ハム新時代への挑戦

たんぱく質を、もっと自由に。日本ハム新時代への挑戦

FoodClipでは新春特集として、食品業界を担うキーマンの思考を連載形式でたどります。SDGsなどの観点から植物性たんぱく質への関心が高まる中、食肉業界は岐路にたちはじめています。2030年に新規事業領域で売上100億円を目指す業界最大手の日本ハム株式会社。今後の企業の価値や可能性をどのように見極めているのでしょうか。今回は日本ハム株式会社 代表取締役副社長執行役員 井川伸久氏にお話をうかがいました。

お話をうかがった方

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日本ハム株式会社 代表取締役副社長執行役員
加工事業本部長、新規事業推進担当
井川 伸久 氏

植物性志向への高まりで迎えた
大きなターニングポイント

ー近年、植物性たんぱく質への注目が高まり、動物性たんぱく質への逆風が感じられます。業界トップの企業として、こうした風をどのように捉え、今後のポジションを築いていこうと考えていらっしゃいますか。

井川氏(以下、井川):当社は戦後の貧しい時代に創業者が「良質なたんぱく質を提供し、日本人の体をもっと丈夫にしていきたい」との願いからスタートしました。食肉からはじまり、日持ちのするハムやソーセージ、冷凍食品など商品の幅を拡げながら現在に至りますが、ベースにある想いは今も変わりません。

SDGsなどの観点から植物性たんぱく質への関心が高まる中で、社内でも我々の存在意義について議論を重ねてきました。当社は国内で最もたんぱく質を供給している会社。それを我々の使命と捉え、「次世代のたんぱく質」とは何かを考えた時、自発的に植物性商品へのアイデアが出てきました。ナチュミートなど植物性商品の開発や、インテグリカルチャー株式会社との培養肉の共同研究などを行っています。

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ー 次世代たんぱく質へのアクションは、社内から自発的に生まれたのですね。動物性たんぱく質が主軸のメーカーとして、植物性たんぱく質とはどのような温度感で向き合っているのでしょう。

井川:当初は、メインである食肉販売を邪魔する存在という、ネガティブなイメージでした。翻って現在は、植物性たんぱく質の商品を積極的に扱っていこうという、ポジティブな反応に変わっています。やはりここ数年、お客さまのニーズが増えたことが変化の大きな要因です。当社はスーパーに直接商品を卸しており、反応がダイレクトに届きます。2020年頃から世の中の大きな変化を感じています。


ー 食肉を中心に取り扱うメーカーとしては、大きなターニングポイントですね。

井川:ええ。急激な変化を実感しています。近年はたんぱく質への注目が高まり、プロテインやサラダチキンなどのニーズが増加。当社は食肉も取り扱っていますから、低カロリー高タンパクな鶏胸肉への需要も増えています。

一方で、SDGsなどの観点から植物性志向の方も増えています。海外ではヴィーガンの方や、体質や病気などでたんぱく質を摂取できない方など、一定のマーケットが存在します。一方、日本のマーケットはそこまでの大きな規模ではありません。そうした現状を鑑みた際、商品開発のポイントとなるのはやはり「おいしさ」です。

当社で開発したナチュミートは、お肉のような味と食感を再現するため、一部動物性の原料を使用しています。純粋なヴィーガンに向けてというよりも、動物性たんぱく質も摂りながら、「週に1日2日、植物性のおいしいもので体を整えよう」という方への代替食としての提案です。当社が企業理念に掲げる「食べる喜び」に沿って、お客さまが気軽においしく取り入れられる商品を目指して開発しました。

「たんぱく質を、もっと自由に」
新たなメッセージのもとに目指す
企業価値向上

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ー日本ハムでは、2030年におけるありたい姿として「たんぱく質を、もっと自由に。」というビジョンを2021年の3月に発表されていますが、このメッセージはどのような背景から生まれたのでしょうか。

井川:このメッセージについては、1年近く社内で議論しました。
これまで当社の商品開発は、既存の想定ユーザーに照準を合わせたものでした。時代が変化する中で、たんぱく質が注目の物質となり、プロテインバーなど細分化された分野でのプチヒットが増えています。もはやメガヒットではなく、プチヒットを目指す時代。多様な食シーンやお客さま像を描いていく必要が生じたのです。

こうした背景からライフスタイル研究室を創設し、当社の創業ルーツや想いにまで遡りながら、今後のあるべき姿を見つめ直しました。そうした中で、気づいたのがコーポレートコミュニケーションの不足です。例えば、シャウエッセンを日本ハムの商品だと認識できているお客さまは少ない。もっと商品やブランドと企業を繋げ、「たんぱく質を、もっと自由に」というメッセージのもとに企業価値の向上を目指しています。


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井川:このメッセージが生まれたことで、社内の発想も広がりを見せています。
例えば、20年前から取り組んでいる食物アレルギー対応商品の専門工場や、日本で一番古いハムの会社である鎌倉ハムや北海道の函館カール・レイモンなど、個性的なグループ会社をどうブランディングしていくか。

これまでは、売上金額や数量を追求していくためにコモディティ商品を創ることが事業の中心でしたが、今後は今あるひとつひとつの素材に磨きをかけながら、お客さまのニーズに合わせた商品を作っていくことが重要です。コモディティ以外のものについても注目度を上げ、それぞれの商品に合うお客さまに繋げていこうと取り組みをすすめています。

1万人がいたら1万通りの
「たんぱく質の自由」を。
可能性を生み出し拡げる新規事業のあり方

ー新規事業にも注力されているそうですね。

井川:2021年に新規事業推進部を設立し、食物アレルギー対応食品や高齢者食を開発する「ウェルネス事業」、代替肉等を扱う「エシカル事業」、お肉の新たな可能性を提案する「エンタメ事業」を3本柱と位置付け、ECサイトで商品を直販するD2Cなどの事業モデルの構築と、収益源としての成長を目指しています。

ー新規事業の3本柱に加え、「社員募集型」の新規事業創出活動「N-VIP」にも取り組まれているとのこと。「N-VIP」はどのような背景から生まれ、事業に貢献しているのでしょうか。


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井川:当社はグループ全体で約3万人いる大組織。上司から言われたことが正しいと捉え、安定的な仕事をする社員が望ましいという価値観になりがちです。今までの商品開発ではそれが強みとなっていましたが、人々の価値観が多様化していくこれからは、それだけでは戦えなくなってきます。

これから力を発揮して欲しいのは、さまざまなアイデアや想いをもった変革志向の社員。ですが、これまでは組織が大きくなればなるほど、新しいアイデアや想いがなかなか上層部まで届かない組織形態がありました。

そこで、社歴に関わらず役員に直接プレゼンテーションし、ナンバー1になったら、事業化に向けてチャレンジ出来る仕組みを作りました。それがN-VIPです。取り組みをスタートすると、開発部門だけでなく、営業からも「アイデアを出したい」との声があがってきました。こうした「ニッポンハムグループのために」という、社員の熱量に火をつけて、道を作るのが役員の役目です。

私が直轄している新規事業部隊は、こうした熱意あるメンバーの参加もあり、これまでの当社のカラーとは若干異なる顔ぶれが揃っています。さらに、新規事業を独立したチームではなく、実際のビジネスに近い加工事業本部の中に据えて新しい風を吹かせ、3万人いる全グループ社員にも「チャレンジしなきゃ」という空気を醸成していく作戦です。3〜4年かけて、社員の6割をチャレンジ精神のある変革型に変えていき、何事も「自分ごと」として仕事に臨めるような企業風土に変えていきたいと考えています。

もちろん、私たちだけではお客さまに新しい価値を届けることはできません。流通に関わる方々とも協力して、「たんぱく質を、もっと自由に。」する未来を創出していきたいと思います。

「食べる喜び」を世界に届ける。
トップランナーの使命

ーさまざまなチャレンジをされている日本ハムですが、2022年に成し遂げたいことは。

井川:新規事業の背景には、少子高齢化や健康志向の高まり、SDGsに向けた消費動向の変化や販路の多様化などさまざまな要因があります。そうした時代背景に対応していくためには新規事業だけでなく、既存商品の見直しも必須です。

2022年2月1日には、SDGsの観点から「シャウエッセン」の包材を変更。長年親しまれてきた“巾着型”の包装をコンパクトにすることで、プラスチック使用量が従来品※と比べて28%の削減となります。これは我々にとって大きなチャレンジであり、ナンバーワン企業として、率先して取り組むべき課題だと考えました。

※シャウエッセン2B(2袋バンドル)

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また、さまざまなアイデアを持つ、他業界の方々との交流も増やしたいですね。例えば、当社が1996年から取り組んでいる、食物アレルギー対応食品や食品中のアレルゲンの検査技術は、「食物アレルギーを持つ方々やそのご家族に、安心しておいしい食事を楽しんでいただきたい」との考えが根底にあります。同じ想いを持つ医療関係の方などと一緒に、「商品を育てていく」という視点で、今後も取り組んでいきたいテーマです。

1万人いたら1万通りのたんぱく質のあり方があります。新規事業と既存事業の両輪で、人々が生きる力となるたんぱく質の可能性を拡げ、「食べる喜び」を世界に届けることが我々トップランナーの仕事です。

▶︎https://www.nipponham.co.jp/



writing support:Sayaka Takahashi



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