
企業・業界動向
CESレポート第二弾。フードテックが巻き起こす「食の産業革命」
毎年1月はじめに米国ラスベガスで開催される、世界最大のテクノロジー見本市「CES(Consumer Electronics Show)」。2022年は「フードテック」が正式に採択され、世界が注目する一大カテゴリとなりました。FoodClipでは、フードテックに造詣の深い住さんによる、イベントレポートをお届けします。今回は各社の基調講演や大企業の展示から見る、次の世界を養うフードシステムについてです。前回はコチラ
もはやCSRには留まらない「サステナビリティ」の波
CES 2022のメイントピックスは、「サステナビリティ」と言っても過言ではない印象でした。
各社の基調講演では、必ずサステナビリティ(持続可能性)について語るところからスタート。製品のライフサイクルや梱包のありかた、製品がもっている機能に至るまで、「サステナビリティのために既存のルールを変える」という発表がかなりの割合を占めていました。
今までこうしたサステナビリティは、排出量削減や緑化活動貢献など、いわゆるCSR(企業の社会的責任)としての社会貢献的な活動が多く、生活者からは見えにくい存在でした。一方、今回のCESでは、社会貢献活動に留まらず「企業戦略や製品の体験として組み込んでいく」という大きな変化が起きてきています。
フードテックの花形「プラントベース」
フードテック領域で、今もっとも象徴的な存在となっているのは「プラントベースフード(代替肉など)」です。
日本国内でも「ミートショック」として報道されているとおり、人口増加などの影響により、世界中のたんぱく質生産が不足気味に。価格がどんどん高騰し、畜産や漁業の環境負荷の高さから、「人類が次のたんぱく質をどのように生産し続けられるようにするのか?」という課題が、大きな関心事となっています。
今回のCESでは、フードテックが公式カテゴリに採択されたこともあり、プラントベース企業の展示も増えていました。シイタケの菌糸を用いて、エンドウ豆と米のタンパク質を発酵させたソリューションを提供するMycoTechnologyをはじめ、イエローストーン国立公園に生息する真菌から作られた、たんぱく質ブランドNature'sFynd。植物性ミルクから代替チーズを開発するYangyooなどが出展していました。
また、Impossible Foodsと並ぶ、プラントベースのトップランナーであるBeyond Meatは、期間限定で代替チキンを使用した商品をケンタッキーフライドチキンで販売するとのこと。
日本国内で代替肉といえば「大豆ミート」が代表的ですが、欧米では大豆はアレルギー源という視点や、遺伝子組み換え割合が高いため、原料としての使用を避ける傾向にあります。大々的に「大豆不使用」を謳う企業も増えており、製品開発以上に「原料開発」のスタートアップが近年かなり増えてきています。
垂直農法に続くキーワードは「アーバンファーミング」
これまで、CESでは「野菜栽培ソリューション」といえば、都市近郊の建物内に棚を積み重ね、水耕栽培を行う「垂直農法(ヴァーティカルファーミング)」が主流でした。翻って、今年のCESで印象的だったのが、「アーバンファーミング」に関する展示の増加です。家庭内や都市内で行う、民主化した農業のアプローチです。
日本国内には、レンタル畑のように、個人が趣味的に畑を借りて野菜を育てる、というサービスが存在します。それを家の中に移し、テクノロジーの力で育てる家庭菜園(ホームファーミング)に関するプロダクトを提供する企業が、AltifarmやUrban Cuisineなどです。パンデミックを背景にした「家の中を充実させる体験」として、例年と比べ、多くの展示がありました。さらに、それを都市の仕組みまで発展させようとしているのがAgroveです。
家庭菜園との大きな違いは、家庭菜園は「個人が自分のために、小さな場所で育てる」菜園であるのに対し、都市農園は、「コミュニティがみんなのために」ビルの屋上や都市内の緑地など、「広いスペースで育てる」菜園という点です。
この都市農園はセンサーが組み込まれており、水やりや生育の支援をコミュニティの参加者が利用可能なアプリ内で提供してくれます。そのため、みんなで一つの農場を運営するコミュニティとしても、食料生産の仕組みとしても、都市を持続可能なものにアップデートしてくれるのです。
危機的な労働力不足とロボティクス
VRを活用し遠隔操作可能な汎用ヒューマノイドロボットBeomni™。
30キロまでの物をもちあげることができる。参照:https://www.beomni.ai/
パンデミックが引き起こした「先進国を中心とした人手不足」は、現在進行形の問題となっています。背景には移民の停止や、新興国人材の帰国、高齢者の引退など、さまざまな要因があります。特に米国での状況は深刻で、スーパーの惣菜調理スタッフが年収1100万円でも、常時求人が埋まらないという事態に。
今年のCESでは、こうした人手不足へのソリューションに関する展示も多くみられました。特に外食産業での展示が多く、VRを利用し遠隔で操作可能なロボット「Beomni」や、世界有数のシェフのレシピをAI駆動の調理ロボットが再現する「Beyond Honeycomb」。完全自律型のデリバリーロボット「Ottonomy」、ロボットアームがコーヒーを淹れるコーヒーショップ「YummyFuture」や、顧客と会話しパーソナライズしたバー体験を提供する「Celicia.ai」など、多様なロボットが登場しました。
こうしたロボットは、農業分野でも活用されています。John Deereは農場内で全自動で働くトラクターや、雑草のみを識別して除草剤を吹きかけるロボットなどを発表。Grovは、畜産用の飼葉を自動生産するソリューションを発表するなど、さまざまな展示が見られました。ロボティクスは今回の危機的な労働者不足を背景に、急激に市場に浸透していくことでしょう。
食の産業革命が起きゆく節目の2022年
SDGsやロボティクスなどは、コロナ前からCESでも展示されていました。数年前は、「意識の高い一部の人のもので、現実はそうはいかない」「ロボットは夢はあるけど、テック好きな人だけで現場には必要ない」といった反応が多数でした。しかし、今回のパンデミックをきっかけに「明確に解決しなければならない課題」として、目に見えるさまざまな影響が表出し、人々の意識も変化しました。
AI/IoTによる新時代の産業革命(Industry4.0)という表現をよく耳にしますが、コロナ禍で明るみに出た課題を解決するために、新技術が本格的に導入されゆく時期にさしかかっていると実感します。数年後振り返った時には、今までの常識が大きく変わるほどの変化が起きそうな予感がする「CES 2022」でした。
次回は第三回として「CESで見かけた筆者が興味を持った展示特集」をお送りします。
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著者情報

- 住 朋享
- 2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。