大ヒットした「オートミール」をお米替わりに食べる人たち

大ヒットした「オートミール」をお米替わりに食べる人たち

90年代に流行した「ティラミス」、数年前に話題になった「おにぎらず」、直近では社会現象にもなった「タピオカ」など、日々生まれている食のトレンド。なぜブームになったのか、その理由を考えたことはありますか? 作家・生活史研究家の阿古真理さんに、その裏側を独自の視点で語っていただきました。

                                       毎日の食卓を楽しくする「料理の知恵」メディア【クックパッドニュース】より

コロナ禍で大ブームに!
実は予兆はコロナ前からあった?

クックパッドが毎年発表する、その年を象徴する「食トレンド大賞」。2021年は「オートミールごはん」が大賞を受賞した。何しろコロナ禍に入ってから、オートミールの人気は高く、店頭で品薄になったことがくり返しニュースになった。人気ぶりを見て、日本ケロッグや旭松食品、日清シスコなど各社が次々と新商品を投入している。

『FoodClip』の2020年9月8日配信「トレンド調査隊」によると、オートミールがヒットしたきっかけは、2020年初めにユーチューバーたちが手軽に食べられる健康食として動画を配信しSNSで広がったこと。そこへコロナ禍が到来し、大ブレイク。

何しろ、ステイホームが推奨され、台所の担い手の負担が大幅に上がった。生活習慣病患者が感染すると重症化するという報道もあり、今まで以上に食で健康に気をつける人が増えた。さらに、家にこもりがちになった結果、運動不足から太る人も増えていた。

オートミールは、エネルギー量自体はコメほかの穀物とあまり違いはないが、食物繊維はコメの19倍も含まれている。タンパク質はコメの2倍以上含まれるのに対し、糖質は少なめ。また、鉄、カルシウム、ビタミンB1、B2も多い。栄養バランスに優れていて、ダイエット効果が期待できるのだ。

オートミールブームの予兆はしかし、コロナ前からあった。それはグラノーラブーム。オートミールはオーツ麦を調理しやすいように加工したシリアルの一つだが、2010年代前半からオーツ麦が主材料のグラノーラが流行していたのだ。

グラノーラは1988年にカルビーが出したのがおそらく最初。しかし、長い間コーンフレークの陰になっていた。日本では、シリアルといえばコーンフレークだったからだ。1962年に日本ケロッグが設立され、翌年からコーンフレークとコーンフロスト(現コーンフロスティ)を発売。アメリカへの憧れが強かった時代背景もあり、牛乳をかけるだけの手軽な朝食として人気になった。

2014年6月7日の朝日新聞記事によると、2010年代にグラノーラブームが訪れたのは、2010年8月にシリアル専門店「グッド・モーニング・トウキョウ」が目黒区にオープンしたこと。ファッション誌やテレビ番組が翌年春頃に取り上げ、人気が出た。東日本大震災の影響もあり、グラノーラが保存食として注目されたことに加え、朝活ブームで朝食を大切にする人が増えたのがブームの要因としている。また、2015年9月1日の朝日新聞記事は、「市場はここ5年で約5倍」に膨らんでいると報道。

グラノーラは、オーツ麦ほか複数の穀物にドライフルーツやシロップなどを加え、乾燥させたもの。しかしオートミールの材料はオーツ麦のみ。グラノーラでオーツ麦の味や食感に慣れたところで、シンプルなオートミールへの注目が高まったという順になる。ちなみにコーンフレークは、トウモロコシの粗びき粉、コーングリッツなどが原料である。

お米の代用としてヒットしたオートミール。
コメ離れなのになぜ?

グラノーラやコーンフレークは、牛乳やヨーグルトをかけて食べるのが定番だ。しかし糖分などが入っていないオートミールは、そういう食べ方もできるが、水でふやかして電子レンジにかけると、ご飯のような食感になる「米化」と呼ばれる調理法が楽しめる。シリアルになじみがない人でも手軽に採用できることが、オートミールご飯の大きなヒットに繋がったのだ。

そもそも、シリアルを日常食にする人は限られている。少し前の調査だが、メディアプラス研究所・オフラボが行ったインターネット調査「ココロの体力測定2018」によると、朝食にシリアルを食べる人は、全国平均でわずか7.6パーセントだった。パン派は50.6パーセント、ご飯派は34.4パーセントだからずいぶんと少ない。シリアル派が最も多い東京でも11.4パーセントだった。

コーンフレークが定着し、グラノーラがブームになったといっても、全体としてはごく一部の人しかシリアルを朝食にしてはいなかったのだ。そこへやってきた、オートミールの米化ブーム。

近年の日本では、コメの消費が少ないことはよく知られている。何しろ、1963年以降ずっと消費量が減り続け、2011年にはついにパンの購入金額がコメを上回る。そしてコロナ禍では、外食需要が減ったことでコメ余り現象が起きた。にもかかわらず、ご飯がわりになると発見されたことで、オートミールは大きなブームになった。この現象は、ご飯が好きなのにあまり食べていない人たちの存在を浮かび上がらせた。

なぜ、好きなのにコメ離れが進むのだろうか? その理由も、オートミールご飯の人気から見える。ご飯の調理はめんどくさいのである。洗って浸水時間を置いて調理する、という手間と時間がかかる。

対してオートミールご飯は、器にオートミール、水を加えて電子レンジにかけるだけ。しかも、ご飯は少量炊きが難しいのに、オートミールなら一人分が手軽にできる。少人数家族や家族がバラバラに食事しがちな家庭も、オートミールなら持て余さずに済むのである。このように、オートミールの大ヒットは、私たちの食文化まで改めて考えさせる。

ところで、オートミールはさまざまな料理へのアレンジが可能だ。ヒットを受け、続々とレシピ本も発行されている。その1冊、人気料理家の牛尾理恵さんの『オートミール ヘルシー&ダイエットレシピ』(主婦の友社)によれば、お茶漬け、おかゆ、リゾット、雑炊、パエリヤ、チャーハンなどの米化はもちろん、ミネストローネ、スンドゥブ、ナゲット、チャンプルー、ハンバーグ、サラダ、お好み焼きなど幅広いレシピが提案されている。どうやら万能食材でもあるらしい。米化以外にどこまでバリエーションが広がるかによって、オートミールが本格的に日本の食文化に組み入れられるかどうかは決まるのではないだろうか。


画像提供:Adobe Stock



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著者情報

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阿古真理
1968(昭和43)年、兵庫県生まれ。作家・生活史研究家。神戸女学院大学卒業。食や暮らし、女性の生き方などをテーマに執筆。著書に『昭和育ちのおいしい記憶』『昭和の洋食 平成のカフェ飯』『小林カツ代と栗原はるみ』『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』『パクチーとアジア飯』、最新著書『母と娘はなぜ対立するのか』(筑摩書房)など。
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