
企業・業界動向
CESレポート第三弾。スタートアップが示すネクストトレンドへのヒント
毎年1月はじめに米国ラスベガスで開催される、世界最大のテクノロジー見本市「CES(Consumer Electronics Show)」。2022年は「フードテック」が正式に採択され、世界が注目する一大カテゴリとなりました。FoodClipでは、フードテックに造詣の深い住さんによる、イベントレポートをお届け。今回はスタートアップの世界見本市ともいえるエウレカパークからピックアップした、注目のフードテック・スタートアップをご紹介します。前回はコチラ
「エウレカパーク」から見るフードテックの未来
CESは「世界最大の技術見本市」の名前のとおり非常に巨大な会場です。通常、見て歩くには2〜3日を要する、日本ではありえないくらいのスケール。
その中に「エウレカパーク」と呼ばれる、世界中から集まった1,200社程度のスタートアップがひしめく展示コーナーがあります。こちらのコーナーの特徴は、スタートアップ自らの出展だけでなく、世界各国のスタートアップ育成を担う行政機関などによる、国ごとのブースがある点です。いわば「スタートアップの世界見本市」となっており、もちろん日本もJ-Startupというコーナーを出展しています。
今回はこちらのエウレカパークから、筆者が興味深いと感じたフードテックスタートアップをご紹介します。
味蕾を刺激し、味を変化させるハイテクスプーン
SpoonTEKが開発するのは、味を感じる器官である味蕾に直接電気的な刺激を与えることによって、味が変化したように感じるようになるハイテクスプーン。
低糖または、低塩に効果があるそうで、より甘く、より味を濃く感じるようになるというプロダクトです。低カロリーな食事でも、よりおいしく感じることができるようになるそう。
1本29ドル(約3200円)ですでに販売していますが、バッテリーは交換式ではないため、数か月に一度買い替える必要があるとのことです。
真菌ベースのプラントベースフード
Nature's Fyndは、イエローストーン国立公園の温泉から採取された、アカカビ類を用いて発酵した素材「FyProtein™」から作られた真菌ベースのプラントベースフードを開発しています。
現在、朝食用パティとクリームチーズが製品化されており、必須アミノ酸を豊富に含みつつ、豆腐より50%多くのタンパク質を含むとのこと。
マイクロソフト創始者ビルゲイツや米元副大統領アル・ゴア、ソフトバンクなどから累計550億円を調達し、ユニコーン・スタートアップ企業となっています。
きのこでイノベーションを起こす
マッシュルームテック企業
MycoTechnologyは、きのこの菌糸体を液体培養して活用する“マッシュルームテック”企業。以下の3つをコンセプトに掲げ、さまざまなイノベーションにチャレンジしています。
FermentIQ:きのこ菌糸を活用し発酵した、たんぱく質。より消化率が高く、反栄養素などを減らした高機能な製品を作ることができる。
CLEAR IQ:砂糖、塩、脂肪などを使用することなく、味を変えることができる技術。
EvolveIQ:マカや冬虫夏草などに含まれるアダプトゲンを生成し、健康食品や化粧品などに活用する。
フードロス削減のIoTコンテナ
Uveraは、食材や料理の賞味期限を伸ばし、フードロスを減らすIoTコンテナを開発。
わずか30秒でUV殺菌および真空状態にし、賞味期限を97%伸ばすことができるといいます。またアプリと連携することで、保存している冷蔵庫内の食材管理や、レシピ提案などのサービスを使用することも可能。
CESでは家庭用の製品を展示していましたが、レストラン向けのより大型な製品を開発中とのことです。
理想の味を分子レベルから逆算して造る
新世代ウィスキー
ウィスキーの味や香り、口当たりは、蒸留と樽熟成の間にさまざまな分子の影響により、大きく味が変わります。Glyphは目的とする味から、必要な分子構成を「ノート」し、熟成や蒸留ではなく、植物や酵母などから直接抽出・使用することによってウィスキーを造り出しています。
AI駆動のキッチンロボットが
分子レベルでシェフの料理を再現
Beyond Honeycomは、シェフの料理を学び、再現することができるAIロボットを開発しています。
フードセンシング、AIトレーニング、複製の3段階のプロセスで、シェフの味を再現します。
シェフが調理したものをスキャナーにセットすると、センサーが分子データをスキャン。48時間で、シェフが作った料理を学習し、AI駆動の調理ロボットが料理を再現します。
これにより、「クリエイター」としてのシェフと、労働を切り離すことができる未来がやってきます。
POSシステムと連動した全自動ピザステーション
1時間に100枚のピザを作ることができるロボット「Picnic Pizza Station」を開発するPicnic。
POSシステムと連動し、注文に応じたカスタマイズを自動でおこない、焼きあげてくれる全自動ピザロボットです。一人のオペレーターさえいれば、少ない面積でピザ店を開くことが可能に。
ピザステーションは、横に並べることで拡張可能。あつかう具材を増やしたい場合は、横に連結していくことで、より多くの種類のピザを作り出すことができるとのことです。
レシピ起点のショッピング・プラットフォーム
レシピと買い物を繋ぐ、ショッパブルレシピ・プラットフォーム「NorthFork」。
ショッパブルレシピとは、ユーザーが閲覧していて「食べたい」と感じたレシピの食材を、そのまま一括で買うことができるサービスのこと。NorthForkはさまざまなレシピサービスと、食材店を繋ぐプラットフォームサービスです。
ネットスーパーはもちろん、店内で使用するカートに埋め込まれた液晶から、買い物をサポートするなど、さまざまなシーンで活用されています。
未来のヒントはCESにあり
今回ご紹介したのは、数多く出展していたフードテック・スタートアップのごく一部です。いずれも、日本ではなかなか聞いたことがないような、ユニークなコンセプトに興味が惹きつけられます。
すでに数百億円を調達し、大企業一歩手前となっているところもありますが、彼らはまさに「これからのアイデアの宝庫」。自らの事業をより良いものにしていくために、世界中の人々が集まるCESは、毎年年始におこなわれる「未来の祭典」なのです。
3回にわたってお送りしてきたCES特集ですが、生活の変化や、フードテックトレンド、そしてスタートアップの尖ったコンセプトなど、CESならではの魅力をお届けできましたら幸いです。
そして、引き続きFoodClipではさまざまなイノベーションのヒントとなる、フードテックの情報をお届けしていきますので、どうぞお楽しみに。
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著者情報

- 住 朋享
- 2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。