スマート農業は必須。食料価格高騰、安定供給の危機の打ち手に

スマート農業は必須。食料価格高騰、安定供給の危機の打ち手に

2022年2月、国連食糧農業機関(FAO)が発表した世界食料価格が過去最高となりました。不安定な世界情勢から、食料自給率が低い日本は危機感が募るばかり。これからの食料の安定供給のためにも、今、日本の農業では「スマート農業」の推進が急務とされています。ICTやロボット技術を取り入れ次世代の農業として日々進化する「スマート農業」について解説し、メリットとデメリット、実際の導入事例をご紹介します。

スマート農業とは

スマート農業とは、ICT(情報通信技術)やIoT(モノのインターネット化)、ロボット技術、AI(人工知能)を駆使した、より効率的に生産物の品質向上を目指していく新しい農業スタイルのことです。

農林水産省では、「ロボット技術や情報通信技術(ICT)を活用して、省力化・精密化や高品質生産を実現する等を推進している新たな農業」と定義しており、積極的に推奨しています。海外では、スマートアグリカルチャ(Smart Agriculture)、アグリテック(AgTech:Agriculture Technology)などと呼ばれており、取り組みは日本と比べ進んでいます。

スマート農業が注目される背景

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世界情勢からも、従来型の農業の仕組みは見直しが必須。「スマート農業」の推進が急務です。そのほかにもスマート農業が注目される理由は多くあり、今後の市場規模拡大も期待されています。


注目の理由1:市場規模の急速な拡大

日本でもスマート農業の市場規模は大きく右肩上がりになっていくことが予想されています。2021年の矢野経済研究所は、2020年度のスマート農業の国内市場規模は前年度比145.6%の262億1,100万円と推計。2027年度には606億1,900万円まで市場が拡大すると予測しています。

注目の理由2:日本農業の課題と食糧危機の解決

現在、日本の農業においては深刻な課題が山積しています。食料自給率は2020年度で37%と、ただでさえ低い日本。加えて、農家の後継者不足、高齢化、労働環境の悪さ、低利益率、耕作放棄地の増加などの課題を背景に衰退状況にあり、COVID-19や世界情勢の影響で記録的な高騰をしている食料価格の影響を強く受ける状況となっています。

スマート農業ではテクノロジーを駆使し、これまで困難だった課題を解決し、スマート化によって従来の農業では不可能だったことが可能になる技術が登場。データを活用してより美味しいものを効率的に生産量を増やす、自動化して作業負荷を軽減することも可能になり、日本の農業の活性化と自給率の向上が期待されています。

注目の理由3:AI/IoTやロボティクス技術の進化

近年のAI、IoT、ドローンなどのロボティクスの技術は目覚ましい進化を遂げています。後述の事例で紹介するように、高性能なもの、軽量・小型化したものが生まれ、それらを運用しやすい環境も整ってきました。

注目の理由4:農林水産省の支援

スマート農業を始めるには、設備投資などのコストがかかるほか、運用に必要な機会やシステムを扱える技術者が必要になります。政府は2019年から「スマート農業加速化実証プロジェクト」をスタート。2019年度は5億円だった予算を2020年には51億円と10倍以上に増やし、スマート導入支援金や補助金、技術開発や産地と連携した実証などを本格的に開始しました。

注目の理由5:世界的に推進されているSDGs

今、世界共通の目標として掲げられているSDGsの取り組み。農業はその中の食や環境、エネルギーと、あらゆる問題に深い関わりがあります。スマート農業が進むことで食品ロスを生まない、無駄なエネルギーを使わない効率的な生産、都市型農業の発展による都市環境の改善など持続可能な社会の実現に繋がります。

普及のハードルとなっているのは?
スマート農業導入の4つのメリット・2つのデメリット

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コストや人材育成などがネックとなり、導入に踏み出せない事業者も少なくありません。スマート農業のメリット・デメリットと捉えられているポイントをご紹介します。


スマート農業のメリット1:農業技術の継承ができる

農業には、長年培ってきた知識や技術が不可欠ですが、これまでは熟練の勘や個人の経験に頼ってきました。それを細かくデータ化することで、経験が浅い人も参入でき、より多くの人にわかりやすく伝えられます。新規参入のハードルが下がれば、農家の高齢化、後継者問題解決の一助になるでしょう。

スマート農業のメリット2:農作業の省力化

多くの労働力を必要とし、体への負担も大きい農作業。ロボットを活用し、機械で自動化することで、より少ない労力で手間をかけずにおこなえます。天候や労働時間に左右されることなく、24時間365日、複数の農地で同時に作業し続けるといったことも可能です。労働力不足問題の解消の糸口となり、「農業=肉体・重労働」というイメージが払拭される利点もあります。

スマート農業のメリット3:効率的かつ安定的な生産が可能、品質の向上にも

データを取得、分析できる技術を活用して、栽培に最適な環境作りや発育状況の管理が可能に。効率よく品質の高い農作物が作れ、生産量の増加、安定的な供給も実現できます。

スマート農業のメリット4:食料自給率の向上に繋がる

日本の食料自給率が低い原因のひとつに、日本の農業自体の衰退があります。農業に従事する人が減り、耕作地が荒れ果てていく現状。スマート農業で従事者が増えれば、生産量の増加、かつ安定的な生産により、食料自給率の向上が見込まれるでしょう。


スマート農業のデメリット1:導入コストが高い

スマート農業に必要なシステムや機器を導入するには、多くの場合、数百万という多額の費用が必要になります。初期投資はもちろん維持費用もかかり、将来的に費用対効果があるかどうかも見極めなければなりません。こうしたコストが導入に大きなハードルとなっているため、近年は補助金やスタートアップ支援金といった公的な制度の予算が拡大。それらを活用し、負担を少しでも減らす取り組みが広がっています。

スマート農業のデメリット2:高い技術を使いこなす人材や教育の不足

高齢化が顕著な問題となっている農業で、高度なデジタルデバイスを使いこなすのは容易ではありません。デジタル機器は日々アップデートされていくため、使う側の知識やスキルも常に更新が必要です。使い方を学ぶのはもちろん、指導できる人材も必要です。スマート農業を推進するには、導入後も効果的に運用を続けられるよう、農業分野におけるIT人材を育成しサポート体制を整えることが最優先課題であるといえます。

スマート農業の導入事例・取り組み6選

AIロボット×農業:inaho
AI、IoT、ロボティクス技術を使い、自動野菜収穫ロボットを開発。新規就農を応援するプログラムやコンサルティングもおこなうスタートアップ企業です。
▶︎https://inaho.co/

アーバンファーミング(都市型農業):Plantio
「誰でもどこでも野菜栽培を可能にする」をコンセプトに、IoTやAIを取り入れたアーバンファーミングなどさまざまな野菜栽培システムを開発しています。
▶︎https://plantio.co.jp/

アーバンファーミングは、アメリカ・ラスベガスで開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES(Consumer Electronics Show)でも、フードテック分野において注目を集めたカテゴリです。
▶︎CESレポート第二弾。フードテックが巻き起こす「食の産業革命」

協生農法:Syneco
多種多様な植物を混生・密生させて栽培する協生農法。無耕起、無肥料、無農薬で、生態系を作り、それぞれの自己組織化能力を活かして有用植物を生産する方法で、SynecoではAI技術を活用しプロジェクトに取り組んでいます。同社は、2021年に設立したソニーグループの新会社で、環境技術を育成するために生まれたという点にも注目です。
▶︎https://www.syneco.inc/

垂直農業:Plantx
省スペース・省資源で、農地を確保しにくい都市部でも可能な垂直農法を実現する「人工光型植物工場」を開発しています。同社は政府主導の宇宙食料領域の研究開発プロジェクトにも参画しています。
▶︎https://www.plantx.co.jp/

ドローン、衛星×農業:Sagri
衛星データと地上データを活用し、地球と人類が共存する最適な環境づくりを目指す企業。衛星データとAIを使って耕作放棄地を確認できる農地状況把握アプリ「ACTABA」を開発しました。
▶︎https://sagri.tokyo/

ゲノム編集:グランドグリーン
生物の特定のゲノムDNAを狙って変化させる、ゲノム編集技術を活用し、新たな種苗開発を提供。最適化した作物を作りだす名古屋大学発のベンチャー企業です。
▶︎https://www.gragreen.com/

食の安定的な供給に不可欠なスマート農業

時代の変化や技術の進化とともに、農業も次世代へと歩みを進めています。スマート農業により作物の生産量や品質の向上が実現すれば、安定的な食料の供給へと繋がるだけでなく、農業の概念までも変わっていくでしょう。現在の食の課題を解決するには、スマート農業は不可欠なのです。



writing support:Miyuki Yajima



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著者情報

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住 朋享
2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。