苦戦のコーヒー業界で黒字転換「豆で勝負した」タリーズが狙うのは“在宅需要”

苦戦のコーヒー業界で黒字転換「豆で勝負した」タリーズが狙うのは“在宅需要”

2020年は外食産業にとって苦難の年となった。コーヒーチェーンもその1つだ。緊急事態宣言による店舗休業や閉店時間の繰り上げなどにより、国内大手のスターバックスジャパン、ドトール、タリーズともに赤字決算となった。ところが今年3月に発表された伊藤園の21年5~22年1月期の連結決算では、タリーズコーヒー事業の営業損益は8億2200万円の黒字へ転換し、苦戦が続く飲食業界のなかで光明を見いだしている。黒字転換の要因は何なのか。タリーズコーヒージャパンのマーケティング本部でグループ長を務める工藤和幸氏に、国内のコーヒー市場の変化に対するタリーズコーヒーの戦略を聞いた。

         ※この記事はITmedia ビジネスオンライン(星裕方/2022年03月04日掲載)からの転載記事です。


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「トムとジェリー」誕生日記念&タリーズコラボ商品発表記念イベントに登壇したはじめしゃちょー氏(以下、撮影:苅部太郎)

赤字からの黒字転換、けん引役は「豆」

20年4月から断続的に続く緊急事態宣言の影響で、国内の外食産業はいまだに苦境のさなかにいる。日本フードサービス協会によると、21年の1~12月の外食売上高(全店ベース)は前年比98.6%となり、19年比で83.2%と2年連続の縮小となった。

コーヒーチェーン業界では、ドトール・日レスホールディングスの21年2月期の決算ではドトールコーヒー事業の営業損益は27億6400万の赤字となり、伊藤園グループが傘下に置くタリーズコーヒージャパンも、約13億円の赤字となった。ところが、今月1日に発表された伊藤園の2021年5~2022年1月期の連結決算では、タリーズコーヒー事業の営業損益は8億2200万円の黒字(前年同期は11億600万円の赤字)に転換した。


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2021年の外食売上高(全店ベース)は前年比98.6%となり、19年比で83.2%と2年連続の縮小となった(日本フードサービス協会)


上半期の決算説明会資料を読み解くと、そこには「おうち需要」と「"ゆっくり時間をたのしむ"需要拡大」という2つのキーワードが並ぶ。この変化について、タリーズコーヒージャパンのマーケティング本部でグループ長を務める工藤和幸氏はこう語った。

「コロナ以前は、コーヒーの喫食シーンは朝食の際に目覚めの一杯として飲み、そして出勤時に買ってデスクに持っていく、というのが基本でした。ところが、そういう生活様式も在宅勤務によって減ってしまいました。むしろ、家庭で飲む"コーヒー豆"の売り上げが伸びてきています」


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タリーズコーヒージャパンのマーケティング本部の工藤和幸さん

「タリーズの豆が一番うまい」と強気な理由

タリーズコーヒーは、21年6月には家庭用コーヒーシリーズとして、ドリップオンタイプ(ペーパーフィルターでお湯を注ぐタイプ)のラインアップを拡充し、在宅需要の取り込みも強化している。こうした地道な市場の変化への対応が、外食産業の逆風の中でも黒字転換を実現した。

工藤氏は、コロナ禍にもかかわらずコーヒー市場は「嗜好性が高まっている」とみている。

「世界的に見ていくと、中国、アフリカの人々の所得が増えていくとともに、コーヒーが飲まれるようになっています。需要に対しての供給は追いついていないため、コーヒーの先物価格も上がってきています」

確かに、コーヒー豆の先物価格は今年10年ぶりの高値をつけ、需給が逼迫(ひっぱく)している。さらに、工藤氏は国内においてもスペシャルティコーヒーへのニーズが増しているという。

「もともと、日本のお客さまはインスタントコーヒーなどコモディティなコーヒーを昔から飲んでいます。最近はその味に慣れたのでもう少しおいしいコーヒーを飲みたい、というレギュラーコーヒー志向、その中でもスペシャルなコーヒーが飲みたい、と嗜好性が高まっていると考えています」


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確かに、コンビニでもレギュラーコーヒーが飲めるようになったこともあり、豆を挽(ひ)いて入れるコーヒーが一気に主流になった。しかし、スターバックスが掲げているように家でも職場でもない「サードプレース」としての場所利用を目的にコーヒーチェーンを訪れる客も少なくなかったはずだ。コーヒー代の半分は場所代、と筆者も考えていた。ところが、在宅勤務が一般化した生活様式への変化により、コーヒー豆自体を買い求める顧客が増えたという。

「豆はそこまで差がないように感じると思いますが、嗜好品なので、『飲み慣れていること』が重要です。ただ、どこのコーヒーを飲んでも、うちのが一番おいしいと思います。他社のコーヒー豆は、キャニスタ(保存容器)に移すときに、粒が割れているものも少なくないですが、タリーズの豆は、袋から出したときに割れている豆がないのです。開発者のこだわりで、豆を割るような焙煎はしない、と決めています」(工藤氏)

もともと、実業家の松田公太氏が、スペシャルティコーヒーの本場シアトルで最もおいしいコーヒーを探し求めて見いだしたのがタリーズコーヒーだ。その当時から受け継がれる豆へのこだわりは、06年に伊藤園の傘下に入ってからも健在なのだろう。


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伊藤園の傘下に入って「激変」

06年10月、タリーズコーヒーは伊藤園グループの傘下に入り、同社のマーケティングも変革の時を迎えた。最も大きな変化は、コンビニや自販機などで、缶コーヒーのボトル缶として展開するようになったことだ。

「それまでタリーズはあまり市場で見られない存在でしたが、伊藤園のグループに入って、コンビニや自販機でロゴを目にする機会が増え、ブランド認知が一気に高まりました」(工藤氏)

さらには、スターバックスといった海外資本に対して、伊藤園グループという国内に意思決定権を有していることも強みとして、店舗ではキャラクターコラボも積極展開した。 21年11月には映画『ハリー・ポッターと賢者の石』公開20周年を記念し、限定グッズやドリンクなどのコラボを実施。

22年2月には、同社として3回目となる『トムとジェリー』とのコラボも発表し、コーヒーチェーン業界としては異例のアニメや映画キャラクターとのマーケティング施策が実現している。これまで店舗に足を運んでいなかった客層の取り込みが狙いだ。実際に、30代の子育て世代の反響が大きく、これまでのコラボでは店頭に行列を作るほどの効果をもたらしたという。


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トムとジェリー桜香る桃のティーオーレ


「私たちは、コンビニや自販機で目に触れた"認知"に対して"体験"を提供することが仕事です。(コラボドリンクは)コーヒーに対してライトな層の方でも飲める味にしています」(工藤氏)

生活様式が変わったからこそ伝わった「こだわり」

新たな客層の取り込みと、在宅需要への対応によって着実に業績を回復させている同社だが、昨今コーヒー業界で増えているサブスクリプション型の販売方式については慎重だ。

「サブスクについては、うまくいっていない取り組みとして、やめている企業も増えています。私たちも、様子を見ているところです」

売り方ではなく、豆の質で勝負、という姿勢は変わらない。コロナ禍に戦略的に売り出したドリップオンの製品にかける期待も大きい。

「先ほどのコーヒー豆の粒割れを防ぐこだわりは、家で入れないと分からない部分もあります。レギュラーコーヒーは、店舗で飲むなら300円くらいですが、自宅で入れるなら60~70円。コストパフォーマンスが良いと思うんですね。特にドリップオンの封を開けた時の感覚は、とても気持ちがいいものです。朝や仕事で詰まったときに、気分転換になると思います」(工藤氏)

工藤氏は、生活様式が変化したからこそのコーヒーの楽しみ方を伝えていきたいという。

「誰かに入れてもらったコーヒーもいいですが、自分のために入れたコーヒーは、もっとおいしいと感じますね」


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トムとジェリー桜舞う苺カフェラテ


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元記事はこちらから(「ITmedia ビジネスオンラインに」に遷移します)



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