しゃぶ葉やガストが導入する「配膳ロボ」の実力は?最先端、中国のロボット事情

しゃぶ葉やガストが導入する「配膳ロボ」の実力は?最先端、中国のロボット事情

2021年10月、すかいらーくグループは、全国2000店舗に中国の大手ロボットメーカー「Pudu Robotics」(プードゥ・ロボティクス)の配膳ロボットを導入すると発表した。22年1月末現在で、340台(しゃぶ葉220台、ガスト120台)まで導入が進んでいるそうだ。ほかにも中国には、配膳ロボットの世界最大手といわれる「Keenon Robotics」(キーンオン・ロボティクス)や、世界初となる屋外で使えるレベル4自動運転業務用掃除ロボット・viggo(ヴィゴー)を発売する「智行者」(ちぎょうしゃ)など、世界のロボット業界を牽引する企業がある。

         ※この記事はITmedia ビジネスオンライン(小林香織/2022年02月23日掲載)からの転載記事です。


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プードゥ・ロボティクス社の配膳ロボットが飲食店で配膳する様子

最先端の中国製「配膳ロボット」ができること

配膳ロボットの世界最大手といわれるキーンオン・ロボティクスでは、配膳ロボットを中心に、案内ロボット、ホテル用ロボット、消毒ロボットも取り扱う。代表的な製品である「T1」は、Lidar(ライダー)、3Dカメラ、深度センサーなどのマルチセンサー融合技術により複雑な屋内環境でも安定して作動し、最高10時間稼働するという。


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多彩なロボットをそろえる世界最大手のキーンオン・ロボティクスの製品。「T1」は右から2番目、手前にある小型の配膳ロボット


「T1」は、単に料理を運ぶだけでなく、状況を判断して喜怒哀楽を表情で表現したり、音声で声かけをしたりもする。さらに、棚に付いた赤外線センサーにより、料理の受け渡しが終わると自動的にスタート地点に戻るほか、額をタッチすると素早く定位置に戻る機能もある。

すかいらーくグループでの導入実績を持つロボットメーカー、プードゥ・ロボティクスでは、複数の配膳ロボットやビル内配送ロボット、消毒ロボットを扱う。同社の配膳&案内ロボットKettyBot(ケティーボット)は、大型のディスプレイと案内機能を備えており、新商品などのマーケティングにも利用できる。


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大型ディスプレイを備えるケティーボット(右から2番目)、コミュニケーション機能が高い猫型のベラボット(左から2番目)


すかいらーくグループが導入するBellaBot(ベラボット)は、ディスプレイが猫の顔になっており、親しみやすい会話ができるほか、新型ライダーの採用など機能性が高い特徴も。耳に触れると、表情を変えながら「くすぐったいにゃ」「耳を触らないで、なでなでして」などと会話するため、子どもにも喜ばれそうだ。

両社の製品とも、日本に多い小型の店舗でも使いやすいよう、スリム設計のものが多い。最新版の製品は、天井に位置情報を検知するためのタグを貼り付けなくとも、使用前に数時間ほどのマッピング作業をするだけで、すぐに自律走行できるものが増えているそうだ。一方、天井へのタグ付けが必要な製品は、事前準備に丸1日ほどかかる。

現場でのオペレーションや気になるコストは?

配膳ロボットが担うのは、大きく「配膳」と「下げ物」(食べ終わった皿の片付け)の2つ。配膳では、棚に料理を乗せて席番号などを指定すると、指定席まで自走する。この際、ロボットの棚から客が自ら皿を受け取る場合と、従業員が棚から皿を取って客に提供する場合がある。

「日本の飲食店の場合、他国より接客を大事にする傾向が強いため、ロボットに配膳をさせて、従業員が皿をテーブルに乗せるというオペレーションが多いように思います。ただし、ロボットの効率性を最大化するなら、お客さんに自ら皿を受け取ってもらうのが良いですね」(テクトレ 配膳ロボット営業担当 露木悠一郎氏)

日本では導入実績が少ないこともあり、中国の飲食店でのオペレーションを聞いてみた。人気のチェーン火鍋店「海底撈火鍋」では、比較的混雑していない平日の午前中や深夜帯に利用しているとのこと。同店では店員がサーブするのではなく、客が自ら皿を受け取るスタイルだ。

「質問に対して応答できる音声の種類が少ないことは課題ですが、配膳のサポートという視点では十分な機能を備えています。従業員は手が空いた時間に新しい仕事を覚えることができて、成長スピードが上がっていると感じます」(火鍋店のスタッフ)


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中国の火鍋店に導入されたロボットの様子


露木氏の話では、この火鍋店のように混雑していない時間帯に利用するケースは少なく、むしろ混雑時間帯に投入することで、賃金が高くなりやすい短時間のパート雇用などを減らせるといった効果が見込まれまるという。障害物センサーにより、多少混み合っていてもロボットと客や従業員が衝突する心配は、それほどないようだ。

コストについては、キーンオン・ロボティクスの代表的な製品「T1ライダー版」(天井のタグ付け必要なし)は、一括購入で260万円。プードゥ・ロボティクスの猫型の配膳ロボット「ベラボット」は、一括購入で291万5000円となる。

テクトレ社の場合、一括購入のほかにリース会社を通じたリース契約も可能で、例えば5年契約で月に5万円前後からの支払いとなる。契約形態はファイナンスリースと呼ばれるもので、支払いを終えると所有権がリース会社からユーザーに移行する。

すかいらーくグループはスタッフ数の削減なし。導入後の変化

22年1月末までに340台の配膳ロボットを導入したすかいらーくグループは、人とロボットの協働によるサービスの充実と働きやすい環境づくりを目的に、導入を決めたという。

「料理や下げ物の運搬など、ロボットがフロアでの接客業務を担うことで、人による接客品質やクレンリネス(清潔で衛生的な状態)の向上を図りたい、また、運搬業務の作業軽減により、シニアスタッフにも優しい職場環境を実現したいと考えました。

ITを活用しながら多様な人財が活躍できる環境をつくっていくことが、採用難という長期的な社会課題への迅速な対応策となり、高品質なテーブルサービスレストランの提供につながると期待しています」(すかいらーくグループ 広報担当者)


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すかいらーくグループが導入したベラボット(写真は中国の火鍋店にて)


同グループでは、既出の火鍋店と同様に、客が自ら皿を受け取るスタイルで配膳ロボットを活用している。豊かな表情と親しみやすい会話を得意とする「ベラボット」を導入したことで、客からは好意的な意見が多く、また非接触でのサービス提供もコロナ禍で支持を得ているそうだ。加えて、効率化の面でもメリットがあったという。

「待ち時間を解消し、行き届いたサービスを実現することで、回転率向上によるピークタイムの客数増につながっています。当社では、配膳ロボット導入後もスタッフ数は削減しておりません。人とロボットの協働により生産性が向上し、ピークタイムの客数が増えたことにより、人件費率が削減しています」(すかいらーくグループ 広報担当者)

レベル4の自動運転を搭載。完全無人の掃除ロボットも

もう1つ、注目したい中国製ロボットが、実用的な自動運転技術に定評がある「智行者」が開発した、屋内外兼用のレベル4自動運転業務用掃除ロボット・ヴィゴーだ。


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悪天候時を除き遠隔操作が必要なく、完全に自動運転で作動する業務用掃除ロボット・ヴィゴー


事前に、周辺環境を覚えるためのマッピングという作業が必要だが、一度データをダウンロードすれば、ほぼ自動で道路や通路上の掃除、ゴミ収集、水巻き、消毒剤や融雪剤の散布などを行える。テクトレ社によれば、屋外で使えるレベル4自動運転業務用掃除ロボットは世界初の製品だという。使用時は4G以上のWi-Fi接続が必要となる。

「ブラシを回転させて掃除をするのですが、砂や砂利、小さな紙ゴミから新聞紙、落ち葉などは問題なく吸い込みます。実証実験では、手のひらの2倍ほどの木の板も砕きながら回収できました。屋内なら広々とした展示場や空港、屋外なら公園のアスファルトや駐車場などで利用できます。まだ実証実験中ですが、団地が並ぶ私有地の通路も活用できそうです」(テクトレ 掃除ロボット営業担当 岸本佳大氏)


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ヴィゴーは、北京2022オリンピックの会場でも導入された


自動運転の精度が高く、日本向け製品は1台につきライダーを2台搭載しているため、360度の方向で100メートル先にいる障害物を検知できる。障害物が危険な位置に入ってくると、一旦停止したあと自動で動きを切り替え、うまく回避するそうだ。指定場所の掃除が終わると、自動で待機場所に戻りスイッチがオフとなる。

大雪、大雨といった悪天候時を除き、完全に放置しておいても問題ないと断言できるほど安全に使用できるという。実証実験を通して、人間が掃除する場合に比べて6倍早いという結果が出ているそうだ。

「オペレーションにおいて、人の手が必要となる作業は4つのみです。1つ目は、指定した場所の環境データを取るマッピングの作業(初回のみ)、2つ目は充電、3つ目は本体のカートにたまったゴミの処分、4つ目は大雨や大雪のときに遠隔で機械を停止させることです。ただし、天気はある程度予想できますし、充電やゴミ捨ても事前に済ませておけば、基本的に作業中に関与する必要はありません」(岸本氏)

大手は体験価値の低下、中小はコストが課題

配膳ロボットの普及具合を尋ねてみると、中国では海底撈火鍋、呷哺呷哺(Xiabu Xiabu)の2つの大手火鍋チェーン店、重慶江北国際空港、自動車メーカー・BYDのディーラー店舗、シェラトンホテルなど、大手企業を中心に少しずつ導入が広がっているという。一方、日本での普及は、まだまだこれからのようだ。

「日本では、横浜中華街の中国料理店、招福門でキーンオン・ロボティクスのT5という製品を2台、導入した実績があります。食べ放題フロアでは、最高で1日5000皿分を配膳しており、アルバイト社員の採用や教育にかかるコストや時間の削減、顧客の体験価値の創出に期待があるようです。現状、配膳ロボットへの問い合わせとともに、実装されていない機能へのリクエストが増えていますが、多くの企業は導入を検討している段階のようです」(露木氏)


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マーケティング効果が見込める大型ディスプレイ付きの配膳ロボット


導入が進まない理由として、「大手では接客面でのホスピタリティが失われてしまう、顧客に動揺を与えてしまうといった体験価値の懸念があり、中小ではコスト的に厳しいという声がある。根本的にロボットの認知が低いのも課題だ」と露木氏。

現状の製品は、飲食店の制服を装うなど外観のカスタマイズはできても、コミュニケーションに独自性を持たせるようなカスタマイズはできない。今後の国内外の普及状況とともに、機能の進化も気になるところだ。

掃除ロボットのヴィゴーは、中国では1000台程度の導入実績があり、深センを中心に駐車場や公園などで稼働しているという。中国では、5Gの通信環境で動作しているそうだ。

「日本での導入実績はまだありませんが、現在、大手2社が導入を検討しています。1つは、団地と団地の間の通路を掃除する用途、もう1つは納品前の自動車の保管場所(野外)を掃除する用途です。22年中に国内で導入されることを期待しています」(岸本氏)

写真提供:テクトレ社


元記事はこちらから(「ITmedia ビジネスオンライン」に遷移します)



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