注文後、10分で届く?海外で急拡大する「ダークストア」は日本でも流行るのか

注文後、10分で届く?海外で急拡大する「ダークストア」は日本でも流行るのか

欧米で「Qコマース(クイックコマース)」が話題になっている。注文から30分以内をメドに日用品などを配達するサービスで、その多くは、消費者が立ち入ることができない「ダークストア(配達専門店)」で商品を保管している。日本でもQコマースが拡大しつつあり、各地にダークストアが続々とオープンしているようだ。
   ※この記事はITmedia ビジネスオンライン(小林香織/2021年12月29日掲載)からの転載記事です。


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通路が狭く、びっしりと商品が配置されているオニゴーのダークストア(提供:オニゴー)


2020年9月にフードデリバリー事業で日本に上陸したDelivery Hero Japan(デリバリー・ヒーロー・ジャパン)は、21年7月にQコマースサービス「pandamart(パンダマート)」をスタート、神戸に拠点を開設した。同年8月には「OniGo(オニゴー)」が目黒区で、12月2日にはWolt(ウォルト)が「Wolt Market(ウォルトマーケット)」のサービス名で、札幌に開設した。最短で数分、最長30分ほどで注文品が届くダークストア事業について、各社の戦略と展望を聞いた。

※本記事はデリバリー・ヒーロー・ジャパンの日本事業売却の報道前に取材を実施した。

10分で配達、東京で4店舗を展開する「オニゴー」

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オニゴーを創業した梅下直也氏は1977年生まれ、三井住友銀行での勤務経験を持つ(提供:オニゴー)


注文からわずか10分の配達を掲げ、学芸大学や駒沢大学など都内に4店舗を持つオニゴーは、21年6月に創業したばかりのスタートアップ。取り扱い商品は約1300点と多くはないが、ミシュラン三ツ星を獲得したシェフが作る冷凍弁当シリーズや肉類を扱うほか、お得なセールも展開する。

最大の特徴は、注文から10分で到着するスピード配達。競合が30分ほどで設定しているなか、3分の1の速さというのは同社ならでは。この爆速配達の仕組みをどのように実現しているのだろうか。

「1店舗のカバー範囲を半径2キロメートル以内に絞り込み、自社開発のシステムを用いて3分以内に商品のピックアップを完了することで、10分をメドに配達できています。店舗で待機しているピッカー(ピッキング担当者)は最適な商品配置や導線を日々研究し、微調整を繰り返しています。加えて、ライダー(配達担当者)は所属店舗の配達のみを担当し、短い配達時間で回数を重ねることに注力しています」(梅下氏)


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オレンジ色の制服を身に付け、自転車で配達するライダー(提供:オニゴー)


オニゴーの送料は300円で、競合と比較して安いわけではない。この価格設定について、「事業をスケールさせるために必要なコスト」だと梅下氏はいう。
「EC需要の急増によるラストワンマイルの配達人員の不足は、深刻な社会問題になっています。一方で、彼らの疲弊も指摘されており、人員が集まらない課題も。当社の事業をスケールするには、ライダーにきちんとした報酬を支払い、持続可能な働き方ができるライダーを増やすことが先決です」(梅下氏)

フードデリバリーやQコマースにおいて、ライダーは個人事業主として働くことが多いが、同社のライダーは店舗所属のアルバイトとして契約し、配達件数にかかわらず時給制となる。いずれは店長になるなどキャリアアップの道もあるという。この組織体制や教育制度はライダーにとって魅力的であり、彼らがオニゴーを選ぶ理由になるかもしれない。また、ライダーのサービスの質の向上にも役立ちそうだ。

新規事業、かつスタートアップということで、サプライチェーンの体制づくりは苦労しているという。「生鮮食品も含め手頃な価格帯で仕入れるのは、かなり難易度が高いが、地道で泥臭い努力をして、7年ほどかけてインフラになるビジネスに成長させたい」と梅下氏は展望を語った。

知名度が高い札幌から事業を開始した「ウォルト」

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札幌に2拠点を同時開設し、北海道からQコマースをスタートしたウォルト(提供:ウォルト)


20年3月に日本進出し、着実にマーケットを拡大しているウォルトは、この12月にQコマース事業「ウォルトマーケット」を札幌でスタートさせたばかり。同社では、本社があるフィンランドを皮切りに、8カ国で19店舗のダークストアを運営しており、 コロナ禍で需要が急速に伸びているという。

「当社は国内2番目の都市として、札幌でのフードデリバリーを20年6月に開始。知名度、ユーザー数、レストランやリテールパートナー数、配達パートナー数がいずれもバランスよく安定していることから、札幌がもっとも新規事業に相応しい環境だと判断しました」(Wolt Market Japan Expansion Manager 福井優貴氏)

同社の特徴は、約2000点の商品を30分程度で配達すること。商品点数はパンダマートよりかなり少ないものの、野菜や肉類が非常に豊富なのは魅力的だ。札幌の2拠点では、創業40年の「水戸青果」や創業70年の食肉製造・卸会社「肉の山本」など、地元の目利きが厳選したアイテムを取り扱っている。ただし、ウォルトが同様の幅広い商品点数を関東、関西などの地域でも展開できるかどうかは、今後の課題になるかもしれない。

送料は、1キロメートル以内は99円から、最大399円までとなっており、顧客により幅がある。これは、ユーザーやレストラン、リテールパートナーだけでなく、配達パートナーも満足できるサステナブルなビジネスを展開するためのようだ。「おもてなし」も重視する同社では、自社スタッフが1分ほどで回答するチャットサポートも強みだという。


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ピッカーは腕に取り付けたスマートフォンで商品を確認し、素早くピッキングする(提供:ウォルト)


同社では、朝から夜まで、ほぼ切れ目なく注文が入っており、持ち運びづらい大型商品やケースでの注文のほか、生鮮食品や冷凍のジンギスカンもよく売れているそうだ。

「ダークストア事業では、地域の需要に応じた独自の品ぞろえがカギになると考えています。地元メーカーの食品などはおなじみの味として人気が高いので、コンビニには並んでいないような、その土地ならではのユニークな商品を数多くそろえられるよう、地域のメーカーと商談を進めています」 (福井氏)

今後は引き続き北海道内で店舗数を広げつつ、いずれは全国展開も予定しているという。

12拠点、3500点まで拡大する「パンダマート」

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ピッカーの動きやすさ、商品の探しやすさが優先されているダークストア内(提供:デリバリー・ヒーロー・ジャパン)


フードデリバリー事業では、Uber(ウーバー)やウォルトより遅れて日本に進出したものの、ダークストアの展開は早かったデリバリー・ヒーロー・ジャパン。12月末現在、大阪、京都、東京、神奈川など全国12拠点でダークストアがオープンし、約3500点の商品を扱う。12月10日からは、卵、牛乳、ヨーグルトといった冷蔵食品の販売もスタートし、ビールやワインなどの酒類の販売も、名古屋、大宮の拠点限定で始まったばかり。

「パンダマートの事業は、シンガポールをはじめとした他国ですでに広く展開しており、日用品のQコマース需要は明らかです。当社のエコシステムを回すためにもパンダマートの展開は必須だろうと。フードデリバリーは昼と夜に需要がかたよるため、配達時間を分散させることで、ライダーにとっても、当社にとっても良いと考えました」(デリバリー・ヒーロー・ジャパン 新規事業開発本部 本部長・執行役員 佐藤丈彦氏)

パンダマートは送料220円で、30分以内に商品を配達する。商品を配達するのは、フードデリバリー事業と同様のライダーで、注文が入るとAIが瞬時に最適なライダーを割り当て、オーダーを飛ばす仕組みだ。ライダーが店舗に向かって自転車をこいでいる最中、店舗ではピッカーが高速でピッキング。ライダーが到着するまでの2分間で袋詰めされた商品が用意され、ライダーは店舗に到着するやいなや商品をピックアップし、顧客に配達するという。


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ライダーは自身の自転車や原付きを使って配達する(提供:デリバリー・ヒーロー・ジャパン)


「テクノロジーとアナログの融合により、30分以内での配達が実現できています。ミスを防ぎやすいバーコード式の端末の利用に加え、最短でピッキングできる導線づくりや商品の配置もポイントです。端末では、注文が入ってからパッキングが終わるまでのすべての行動が細かくトラックされていて、どこで遅延が発生したかの原因分析も行い、改善に務めています」(佐藤氏)

価格帯はスーパーよりも高いが、総合的にお得に感じられるサービス設計にしているという。生活のなかで予想しやすい30分以内の配達という点が大きく、例えば、かさばるトイレットペーパーやペットボトルの飲料、アルコール、アイスクリームなどは注文が多いとか。主な利用者は20~40代の女性で、夕食前の時間帯がピーク。一部の都市では、飲食店の運営者らしき利用者からの注文もあったそうだ。

取材時は「2年以内に100店舗の開設と5000点の商品数を目標にしている」との回答だったが、デリバリー・ヒーロー・ジャパンは、12月22日、日本事業を撤退すると発表。「日本市場での競合環境が著しく変化し、他社の参入や配達員の安定した確保が困難であることから、今後の日本国内のビジネス展望に大きな影響を及ぼした。同時に、海外でのさらなる展開や新たな投資の機会なども選択として検討する必要が出てきた」と売却の理由を示した。報道によれば、22年3月末までに事業を売却する予定だ。

認知拡大が先決。市場を食い合う段階ではない

各社に、「ベンチマークしている企業(業界)はあるか?」と尋ねたところ、パンダマートは「幅広くスーパー、コンビニ、ドラッグストア」、オニゴーは「スーパー」、ウォルトは「該当なし」との回答だった。

Qコマース事業に限ると、まだ互いに市場を食い合うような段階ではなく、むしろ新規参入者を増やし市場拡大を図りたいようだ。各社の知名度が高まり、Qコマースという選択肢が一般的になった後、業界での競争が激化するかもしれない。パンダマートの佐藤氏は、「Qコマースの市場を奪い合うようになるまでに、1年ほどはかかると見込んでいる」と話していた。


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ダークストア内でピッキングする「パンダマート」のピッカー(提供:デリバリー・ヒーロー・ジャパン)


各社とも配達地域が限られているために、サービスを試すことはできなかったが、3社のアプリを見たところ、いずれも価格設定は「スーパーより高いか同等」「コンビニより、やや安いか同等」といった感じ。

ただ、一定金額以上を購入したり、キャンペーンやセールを利用したりするとコンビニよりも安く済ませられそうだ。かつ、コンビニに出向くより早くて楽チンとなれば、利用するメリットは多いにあるだろう。サービス提供者や取扱商品が増え、利用範囲が広がれば、急速に拡大するかもしれない。


元記事はこちらから(「ITmedia ビジネスオンライン」遷移します)



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