無人なのに高級コーヒーが飲める AIカフェロボット「root C」の革新性

無人なのに高級コーヒーが飲める AIカフェロボット「root C」の革新性

近年、あらゆる業界で「非接触」のサービスが人気を集めている。JR新橋駅前、東京ソラマチ、NEWoMan新宿などに設置されているAIカフェロボット「root C(ルート シー)」も、その1つといえるだろう。完全無人でありながら、1杯450円で高品質のスペシャルティコーヒーを提供。リピーター向けのサブスクもあり、都内を中心に設置台数を伸ばしている。最先端のテクノロジーを強みとし、日本で初めて牛乳を使ったカフェラテを無人店舗で販売した実績も。同サービスを運営するNew Innovations(ニューイノベーションズ)の中尾渓人CEOに、ビジネスモデルと反響を聞いた。
   ※この記事はITmedia ビジネスオンライン(小林香織/2022年01月30日掲載)からの転載記事です。


13416_image01.jpg

都内を中心に設置台数を増やしているAIカフェロボット「root C」

完全無人でスペシャルティコーヒーを提供

AIカフェロボット「root C」は、2020年3月に東京・丸の内の新東京ビルで実証実験として設置されたのち、2年弱で9カ所まで設置台数を広げている。駅やオフィスビルのほか、NEWoMan新宿や東京ソラマチといった商業施設にも設置されている。

一見、大型の自動販売機のようだが、そうではなく、小規模カフェの無人店舗だという。扱っているのは、自社調達の豆を使った数種類のスペシャルティコーヒーで、マーチエキュート神田万世橋のステーション(店舗)のみ、カフェラテを提供している。


13416_image02.jpg

番号が書かれたロッカーから商品を引き取る


購入は専用のアプリから行う。アプリ上でメニューと受け取り時間を選び、支払いを済ませ、指定した時間に受け取る流れだ。時間は10分単位で指定でき、指定時間から10分以内に受け取る必要がある。例えば、13時を選ぶと13時9分までとなる。

1杯の提供価格は一律450円。リピーター向けのサブスクもあり、月8杯までの「Limited Plan(リミテッドプラン)」は1980円、杯数無制限の「Unlimited Plan(アンリミテッドプラン)」は7980円。基本的にリピート利用を想定したサービス設計で、1杯のみの購入でも、常に購入金額の10%がキャッシュバックされたり、ログインボーナスやクーポンが付与されたりするそうだ。

「メニューごとに価格を変えることもできますが、あえて一律料金としています。メニューを選ぶ際の心理的負荷を減らしたいことに加えて、現状は『お得だから使う』というより、『しなやかなコーヒー体験をしたい』と思う方に使ってほしいと考えているためです」(中尾氏)

導入当初は、20~30代のサブスクユーザーが圧倒的に多かったが、商業施設への導入が相次ぐなかで、利用者の年齢層や利用目的が広がり、単品購入者も増えているという。ユーザーからは「期待以上においしい」と味を評価する声が多く、これは「原価の高い豆を使っているからだろう」とのこと。

「スターバックスやタリーズなど、セカンドウェーブといわれるカフェチェーンで提供されている豆と比較して、原価が4~6倍の豆を仕入れています。社内のバリスタが味の責任を持って商品企画をしており、ロースト加減も当社専用。人件費を削減したぶん、価格を落とすのではなく、すべて豆の原価に当てました」(中尾氏)

CEOはZ世代の22歳。先端技術を持つテクノロジー集団

13416_image03.jpg

ニューイノベーションズの中尾渓人CEO


中尾氏は1999年生まれの22歳で、デジタルネイティブといわれるZ世代にあたる。14歳で「RoboCup Junior」世界大会で入賞し、高校在学中の2018年にニューイノベーションズを起業。「あらゆる業界を無人化する」をビジョンに、先進的なテクノロジーやビジネスモデルを武器に事業を拡大する。

「root C」を開発した背景には、「テクノロジーを駆使して、人々のニーズに合ったコーヒー体験を届けたい」との思いがあるという。

「コーヒーマーケットにおける時間、場所、品質などのアンマッチを感じていました。本当はおいしいコーヒーが飲みたいけれど、すぐに買えて便利だからコンビニに行く、本当はコンビニコーヒーでいいけれど、場所を使いたいからカフェに行くなど。その中で、仕方なく自販機やコンビニでコーヒーを買っている層をターゲットにしています」(中尾氏)

加えて、カフェが開業できない場所にも一定のコーヒー需要があることを見込んで、小規模、かつ無人で運営できる「root C」にビジネスチャンスがあると考えた。「root C」は既存の自販機にインターネットをつないだような単純な仕組みではなく、新たなAIカフェロボットとして、同社がイチから開発した。


13416_image04.jpg

同社の強みである最先端テクノロジーを使って一連のシステムを開発


コアとなるのは、クラウドシステムと各ステーションを相互連携させて実現したステート(状態)管理技術。相互に情報を伝達させることで、通信障害や停電などの例外が起こった際でも、機械の状態を自己判断して自動制御や自動復帰ができるそうだ。

決済関係のトラブルなどは同社のカスタマーサービスが遠隔で担当するが、さまざまな外部状況に応じた制御や復旧は自動で行っている。

もう1つ注目したい技術が、同社が特許出願中の完全無人店舗での牛乳の品質管理だ。牛乳を各ステーションに補充して保管する一連の工程における衛生状態を遠隔でモニタリングし、もし異常を検知したときは自動でミルクを使ったメニューの販売をストップする。

この技術と実証実験を後押しする新技術等実証制度を使ったことで、マーチエキュート神田万世橋のステーションで日本初となる無人店舗における牛乳を使ったカフェラテの販売が実現した。その他のステーションでは、まだ営業が許可されていないが、規制緩和に向けて取り組んでいるそうだ。

非対面の「カフェ」や「商品受け取りシステム」も

ニューイノベーションズでは、自社技術を他社に提供する事業も主力だ。ブルーボトルコーヒーとの協業では、新業態の「非対面カフェ」を実現するオーダー、及び受け取りロッカーシステムを開発した。


13416_image05.jpg

2月15日まで渋谷スクランブルスクエアで営業中の「BLUE BOTTLE COFFEE Pop Up Cafe - Shibuya -」


これは、オーダー専用端末でメニューを選んで注文すると、ブルーボトルコーヒーのバリスタが淹(い)れたコーヒーを、ロッカーから受け取れる仕組みだ。バリスタが注文商品をセットすると、ロッカーのセルが光って、できあがりを知らせる。

この「非対面カフェ」は完全無人ではなく、操作方法を案内する店員とバリスタが同じ店内にいるものの、注文や受け取りは非接触で行うことができる。コロナ禍における安全性の向上に加え、大幅に人員を削減できることから人件費の削減にもつながる。

「ブルーボトルコーヒーさんには、『非対面カフェ』の取り組みを通じて、新型コロナによる顧客の需要の変化を検証したいという思いも強くあるようです。この協業の発表後、当社には、さまざまな飲食店から多くの問い合わせが舞い込みました。複数社とやり取りしながら、無人化、省人化の方法を探っています」(中尾氏)

ラグジュアリーブランドからのニーズを受け、「root C」のロッカーシステムをベースにした非接触の商品受け取りシステム「スマートショーケース」も開発。顧客は、QRコード認証でロッカーを解錠することにより、通販サイトで購入した商品を受け取れる。さらに、使用しないときはショーケースにもなるという。すでに海外ラグジュアリーブランドで採用された実績があり、店内に設置されている。


13416_image06.jpg

商品の受け取り、及びショーケースとしても使える「スマートショーケース」


通販での購入商品は自宅への送付も選べるが、意外にも、あえて店舗に足を運んでスマートショーケースで商品を受け取る顧客も少なくないという。

「先方いわく、合理性だけで選ぶ顧客ばかりではなく、店舗の空間に入りたい、新しい商品を店舗で見たいといったニーズがあるようで、通販で購入しても、あえてスマートショーケースで引き取る方が想像以上に多いです」(中尾氏)

スマートショーケースの発表後は、ショッピングモールから問い合わせが多くきており、ショーケース機能のない商品受け渡しのためのロッカーも企画していると中尾氏。

「この場合の顧客ニーズは、複数のテナントで購入した商品を1つのロッカーで受け取りたい、営業時間外に受け取りたい、営業時間内に非接触で受け取りたい、の3つ。多くの小売店ユーザーに当てはまる自然な需要だと思います」(中尾氏)

人々のニーズを満たす「無人化」を実現したい

「root C」は、1月17日から大阪市浪速区のなんばスカイオでもサービス提供を開始した。同ステーションは、なんばスカイオのオフィス就業者のみ利用可能だ。現在、さまざまな企業から設置希望が届いており、1月中に埼玉県内の運用開始が決まっているとのこと。今後は、渋谷方面を中心とした都心、副都心から設置数を伸ばしたいと考えているという。

「root C」の設置拡大と同時に、この技術をベースにした非接触サービスの支援拡大の意向も。飲食店や小売店における完全非対面での商品提供、あるいは調理場を無人化するための「調理ロボット」などの開発依頼があり、さまざまな業界やシーンで非接触の需要が高まっていることを感じているそうだ。

「現状は小売・飲食業界との取り引きが多いのですが、注力していきたいのは、普遍的でありながらデジタル化が進んでいない、建設、介護、医療、運輸といった業界です。これらの業界では、ITに置き換えられるようなことも人が手を動かしている状態。ITを駆使して省人化することにより、人が提供することで付加価値を最大化できるような仕事を人が担えるよう人員の再配置をしたいと考えています」(中尾氏)


写真提供:ニューイノベーションズ


元記事はこちらから(「ITmedia ビジネスオンラインに」に遷移します)



この記事が気に入ったらフォロー

ニュースレター登録で最新情報をお届けします!





著者情報

著者アイコン
ITmedia ビジネスオンライン
「ITmedia ビジネスオンライン」は、企業ビジネスの最新動向、先進事例を伝えることで、その発展を後押しする、オンラインビジネス誌です。「ニュースを考える、ビジネスモデルを知る」をコンセプトとし、各業界を代表する有力企業から新たなビジネスを提案する新興企業まで、多くの企業への取材を通して、その最新動向や戦略を紐解き、企業の現場で活躍するアクションリーダーに分かりやすく伝えます。