【レポ】ガストで活躍する猫型ロボットに会ってきた

【レポ】ガストで活躍する猫型ロボットに会ってきた

猫耳が付いたなんともチャーミングな配膳ロボが活躍しているのをご存知ですか?「よしだけいすけの飲食店最前線巡り」シリーズ第9弾は、2021年末からすかいらーくグループで順次導入されている料理提供をする配膳ロボに焦点を当てて、ファミリーレストランのDXやデジタル化の意味を考察してみました。

前回記事:【レポ】松屋フーズの新業態「ステーキ屋松」。低価格・高回転の秘訣は肉の焼き加減にあり?

2年間のコロナ環境が後押し
飲食業界で着々と進むデジタル化


オミクロン株の蔓延により、各地で時短営業やアルコール提供が制限され、引き続き苦戦が続く外食業界ですが、この2年でさまざまな進化がありました。テイクアウトや宅配など販売チャネルの拡充や、キャッシュレス決済の浸透、非接触を踏まえた注文方法やテイクアウト商品の受取方法など、涙ぐましい努力が陰でおこなわれていることを痛感します。

そんな中、ガストやバーミヤンなどのテーブルレストランを運営するすかいらーくホールディングスが、いよいよ配膳ロボットを大規模導入すると聞いて、実際に店舗へ行ってきました。

すかいらーくといえば、実は私が15年間在籍していたところ。すでに退職して約2年が経ち、この導入には一切関わっていませんでしたが、2019年に中国出張で杭州市にあるFLY ZOO HOTELで見た、部屋までルームサービスを運んでくるロボットを思い出します。

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Alibaba(アリババ)が運営するFLY ZOO HOTELは、AIや様々な最先端技術を駆使して、利便性を追及した近未来型ホテルでした。フロアや部屋への入室は全て顔認証。バーではロボットがカクテルを作り、ルームサービスはこちらのロボットが運んでくれます。
その時は「いつか日本でもこういうサービスが当たり前になるのかな」とぼんやり思っていましたが、たった2年で身近な場所で展開されているとは。進化のスピードに驚いています。

配膳ロボットを導入する理由は?
人件費高騰と採用難の壁

まず、なぜ配膳ロボットの導入が必要なのかを推察してみます。一番の理由は、人件費の高騰が背景にありそうです。下のグラフは2011年から2021年までの東京都の最低賃金の推移です。見事に右肩上がりで、10年間で204円も上昇しています。もちろん、賃金の上昇自体は、私たち生活者にとっては悪い話ではないですが、企業としては大きな経営インパクトです。

飲食店では調理や接客など、人の手により商品やサービスを提供すること、特にファストフードのようなカウンター型モデルよりも、入店、注文、料理提供、お会計が別の場所とタイミングでおこなわれるファミレスや居酒屋などのテーブル型ビジネスでは、より大きなインパクトになっていると考えます。

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例えば、常時スタッフが3人必要な飲食店を100店舗運営するチェーンがあり、営業時間が10時から22時とした時に

3人×204円(10年で上昇した最低賃金)×12時間(営業時間)×365日×100店舗でざっくりと計算すると、10年前から268,056千円の人件費増となります。実際には全員が最低賃金ではないし、営業時間前後の準備時間もあるのであくまで参考ですが、経営の影響が小さくないことは読み取れます。

ちなみに、すかいらーくグループの全店舗数は国内飲食チェーンではゼンショーグループ9,948店(2021年3月末時点)に次ぐ、3,098店(2021年12月時点)。2022年末までにそのうち2,149店舗に配膳ロボを導入すると決算資料で発表しています。


ということを考えていると当然お腹も空きますし、なにより現地現物と言い聞かせて、近くにあるガストへ行ってきます。

注文はテーブル端末で
フロアスタッフの生産性アップに

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まだ全店舗に展開されていないようなので、配膳ロボが導入されているかは運なのですが、私が行ったお店は幸いにもいらっしゃいました。

フロアスタッフの主なオペレーション業務は、ご案内、オーダー、料理提供、お会計、テーブル片付けなどがありますが、2019年ごろからテーブルごとにオーダー端末を設置し、スタッフの注文業務の軽減、非接触を実現しています。

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メニューはグループでワイワイ選ぶときの、一覧性も重要と考えてか、従来の紙のメニューブックも用意されています。

端末での注文は、注文し損ねたり、あるいはスタッフが聞き逃したりしたものを気兼ねなくオーダーでき、デザートやアルコールを自分のタイミングでオーダーもできるので、双方にとってメリットがありそうな仕組みです。

これまで、人がやっていた「お声掛け」も注文後に表示して伝えたり、料理を待っている間にはグループのほかのブランドを紹介する動画が流れ、テーブルでの新しい情報接点としても活用していました。

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お子さんが大好きなコールボタンも一応用意されていますが、押す機会は減ってしまったのよう。そこだけが少し寂しいです。

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エンタメ性とわくわくも
配膳ロボは無機質なサービスではなかった


注文から10分ほどでバックヤードから、なにやらにぎやかな音が聞こえてきたら、配膳ロボの登場の合図です。衝突防止のために音を流しながら移動するのですね。人が近くにいると止まったり、避けたりしているのでしっかり危険回避の教育も受けているようです。

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配膳ロボというと機械的で冷たさやそっけなさを感じてしまいますが、ご覧の通り、猫の耳と愛らしい目が。子供のお客さんも多いファミレスだからこその気遣いで、見ていても飽きないエンタメ性があります。

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人の歩行スピードよりは少しゆっくりですが、そこも可愛げがあって良いです。目指すテーブルに到着したら停止して「料理をお届けしました」とのお声かけ。料理を置く棚は4段になっていて、同時にたくさんの料理が運べるのが強みです。人間であれば左右の手に一皿ずつ持つのが限界なので、キッチンと2往復が必要なところ、猫型配膳ロボであれば1回のお届けで済みます。

お客さんが料理を取り終えて数秒待つか、正面パネルをタッチするとまたキッチンへ戻っていきます。ほかのお客さんも、珍しさからか多くの人がカメラを向けていました。

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テーブルにはご覧の案内も。すかいらーくグループは、卓上コールボタンやドリンクバーなどを日本で導入した先駆けでもあります。生活になじみのない新しい仕組みを取り入れるのは、たくさんの苦労があったと想像します。店舗は日本全国にあり、様々な年代や考えを持ったお客さんが来る場だからこそ、知ってもらう工夫がされていますね。

訪ねたのは平日のランチタイム。フロアスタッフは1人なのに対して、客席には30名ほどのお客さんがいますが、猫型配膳ロボとのチームワークでサービスには全く遅れがない様子です。スタッフは料理をお届けする設定さえすれば手が空くので、レジ対応などの別な仕事に専念していて、明らかな生産性への寄与を感じました。

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前述の決算資料では導入成果が可視化されています。ひとえに生産性というお店側メリットだけではなく、テーブルの片付けやご案内への対応も早くでき、満席時のお待たせ時間短縮につながっているようです。

同卓同時提供と
温度と品質の狭間で

良いこと尽くめな印象の配膳ロボですが、個人的にはひとつだけ懸念を感じていました。料理の温度は最高の調味料とも言われ、飲食店は「熱いものは熱く、冷たいものは冷たく」提供するのが最もおいしく食べてもらうための基本的な考え方。これが4段分を同時に運べる配膳ロボが登場したことで、揺らいでしまわないかという点です。

効率を優先すると、キッチンスタッフは「できるだけ一度に運んでもらおう」という心理が働きます。同グループ3人のご注文であれば、全部出来上がってから配膳ロボで提供することで、一番最初に仕上がった料理と最後に仕上がった料理の時間差が発生。つまり、提供時間が遅れることで冷めてしまい美味しさの質が保たれない懸念です。

そんな心配も杞憂に終わりました。今回私たちが注文した料理は、どれも熱々。おそらく3,000店舗まで展開したノウハウを活かした、品質を下げないルール化もされているのではないでしょうか。

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さて、ガストと言えば皆さんは何のメニューを思い出しますか? 山盛りポテトフライやチーズインハンバーグがよく知られていますが、個人的におすすめのメニューは「スパイスグリルチキン」です。外はカリッ、中はやわらかいチキンステーキで、ボリュームもあるので未体験の方はぜひ食べていただきたいです。

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企業だけでなくお客さまへのメリットも

飲食店でアルバイトの経験がある方はご存知と思いますが、ホール業務はスタッフ自身でコントロールできない業務がほとんどです。テーブルの注文を受けている間に、別のお客さまがが会計にいらっしゃるなど、同時に対応すべき業務が偶発的に発生するのがこれまででした。

これからは、テーブルオーダー端末、料理配膳ロボがあることで、同時作業が発生するのを大きく減らせます。それにより、混雑状況によってスタッフ3名だと余るが、2名だと遅れが生じるという場合でも、1人で対応できる可能性があります。。

まさに配膳ロボは人口減少により労働力の確保や最低賃金上昇により人件費高騰を解決する一手に。結果的には、お客さんも待ち時間が減り満足度が高まることも想像できます。そんなことを感じたガストでの時間でした。


報道や飲食店経営者からは、「コロナが落ち着いた後も従前の客数、売上には戻らない」という声も聞かれます。この2年で生活様式が変化し、大人数での食事の機会が減ったり、自宅で料理する楽しさやテイクアウト、宅配という利用方法も浸透しました。

その中でどう生き残るか。固定費が大きく利益率が低い飲食業界は、一般的にコストを大きく減らすのが難しいと言われています。その中で、人件費を抑えるための大胆な工夫が配膳ロボにはありました。チェーン店など資本がある企業が導入し、この先は中小規模チェーンにも広がっていくことが想像されます。どんどん変革する飲食の現場から、目が離せません。

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著者情報

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よしだけいすけ
2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
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