
展示会・イベントレポート
フードロボットは敵か味方か。最新動向と飲食業界の未来像
非接触サービスの実現や効率化の観点から、配膳ロボットや調理ロボットなどのフードロボットが飲食店に導入されるケースが増えています。2022年2月16日に開催された「SKS Japan Focus Session」では、フードロボティクス専門メディア「Ottomate」の創設者クリス・アルブレヒト氏によるセッションが展開されました。フードロボットが飲食業界にもたらす大きな変革とは?クリス氏のプレゼンテーションとディスカッション内容をご紹介します。
レストランテックの最新動向〜フードロボットの現在地
「レストランテックの最新動向〜フードロボットの現在地」では、フードロボティクス専門メディアOttomate創設者のクリス・アルブレヒト氏が登壇。シグマクシス常務執行役でSKS Japan主催者でもある田中宏隆氏と、リサーチ/インサイトスペシャリスト岡田 亜希子氏がモデレーターをつとめました。
コロナ流行により、大きな変革期となっている外食産業とフードロボットの導入。日本市場ではフードロボットをどのように捉えるべきなのでしょうか? 本記事の前半では、クリス氏からのプレゼンテーションをもとに、フードロボットが普及している要因と、それによってもたらされる変化について。後半では「フードロボットがもたらす未来像」をテーマにしたディスカッションの内容をお届けします。
「労働者不足」と「原価の高騰」
飲食業界の深刻な課題とロボットニーズ
クリス氏(以下クリス):私はこの5年間、フードロボティクスを取材し続けて来ましたが、2017年当時スタートアップは数社しかありませんでした。
しかし、ここ数年でその数は急増。2021年9月にフードロボット専門のメディア「Ottomate」を立ち上げました。スタート以来、毎日多くのニュースを発信しています。
なぜ、そのような大きな変化が今起きているのでしょうか。コロナの流行により、飲食業界の労働環境が激変しているのです。
アメリカの労働局によると、2021年10月の飲食産業における労働者数は、2020年2月と比べて80万人減少しています。労働者が確保できないため、米マクドナルドや米スターバックスなどでは、営業時間短縮を発表しています。
さらに、食料品店に行くと食品の価格が非常に高くなっています。
食料油は39%、鶏肉は36%、牛肉は41%も値上がりしており、飲食店の原価にも影響を及ぼしています。
「労働者不足」と「原価の高騰」が深刻な状況にあるため、「病気になることなく24時間働くことができ」「ミスをして食材を無駄にすることがない」ロボットに、大きな注目が集まっているのです。
従業員の働き方を変えるレストラン内ロボット
クリス:では次に、フードロボットの活躍をどこで見る事ができるのか?をご紹介しましょう。まずはレストランの中です。
画像左のフリッピーは揚げ物調理ロボットで、危険な作業から人を遠ざけ、キッチンのソーシャルディスタンスを保つことができます。ホワイトキャッスルやバッファローワイルドウィングスなどのチェーン店に導入されています。
次に、画像中央のXrobotics。1時間に60枚のピザに自動トッピングしてくれるロボットで、従業員は他の作業に時間を割くことが可能になります。
画像右のPUDUtechは給仕ロボットです。キッチンから、指定された席に向かって料理を自動的に運び、帰りは空の食器を運んで帰ってきます。これによって給仕スタッフは一晩中重い食器を運ぶ必要がなくなり、従業員はより多くの時間を顧客サービスに費やすことができるようになります。
普及が始まりつつあるフードデリバリーロボットたち
クリス:米国の大学では、デリバリー・ロボットをキャンパス内などでよく見かけるようになりました。なぜ大学か?というと、米国の大学は敷地が非常に広く、私有地のため法規制との調整が不要なためです。
画像左のスターシップは、現在米国内で22の大学に導入されています。学生はどこにいても食べ物の注文ができ、ロボットが広大なキャンパス内を駆け抜けて、自分がいるところまで届けてくれます。
日本でも同様の試みがスタートしています。三菱電機とイオンモールが共同で、カートケン社の自律走行ロボットによる商品配送サービスの実証実験を開始。2022年1月からモール内でスターバックスコーヒーの商品をロボットが運んでくれるのです。
▶︎参考:「自律走行ロボットによる商品配送サービスの実証実験を開始」
こうした自律走行ロボットが普及するためには、“歩道用ロボット”として歩道や公道を走行できるように、法改正が不可欠です。韓国ではすでに法改正を進めており、今までは車の自動運転と同様のルールでしたが、歩道用ロボットの街中走行が可能になるよう、法改正を進めると発表しています。
さらに、素早く効率的に料理を運べるのがドローンです。歩道用ロボットや車よりも圧倒的に早く、1時間に何往復も可能です。米国のフライトレックスでは、デリバリーゾーン内での配達サービスを提供。法改正が進めば急速に普及することになるでしょう。
箱に入った未来のレストランがもたらすもの
クリス:次はこちらのスライドをご覧ください。画像左にはNommi、右上にはKarakuri、右下にはRowokという文字が書かれた大きな箱のようなものが映っていますね。これらはいずれも「ロボットのようなレストラン」つまり、これ自体がレストランとなっているのです。
Karakuriの例をご紹介しましょう。この中にヨーグルトやフルーツ、パスタ、肉類などさまざまな食材を入れておくことができます。
人々が注文すると、ロボットがこの中の食材を使って調理してくれます。24時間稼働しているので、朝ごはんにヨーグルトパフェを注文し、ランチにまた別の料理を注文することも可能。多様な食体験を提供できる「箱に入ったレストラン」なのです。
これは、レストランにとっては大きな変革です。新しく大きな店舗を建設することなく、ブランドを拡大することが可能になるのです。多くのレストランにとって、新たなビジネスチャンスをもたらし、ブランドの在り方を変えることになるでしょう。
私はこうしたサービスがオフィスビルや、空港、乗り換え駅などのハブスポットから出回っていくことになるだろうと予想しています。
ロボットの普及によって生まれる新たなビジネスの形
クリス:ロボットによるユニークなビジネスモデルをさらにご紹介しましょう。
サンフランシスコにあるディッシュクラフトは、ロボットによる食器洗浄サービスを提供しています。
汚れた食器を積み上げて置いておくと、汚れた食器を取りに来て、同時にきれいな食器を入れ替わりに置いていきます。回収された食器はロボットが洗浄し、積み重ね、別のユーザーに配送されていきます。
つまり、食器はつねにサービス利用者内で交換されていきます。あなたは食器を購入する必要も、洗う必要もなく、「サービスとしての食器」にお金を払うようになるのです。
また新たなビジネスモデルとして、エクイティクラウドファンディングという、資金調達と株式発行をクラウドファンディングで行う仕組みもユニークです。
Piestroというピザのロボットレストランは、2020年に2,100人から約5.5億円の資金調達をしました。この2,100人は会社の成功に積極的に興味を持っている人たちです。宣伝してくれたり、実際に場所を持っている人であれば設置場所の提供、レストラン経営者は共同ブランディングなどをしてくれます。
フードロボットを活用したレストランは、人々にとって共感しやすいストーリーを持っています。今後もこうしたケースは増えてゆくでしょう。
生活者から見たフードロボットの体験と広がり
田中:素晴らしいプレゼンテーション、ありがとうございました。
ロボット領域の革新がこれほど急速に進んでいるという事実に、私たちは驚いています。
「サービスとしての食器」というビジネスモデルでのロボットのあり方は、今までのフードロボット分野にはなかった要素でもありますね。
田中:生活者の目には、キオスクや自動調理販売機のようなものは目新しく映るでしょうね。一方で、こうしたマシーンで作られた食品について、生活者はどのように感じているのでしょうか?
クリス:最初は「おー!ロボットがクッキーを焼いてる!」といった目新しさがあります。ですが、新鮮さは徐々に失われるため、食べ物がおいしいことがとても大切です。
逆に料理がおいしければ、いつでもどこでも柔軟にロボットに注文することができます。その手軽さを体験できれば、人々は着実に顧客になっていきます。
田中:大学のキャンパスでの導入例が非常に多いとおっしゃっていましたが、アメリカの日常生活においてロボットの浸透は、今後どうなっていくでしょうか?
クリス:アメリカの大学では、ロボットを非常によく見かけます。学生、教職員などキャンパス内には何千人もの人がいて、食を提供するサービスや場所もあり、歩道も幅広くなっています。
そのため、大学のキャンパスには配達ロボットをはじめ、自動販売ロボットやその他の種類のロボットも導入されはじめています。これらは設置面積が少なくて済むため、寮やアパート、空港、駅、オフィスビルなど、どこにでも設置できるため、今後さまざまな場所で導入されていくでしょう。
田中:今回のカンファレンスでは、ホテルやレストラン業界の方々が多く参加されています。このようなフードロボットを展開する際の具体的なケースについて教えてください。
クリス:ホテルは、この分野において非常に大きな存在になるでしょう。
ホテルでは軽食を提供することがありますね。
Cafe Xのようなロボットバリスタマシンを設置すれば、淹れ立てのコーヒーを提供できますし、マイクロベーカリー・ロボットLe Bread Xpressは、クロワッサンやバゲット、パスタなどを提供可能です。ホテルは大規模な施設やスタッフを雇用することなく、コンチネンタル・ブレックファストのようなバラエティ豊かな食事を提供できるようになります。
さらに、ロビーにはロボットのバーテンダーを設置して、昼間はコーヒー、夜はカクテルなどを提供するのもとても良いと思います。
田中:現在、それぞれのロボットはバラバラなプレイヤーによって開発されていますが、今後は連携したり、プラットフォーム化されていったりするのでしょうか?
クリス:そうですね、自動販売ロボット同士の相乗効果を生み出すチャンスはあると思います。
例えば、コーヒーのロボットを置いたら、パン屋さんのロボットを隣に置いてみましょう。
「さっきコーヒーを買いましたよね。QRコードをスキャンして、このロボットからお菓子を買ってみませんか?」といったコミュニケーションを図れるようになります。
クリス:同様に面白いと思うのは、宅配ロボットと自販機ロボットが繋がると言うアイデアです。トルコでは、ビル内で完結する「スピーディーマーケット」の導入が増えてきました。
ビルの住人が「スニッカーズバーとコーラが欲しい」と注文をすると、地下にあるコンビニでロボットが宅配用のロボットに商品を渡し、ロボットはビル内を歩き回り、自分でエレベーターに乗り、部屋の前まで来てくれるのです。
このように「ロボット同士が連携してサービスを提供する」というアイデアは、今後も具現化していくでしょう。韓国のWoowa Brothers社は、現代自動車やHDCI-Control社などと協力して、ロボットがエレベーターに乗り込み、フロアをまたいでビル内を移動し続けることを可能にしています。
レストラン業界にロボットは何をもたらすのか?
田中:シェフにとってロボットは仕事を奪う敵なのでしょうか?味方なのでしょうか?
クリス:とても素晴らしい質問ですね。
食とロボットの話になると、多くの場合、「ロボットが仕事を奪い、ロボットがすべての食事を同じようにしてしまう」という話に陥りがちです。
ロボットは、間違いなく仕事を「引き受ける」でしょう。それは間違いない事実であり、人々は新たに働く場所を見つける必要があります。
例えば私が空港にいるとしたら、ピザが手作りである必要はありません。
時間通り終わることが大切なのです、そうすれば飛行機に乗ることができます。
ですが、もし外出するのならおいしい食事を楽しみたい。
ロボットが作った毎回“完璧に同じ”ものではなく、手作りの微妙なニュアンスや不完全さなどを味わいたいのです。
こうした2つの異なるタイプの体験をしたいと思うので、1つのタイプがあるからといって、もう1つのタイプが存在しないとは限りません。ロボットが働きやすい場所と、人間が働きやすい場所があるため、変化が起きていくでしょう。
また別の例として、シェフと話した際にわかったのですが、何かを考えるのではなく、自分で作業をしなければならない場合には、嫌なものがあるようだ、ということです。
例えば、トルティーヤを作るとしましょう。ずっと座って作ったり、一晩中トルティーヤを作る人を雇いたくはないですね。
もし、自分が作ったものをロボットに再現させられれば、他のやりたいことに集中できるようになるため、魅力的に思うでしょう。
岡田:日本市場ではフードロボットをどのように捉えるべきでしょうか?日本でも労働力不足や原材料の価格も上昇していますが、日本ではまだまだフードロボットやテクノロジーの情報にあまり馴染みがありません。
クリス:まずはOttomate.newsにサインアップしましょう!(笑
私が日本に滞在した時に気付いたのは、思い描いていたよりも、フードロボットがあまり存在しないということでした。
ロボットを使った配達などは、東京の人口密度などを考えると難しいのかもしれません。
ビジネスを立ち上げたり、拡大するには自動販売ロボットが非常に有効な手段だと思います。場所を探す必要も無く、建物を建てる必要もない。ビルのロビーや駅の構内などに、自動販売ロボットを設置すれば良いのです。東京には、そのような場所がたくさんあると思います。
クリス:日本では、ラーメンの自販機ロボット「ヨーカイ・エクスプレス」が渋谷に設置され、どのように進化していくのか非常に楽しみです。
フードロボティクス、そしてフードやオートメーションは、外食産業のキラートピックの一つです。さまざまな国でソリューションが増えてきていますし、日本への導入や日本発のプロダクトが増えることを期待しています。
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著者情報

- 住 朋享
- 2015年クックパッド入社。世界一のユーザー投稿型レシピコミュニティとIoT家電を繋ぎ、未来の料理体験を生み出すスマートキッチン関連事業の立ち上げと、クックパッド社内の新規事業制度設計、投資基準策定及び運用をおこなっている。2020年より東京大学大学院非常勤講師として新規事業教育に携わる。