1千兆円市場に向け OPEN MEALS榊氏が描く食の未来

1千兆円市場に向け OPEN MEALS榊氏が描く食の未来

3Dプリンターによる転送図示など新たな食の可能性を追求している、OPEN MEALS クリエイティブディレクターの榊良祐氏。テクノロジーの飛躍的な進化によって、今後レストランでの食体験はどのように変化するのでしょうか。テクノロジーによる外食産業の体験価値向上をテーマに、2022年2月16日に開催された「SKS Japan Focus Session」。榊氏が登壇した「新たな食体験の実現~Food Singularity」の発話内容をご紹介します。

「新たな食体験の実現~Food Singularity」

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「新たな食体験の実現~Food Singularity※」には、OPEN MEALS クリエイティブディレクターの榊良祐氏が登壇。榊氏はクリエイティブディレクターとして電通に所属するかたわら、フードテック・クリエイティブ集団「OPEN MEALS」を2016年に立ち上げ、未来の食体験を発信しています。また「Future Vision Studio」の代表として、企業と連携しながら未来の可能性を可視化する活動にも取り組んでいます。

本記事では榊氏によるプレゼンテーション「ビジョン起点の社会実装と食の場の可能性とは?」のスライドシェアを中心に、モデーレーターの株式会社シグマクシスのリサーチ/インサイトスペシャリスト、岡田亜希子氏との発話内容を併せてご紹介します。

※Singularity=英語で「特異点」の意。「人工知能(AI)」が人類の知能を超える転換点(技術的特異点)、または、それにより人間の生活に大きな変化が起こるという概念を指す。

VUCA時代に求められるビジョン起点で描く食の未来

榊氏は、自身が手がけるOPEN MEALSでの活動を交えながら、食産業で起きている変革についてプレゼンテーションを展開。「VUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)」の時代に必要なのは、経験やバイアスを外して、飛躍的な発想で未来のビジョンを描き、バックキャストして「では何ができるのか?」を考えることだと語ります。

榊氏(以下、榊):「レストランの飛躍可能性を考える」というテーマで、私のプロジェクトと食の場の飛躍可能性についてご紹介します。

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OPEN MEALSとは?

榊:OPEN MEALSは、食とテクノロジーとアートを掛けあわせた、22世紀の食産業を共創するフードテックのクリエイティブチームです。2016年の立ち上げ以降、各領域のスペシャリストと連携しながら、「Sushi teleportation(転送寿司)」や「Sushi Singularity」をはじめ、7つのプロジェクトを立ち上げました。国内外のカンファレンスやミュージアムに出展し、28か国・500超のメディアに掲載されるなど、新しい食の可能性を構想・発信しています。

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「22世紀の幸福な食文化を共創する」をテーマにさまざまな企業や研究者などと連携し、アートプロジェクトの作品を発表したり、未来に向けた事業開発を進めています。

「食産業」に起こる4つの変革

榊:次に、食産業で何が起きているかについてお話しましょう。

ひとつ目は、市場規模の爆増です。世界規模での人口増や、新興国の生活レベルの向上による“新しい食のニーズ”に対応すべく、市場規模が拡大。農林水産省のデータによると、世界の食の市場規模は、2015年時点で890兆円だったのに対し、2030年には1,360兆円に迫るとされています。私たちの調査では、そのうち5%しか食の現状に満足していないという結果もあり、かなりの潜在市場があると考えられます。

2つ目は、フードテックの急速な進化です。外食産業でもレストランテックの進化が著しく、みなさんこの進化に対応している最中だと思いますが、これからさらに変化は加速していくでしょう。

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3つ目は、生活者が食に求める価値の変化です。単においしいものを食べたい、栄養を満たしたいというだけでなく、「まわりとつながりたい」「自己表現したい」「誰かの役に立ちたい」といった、新たな価値が食に求められています。

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参照:「DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法」からの抜粋資料。カーボンニュートラルに向けた100の方法のうち、赤でマーキングしているのが食産業に関わるもの。

そして4つ目が、地球環境への対応の必要性です。カーボンニュートラルの実現に向けて、必要とされる変革のうち、食産業に関わるものが多くを占めています。食産業に求められる責任が最も大きい分、インパクトも大きくなるのです。

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いわゆる「VUCA(Volatility=変動性、Uncertainty=不確実性、Complexity=複雑性、Ambiguity=曖昧性)」の時代。未来は一切予測不可能であり、過去の経験や常識が通用しない時代に突入していきます。「未来はいまの延長線上にはない」ということを認識した方がいいでしょう。

こうした中で、どのように未来を描いていくのか。いったん経験やバイアスは外して、飛躍的な発想で未来のビジョンを描き、そこからバックキャストして「では何ができるのか?」を考える。こうした手法が主流になりつつあります。「未来は一人の妄想から生まれ、社会の選択が育てる」と、私は考えています。

「食の場」の飛躍可能性〜フレームワークから導く未来のレストラン

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プレゼンテーションではさらに、Future Vision Studioのフレームワークを活用した「未来のレストラン」の3つの形を紹介。多視点で蓄積した約7億件の未来予測データに、クリエーターの発想や想像力を掛けあわせることで、飛躍的でありつつリアリティもあるビジョンになっている、と榊氏は述べました。

自動運転×水素エネルギー×地方移住者の増加=旅する天ぷら屋

榊:最初にご紹介するのは、「旅する天ぷら屋」です。

「自動運転」×「水素エネルギー」×「地方移住者の増加」の掛け合わせから構想したレストランです。2030年には完全自動運転が浸透し、店やサービスが移動する時代になると言われています。リモートワークの加速によって地方へ移住する人も増えていくでしょう。

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旅する天ぷらやは、最適なロケーションに自動運転で移動し、沖合の船からドローンによって新鮮な食材が直送されます。このレストランは「場所に縛られることなく、豊かな食生活が楽しめる」というビジョンが起点になっています。

究極の地産地消「寿司シンギュラリティ」

榊:次にご紹介するのは、環境負荷ゼロのレストラン「寿司シンギュラリティ」です。

レストランに「フードプリンター」「細胞培養」「人工農業」といった新しい食の製造方法と、トレンドの「環境意識の高まり」「健康意識の高まり」を掛けあわせてみました。食産業が排出する温室効果ガスは、全体の1/3を占め※、そのうち3割は輸送や廃棄により発生すると言われています。それをなくす方法は究極の地産地消である、という考えがベースになっています。

※世界中で人為的に排出される温室効果ガスの⅓
関連資料:https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/ac018e/pdf

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「寿司シンギュラリティ」は、カウンターの奥に3Dプリンターやロボットアームといった製造マシンを設置。ネタは細胞培養や3Dプリンティング、AIバーティカルファーミングによって、店内で栽培から製造、加工、調理、提供の全てが完結し、フードロスを削減。さらに、ユーザーのヘルスデータを用いることで味や量が最適化されます。

自宅にいながら世界と繋がる「ワープ・ダイニングブース」

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榊:
最後は、仮想空間レストラン「ワープ・ダイニングブース」、家の中がレストランになるという構想です。

レストランに「VR」「6G高速通信」「リモートワーク増加」「単身世帯の増加」を掛けあわせたアイディアです。2040年には、日本の単身世帯は40%を超え、男性の3割が生涯未婚になると予測されています。さらにリモートワークの増加で直接人に会う機会が減り、孤立や孤食、メンタルヘルスの話題が増えると言われます。そこで、VRや通信技術を用いることで、食が人をつなげる役割が強まると考えました。

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単身者用の住宅では、あらかじめ食事用のVRブースが備え付けられるでしょう。ブース内は温度や湿度、香りが変化し、ヘルスデータが蓄積され、好みや健康に最適化された料理が提供されるように。VR空間では世界中から人が集まり、一緒にいるかのように食事を楽しめるのです。翻訳技術の発達で言葉の壁もなくなり、通信速度の向上で、現実とほぼ遜色ない会話も可能になります。まさにメタバース空間のレストランです。

未来の食体験を実装する
ビジョンドリブン型プロジェクト「Museum of Eats」

プレゼンテーションの最後には、OPEN MEALSがシグマクシスと準備を進めるプロジェクト「Museum of Eats」が紹介されました。劇的な変化が求められる食産業において、未来のために今何を始めるべきなのか。産業の垣根を超えたスペシャリストたちが集い、ありたい未来のビジョンを妄想しながら、共創し、実装し、発信していく。そこから22世紀の幸福な食文化へと繋がる“確実な兆し”を創出していくプロジェクトです。

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榊:
Museum of Eatsはレストランであり、ミュージアムやラボであり、議論の場でもメディアでもあるという、これからの食の可能性を詰め込んだ場であり、未来です。

食べるだけでなく、ワークショップや食のR&Dやカンファレンスなども開催することで、プロダクトが生まれることもあるでしょう。

食体験の場も劇場型など、「その一皿に至るまでの背景や課題」をプレゼンテーションでき、「おいしい」以外の価値観を多く生み出す場になればと思います。

Museum of Eatsの開発や実装においては、食と人との接点であるホテルやレストラン、そしてコンセプトを具現化するシェフの力が不可欠です。ぜひ、私たちとご一緒していただけたらと思います。

未来の食産業には何が必要か

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榊:
プレゼンテーションの最後に、未来の食産業において重要になっていくテーマについてお話しします。

重要なのは、Regenerative・Personalize・Convivially・Metaverseの4つだと考えています。

1つ目の「Regenerative」は環境再生です。持続可能を超え再生していくこと。そして、100年後も人類全体が豊かに食べるためには、何が必要なのかというテーマです。

2つ目は「Personalize」、個人最適化です。既に多くの企業がビジネスとして取り組んでいますが、栄養だけでなく、一人ひとりの満足や幸福を最適化するには何が必要なのか。

3つ目は「Convivially」、自立共生です。フードテックが浸透していくからこそ、人とテクノロジーが調和した未来や食文化のあり方を考えるテーマです。

最後が「Metaverse」、仮想現実です。リアルとバーチャルが融合し、その両方が重要な食の場になっていくなかで、仮想空間での幸福な食文化を考えていきます。

「Museum of Eats」が提供できることは、外食店に対しては「発想を広げた新しい価値の発見」「新たな食体験やビジネスの可能性模索の検証」「生活者と企業との新しい接点の場を提供」です。

シェフには「スキルの活躍の場の発見」「価値・役割のリデザイン」「テクノロジーや社会変化に合わせた新たな食ジャンルの開拓」を。

企業には「異能・クリエイティブにインスパイアされ、新たな事業ヒントを得る」「事業化判断前の検証を市場テストで行い、生活者へのメッセージを磨く」といったことをご提供できるでしょう。

ぜひ、未来の食文化を一緒につくり、実装につなげたい繋げていければと考えています。

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幸せで未来に残したい食文化を

岡田氏:ありがとうございました。榊さんが発信するビジョンは、テクノロジーだけでなく、食べる人や作り手の視点がきちんと入っているのが特徴的だと感じます。改めて、榊さんが食産業の人たちと一緒に届けたいものは何なのかお聞かせください。

榊:「Well-being(ウェルビーイング)」、幸福です。テクノロジーによる新しい食の実現だけでなく、それは本当に幸せで未来に残したい食文化なのか、利害関係も含めさまざまな産業や知見に基づいた議論を重ねたいです。そのうえで、まだ誰も見つけていないものを見出し、体験してもらってさらに磨くというプロセスを繰り返すことができれば、「Museum of Eats」が世界に向けた新しい食の発信や、実装の場になると思っています。

テーマが決まっていなくても、「新しいことに挑戦したい」という漠然とした状態でもいいですし、具体的に「こんな技術があるけれど、どう使える?」でもいいです。いろいろな関わり方をしていただけると、面白くなると思います。ビジョンに興味があるかたは、ぜひお声がけください。

▶︎OPEN MEALS 榊良祐さんへのお問合せはコチラ
team.openmeals@gmail.com

writing support: Sachie Mizuno



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