
展示会・イベントレポート
社会課題解決から体験価値向上へ フードロス・アップサイクルの現在地と可能性
食産業の中で、大きな課題となっている食品ロス。地球環境への貢献に繋がることから、本格的な事業戦略として取り組む企業も増えています。2022年2月16日に開催された「SKS Japan Focus Session」では、「フードロス・アップサイクルの可能性」と題したセッションがおこなわれ、社会課題の解決だけでなく、新たな体験価値を生み出す可能性について議論されました。CALCU代表取締役社長の金子隆耶氏、コークッキング取締役CPOの伊作太一氏、CRUST JAPAN General Managerの吉田紘規氏の発話内容を紹介します。
フードロス・アップサイクルの可能性
「フードロス・アップサイクルの可能性」には、CALCU代表取締役社長の金子隆耶氏、コークッキング取締役CPOの伊作太一氏、CRUST JAPANゼネラルマネジャーの吉田紘規氏が登壇。株式会社シグマクシス常務執行役でSKS Japan主催者でもある田中宏隆氏がモデレーターをつとめました。地球規模の課題となっている食品ロスの削減について、登壇者の取り組みと今後の可能性についてセッションが展開されました。
本記事の前半では、登壇者によるプレゼンテーションのスライドシェア、後半ではパネルディスカッションでの発話内容をまとめて紹介します。
※「フードロス」「食品ロス」表記についてセッションタイトルはグローバル視点から「フードロス」と表記しております。発話内容や登壇者スライドについては「食品ロス」で統一しております。
外食を起点に 新たな社会課題解決のアプローチ
田中氏(以下、田中):現在の食産業は、大きなロス産業でもあります。世界のフードシステムの年間市場価値が1千兆円あるなかで、1千2百兆円ものコストがあると言われています。つまり、2百兆円の赤字です。
これが2019年にアメリカで発表されると、食品産業に携わる多くの企業が危機感を持ちました。自分たちは価値を生み出したつもりが棄損していた、と理解したからです。加えて2021年に発売された書籍『DRAWDOWNドローダウン― 地球温暖化を逆転させる100の方法』でも、提示された100の方法のうち、「食料廃棄の削減」が、「CO2削減量ランキング」において第3位になっており、非常にインパクトのある方法であると書かれています。そこで、食品ロスの削減が地球環境に大きく貢献するという認識のもと、さまざまな企業が本格的な事業戦略として取り組み始めています。本日は、食品ロス削減のフロントランナーの方々に登壇いただきます。
次世代ダストボックスで
食品ロスを可視化し、事業利益最大化
金子氏(以下、金子):私たちは、次世代ダストボックス「CALCU(カルク)」で、食品ロス問題に取り組んでいます。コンセプトは、「捨てる」から「測る」へ、だからもっと「軽く」なる。
環境省のデータ※では、2018年度の日本の食品ロスは約600 万トン、そのうち324万トンが事業系と推計されました。私たちはこれをまず可視化して分析し、発生を抑制することで、企業の事業利益最大化を図ります。
金子:ダストボックスに重量器とAIカメラを設置しIoT化することで、なるべく人の手をかけずに食品ロスの可視化を実現しています。生ごみを入れると重量測定と画像認識され、ダッシュボードで分析結果を提示。肉・野菜・魚・穀物・乳製品といった食材カテゴリーに加えて、食材廃棄や食べ残しなど生ごみの内訳、食材費ロスなどもデータ化します。発生要因や改善ポイントがわかることで、ロスの削減に繋がり事業利益の最大化を図るのです。
金子:多くの実証実験先にご協力をいただくなかで、今後はホテルやレストランに対しても導入を進めていきたいと考えています。日本では、当社のようにダストボックスやロスの発生抑制をメインとする企業はまだありませんが、海外ではイギリス、スイス、アメリカに先行事例があります。およそ8%の食材費削減や、50%ほどの食品ロス削減が実現されており、これをベンチマークにしながら事業を進めています。
店と生活者をつなぎ食品ロスをレスキュー
伊作氏(以下、伊作):私たちはフードマッチングアプリ「TABETE(タベテ)」を開発・提供しています。食品ロス削減のなかでも、特にパン屋やホテル、スーパーといった食品小売りにおけるロスの削減を目的とし、一般生活者向けのアプリを用いて、ユーザーと店とをマッチングするプラットフォームを提供しています。
伊作:ユーザーは、TABETEのレスキュー隊として、食品ロスの削減に貢献していく仕組みです。アプリでは、さまざまな店からの「レスキュー依頼」が舞い込み、ユーザーは、理由も含めてロスの内容を理解し、「今日は帰りに渋谷に寄るから、これをレスキューしよう」と「レスキュー予約」をします。予約時間に来店し、商品を受け取りレスキュー完了です。
完全成果報酬型のビジネスモデルで、レスキューの成立=食品ロスの削減が完了した段階で、一部を手数料としていただいています。
伊作:TABETEの一番の特徴は、ユーザーのエシカル意識が高いことです。2020年のユーザーアンケートでは、登録・使用している理由の第1位が「食品ロスの削減」でした。出品する店側も、TABETEを通じた販売であれば、自身のブランドを棄損することなく食品ロスが削減できると考えているところが多い印象です。
ローンチから3年で、ユーザーは50万人を突破。これまで26万4千食、換算すると132トンの食品ロス削減に貢献しています。マッチング率はおよそ50%で、参加店舗数も2,100近くまで伸びています。大手法人の参加や自治体との連携事業など、幅が広がっています。
伊作:私たちが目指すのは、“食品小売りのあり方の改革”です。サービスを通じて食品業界のDXを進めるとともに、ユーザーの買い方も変革が必要な段階に来ていると感じます。単なる値段の安さだけでなく、食品ロス削減やSDGsへの貢献を考える生活者が、「商品がどのような背景で店に並ぶのか」を意識しながら購入できる仕組みを、TABETEというサービスを通じて構築しています。
おいしいアップサイクルで、
2030年までに世界の食品ロスの1%を削減
吉田氏(以下、吉田):CRUSTは2019年にシンガポールで創業した企業です。日本法人は2021年2月に立ち上がり、4月にマクアケを通じて、食品ロスのパンを原料としたクラフトビールを日本で初めて発売しました。
CRUSTのミッションは、2030年までに世界の食品ロスの1%を削減すること。そのカギとなるのが、アップサイクルです。
食品ロスを原料としたアップサイクル商品を外食産業や小売り、ホテル業の皆さまに提供。さらに原料(食品ロス)の供給元、製造業者、小売業にとっては、販売収益だけでなく食品ロスの削減がもたらされます。生活者や株主にとっても、サステナブルな活動をしているというアピールポイントが得られ、株主総会やIRの強化にもつながります。
コロナ禍で多くの企業が、それまで他人事だった食品ロスの削減を、自分事としてとらえるようになったと感じます。アップサイクル商品が店頭に並び、それを手に取ることで、食品ロスを自分事としてとらえるきっかけになればと思います。
吉田:アップサイクル商品は、「おいしいこと」が非常に重要です。もちろんSDGsへの貢献や、ソーシャルグッドであることも大切ですが、味と意義の両方が備わることで付加価値になります。「この前飲んだビールは、地球環境によくておいしかった。だからもう1回買おう、誰かにプレゼントしてみよう」という気持ちがわくような食品をつくっていきたいと考えています。
今後は、クラフトビールに加えて、ノンアルコール飲料や、ビールの残渣から作られるおいしいパンケーキミックスも販売するので、食品ロスをなくすためのフードテック企業ととらえていただければと思います。
食品ロス削減の現在地は?生活者・事業者の認識の変化
登壇者のプレゼンテーションが行われたのち、後半は食品ロスをテーマにしたディスカッションが展開されました。田中氏からの「食品ロス削減に取り組むなかで、生活者や事業者の認識の変化をどれぐらい感じていますか」との問いかけには、ここ1〜2年で意識の変化を実感しているとの回答が。
伊作:世の中の空気感は、ここ1、2年で特に高まりを感じます。認識の変化は、表裏一体で生活者と企業の相互作用によって、認識が浸透していくのかなと。特にZ世代の人たちは、商品やホテルを選ぶ際に「環境への配慮」が基準にあります。「うちも変わらなければ」という企業側の焦りが生じていると感じます。
3年ほど前に、恵方巻による食品ロスなどの問題がSNSで話題になりました。そこから意識する人たちが増え、食品ロスの削減に配慮することの方が、自分たちのブランディングになるという意識の転換が起きたと感じます。
金子:私は、むしろ二極化していると感じます。「食品ロスの削減」にはまだまだ予算が出にくい企業もありますが、担当者が頑張って、社内で話を通してくれるケースもあります。
また、これまでのSDGsに加えてESGの観点も加わってきました。例えば新しい商業施設を建てる際などに、企業がESG投資の文脈で、いかに多くの資金調達ができるか。特に大企業が力を入れており、今後1〜2年でまた大きく変わっていきそうです。
吉田:お二人と同じく、特にこの1〜2年で変化を感じています。商談の中でも、情報量や自発的な発言が明らかに増えていたり。以前は、食品ロスの提供を公表したくないという企業も多かったのですが、2021年11月に発表した「パンからつくったペールエール」では、パンを提供するメゾンカイザーから、「うちの名前を出してもいいですよ」と。せっかくやるなら“隠すよりも公開したほうがクールである”と、企業の思考が切り替わったのを目の当たりにし、まさに時代の潮目にいると感じました。
食品ロス削減・アップサイクルの最大のボトルネックとは
田中:それぞれの立場で食品ロス削減やアップサイクルを進めるうえで、最大のボトルネックは何だとお考えですか。
金子:2点あると思います。1点目は「おいしさ」です。2点目はタッチポイントの設計だと考えています。ユーザーに食品ロスを認識させることなく、「おいしいものが、気がついたら食品ロスからできていた」という状態になることで、エシカル層にとどまらず幅広く手に取ってもらえる商品になると思います。
吉田:私も2点です。1点目は、商品の納入期間。「3分の1ルール」が社会問題にもなりましたが、既存の慣習によって賞味期限が残っているにも関わらず棚に置いてもらえない状況があります。食品ロスの削減という意義ある商品は多少わがままを言ってでも、店頭設置期間を長くすることが大切だと感じています。
もう1点は、売場に「アップサイクル商品」の棚を作ってもらうこと。専用の棚があることでメッセージも伝わりやすくなりますし、食品ロス削減への意識を持った人たちに届きやすい場ができるといいと思います。
伊作:私も2点あります。まずは続けられる仕組みです。一過性のイベント的な体験は、きっかけとしては大切ですが、そのうえで、無意識にアップサイクルが日常生活に組み込まれているような仕組みが必要です。そのために、新しい形の消費を支援するような商品やサービスといったものを作るべきだと考えます。
また、法改正や業界全体のアクションといった、もう少しトップダウンのようなアプローチがあってもいいかなと感じます。いずれ大きな動きが来ると思うので、その動きの見きわめが必要だと、現時点では考えています。
キーワードは「地域」トップランナーの構想
田中:世界的な論調として、現状のフードシステムの中で食品ロス問題を解決することには限界があるのではと言われています。バリューチェーンが上流から下流まで分断されていて、例えばスーパーの棚も商品部門別に分けられており、みんな身動きできなくなっているというのが私の見立てです。
そのなかで、新しいエコシステムの構想や妄想など、いま考えていることはありますか。
金子:私たちはダストボックスを通じて、外食産業の食品ロスを可視化・分析するというアプローチをとっていますが、もう一段上にも行けると思っています。ごみ回収の管理会社のDXを進めれば、ごみの量や内容だけでなく、タイミングや場所的な問題も全て把握できます。それが実現すれば、食品ロスの解析だけでなく、「このロスの解決はTABETEが合っているね」とか「この内容だとCRUSTだね」といった、食品ロス削減のプラットフォームになれるのではと考えています。
伊作:私は金子さんとは逆の視点で、バリューチェーンをもっと小さくした方がいいのでは、と思っています。究極的に小さなローカルのなかで消費が進み、食がシェアリングされていく、昔のおすそ分け文化のようなイメージです。単に古き良き時代に戻るのではなく、テクノロジーでアップデートした仕組みを作っていく、そういったビジョンがもっと語られるべきだと思います。
田中:おっしゃるとおりで、いま「地域」は大きなキーワードです。とかく「都市と地方」の文脈で語られることがありますが、「地域」。地域の範囲としてどのくらいの四方で捉えるとよいのか議論はあると思いますが、そこから新しい産業が生まれるのではないかという仮説もあります。
吉田:地域に関しては、私も同じ認識です。食品ロスは偶然生まれるものと必然的に発生するものがあります。それを同時に解決しようとすると、小さなエリアでまとめていくのが理想。たとえば私たちが果物を原料にして作るCROP(クロップ)だと、果物の皮が余るとそこから香料が作れます。香料を作るところ、炭酸飲料に加工するところ、販売するところが近くにあれば、物流コストが抑えられて商品の価格にも落とし込んでいけます。関心がなかった層へのアプローチも可能になると考えています。
具体的なアクションが食品ロス削減に
田中:最後に、本日の参加者のみなさまに向けて一言お願いします。
伊作:食品ロスは、食のバリューチェーン全体の問題で、ここにいる全ての人に関わる問題であり、全ての人に何かしらできることがあります。ぜひ、何かやってみてほしいです。そのために私たちTABETEが何かできることがあれば、お知らせください。
金子:行動を変えることが大切です。これまで当たり前だった行動から抜け出さないと、食品ロスの現状は大きく変わらないでしょう。小刻みでもいいので、次のステップを踏んでもらえれば、世の中が変わっていくと思います。
吉田:CRUSTは食品ロスを減らす企業ですが、私たちだけでできることは限られています。食品ロスの供給元というと食品の工場や小売業が想像しやすいですが、たとえば炊飯器のメーカーが試作品のために炊飯して、それがロスになっているとか、意外なところにまだまだロスがあるのではと思っています。それらを有効活用して、2030年までに食品ロスを1%削減したいと思っていますので、協業できる方がいたらお知らせください。
田中:非常に深い洞察があり、具体的なアクションに結びつく議論だったと思います。ありがとうございました。
writing support: Sachie Mizuno
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- FoodClip
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