
企業・業界動向
東銀座の築地銀だこで「本気のデジタル化」をしたら、何が起きた?
築地銀だこがプロデュースする「ギンダコハイボール横丁 東銀座店」で、店舗のデジタル化が進んでいる。利用客が店内に入ると、まず入口天井のAIカメラが自動で客層を判断。年代や性別、来店時の季節などに合わせてBGMを流す。注文は、利用客がスマホでQRコードを読み取り、モバイルオーダーで行う。そして、注文した料理は配膳ロボットが席まで届ける。会計もクレジットカードやQRコード決済などのキャッシュレスに対応している。
※この記事は[ITmedia ビジネスオンライン([水口幹之]/2022年04月11日掲載)]からの転載記事です。
デジタル化により、店舗運営は大きく変化した。配膳やオーダー、レジでの集計にかかる時間が短縮し、これまでホールには7人のスタッフが必要だったが、5人で運営できるようになった。人手不足が緩和され、忙しい時でも調理に集中できるようになった。
こうしたデジタル化は、東銀座店が開店当初から抱えていた課題に向き合った結果の選択だった。詳しい話を、同店の橋本雅之さん(オールウェイズ社スーパーバイザー)に聞いた。
橋本雅之さん(オールウェイズ社スーパーバイザー)
東銀座は「人材採用が難しい」
ギンダコハイボール横丁 東銀座店は、2019年12月に開店した。当初は、歌舞伎座からほど近い立地を生かして、インバウンド需要を狙った店舗運営を計画していた。
店内は最大で90人ほどが利用でき、築地銀だこの他店舗と比べて広々としている。メニューのバリエーションも豊富に用意したため、運営には十分な店舗スタッフの確保が必要だ。しかし、ここに課題があった。東銀座という立地の関係もあり、人材採用が思うように進まなかったのだ。
橋本さんは「東銀座は住んでいる人が少ないので、人材採用にはかなり苦労しました。また、通常の銀だこよりメニュー数が多い“横丁”形式の店として、料理に力を入れたいという思いもありました。そのため、特にホールの省人化を進めたいと考えていました」
そんな中、20年には新型コロナウイルス感染拡大が始まった。インバウンドの消失、営業時間の短縮や、酒類の提供縮小といった混乱を経験した。利用客からは、非接触のサービスへの要望も寄せられた。
配膳ロボは大人気、人間が残念がられることも
こうした課題を解決するため、同店では店舗のデジタル化を進めた。冒頭にも紹介した、AIカメラによるBGM選定、モバイルオーダー、POSレジ、配膳ロボットといったシステムだ。これらは全て、USENが「まるっと店舗DX」として提供しているものだ。
配膳ロボの「Servi」は、利用客からも人気だ。橋本さんは「『かわいい』という声が聞こえたり、写真を撮る方を見かけたりします。人間が配膳すると、残念がられることもあります」と笑顔を見せる。
ソフトバンクロボティクスが開発する配膳ロボ、Servi
Serviには3段のトレーが備えられており、一度に多数の料理をテーブルに運ぶ。足元の障害をセンサーで自動検知しながら進む仕様で、混みあった店内でも運用できるそうだ。重量センサーにより、客が料理を取れば自動的に元の位置に戻る。一度に複数のテーブルを順番に回るように設定もできる。
PCで事前に設定した動線に沿って動き、タッチパネルから指定した席に料理を提供する。同店では、導入時にロボットが通れるよう、座席配置を調整して動線を設定したという。
多くのデジタル化を進めた中でも、Serviの導入は特にホールスタッフの省人化に役立っているが、橋本さんは全てのホール業務を機械化したいわけではないと説明する。
「機械を入れたことにより、接客の良い点がなくなってしまうという懸念はありました。ロボットを喜ぶ方もいますが、嫌がる方もいます。ホールのスタッフは様子を見ながら、配膳すべき方には配膳して対応しています」
デジタル化で得られた「思わぬ効果」
幅広い業務のデジタル化を一度に進めた形になったが、「導入はスムーズでした」と橋本さんは話す。
「慣れるまで多少の時間はかかりましたが、使い始めたらスムーズでした。調理場のスタッフがホールまで行かなくてすむ分、バタバタとせず集中できるようになりました」
橋本雅之さん(オールウェイズ社スーパーバイザー)
導入の結果、ホールスタッフが7人から5人に削減できたことは冒頭にも紹介したが、成果はそれだけではない。
「システムから、時間帯ごとの売り上げや客層、売れているメニューなどが全てデータとして得られます。それによりスタッフの配置、料理の仕込みの量などを計画的に考えられ、ムダな業務が減りました」と、橋本さんは説明する。これまではそうしたデータの重要性は知りながらも、データを取る余裕がなかったのだという。
また、売れているメニューの傾向がデータで分かることにより、新メニューの開発にもつながっている。
同店では当初、一口ピザなどのタパス料理を提供していた。しかしデータを分析したところ、タパスの売り上げが伸び悩んでいるのに比べ、煮込み料理の売り上げが良いことが分かった。そこで東銀座店オリジナルのメニューとして、煮込み系メニューのラインアップを増やしたそうだ。
データにより、新型コロナウイルスが顧客のオーダーや利用方法にも影響を与えていることも分かった。何件も居酒屋を変えて飲み歩く人が減ったからか、従来より1組当たりの滞在時間が長くなり、客単価も上がっているのだ。
QRコードでのモバイルオーダーの様子
さらに、メニュー選定にも影響がある。
「コロナ禍で、お客さまが、どのような商品をお求めになるかにも変化が現れています。例えば、もともと人気メニューだった焼きそばは、シェアしづらいということもありオーダーが減っています。こうした状況もデータを取ることで一目瞭然になりました。データを取ることの重要性を、あらためて感じています。これからもメニューの入れ替えなど、臨機応変に対応していきたいです」と、橋本さんは意気込む。
コロナ禍で大きな打撃を受けた飲食店だが、同店では、新たな取り組みにより顧客に合わせたメニューの充実、提供する料理の質の向上、接触の少ない接客など、効率化や省人化を実現した。
DXの波は、飲食店にも及んでいる。ウィズコロナの苦境を乗り切るためにも、前向きにDXを推進し、未来に向けた新たな店舗運営への変革が求められている、といえそうだ。
元記事はこちら
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- ITmedia ビジネスオンライン
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