
企業・業界動向
外食にアレルギー対応の効率化を。CAN EATが描く、ひとりひとりの「おいしい」が叶う未来
食物アレルギー、ベジタリアン、健康問題、宗教上の理由などにより「食べられないもの」がある人は、世界に約31億人いるといわれています。食の多様化やヘルスケアへの意識が高まる中、注目を集めているのが、個人の体質や嗜好にフィットした食を提供する“パーソナライズドフード”です。「すべての人の食事をおいしく・楽しく・健康的にする」というミッションのもと、アレルギー管理サービスやアレルギー対応ITサービスを手がける、株式会社CAN EAT代表の田ヶ原絵里氏にお話をうかがいました。
※記事内ではアレルギー=食物アレルギーとして表記しています。
お話をうかがった方
株式会社CAN EAT
代表取締役CEO
田ヶ原絵里 様
人材が流動的な飲食業界に
アレルギー事故が起こらない仕組みを
株式会社CAN EATは、スマートフォンで原材料ラベルを撮影するだけでメニューのアレルギー情報を簡単に把握・検索できる飲食店向けアプリ「アレルギー管理サービス」を展開。またブライダルや宴会などのシーンで、ゲストにQRコードを配布するだけで、正確なアレルギー情報を直接把握できる「アレルギーヒアリングシステム」や食事嗜好のプラットフォームなどを手がけています。アレルギー対応のDXにより、効率化と事故防止を実現できることから、飲食・ブライダル企業などで導入され、メディアからも注目を集める存在です。
株式会社CAN EATが展開するアレルギー管理サービスアプリの使用イメージ
ーーCAN EATでは、「アレルギー管理サービス」や「アレルギーヒアリングシステム」を展開していますが、飲食店やホテルなどでのアレルギー対応については、どのような課題があるのでしょうか。
田ヶ原氏(以下、田ヶ原):飲食店は人材が非常に流動的な環境で、全てのスタッフにアレルギーの知識を行き渡るようにするのが難しい、という課題があります。
実際にあった事故として、マヨネーズが入った商品について、お客さまから「卵は入っていますか」と尋ねられ、アルバイトスタッフが「入っていません」と答えてしまった、という事例があります。マヨネーズが卵からできているという知識がない故に起こった事故です。
飲食店は高校生アルバイトから海外の方まで多くの人が入り混じって働き、1〜2年という短いスパンで入れ替わりがあります。アレルギー対応の重要性や意識は高まっている一方で、なかなか現場のスタッフまで細かく教育が行き届かないのです。
実際にアレルギー対応の研修を受けるマネージャークラスの方でも、28品目分全てのアレルゲンの情報や特性を覚えているのは難しく、知識を学んだからといって、すぐに対応できるわけではありません。サービスのスタッフとしては、アレルギーをお持ちのお客さまに対して「お迎えしたい」という意識はある一方で、「対応方法がわからない」というジレンマを抱えている印象です。
ーーそうした課題がある中で、「アレルギー対応サービス」は革新的なサービスですね。どこから着想を得たのですか。
田ヶ原:前職で3Dフードプリンターなどの事業にたずさわっていた経験から、「食のパーソナライゼーション」領域への興味を持っていました。栄養状態や健康状態、個人の味覚などにフィットした食べ物が自動で提供されるようになれば、人が我慢しなくても、食を通して自然と健康になれる世界を実現できるのではないかと考えていたんです。
事業化するにあたり、「食のパーソナライゼーションを本当に求めているのは誰だろう?」と突き詰めて考えていきました。家族が米アレルギーに罹患して、外食を楽しみにくくなった経験もヒントとなり、アレルギーを持つ人が快適に食事を楽しめるサービスの提供に、可能性を感じました。
「アレルギーがあります」という話をすると、アレルギーの種類や程度など、確認すべき事項も多く、センシティブな問題になります。飲食店側としては、アレルギーのある人を歓迎したい気持ちはあるものの、オペレーションなどの部分で負担になるケースもあります。一方で生活者にとっても、外食をする際に食べられないものがあることで、お店が限られたり、コミュニケーションが増えることでストレスが生じることも。双方にとってより良いアレルギー対応の仕組みを構築できたら、と考えサービスを具現化していきました。
アレルギーDXでWin-Winな関係構築を
ーーアレルギーはともすると生死に関わる領域ですが、サービスを開発される中で、苦労された点はありますか。
田ヶ原:リスクが高く命に関わる分野なので、リスクヘッジの考え方やマネタイズの部分は試行錯誤しました。開発当初は世の中にまだないサービス。クライアント側の事情も考慮しながら、アレルギー対応のモデルを構築するメリットについて、どう言語化したら理解していただけるかは、頭を悩ませた部分です。
ーー実際に利用されている方からはどのような声をいただいているのでしょう。
田ヶ原:「お客さまからアレルギーに関する質問をいただいた際に、スタッフ全員が自信を持って話せるようになりました」「店側の作業負荷はほとんど発生しないため、対応について困ることはめったにありません」といった声をいただいています。
CAN EATのサービスを導入している株式会社パラマウントでの店舗接客の様子
“アレルギー事故を未然に防げる”という点に、メリットを感じてくださっているところが多い印象です。アレルギー事故は一定の法則が見えているので、DXという形で、誰もが同じ品質で、正確なアレルギー対応が可能なサービスを提供できる点に評価をいただいています。
また、ブライダルなど一度に多くのお客さまをお迎えするシーンでは、来客のアレルギーについて、事前に詳細な情報がわかるかどうかで、調理場のオペレーションが大きく変わります。コンタミネーション※に配慮が必要なため、アレルギーがある方の料理は先に調理しなければなりません。「アレルギーヒアリングシステム」で、事前に情報共有ができるのは、ありがたいという声もいただいていますね。
※コンタミネーションとは、「混入」の意味。食品を製造する際に、原材料としては使用していないにもかかわらず、特定原材料等が意図せずして最終加工食品に混入してしまう場合があります。アレルギーはごく微量のアレルギー物質によっても発症することがあるため、十分なコンタミネーション防止策の徹底を図る必要があるのです。(参照:食品衛生用語集)
ーー導入実績としてはどのような業界が多いのでしょうか。
田ヶ原:導入実績として多いのは、まずブライダル業界です。ブライダル業界は、コロナ禍で人員を縮小したこともあり、今までより少ない人数で多くのお客さまの対応をしなければならなくなりました。そうした中で、「アレルギーヒアリングシステム」をご活用いただいている企業からクチコミで広がり、ブライダル業界からお問い合わせをいただく機会がぐっと増えました。
またブライダル以外では、高価格帯のレストランやお子様がいらっしゃるような環境ですね。例えば焼肉店、修学旅行生を迎える旅館、パン屋などファミリーで利用するお店や、給食の卸業者などです。食に関わるフィールドは広く、外食に限らずさまざまな企業から引き合いをいただいています。
ーーCAN EATはアレルギーに関するサービスを先駆けて取り組んでこられましたが、これから参入する場合は、どういった視点で取り組むと良いか、注意点などはありますか。
田ヶ原:サービスの内容にもよるかと思いますが……そうですね。
私自身もCAN EATをスタートする際、専門家に意見をうかがいに行ったんですね。
その時に「アレルギーのことは甘く見ない方がいい」と。もちろん命のリスクもありますし、マイノリティーな領域なので、簡単にビジネスになると思わない方がいい、というお話をいただきました。「サービスを作りたい」というご相談を私にいただくこともあるのですが、簡単ではないしリスクもあるからこそ、最後まで粘り強く実現しようという想いは大切かなと思います。
体質や宗教に関わらず、
同じテーブルを囲む楽しみをすべての人に
ーーサービスをローンチされてから、外食業界からの風向きの変化は感じていますか。
田ヶ原:「アレルギーって、ちょっと痒くなるだけでしょう」という認識を持っていた時代は、もう終わっていると思うんですね。2013年に起こった給食での誤食による死亡事故など、悲しい事故も経てきた中で、「アレルギーへの対応は必須」というのは、業界全体の共通認識になっていると思います。
アレルギーは、若年層で増加傾向にありますし、これから種類が増えていくことも予想されます。当社では食品表示法のスペシャリストもチームにいますので、事業者と生活者の両方を支えていくサービスを展開していきたいですね。
ーー今後、構想しているサービスなどはありますか。
田ヶ原:中長期的な目標としては、「食に不便を抱えている方々が快適に外食をできるようにすること」、「宗教や体質に関わらず、みんなが平等にテーブルを囲める世界の実現」が目標です。これは、SDGsの10番にある「人と国の不平等をなくそう」にも繋がります。
将来像としては、アレルギー対応だけではなく、食のパーソナライゼーションを目指して、「人がおいしく、楽しく、健康的に食事ができる社会」を実現していきたいです。
アレルギーなど、食に不便を抱えている方に対してのサービスは、“まずは事故を防ぐためのサービス”と捉えています。今後、飲食業界への集客につながるサービスに転換していくために、食事嗜好の情報にAI分析を取り入れ、個々人の食の好みを割り出すようなサービスも構想しています。割り出された情報は飲食店での商品開発に役立てていただくなど、リスクヘッジだけではなく、売り上げに変えていくようなサービスも、展開していきたいと思っています。
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