
企業・業界動向
エモ味!?「アサヒ・ホワイトビール」の発売の裏側にあるブランド戦略を読み解く
SNSなどで話題の「マーケティングトレース」をご存知ですか? 基本のフレームワークを使いながら成功事例を分析し、マーケティング思考を鍛える方法です。今回は、考案者の黒澤友貴さんにブランド戦略を読み解くシートを使って、ホワイトビールのマーケティング戦略を読み解いていただきました。
※前回記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/13630
アサヒがホワイトビールを発売したことをご存知でしょうか?
アサヒといえば、「アサヒスーパードライ」。
スーパードライといえば、「辛口」「鮮度」「キレ」を打ち出したブランドです。
アサヒがホワイトビール、どこかアサヒらしくないイメージではないでしょうか?
参照 https://www.asahibeer.co.jp/whitebeer/
本記事では、アサヒがホワイトビールの発売の裏側には、どのようなブランド・マーケティング戦略があるのかを読み解いていきます。
次々と市場に出されるホワイトビール
最近は、ホワイトビールをラインナップに付け足すブランドが増えてきています。
サントリーは、2022年5月に「ザ・プレミアム・モルツ」のホワイトビールを限定発売しています。
参照 https://www.suntory.co.jp/beer/thepremiummalts/whiteale/
また、ホワイトビールは、ヤッホーブルーイングの「水曜日のネコ」を思い出す方も多いかもしれません。
参照 https://yohobrewing.com/suiyoubinoneko/pc/
各ブランドが力を入れるホワイトビール。
筆者も近所のスーパーで棚にあるホワイトビールを一通り購入してみましたが、ここ数年でホワイトビールは一気に増えていることを実感しました。
メーカーはビール離れに対処する動きを強化
既に知られている通り、大きな社会の流れとして「ビール離れ」があります。
2021年のビール系飲料の販売数量は前年比5%減と推計されており、市場は17年連続のマイナスとなったとビール4社は発表しています。
今回の記事のテーマであるアサヒビールは、お酒を「飲まない/飲めない」人も楽しめるバーをオープンしています。
お酒を「飲まない/飲めない」人も楽しめるバー『SUMADORI-BAR SHIBUYA』 6月30日渋谷にオープン
参照 https://www.asahibeer.co.jp/news/2022/0420_1.html
アサヒがホワイトビールを発売したことの背景には、「ビール離れ」に対する友好的な対策の一つと考えられます。もう一つの注目ポイントは、クラフトビールや第3のビールといった新カテゴリー需要が伸びていることです。
アサヒスーパードライのリニューアル
冒頭にも触れた通り、アサヒといえばスーパードライが主力となる商品ブランドです。
「この味がビールの流れを変える」というキャッチコピーの下、87年に発売されたスーパードライは、当時の企業革新ブームにも乗り、ビジネスマンを中心に支持を集め、多くの人に愛されてきました。
辛口・鮮度・キレ"以外"のイメージを強化
参照 https://www.asahibeer.co.jp/news/2022/0106_2.html
注目したいのが、アサヒスーパードライはリニューアルがされており、発売以来大切にされてきた、辛口・鮮度・キレ"以外"のイメージを強化する方針を打ち出しています。
今回のフルリニューアルでは、特長である“辛口”のコンセプトはそのままに、発売以来初めて中味の処方を変更し“キレのよさ”は維持しながら“飲みごたえ”を向上させました。煮沸の終了直前にホップを投入するレイトホッピング製法による“ほのかなホップの香り”を新たに付与するとともに、発酵開始時の酸素量を制御し、酵母の働きを調整することで“発酵由来のビールらしい香り”を向上させました。従来からの飲んだ後のすっきりした後味はそのままに、香りによって飲んだ瞬間の飲みごたえを向上させることで、これまで以上に飲み飽きない味わいを実現しました。(出典:アサヒビール株式会社 PR TIMES)
このスーパードライのリニューアル戦略から、アサヒがホワイトビールを発売している理由をマーケティング観点から推測すると、
1. 若者変化に合わせておこなう打ち手
2. アサヒのスーパードライ既存イメージからの脱却
この2つの理由があると考えることができます。
つまり、新しい社会の流れにブランドを適応するための仕掛けの1つとしてホワイトビールを位置付けていると考えることができます。
"新しいビールを飲むシーン"を開発する戦略
ここから、「アサヒ ホワイトビール」の商品ブランド戦略を読み解いていきます。
ビールを飲む時間とシーンを再定義する
ビールのマーケティングにおいて重要なのは「新しい飲み方」の開発です。
例えば、ウイスキー市場が活性化したのは、炭酸水で割る「ハイボール」という飲み方が普及したことが大きな要因でした。アサヒ ホワイトビールの打ち出し方で興味深いのが、新しいシーン提案を強化していることです。
開発者の声にもある通り、「普段あまりビールを飲まないような時間帯やシーン」づくりを意図していることがわかります。
本格的な美味しさもあるので、私のようなビール好きにも、普段あまりビールを飲まないような時間帯やシーンで手に取ってもらえると考えています。 僕自身、『ASAHI WHITE BEER』をいつ飲みたい?と問われれば「平日の16時ぐらいからベランダで飲みたい」と答えます(笑)。そんな気分にさせてくれるビールなんです。
下記のコピーを読むと、今までのビールとは違うシーン提案があることがわかります。
“エモ味”で何気ない日常に心がほどけるような時間を。マジックアワーのように心を満たすホワイトビール
パッケージには下記のような記載があります。
「日の出前、東の空がうっすらと色を帯びはじめて、新しい一日が生まれようとしている瞬間や、日没前後の昼と夜が入れ替わろうとする、ほんのわずかな一瞬に見ることができる幻想的なマジックアワーの空模様を表現
■新しいシーン提案
チルタイム、マジックアワー、綺麗な空の下で
■生み出される感情
エモーション:リセット、リフレッシュ
テイストを象徴するハッシュタグとして「#エモ味」が使われていることからも、新しいビールを飲むシーンづくりを強化していることがわかります。
観察してみて面白いのが、フォントです。
アサヒ ホワイトビールはASAHIのフォントも変わっていることが注目ポイントです。
スーパードライのロゴフォントはこちら。
ホワイトビールはサンセリフ体(sans-serif)が使われています。
パッケージやフォントデザインからも、「カジュアル/POP/身近」なイメージを伝えようとしていることがわかります。
ここまで読んで頂いて、アサヒビール好きな方はわかったかもしれませんが……
マルエフも同様のアプローチと読み解くことができます。
マルエフも同じように、新しいビールを飲むシーンを開発し、既存のスーパードライとは異なる「まろやかなうまみ」というイメージを訴求しています。
夕暮れの自宅のベランダで心地よい風が吹く中、涼し気にグラスにビールを注ぐ。夏の訪れを感じる爽やかな風景の中で、「日本のみなさん、おつかれ生です」と、いつもの日常が戻ってきたことを祝うように、穏やかに乾杯する。
アサヒのブランド戦略を読み解く
ここまでのアサヒ ホワイトビールの分析から、下記のブランド・マーケティング戦略が裏側にあることを読み解くことができます。
1. ホワイトビールは、スーパードライという長年愛される商品アイテムのイメージ(ドライやキレ)を、少しずつ社会・生活者の価値観変化に合わせていくための取り組み
2. ホワイトビールは、アサヒビールに新しいシーン想起を獲得するための仕掛け
3. ビール離れが進む若者に対し、エモ、チルといった訴求を強化し情緒価値を伝える
まとめ
ここまで、なぜアサヒは、一見アサヒらしくないホワイトビールを独自コンセプトをもって発売しているのかを読み解いてきました。
長年愛されているスーパードライがあれば安泰というわけにはいきません。
ホワイトビールの仕掛けから、長年ビール市場全体を牽引してきたブランドとして、時代の流れに適応し、常に生活者に求められ続けるブランドになろうとするアサヒの姿勢を理解することができました。
ぜひ、皆さんもアサヒ ホワイトビールを飲みながら、新しい生活シーンの提案を感じ取ってみてください。
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著者情報

- 黒澤友貴
- 1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに6,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
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