企業が求める食育のこれから。その課題と解決策とは?

いまや食関連の企業にとっては、避けて通ることのできない食育活動。しかし、企業として取り組む食育活動には、さまざまな課題もあるようです。
そこで今回は、絵本を通じて親子に食育を届ける「おりょうりえほん」のサービスを紹介しながら、生活者から求められる「これからの食育」を見つめます。

母親を中心に高まる関心

2005年に食育基本法が制定されてから、食育への社会的関心は年々高まっています。2018年に農林水産省が実施した意識調査(※)によると、「食育に関心がある」と答えた人は全体の約8割に達しています。性別で見てみると、関心があると回答した人の割合は女性が高く、関心を持つ理由の約半数が「子どもの心身の健全な発育のために必要」と答えています。また、関心がないと回答した人の割合では男性が高いという結果になっています。

一方で、厚生労働省の実施した親世代への意識調査(※)では、適切な食品選択や食事の準備のために必要な知識・技術について「まったくない」「あまりない」という回答が20代および30代の男性で約7割、女性で約5割みられます。

女性は妊娠出産を経験し、母親となる世代を中心に「子どもの健全な発育のための食育」へ意識が高まってくるのに対し、親世代の男性の意識はまだ低いことや、親世代は男女ともに子どもに伝えるための知識や技術について不安があるということが見えています。正しい食の知識を誰がどのように伝えていくのか、食関連企業への期待と責任はますます大きくなっています。

(※)2019年3月 農林水産省「食育に関する意識調査報告書」
(※)2004年 厚生労働省「食を通じた子どもの健全育成(-いわゆる「食育」の視点から-)のあり方に関する検討会」

企業における食育活動の課題とは?

実際に、食育活動への取り組みをおこなっている企業も数多くみかけるようになりました。その活動内容を見てみると、広報部門がCSR活動の一環として、地域住民をはじめとする生活者たちと食の交流を図ることで、企業のイメージアップを目的とするものや、企画や営業部門がプロモーション活動と捉えて、自社商品の原材料や製造工程を見せ、商品への信頼性や価値を感じてもらうことを目的としたものなど、企業内で担当する部門によっても、活動目的や考え方がさまざまなようです。中でも積極的な取り組みが見える企業事例をほんの一部ご紹介します。


・カゴメ株式会社では、八ヶ岳のファームで工場見学や野菜の収穫体験を受け入れるほか、毎年夏休み期間中に全国で食育ミュージカルを公演https://www.kagome.co.jp/syokuiku/

・フジッコ株式会社では、丹波篠山で黒豆の作付けから収穫、おせち料理まで半年間を通じて体験できるイベントの実施や、昆布や豆について学べる施設として、学校・教育団体を対象に食育ミュージアムの見学を受付 https://www.fujicco.co.jp/know_enjoy/shokuiku/

・カルビー株式会社では、小学校への出張授業で子どもたちにポテトチップスの製造工程や原材料名表示や賞味期限について解説し、適切なおやつの量を教えるほか、保護者向けに「おやつとの付き合い方」をテーマに講演会を実施 https://www.calbee.co.jp/foodcom/

・ハナマルキ株式会社では、春休み・夏休みの期間中に小学生親子を対象に、工場見学とあわせみそ作りが体験できる教室を開催https://www.hanamaruki.co.jp/csr/misozukuri/index.html


しかしながら、食育活動の運営体制として、専任部署を持つ企業はまだまだ少ないようで、直接的な商品の訴求をどこまですべきかという情報バランスの問題や、活動による効果実績が図りにくい中で、取り組み価値の高い食育活動をどうしたら継続的におこなっていけるかという課題感は、どこの企業においても共通のようです。

また、そうした活動をどのように生活者へ知らせ届けるかというソリューションの問題は、直接的な売り場環境など、生活者との接触ポイントを持たない企業においては、最も大きな課題であると思います。

企業において継続的な活動基盤をつくるには、先ず生活者の目線に立ち、家族ぐるみで食育に触れてもらうことが大事だと言われます。そのためには、生活者とどのように繋がり、どのようにして各家庭内へ持ち込まれるかを設計することが重要であり、自治体や教育機関との連携や複数企業が合同で活動に取り組むことは、広範囲への情報発信を実現させる有効な方法のひとつではないでしょうか。

100組の親子の声から設計された
毎月各家庭へ届ける食育絵本サービス
「おりょうりえほん」

2019年5月にクックパッドでスタートした「おりょうりえほん」は、オリジナルの食や料理が学べる絵本が毎月1冊、月額500円(税抜)で届くサービスです。

親世代の悩みに寄り添ったサービス開発を目的に、育児経験を持つ社員が中心となって、実際に約100組の親子の声から食育における課題や要望を把握し、サービスが設計されました。

おりょうりえほん公式サイト:https://ehon.cookpad-kids.jp/

毎日の食事に使われる身近な材料や、食材のおいしい食べ方を紹介し、「楽しい!」「自分でやってみたい!」と感じてもらえるような内容に作られており、子どもたちが料理へ主体的に関わり、 健康な身体をつくる食について自ら学べる仕組みになっています。

また絵本には、前述の通り、まだ食育への関心が薄い父親たちを意識的に巻き込み、母親主導となりがちな食育をサポートしながら関心を高めてもらう狙いも込められています。絵本の最後には、親世代に向けた専門家コラムを掲載し、食育知識や子どもへの促し方などについてもアドバイスをおこなっています。
昨年末からは、北海道や石川県といった地方自治体とも協働活動を開始し、絵本づくりワークショップを通じて、郷土料理や地域の伝統食について考え発信していく場をサポートしています。

最後に、実際の「おりょうりえほん」の雰囲気を少し知っていただくために、専門家コラムをご紹介します。スマートキッチン時代に向けた、これからの食育のあり方について考えさせられます。

猫の手も借りたいほど忙しかった昔の台所では
子どもが大活躍!

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コラム著者:
石井 由紀子(いしい ゆきこ)
こどもキッチン主催・子ども台所仕事研究家

私の母が子どものころのお話です。料理上手でおいしいごはんをつくる祖母が「料理は嫌い」と言うので、不思議に思った母が「何が嫌いなの?」と尋ねたら、「山に薪木とりに行くのが嫌い」と答えたとか。今じゃ想像もつかないですよね。だって...火を起こさないとごはんが炊けない。炊飯器も電子レンジもない。そもそも電気がない。水道もない。井戸から水を汲み、薪木に火をつけて、やっと料理が始まるのですから。台所仕事をはじめとした家事に多くの時間を必要としていた当時、大人たちは猫の手も借りたいほど忙しかったことでしょう。

そんな時代には猫は役立なくとも、わが子ならば助けになる。やれそうなことは何でもやってもらおう、と子どもにいろんなことをやってもらいました。井戸から水をくむ、かまどに火をつける、米を研いで炊く、野菜を畑から引っこ抜く、かつおぶしを削るなどなど。必然から子どもが台所仕事をはじめとした家事をするのは当たり前、そんな光景は少し前まで日本のおうちの風景の一つでした。

時代を進めて今。洗濯は洗濯機に、掃除はお掃除ロボッ トにお任せし、ごはんは炊飯器でスイッチON!冷めたらレンジでチン!ボタン一つで済ませることができる便利さを私たちは手にしました。そんな今もなお、小さな子どもが「やるー!」と満面の笑みで台所にやってくるのには、明確な理由があります。

「ちぎる」「たたく」「こねる」などの直接手を使う動き、はさみや包丁で「切る」、おたまやはしで「混ぜる」など道具を使う動き、味見(味覚)し、においをかぐ(味覚)。冷蔵庫は冷たいし、コンロの鍋は熱い(触覚)などの五感を体験する。家の中で人が豊富に体験する場所は、いまや台所を置いて他にはありません。子どもは環境をリアルに体験することによってしか成長できないのだそうです。これが成長したくてたまらない小さな子どもたちが、にこにこと笑顔で台所にやってくるゆえんです。

手や指先を器用に動かせる能力は、生まれた時にはまだありません。やりたくて、やってみたらできた!」。そんな繰り返しが子どもに能力をつくっていきます。「やりたい!」は成長の源なのです。そして、それはやがて大人にとっての大いなる助けともなります。フルタイム勤務の会社員だったころ、「残業だ!どうしよう!ごはん!」と思った瞬間に「ごはん炊いといてあげよか?」という小学生になる息子からの電話に安堵した自身の体験や、主宰する親子料理教室に参加くださった親子のその後談から、子どもを台所に招き入れることから得られるものの大きさを感じています。

まとめ

かつては家の仕事のひとつとして、各家庭の台所で毎日必然的におこなわれていた食育。夫婦ともに外へ勤めに出る共働き世帯や、通塾や習い事をする子どもたちも増え、昔に比べて親子で一緒に過ごす時間も少なくなっている今、生活者のニーズや時代に合わせたかたちのサポートが、企業に求められる役割なのではないでしょうか。

text support : Emiko Tanaka





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