Yakult1000、爆発的ヒットを生んだ「これまでと一線を画すブランディング」とは

Yakult1000、爆発的ヒットを生んだ「これまでと一線を画すブランディング」とは

ヤクルトの乳酸菌飲料「Yakult1000」と「Y1000」が爆発的なヒットを遂げている。なぜ、これほどまでの人気を得られたのか。製品の開発秘話からブランディングの秘訣まで、ヤクルト本社の担当者に聞いた。
※この記事は[ITmedia ビジネスオンライン([秋山未里]/2022年07月14日掲載)]からの転載記事です。

 ヤクルトが販売する乳酸菌飲料「Yakult1000」と「Y1000」が、大ヒットを遂げている。睡眠改善やストレス緩和が期待できる商品で、SNSでも「よく眠れる」「寝起きがすっきりする」など多くの口コミが拡散され、たびたび話題となっている。

 予想を超える人気に、宅配サービス「ヤクルト届けてネット」の新規申し込みの受け付けは一時休止しており、小売店でも売り切れていることが少なくない。

 なおYakult1000とY1000は、まとめて語られることが多いが、実は別商品だ。主にヤクルトの宅配センターや“ヤクルトレディ”が販売しているものがYakult1000で、小売店経由で販売しているものがY1000。内容物は同じだが、パッケージや容量が少々異なる。

 昔から家庭で愛されてきたヤクルトだが、Yakult1000とY1000はなぜ、爆発的なまでの人気を博したのだろうか? 製品の開発秘話からブランディングの秘訣などについて、ヤクルト本社の広報担当者に取材した。

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Yakult1000とY1000、画像は公式サイトより

睡眠やストレスに着目したきっかけ

──「よく眠れる」などの口コミで話題になっているYakult1000とY1000ですが、ヤクルトではいつから睡眠やストレスに着目しはじめたのでしょうか?

広報担当者: 1999年、乳酸菌「シロタ株」を400億個含んだ「ヤクルト400」を発売してから、当社はさらなる高菌数・高密度の商品の検討を始めていました。

 その時期に、学術分野では脳と腸がお互いに影響しあう「脳腸相関」を示す研究が出始め、研究が進みました。当社の乳酸菌シロタ株も、高密度にすることで神経系に作用することが基礎研究において明らかになりました。

 その(神経系への)作用で「お客さまのメリットとなる機能は何だろう?」と考えた時に、ストレスや睡眠に行き着きました。そこで検証を行い、ストレスや睡眠に対する機能があることが確認できました。ストレスや睡眠は社会課題としても認識されていましたので、その解決に貢献したいという思いで、2021年に商品化したのがYakult1000です。

 Yakult1000を通じてあらためて「ストレス緩和」「睡眠の質向上」に対するニーズが高いことが明らかとなり、お客さまのライフスタイルに応じて購入、飲用しやすいように店頭向けとしてY1000を設計しました。

──ヤクルト400の発売から約20年もこうした開発をされていたのですね。開発の中で、苦労したポイントはありますか?

 商品に含まれる菌数を増やし、維持することが非常に困難でした。

 賞味期限内に「1000億個の生きた菌がある」状態を担保した製品でなければなりません。そのための培養技術や原料の選択は、当社の長年のノウハウの結集だと考えています。

大ヒットの背景に「これまでとは一線を画すブランディング」

──そうなんですね。満を持してのYakult1000の販売にあたって、ブランディング面ではどのような工夫があったのでしょうか?

 Yakult1000のターゲットは、30~50代のビジネスパーソンです。具体的には、一時的な精神的ストレスがかかる状況にある方や、それに伴う睡眠の質が低下している方などをターゲットに想定しています。そのため、これまでの「ヤクルト」類とは一線を画すブランディングを行いました。

 ヤクルト400をはじめとするこれまでのヤクルトは「安心・信頼できる」「親しみやすい」「伝統的」といったイメージを多くの方にお持ちいただいていました。また「子ども向き」や「家族向き」といったイメージもあるかと思います。

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ヤクルト400(公式サイトより)

 Yakult1000では、従来のイメージとは異なる「先進的」「機能的」「科学的」「大人向け」のイメージを新たに持ってもらえるようなブランディングを実施しました。

──私も以前は「実家や祖父母の家にある、昔ながらの飲み物」といったイメージを持っていました。そうしたイメージを変えるため、具体的にはどのようなことをしたのでしょうか?

 例えば、Yakult1000の商品名では、ヤクルトブランドの中で最新の機能を持った商品であることを強く印象付けるために、カタカナの「ヤクルト」ではなく、企業ロゴと同じアルファベットの「Yakult」を使用しています。

 パッケージデザインは、ヤクルトのイメージ色の赤色を基調としながら、機能性、先進性を表現するためYakult1000とY1000ともにメタリック調にしています。

 テレビCMについても従来の家庭向けのイメージではなく、第一線で活躍している各界の著名人を起用して最先端の乳酸菌研究から誕生した商品であることを表現しています。

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Yakult1000のCM紹介、「第一線で活躍するプロフェッショナルも、ストレスと睡眠の問題と戦っている」と訴求(公式サイトより)

──先ほど仰っていた「先進的」「機能的」「科学的」「大人向け」というテーマを、商品名・パッケージ・CMなどに反映させているのですね。

 はい。従来とは一線を画すイメージとしたYakult1000とY1000を通じて、今までにヤクルトを飲む機会がなかった方、過去に飲んだことはあるけど今は飲まなくなった方が新たに手に取っていただけるように、ブランド育成を行っています。

口コミの源流は「ヤクルトレディの丁寧な製品説明」か

──Yakult1000の発売後、現在に至るまでたびたびSNSやテレビでも話題になっています。どのように評判が広がっていったのでしょうか?

 厚生労働省による国民生活基礎調査によれば、現代人の約半数と、多くの人がストレスを抱えています。ストレスは「睡眠の質」を低下させる要因として知られています。このようにストレスや睡眠に関する悩みは、大きな社会課題となっています。

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 Yakult1000・Y1000の機能が、そうした(睡眠やストレスに悩む)お客さまのニーズに合致していたことが、好評の理由ではないでしょうか。

 また、ヤクルトレディによる商品説明などの地道な活動が商品の認知向上に寄与していると考えています。ご愛飲いただいているお客さまが、Yakult1000・Y1000の、特に睡眠に関する機能について体感をされ、その体感をSNSなどで発信していただくことが多いのですが、ヤクルトレディの活動がそのような口コミの広がりを促しているのだと想定しています。

Yakult1000とY1000、見た目や容量が違う理由は?

──ヤクルトレディが販売するYakult1000と、小売り向けのY1000には製品としての違いはあるのでしょうか?

 同一の機能を有する商品ですので、基本的にYakult1000とY1000に相違点はありません。

 Y1000は店頭での目立ちやすさと、持ちやすさなどの機能性を重視したオリジナル容器を使用しています。また内容量は、店頭で販売されている高機能高価格帯の競合他社品の容量に合わせ、飲みごたえのある容量(1本110ミリリットル)としました。

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Yakult1000とY1000(公式サイトより)

──現在、Yakult1000・Y1000ともに品薄になるほどの人気を博していますが、この反響をどのように捉えていらっしゃいますか?

 多くの方にご愛飲いただき、皆さまにお役立ちできているのであれば、当社としても大変うれしく思います。

 しかしながら、宅配専用商品のYakult1000、店頭主体商品のY1000ともに、品薄状態となり、お客さまおよびお取引先さまには、大変ご迷惑をおかけしておりますこと深くおわび申し上げます。

 Y1000は7月から生産体制を強化し、さらに年内の増強を計画しています。また、Yakult1000は今秋の生産体制強化に向けて準備を進めています。

当社は2030年までの長期ビジョンの中で、目指すべき姿として「世界の人々の健康に貢献し続けるヘルスケアカンパニーへの進化」を掲げています。こFれまで以上にお客さまの期待に応え、持続的な成長を目指していきます。

──本日はありがとうございました。

Yakult1000とY1000、爆発的ヒットの背景

 Yakult1000とY1000のヒットの背景には、もちろん製品力がある。睡眠改善やストレス緩和が期待できる高密度のシロタ株の機能は、ストレス社会に悩む多くの現代人にとってかなり魅力的だ。

 しかし、睡眠改善やストレス緩和をうたう製品は他にもある。

 そんな中でもこの製品がヒットしたのは、取材にあったようにしっかりとしたターゲット選定、イメージ戦略、パッケージ開発、商品説明によるものだと言えるだろう。

 特に、これまでの「親しみやすい」「家族向き」といったブランドをくつがえし、徹底的に「先進的」「大人向け」といったイメージの訴求を行った点や、ヤクルトレディによるアツい商品説明がユーザーによるSNS投稿を促したのではないかという分析は、今後ヒット商品を生み出したい他の企業も参考にすべき部分があるだろう。

 Yakult1000とY1000の爆発的ヒットは、決して偶然ではなく、しっかりと練られた戦略のもとに訪れていたことが分かった。

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Yakult1000

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