オンラインはリアル店舗を超える? “楽しい”を実現する勝ち組企業

オンラインはリアル店舗を超える? “楽しい”を実現する勝ち組企業

スマートフォンの普及に伴い、あらゆるものがデジタル化した。消費者がリアルとデジタルを無意識に行き来する時代において、企業はどのような新しい顧客体験を提供しているのだろうか? BEAMSやスタバ、コストコなどの企業を事例に解説する。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([葛西徹弥][村山正憲]/2022年9月2日掲載)からの転載記事です。

近年、テクノロジーの進化とコロナ禍におけるネットショップ利用が顧客体験のデジタルシフトを急激に押し進めた。20年ほど前のEC黎明(れいめい)期に、ECと実店舗を組み合わせて連動させたビジネス形態を「クリック&モルタル」と呼んでいた。当時は、ECと実店舗をただ組み合わせるという概念であった。

 しかし現在、商品を購入する前に消費者が実店舗に足を運んで価格や性能などを確かめた上で、オンラインで購入する「ショールーミング」や、インターネットで商品に関する情報を収集し、実店舗で購入する「ウェブルーミング」などの購買行動が示すように、ECと実店舗を融合させ顧客ニーズに適した体験を提供することが求められている。

 スマートフォンの普及が、日常生活のあらゆる場面におけるデジタル化を加速させた。リアルとデジタルの境目がなくなり、消費者がリアルとデジタルを無意識に行き来する時代が到来した。そうした時代において、企業はどのような新しい顧客体験を提供しているのか、事例を踏まえながら紹介したい。

アパレルにおけるリアル×デジタルの体験

 世界最大級のVRイベント「バーチャルマーケット2022 Summer」にBEAMSが4度目のメタバース店を出店するなど、アパレル分野はデジタルシフトが比較的進んでいると言える。一方で、購買にあたり試着が必要不可欠など、リアル店舗の存在価値も決して侮ることができない。これは、22年6月にサービスを終了したZOZOスーツの例を見ても明らかだろう。

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BEAMSは世界最大級のVRイベントに出店した(画像:プレスリリースより)

 「いかにリアルとデジタルの境目をなくすか」はアパレル業界の顧客体験を語る上で無視できないテーマだ。例えば、まだ実証実験中ではあるものの、大手アパレルのTSIホールディングスと京セラは共同でデジタルハンガーの開発を進めている。ハンガーの情報とアプリを連携させることで、顧客が購入はしなかったものの手に取った商品の情報をアプリで見返すことができるようになるという。リアル店舗での行動がデジタルに反映されるシームレスな体験と言えるだろう。

飲食におけるリアル×デジタルの体験

 飲食店でもリアル×デジタルのシームレスな顧客体験に注目が集まっている。最近では、モバイルオーダーをベースにしたプラットフォームの構築も進んでいる。顧客はモバイルでカスタマイズしたオーダーを基に商品を受け取ることができる。

 例えば、Showcase Gigが21年12月にオープンした次世代店舗、“The Label Fruit”では、自分がモバイルでカスタマイズした商品の映像が、商品を受け取るロッカーの画面に3Dで現れる仕様を取り入れている。注文から受け取りまで、非対面型のエンターテインメントに富んだ、デジタルとリアルが融合した新しい顧客体験が創られていることが分かる。

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モバイルでカスタマイズした商品の映像がロッカーに投影される(画像:プレスリリースより)

スターバックスは、20年12月に「Mobile Order & Pay」のサービスを開始した。スマホアプリから事前にオーダーと決済ができ、商品の用意ができるとスマホアプリへプッシュ通知が届く。商品は指定の店舗で商品を受け取ることができ、モバイルオーダー専用のカウンターで商品が受け取るためレジに並ぶ必要がない。注文データの分析結果によると、当該サービスを利用する顧客は通常の顧客と比べてドリンクをカスタマイズする割合が高く、来店頻度の増加が明らかになっているという。利便性の向上が新しい顧客体験価値の向上にもつながっている好事例と言える。

小売現場におけるリアル×デジタルの体験

 大手小売業のコストコでも近年、リアル×デジタル体験に力を入れている。コストコは年会費を払って利用する会員制スーパーマーケットであり、郊外に巨大な倉庫型店舗を展開している。年会費で利益を上げ、商品調達やサプライチェーンおよび店舗オペレーションの徹底した効率化を図る、というビジネスモデルだ。

 そのコストコが近年、世界8カ国で運営するECで爆発的に売り上げを伸ばしている。トレジャーハント(宝探し)や売り切り方式の特売コーナーなど、実店舗と同様に購買意欲を刺激するようなエンターテインメント型の購買体験をオンラインでも提供。実店舗で取り扱っていない商品を数多くそろえ、実店舗との差別化を図っている。

 21年12月にはコストコが信頼するサプライヤーの商品を厳選して紹介するキュレーション型EC 「コストコ・ネクスト」の本格展開も開始した。さらに、事業者向けに商品を供給する「コストコ・ビジネスセンター」、調剤薬局「コストコ・ファーマシー」、宿泊施設の予約やパッケージツアー、レンタカー予約などを取り扱うWEBサイト「コストコ・トラベル」など各種サービスを集約し、コストコの持つあらゆるサービスへワンストップでアクセスできる仕組みを整えている。

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コストコのECサイト「COSTCO WHOLESALE」(画像:公式Webサイトより)

 このように、ECにおいても実店舗と同じかそれ以上の体験を提供することで、画期的な顧客体験を創造している。実店舗でのナレッジをベースにECも特徴のある「1店舗」として機能することで、顧客は、気がついたらECでも実店舗でも楽しい体験、新たな体験ができるといった、リアル×デジタルの融合による新たな世界観に触れている。

 コロナもなかなか終息に向かわない中、こういったリアル×デジタルの融合による、革新的な世界・エンターテインメント性に富んだ顧客体験が今後加速度的に創造されていくだろう。今回はアパレル・飲食・小売業界の事例を紹介してきた。

 今後、さらにパーソナライズド・コミュニケーションに企業は注力すると考えられる。顧客のWebアクセス履歴・購買履歴に加え対面の接触・購買データも踏まえ、最適なタイミングでメールやDMなどの送付を自動的に行うマーケティングオートメーション手法が活用されるだろうし、対面のその場限りの接客ではなく、顧客のリアル×デジタルの行動を踏まえた接客(個客)対応が行われるだろう。

 デジタルとリアルの垣根は少しずつ低くなっているものの、まだ同等とは言えないだろう。デジタルでの体験の質をリアルと同レベルに引き上げるために何をすべきか。まだまだ課題は多くあるが、その2つが融合した顧客体験の在り方を常に問いながら取り組むことが求められる。新しいテクノロジーに飛びつき、それに頼った施策を打つのではなく、顧客が望む体験とは何か、顧客が満足するためには何をするべきかを設計することが、今までもこれからも重要であることには変わりないと考える。

元記事はこちら



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