
外食
【前編】IT駆使して人気だった「ブルースターバーガー」なぜ閉店? プロが指摘する「接客不要」の落とし穴
外食DXの成功例としてもてはやされた「ブルースターバーガー」。完全キャッシュレス、非接触のスタイルが画期的だった。行列ができるほど人気だったのに、なぜ全店閉店に追い込まれたのか。後編はこちら
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([長浜淳之介]/2022年8月16日掲載)からの転載記事です。
焼肉のファストフード「焼肉ライク」で、コロナ禍を吹き飛ばす快進撃を続けるダイニングイノベーション(東京都渋谷区)。同社が低価格・高品質のハンバーガーに挑んだ「ブルースターバーガー」が7月31日に全店閉店した。
ブルースターバーガーは、2020年11月10日、東京・中目黒の山手通り沿いに誕生。オープン当時は店の前に黒山の人だかりが連日できるほどのすさまじい人気。それが半年ほどは続いただろうか。目標とした全国2000店もすぐに達成できそうな勢いを感じた。
閉店したブルースターバーガー中目黒店
しかし、店舗数は思ったように伸びず、今年になって次々に閉店。最後まで残っていた創業店の中目黒店も閉店してしまった。わずか2年足らずの短いブランドの命をあっけなく終えた。
ブルースターバーガーは、ITを駆使した「超スマートモデル」が特徴。オーダー・決済・受け取りまで、全てを完全非接触で実現する、ニューノーマル時代にフィットしたテークアウト専門のプチグルメバーガーを標榜。オープン時の圧倒的なにぎわいから、日本発の世界ブランドを目指す、外食DX(デジタルトランスフォーメーション)の成功例ともてはやされた。
商品イメージ(出所:プレスリリース)
店舗を「完全キャッシュレス化」と「テークアウト専門店」にすることで、家賃・内装投資・人件費といった経費を極限まで軽減。その分を商品原価に投資するモデルとした。
通常のレストランだと30%程度の原価率であるところを、ブルースターバーガーは驚異の原価率68%を実現したという(当初、税別170円で提供された「ハンバーガー」の原価率)。
開発者でダイニングイノベーション創業者の西山知義氏は、「牛角」創業者でもある。現在はコロワイド傘下に入っているレインズインターナショナルで、牛角の他にも「土間土間」「しゃぶしゃぶ 温野菜」などのヒット業態を手掛けてきた。
それら幾つものヒット業態の仕掛け人、西山氏が外食人生の集大成として提案したのがブルースターバーガーであり、FC(フランチャイズ)に最適な業態としていた。しかし、実際には4店がオープンしただけだった。
中目黒店に次ぐ2号店は、21年12月3日にオープンした神戸元町店で、関西初出店でもあった。同月22日にオープンした東京都立川市の立川北口店が3号店。
4号店は渋谷センター街に22年1月、渋谷宇田川店をオープン。同店は「Gourmet113」と称して、1枚113グラムある大サイズのパティが売りの、コンセプトストアとした。従来の店舗と異なり店内に広い飲食スペースを用意。価格も「ハンバーガー113」が550円(税込)と、高めの設定だった。
神戸元町店と立川北口店は、今年5月31日閉店。Gourmet113 渋谷宇田川店は、6月30日の閉店。半年しかもたなかった。
なぜ、理論的に完璧に見え、実際に大繁盛していたブルースターバーガーは、フードテックを駆使しながら急速に顧客を失い、失敗してしまったのだろうか。
テークアウト専門のハンバーガー店
ブルースターバーガーのシステムを説明しよう。
ダイニングイノベーションは完全キャッシュレスを実現するために、モバイルオーダー&ペイシステム分野で豊富な実績を持つ、Okage(東京都中央区)と共同で、独自のモバイルオーダーシステムを開発。
オリジナルアプリまたは、店頭のタブレットで、商品を注文して決済すると、受け取り番号が発行される。そして、受け取り時間が来ると、店頭にあるピックアップ専用棚より、セルフで商品を受け取る仕組みになっていた。
中目黒店、商品受け取り棚(出所:プレスリリース)
完全キャッシュレスなので、現金に触ったり、レジで待たされることもない(はずだ)。
全てITで完結するテークアウト専門のハンバーガー店として、業界に革命を起こすとしていた。
コストを削減した分だけ材料費に充てて、素材の鮮度と作り立てにこだわった、高品質なグルメバーガーを、カジュアルに楽しむことができる仕組みを構築した。
中目黒店内観(出所:プレスリリース)
また、無駄な在庫や廃棄を省き、常に新鮮な食材が利用できる、Limited Supply Style(メニューを絞り、売り切れ次第販売終了)を取ることで、フードロス削減にも取り組んだ。
店内はテークアウトに特化した効率的なレイアウト。顧客はでき上がった商品をピックアップするだけなので、イートインスペースが不要。接客サービスも不要だ。
テークアウトの手順(出所:プレスリリース)
店舗面積が小さくても経営ができるため、賃料が最低限で済み、初期投資が安く抑えられる。ファストフードとして確立されたハンバーガーなので、職人技も不要なアルバイトで現場を回せるモデル。アプリ上で在庫と連動しているので、店舗発注の手間も抑えられている。FC展開に有利な要素がそろっているとした。
ブルースターバーガーのモバイルアプリ(イメージ、出所:プレスリリース)
ちなみに西山氏は、中国で急成長するキャッシュレス決済のコーヒーショップ「ラッキンコーヒー」に行った体験により、ブルースターバーガーの着想を得たそうだ。
タブレットの前に行列
しかし、実際には、待ち時間ゼロどころか、オープンした頃は顧客が殺到。タッチパネルの前に行列ができて、注文した後も1~2時間は優に待たされていた。
それだけ反響が大きかったわけだが、ファストフードとして体をなしていなかった。
それに、決済をキャッシュレスに全振りしたのも、現金決済が主流の日本ではハードルが高かった。Gourmet113 渋谷宇田川店では、最終的に現金払い専門のタッチパネルを店頭に設置していた。
渋谷宇田川店の店頭タッチパネル(出所:プレスリリース)
また、Gourmet113 渋谷宇田川店は55席を有し、1950年代アメリカンダイナーの雰囲気を構築して評判は悪くなかった。しかし、これだけの席数を用意したということは、不要に見えたイートインスペースが実は必須のものだったと認めたに等しく、真逆の修正を行った。
渋谷宇田川店の内装。50年代アメリカをイメージした(出所:プレスリリース)
テークアウト専門をうたった創業店の中目黒店も、当初は店内に立ち食いができるスペースを確保していただけだったが、最終的にはゆっくりくつろげるように座席を設けた。
このように「完全キャッシュレス化」「テークアウト専門店」という、2つの前提が崩れると、家賃・内装投資・人件費といった経費を極限まで軽減して商品原価に投資するモデルが、成立しなくなってしまう。
ブルースターバーガー渋谷宇田川店
しかも、牛肉の値段が高騰。世界的なコロナ禍からの需要回復による供給不足や、牛の飼料となる穀物価格の高騰などが背景にあり、一企業の努力では対処できない。現にブルースターバーガーは今年4月に値上げした。一例を挙げれば、ハンバーガーの値段は210円(税込)と、200円を超える価格になった。
そうした理由で、大けがをしない前に、早々にブルースターバーガーは撤退を決断したのではないだろうか。
なお、ダイニングイノベーション傘下のブルースターバーガージャパン(東京都渋谷区)という事業会社が経営しており、西山氏の長男、西山泰生氏が社長を務めていた。
2×2チーズバーガー。500円を切る値段だった(出所:プレスリリース)
フライドポテト270円(創業時)(出所:プレスリリース)
泰生氏は、シンガポールと米国で高校生活を送り、起業に興味を持った。大学入学後は複数のIT企業でインターンを経験。ITを活用して、日本の外食の環境改善に役立てたいと考え、大学生ながらDXを駆使して、世界最大の外食市場であるハンバーガーショップの展開に打って出たとのこと(出所:大学生社長による神戸市の低価格バーガー、新規参入の策とは)。
原価率68%をうたった、ハンバーガー(出所:プレスリリース)
後編はこちら
元記事はこちら
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- ITmedia ビジネスオンライン
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