
外食
【後編】IT駆使して人気だった「ブルースターバーガー」なぜ閉店? プロが指摘する「接客不要」の落とし穴
外食DXの成功例としてもてはやされた「ブルースターバーガー」。完全キャッシュレス、非接触のスタイルが画期的だった。行列ができるほど人気だったのに、なぜ全店閉店に追い込まれたのか。前編はこちら
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([長浜淳之介]/2022年8月16日掲載)からの転載記事です。
ハンバーガーに大手が相次いで参入
コロナ禍に入ってから、テークアウトやデリバリーに強いハンバーガー業態は、外食が自粛を要請され、時短、休業を余儀なくされても例外的に好調に推移してきた。
「マクドナルド」を経営する、日本マクドナルドホールディングスの20年12月期の売上高は前年同期比2.3%増、経常利益は同14.3%増。21年12月期の売上高は同10.2%増、経常利益は同7.0%増となった。
マクドナルドはコロナどこ吹く風と好調
「モスバーガー」を経営する、モスフードサービスの21年3月期の売上高は同4.3%増、経常利益は15.8%増。22年3月期の売上高は同9.0%増、経常利益は154.6%増となっている。
このようなハンバーガーの好調ぶりが明らかになるにつれて、外食他業種からのハンバーガーへの進出が目立った。
モスバーガーはコロナ禍にあっても順調な売り上げを重ねている
ブルースターバーガーもそうした動きの一環。ダイニングイノベーションはチキンバーガーの「ドゥーワップ」も立ち上げて21年7月、東京・代官山に1号店をオープンした。
ドゥーワップ代官山店。ブルースターバーガーと同様なDXを活用した店舗という
他にも、「鳥貴族」が21年8月、チキンバーガーの「トリキバーガー」1号店を東京・大井町にオープン。
新規参入組のトリキバーガー。写真は渋谷井の頭通り店
「ロイヤルホスト」のロイヤルホールディングスが21年5月、チキンバーガーの「ラッキー ロッキー チキン」1号店を東京・武蔵小山にオープン。
新規参入組のチキンバーガー、ラッキー ロッキー チキン
「築地銀だこ」のホットランドは、群馬県桐生市の「ジューザバーガー」と提携して20年12月、東京1号店を東銀座にオープンした。
ロードサイド店のジューザバーガー国分寺店
しかし、ハンバーガーの競争激化で、21年度のハンバーガー店の倒産(負債1000万円以上)が前年度の1件から6件に急増。今年はさらに淘汰が進むと見られていた(東京商工リサーチ調べ)。
外食大手の新規参入組で、真っ先に消滅したのがまさかのブルースターバーガーだった。
プロはどう分析する?
では、フードテックの専門家は、ブルースターバーガーの蹉跌(さてつ)をどう見ているか。
一般社団法人レストランテック協会(東京都千代田区)の山澤修平代表理事は、「IT化とDXはよく混同されるが、ブルースターバーガーが行ったことはDXではなかった」と語る。
レストランテック協会代表理事、山澤修平氏(提供:山澤氏)
山澤氏によれば、IT化とは、ITを使って組織の生産性を向上させること。一方で、DXはITを手段の1つとして、ビジネスモデル等を変革して競争上の優位を確立すること。ブルースターバーガーは、接客をITに置き換えて、料理に全振りの業態を構築したが、「IT化+α」の道半ばの状態。DXに到達する以前に、原材料の高騰などの想定外の外的環境変化の影響で、撤退を余儀なくされたと推察する。
「同社のアプリは、AndroidとiOSを合わせて1万程度はインストールされている状態。そこから取得できるお客さま情報で、オンライン上でも、顧客体験を向上させることは可能だった」と、山澤氏は残念がる。
接客面では、例えば「アマゾン・ドット・コム」をはじめとするECサイトのように、過去の注文データや性別、年齢から分析して、パーソナライズされたお勧めメニューが出せたはずだ。
空間面では、例えば出身地データから、アプリ上に出身地域別のコミュニティーを立ち上げ、神戸牛、松阪牛など地域ブランド牛のフェアなどを企画して、生産者と交流を図ることができた。
料理でも、パティの焼き方などの調理法をカスタマイズできれば、顧客満足度が向上した。また、大量のオーダーをさばく調理ロボットを導入すれば、従業員の負担が軽減できただろう。
お店がオープンした頃、さばき切れない程の注文を受けて、ひたすら調理し続ける従業員の姿からは、悲壮感すら漂っていた。
このようにITを活用しながらも、顧客と従業員の満足度を上げる発想にまで至らず、業務効率化の域に止まったのが、ブルースターバーガーがじり貧に終わった原因だと山澤氏は指摘した。
山澤氏が執筆陣に入った『これからの飲食店DXの教科書』が8月29日発売予定
接客不要の落とし穴
また、飲食店向けオンライン予約システムのテーブルチェック(東京都中央区)代表取締役の谷口優氏は「ブルースターバーガーのような注文時に接客がない業態には、デメリットもある。何を注文すべきか悩んでいるお客さまにアドバイスができないし、顧客単価が上げにくい。リピート来店する動機も薄くなってしまい、新規顧客を獲得するために広告を投下し続けなければならない」と、接客不要のシステムには落とし穴があると警鐘を鳴らした。
テーブルチェック社長、谷口優氏(提供:テーブルチェック)
都内でサービスを拡大しつつある国内発のフードデリバリー「Chompy(チョンピー)」を立ち上げた、Chompy(東京都目黒区)代表取締役の大見周平氏は、コストを抑えて作ったアプリの基本的な性能に問題があったと指摘。「ブルースターバーガーは、リリース時のアプリに使いづらさが散見された。App Storeのスコアは2.0前後と低く、リニューアル後も1.3だった。限られた予算で開発したと聞いている」とした。
Chompy社長、大見修平氏(提供:Chompy)
「特にリリース初期には、一気通貫させるべき、業務オペレーションとユーザーが使用するソフトウェアの擦り合わせが不十分だったために、大幅な遅延が多発。その後も提供予想時間を遅めに設定せざるを得ず、ファストフードとしてのコアが失われがちだった」と、フードテックに十分な投資をしないうちに、店舗拡大を急いだことに敗因があったとしている。
それではマクドナルドのようなIT活用も進んだ大手とは、勝負にならない。
なお、Chompyはデリバリーに止まらず、イートイン、テークアウトも一括した顧客管理、顧客データ活用のトータルサポートで、同業他社と差別化している。
その歴史的意義とは
テーブルチェックやChompyのような、ITを活用して外食を支援する企業が登場した今日では、個人店でもやり方次第でDXが可能になってきた。ブルースターバーガーはその流れを示唆した点で、歴史的意義があった。
谷口氏によれば、オンライン予約システム導入により24時間予約受付が可能となった。その効果として、閑散期のケーキの注文数が1.5倍になったパティスリー(神戸市「ラヴニュー」)や、ランチタイムの集客が2回転から3回転に上がった予約制豚カツ店(大阪市「とんかつ乃ぐち」)もあるという。
電話がつながらずに取りこぼしていた顧客を、オンライン予約で拾えている。しかも、予約電話からの解放で店員が料理や接客に専念できる、働き方改革につながっているかが重要。ブルースターバーガーが残念だったのは、効率優先のため店員の労働が調理ロボット化し、顧客との接点もできず、疎外が進んだことだ。
しかし、ブルースターバーガーは、まだ郊外のドライブスルーを試していなかった。また、どの店も家賃が高い駅前の一等地に店を構えていたが、テークアウトが中心ならば二等、三等立地で良かったのではないかとの疑点がある。キャッシュレス決済に慣れた外国人には受けたはずで、インバウンドが本格的に再開されていれば、結果は違っただろう。
商品の評判は上々だったのだから、何度も上陸と撤退を繰り返してようやく軌道に乗った「バーガーキング」や「ウェンディーズ」のように、諦めず再チャレンジしてほしい。
ブルースターバーガー立川北口店は臨時休業からそのまま閉店
ブルースターバーガー立川北口店(出所:プレスリリース)
ブルースターバーガー神戸元町店(出所:プレスリリース)
人気の2×2ダブルチーズバーガー(出所:プレスリリース)
レモネード150円(創業時)(出所:プレスリリース)
HAGANオーガニックコーヒー(出所:プレスリリース)
元記事はこちら
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