SKS JAPAN2022から見えた 世界をリードする日本版フードイノベーションの可能性とは

SKS JAPAN2022から見えた 世界をリードする日本版フードイノベーションの可能性とは

フードテックカンファレンス「SKS JAPAN 2022 - Beyond Community -」が、9/1(木)から9/3(土)の3日間にわたり、オンラインとリアル会場のハイブリッド型で開催されました。80名を超える食のイノベーターによるセッションや参加型プログラムなどが実施され、参加者数はオンラインとリアル会場を合わせ約850名、パートナー企業は444社に。リアル会場では3年ぶりの開催で、オンライン参加者共々熱気に包まれました。カンファレンスを通じて見えたフード業界の進化と、日本企業がこれから取り組むべきアクションについて、SKS JAPANを主催する株式会社シグマクシス 常務執行役員の田中宏隆氏にお話をうかがいました。

お話をうかがったひと


株式会社シグマクシス 常務執行役員
SKS JAPAN主催者
田中宏隆 氏

コロナ・物価高騰で加速するフードイノベーション

新型コロナウイルス禍やウクライナ・ショックなどにより、世界のフードシステムを取り巻く環境が大きな変化を迎えている中で開催されたSKS JAPAN 2022。開催5回目を迎えた今回は、「Creating new industry through collective wisdom ~SHIFT~」をテーマに、フードテックトレンドや各社の先進的な事例共有に加えて、参加型プログラムや、対話する場の設定など、「行動・社会実装につながる」プログラムが実施されました。
社会情勢の変化や物価高騰などはフードシステムにどのような変化を与えているのでしょうか。田中氏は「進化は加速してきている」と語ります。

ーー前回の2020年の開催と比較して、今回どのような部分に変化を感じられましたか?

田中氏(以下、田中):参加者が食品業界にとどまらず、多様になりましたね。食品・飲料メーカーがもっとも多いのは変わらずですが、今回は小売・卸・商社からが2番目に。顧客接点を持つ方たちが動きはじめているのだと感じましたね。

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資料提供:株式会社シグマクシス

田中:セッションの内容も、社会実装の過程がよりリアルに描かれていました。
例えば、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス株式会社は2019年のSKS JAPANで「新しいスーパーを実現したい」と宣言し、2020年には株式会社プランテックスとの協業を開始。さらに2021年からはDXによる価値創造・生産性向上に着手し、2022年に米国企業BEYOND MEAT, INC. との独占販売契約の締結を実現してきました。

2019年頃から動き出した小さな芽が、コロナの影響で一旦沈んだかのように見えていましたが、実体験まで含めた進化を起こしていることが実感いただける場となりましたね。

また、今回お披露目した「Food Innovation Map Ver.3.0」は、Ver. 2.0 から大幅にカテゴリが増え、イノベーションの多様化に加え、さまざまな人たちの思いも表現できるものへと進化しました。

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Food Innovation Map Ver.3.0 資料提供:株式会社シグマクシス

ーーフードイノベーションの方向性も変化しているのでしょうか?

田中:方向性の変化というよりも、「向かうべきところへの到達スピードが上がった」という印象です。SKS JAPANがスタートした2017年頃は、IoT家電やキッチンOSなどが主要カテゴリでした。5年の間に感染症が出現し、物価高騰が起こり、食料自給の問題が浮上。フードセキュリティの課題や既存のフードシステムの限界が如実に現れ、変化の必然性がぐんと高まったのです。

一方で植物工場やレストランテック、デジタルスーパーなど、日々の生活を変革するようなサービスや思考が生まれ、技術も追いついてきました。そこに物価高騰が拍車をかけ、生活者の危機感が高まった。結果、フードイノベーションが向かうべき方向への到達が加速しているのです。

ーー商社やデベロッパーなども商機を見込んで参入していますね。

田中:トラベルコストや自己研鑽コストなど、支出が食以外から食に関わるものへとまわっている点にも、注目しています。例えば、2日目のセッション「食から考える地域OS~嬉野モデルが示す世界最先端Regenerative地域エコシステムの可能性」では、地域単位で新たにフードシステムを考える、「地域OS」についてディスカッションしました。

佐賀県嬉野地域で「茶」の新たな価値創造に取り組む旅館「和多屋別荘」当主の小原嘉元氏と嬉野の茶農家である北野秀一氏、メディアパートナーとしてSKS JAPANに参画するDiscover Japanの高橋俊宏氏。三氏とともに「地域OS」の最先端と、業種横断の「共創」を生み出すヒントを探りました。旅館である「和多屋別荘」の取り組みから得られるのは食の体験なんですけど、トラベルコストから支出されているんですよね。そう考えると、食には無限の可能性があると感じます。

日本でフードイノベーションを加速させる4つの視点 

田中氏の著書「フードテック革命」では、フードテック革命の渦中に日本不在という現実が描かれていました。海外と比べ、イノベーションが加速しないと言われる日本。ブレイクスルーの要件とは。

ーー物価高騰などにより、既存のフードシステムへの危機感が顕著になりました。日本ならではの食のイノベーションを加速させるには、どのような方法があるのでしょうか?

田中:いくつかの方向性があると考えています。まずは、日本から世界に次のムーブメントを発信していくこと。
現状の日本企業の動きは、「ヴィーガン」や「オルタナティブプロテイン」など、欧米がセットしたテーマに向かって追いつけ追い越せという状態です。今のフードテックトレンドとしては、日本から発信できている言葉がありませんし、動きも国内市場で閉じてしまっている感があります。もっと食のアントレプレナーには世界市場を語って欲しいですし、それができると信じています。

例えば、オルタナティブプロテインは“大豆をつかった代替食”と解釈されていますが、日本人は豆腐や味噌など古くから大豆を食していました。それがいつの間にか、大豆の消費量が海外に委ねられている。この50年間ほどで蓄積された“フードテックイノベーション1.0”とも言える「おいしくする技術」に加え、百年・千年と日本の食文化や歴史から導き出せる、「日本的なフードイノベーショントレンド」の打ち出し方があるはずです。

1. 妥協なきおいしさへのこだわり

日本の強みの1つは、「おいしさに妥協しない」ところ。一次生産者やレストラン、食品メーカーなど、食にたずさわる方たちはものすごいパッション(情熱)を持っています。そうした情熱や技術をうまく紡いで形にしていくことで、日本らしい勝ち方が可能になるでしょう。

また、日本はさまざまな人たちが集い、“コミュニティベースで良いものを探求していく”特徴があります。協業・共創していくことで、他の国に負けない日本独自の「体に良くておいしい=おいしい完全食」なども、生まれるかもしれません。

2. 気候風土を生かした食の多様性

2つめは、日本ならではの「食の多様性」です。旬の味覚や47都道府県の郷土料理。気候風土に根ざした多様な食を深掘りしていくことで、発信できるものがあります。
フードテックというと完全栄養などが着目されがちですが、日本ならではの旬の楽しみはなくなりませんし、なくしてはいけないものだと私は考えています。食の嗜好が細分化する中で、「選択肢が増える」ということが重要なのです。今は選択肢があるようで、サステナブルな形での選択肢が提供されていません。

3. 循環型地産地消モデル

地産地消のあり方も、土地のものを消費するにとどまらず、「地域の循環モデル」に進化していくでしょう。地域で飼料をつくり、牛を育て、そこから出てきたものを肥料化して畑に戻す。これからは「まち自体をどうリジェネラティブ※に循環できるか」がカギです。
世界のフードシステムにつながるような、循環型の地産地消モデルを日本の地域から発信していくことも可能なはずです。

※リジェネラティブ(regenerative)、直訳すると再生。生産だけでなく、消費や廃棄物の再利用にいたる全体の流れを1つのシステムとして捉え、無駄を出さない方法を構築し、生じてしまった廃棄物は別の形にして再び活用するアプローチのこと。

4. フード・アズ・コンテンツ

食をコンテンツとして捉えるアプローチも日本の得意分野です。「孤独のグルメ」など、食べものに関する番組が日本は非常に多いんですね。そうした文化的な側面から日本が発信できるものもあります。

このように食を多面的に捉えることで、日本の強みはもっと世界に打ち出していけるのです。

ーーこうした日本ならではの風土とスキルを生かして、フードイノベーションに取り組む際に、必要不可欠なものはなんでしょう?

田中:まずは、コンセプトの策定など、プロデュースができる人材と、イノベーションに挑む人たちがモチベーションを保ち続けられるような制度や仕組みです。

新しい市場やサービスを作り出すのには時間がかかります。赤字になることもあるでしょうし、投資も必要です。そこをしっかり理解して、会社が辛抱強く投資できるか。さらに、新規事業にたずさわる人たちへの適切な評価がなされるかどうか。イノベーションを起こすような事業に取り組む際、こうした適切な対応がなされず、心が折れてしまう人が多いのです。

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資料提供:株式会社シグマクシス

田中:そして、新しいバリューネットワークの構築が大切です。現状、企業はそれぞれ強みを持っているにも関わらず、“今のビジネス”を回すのに手一杯で、新しいことをやろうとした時に、時間を捻出する余裕がありません。“今のビジネス”は、人口が減っていくこの国においてこれ以上伸びていかないことがわかっている中で、陣地の取り合いになっているのです。
これからは、事業開発の形が叡智を紡いで活用し合う時代へとシフトしていくでしょう。

叡智を結集し、日本発のグローバル食ムーブメントを

ーー2017年のスタートから拡大してきたSKS JAPANですが、今後構想されていることはありますか?

田中:今後はさまざまな地域や農業に携わってる方達ともっと関わっていきたいですね。シェフの方なども、この活動を一緒にできればと思っています。日本の食品のおいしさ開発・技術は世界的に見てもトップクラスです。だからこそ、その力を“今”本気で出していきたい。

我々のプログラムが目指すのは「日本発のグローバル食ムーブメント」を創出することです。単独でできない課題は、各社が協業することで乗り越えていけばいい。

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資料提供:株式会社シグマクシス

田中:SKS JAPAN 2022では、さまざまなムーブメントがポイント・オブ・ノーリターンにきていると実感しました。今後はまわり出した参加者の熱量が良い形で動くよう、デザインしていく必要があります。一番危険なのが、「新しい良い動き」がうまくまわりだす前に、スケールのみにフォーカスしてしまい、動きがつぶれてしまうこと。

社会システム、フードシステムを変える時のKPIは、売上が絶対ではありません。
「売り上げは伸びないけれど価値が高まるビジネス」もあれば、「スケールしなくても社会の中で大事だから浸透していくビジネス」もあります。感謝や人との交流の数など、さまざまな指標があっていい。社会全体として、小さくても意義のある取り組みに文脈をつけていくことが大切です。

日本人特有の引っ込み思案な性質はありますが、「フードイノベーション」という価値観の中で出会うことで、人と繋がりやすくなります。日本人って本来ノリが良いはずなんですよね。既存のルールを壊すことは恐いかもしれませんが、難しく感じることも、一歩ずつステップを踏んで対話していけば可能になることがあります。

新たな世界への扉は重いかもしれない。それでも、ちゃんと力を込めたり、さまざまな人と力を合わせることで開く扉はあります。

食の進化と、これから取り組むべきアクションのヒントが詰まったSKS JAPAN 2022 は、アーカイブ動画の視聴が可能です。また、10月21日にはアフターイベントも。フードイノベーションへの新たな一歩として、参加してみてはいかがでしょうか。

information
SKS JAPAN 2022アフターイベント開催!
SKS JAPAN 2022で会場・オンライン・アーカイブチケットをご購入いただいた方は、SKS JAPAN 2022アフターイベント(オンライン開催)にご参加いただけます。
・日時:10/21(金)16:00~19:00を予定
・イベント概要・参加方法につきましてはこちら
https://food-innovation.co/sksjapan/sksj2022/



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