
グローバルフードトレンド
世界一稼ぐYouTuberも参入! ゴーストレストランの魅力と最新事情
フードデリバリーの浸透に伴い、実店舗を持たない“ゴーストレストラン”が日本でも増え、話題になっている。「世界で最も稼ぐユーチューバー」も参入し、多様化するゴーストレストランの実態とは?
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([石角友愛]/2022年10月13日掲載)からの転載記事です。
フードデリバリーの浸透に伴い、実店舗を持たない“ゴーストレストラン”が日本でも増え、話題になっています。
今、米国ではこの業界が多様化していることをご存じでしょうか。多様化の背景には、ゴーストレストラン運営ならではの課題があります。
今回は発展するゴーストレストラン業界の現状を紹介したいと思います。
ゴーストレストラン業界の現状とは? (画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
参入障壁が低いゴーストレストラン
一般に、ゴーストレストランを実現するには、3種のプレイヤーが必要です。
(1)レストラン
(2)シェアキッチン
(3)宅配アプリ
通常のゴーストレストランは(1)レストランの運営者や個人事業主であるシェフが、(2)のシェアキッチンに毎月定額使用料などの料金を払い、格安で運営。集客は全て(3)の宅配アプリに任せます。オーダーが入ったらシェアキッチンで調理して、(3)の宅配アプリにデリバリー機能はお任せする、という仕組みです。
ゴーストレストランの特徴は、通常のレストランを開店することに比べて圧倒的に初期投資コストが抑えられること、リスク回避ができることにあります。
例えば、Uber創設者のトラビスカラニック氏が始めたクラウドキッチン社というシェアキッチンとゴーストレストラン支援ツールを提供するスタートアップのWebサイトには、ゴーストレストランを始めるメリットが以下のように記載されています。
クラウドキッチン社 Webサイトを基に筆者が作成
この数字だけを見ていると、誰もが気軽に副業としてデリバリー専用のフードビジネスを開業できそうな気がしてきますが、盲点が一つあります。
ゴーストレストランの最大の課題は集客
上記のようにゴーストキッチンやシェアキッチンサービスを提供するプレイヤーが増えたことで、デリバリー専用のフードビジネスを始めるための参入障壁は圧倒的に下がりました。
コロナ禍でYOLO(You Only Live Once=人生一度きり)と考える風潮が強まり、独立起業をしたい思う人が増えたことで、ゴーストレストランを開業したいと思う人の数が全体的に増えていることもこれを後押ししています。
「人生一度きり」と考える人が増えている(画像はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)
実際、米ホスピタリティ・テクノロジー社の調査によると、2021年には企業ブランドの半数が何らかの形でゴースト、ホスト、クラウドキッチンのコンセプトを打ち出しています。19年に431億ドル(およそ6兆3000億円)と推定された世界のクラウドキッチンの市場規模は、27年には714億ドル(およそ10兆4370億円)に達すると予測されています。
結果として、ウーバーイーツやドアダッシュなどの宅配アプリ上には無数のゴーストレストランが並ぶことになりますが、消費者は宅配アプリで何十分も時間をかけてオーダーをしたくはないため、一番よく知っているブランドや過去に頼んだことがある店舗など、なじみのある店をクリックする傾向があります。
そのため、無数のノンブランドのゴーストレストランが新規顧客を獲得し続けるのは非常に難しく、ウーバーイーツのアルゴリズムが検索結果のトップに自分の店を表示してくれるチャンスに命運を託さなければいけない戦いとも言え、ときには非効率な結果にもつながってしまいます。
フードブランドとキッチン所有者をマッチング
そんな中で最近米国で注目されているのが、インフルエンサーが始めた、フードブランドとキッチン所有者をマッチングさせるプラットフォームです。
その代表格が、VDC(Virtual Dining Concepts)というフロリダを拠点に持つ会社です。VDCはレストラン業界で長年の経験を持つベテランのロバート・アール氏によって18年に始められました。
VDCの特徴は、著名なユーチューバーやティックトッカー、有名シェフとタッグを組んでハンバーガーブランドやタコスブランドを作り、キッチンをすでに所有しているレストラン経営者たちとのネットワークを構築し、マッチングできる点にあります。
レストラン側は自社でブランドを構築する必要がなくなり、自分のキッチン機材やキャパシティーに合わせたブランドを選択するだけで良くなるというわけです。いわば、ゴーストレストランのデジタルフランチャイズモデルとも言えるでしょう。
「世界で最も稼ぐユーチューバー」が始めたゴーストレストラン
世界で最も稼ぐユーチューバーとされる、ミスター・ビースト氏(本名:ジミー・ドナルドソン)のYouTubeチャンネル登録者数は1億400万人超。フォーブスの公表した「2021年に最も稼いだYouTube Star」にて世界1位、約62億円を稼ぎ、ユーチューバーとして歴代世界1位の年間収入記録を保有しています。
ファンのために島を購入したり、数年前にはクラブハウスでゲスト出演したことで一気にアクセスが集中しアプリがダウンしたりと、特に10~20代の若者に圧倒的支持を得ているインフルエンサーです。そのミスター・ビースト氏が、VDCと提携し作ったのが、MrBeastバーガーと呼ばれるブランドです。
MrBeastバーガーは、彼の膨大な数のファンに支えられ、当初は多くの話題を呼び、驚異的な売り上げを記録しました。最初の四半期で、デジタルマーケットプレースでオリジナルのMrBeastバーガーアプリを通し約300店舗を展開し、100万個のハンバーガーの販売数を達成しました。
このアプリは、iTunesとGoogle Playの両方で最もダウンロードされたアプリとなり、Google検索の「人気トップ5」にも入りました。そして、22年8月には、バーチャルコンセプトからニュージャージー州イースト・ラザフォードのアメリカンドリームモールに初の実店舗をオープンし、多くのファンがかけつけました。
「レストラン事業者の皆さまへ」と書かれた案内(画像は公式Webサイトより)
MrBeastバーガーのWebサイトには、「レストラン事業者の皆さまへ」というセクションが掲載されており、「既存のレストランの厨房にMrBeastバーガーを追加しませんか? MrBeastバーガーは、あなたのキッチンで運営する独立したコンセプトを提供するバーチャルブランドで、フードデリバリーサービスを通じてのみ配達が可能です」と書かれています。
簡単な質問に答えると、おすすめブランドを提示
実際にVDCのWebサイトを見ると、レストラン事業者が簡単に自分にフィットしたブランドを選べるように設計されていることが分かります。まず、「今あなたの厨房にはどんな機材がありますか?」という質問が掲載されており、オーブン、フライヤー、冷蔵庫などを選択します。
(画像は公式Webサイトより)
次に、「普段はどんなジャンルの料理を作っていますか?」という質問が提示されます。カフェ、中華、揚げ物、日本食、メキシカン、ピザなどから選択します。
(画像は公式Webサイトより)
キッチンのサイズや数を入力すると、「あなたにおすすめのブランドはこれです!」と選択肢が表示されるのです。
試しに「フライヤーがある」と答えて進むと、フライやバーガー系のブランドが多く推奨された
(画像は公式Webサイトより)
この方法であれば、既存のキッチンスペースを有効活用して収益アップしてみようと思うレストラン経営者も多いのではないでしょうか。実際に、FoodGodというゴーストバーガーブランドのWebサイトには、以下のようなうたい文句が掲載されています。
・既存の厨房と労働力を最大限に活用
・実行しやすく、収益性の高いメニュー
・スタッフトレーニングの提供
・数百万人の顧客ネットワークを活用
・30日以内に注文を受け始めることができます
駐車場をウェンディーズに 空きスペースの有効活用
VDCのようにキッチン所有者とレストランブランド所有者(またはインフルエンサーやクリエイター)をマッチングさせるプラットフォームは他にも存在します。その一つが、リーフ・テクノロジー(REEF Technology)という会社です。
リーフでは、キッチンだけではなく、駐車場スペースや小道などの空きスペースを有効活用したいと思っている所有者に、ゴーストレストランブランド運営のフードトラックなどの機材を提供して土地活用を支援するというサービスも展開している点が特徴的です。
例えば、リーフとウェンディーズは、米国、カナダ、英国で今後5年間に700のデリバリーキッチンを開設・運営する新たな開発コミットメントを2021年に発表。ウェンディーズのグローバルレストラン開発・採用担当ヴァイスプレジデントのスティーブン・ピアチェンティーニ氏は、「リーフのような企業と提携することで、従来のレストランスペースを運営するための諸経費をかけずに、ウェンディーズを人口密度の高い都市部に進出させることができるのです」とコメントしています。
多くのメリットを生むゴーストレストランの展望は
こうした取り組みにより、厨房スペースや厨房機能がある場所だけではなく、空きスペースを有効活用して不労所得が稼げるというメリットが生まれました。それだけではなく、例えば近所にカフェが全く存在しないエリアに住む人が、持ち家の空きスペースを活用して移動型カフェを展開できれば(しかもその運営は他者に任せて自分はライセンスフィーだけをもらうことができる)地域の多様性やクオリティーも上がる、という利点が挙げられます。
空きスペースを有効活用して、移動式キッチンやポップアップストアなどに変換し不労所得を稼ぎませんか?という
リーフのコンセプト(画像はリーフWebサイトより)
コロナで一気に需要が増えたゴーストレストランですが、その構成要素は目まぐるしい速さで複雑化していることが分かります。
インフルエンサーが自身のレストランブランドを簡単に立ち上げ、アプリやYouTubeでファンに対して集客をすることでゴーストレストランが一気に全国展開できるようになりました。同時に、ブランドを持たないゴーストレストランは淘汰(とうた)される可能性もあります。
また、「空きスペースや空きキッチン、空きスタッフの有効活用」という不労所得を得ることを目的としてビジネスを展開する事業者も増える可能性があります。
今後も多様化するゴーストレストラン業界の動向に注目しています。
元記事はこちら
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著者情報

- ITmedia ビジネスオンライン
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