紅茶市場は“マンネリ化”しているのに、なぜ「ミルクとけだすティーバッグ」は売れたのか

紅茶市場は“マンネリ化”しているのに、なぜ「ミルクとけだすティーバッグ」は売れたのか

2021年8月に発売された日東紅茶の「ミルクとけだすティーバッグ」シリーズが、異例のヒットになっている。22年3月時点で予想売上の3倍を達成、同製品をもっとも支持しているのは、従来ティーバッグ紅茶を買わない17~24歳のZ世代だ。なぜ、若年層の心をつかんだのか。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([小林香織]/2022年10月24日掲載)からの転載記事です。

 2021年8月に発売されてから、たびたびTwitterでバズっている日東紅茶の「ミルクとけだすティーバッグ」シリーズ。その名の通り、茶葉とクリーミングパウダーが入ったティーバッグをお湯にひたすと、ミルクが溶け出し、90秒で簡単にミルクティーが完成する。

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「ミルクとけだすティーバッグ」(全5種類、希望小売価格は330円)が、Z世代から支持されている

 売れ行きも好調で、22年3月時点で予想売上の3倍を達成している。発売初期は供給が滞り、SNS上では「どこで買えるのか」とつぶやく声が多く聞かれた。SNS解析によれば、同製品をもっとも支持しているのは17~24歳のZ世代だ。通常、ティーバッグ紅茶は40~50代の女性がメインの購入者層となるが、それとはまったく異なる動きだった。

 社内では「売れない」と反対の声もあったというが、結果的にZ世代の心をつかむ異例のヒットとなっている。同製品の開発を担当した三井農林 企画本部 商品企画・マーケティング部 竹田一也部長に、開発背景と反響を聞いた。

発想は単純だが、キャラが秀でたおいしさ

 「ミルクとけだすティーバッグ」の開発が始まったのは、19年ごろだった。三井農林の食品総合研究所内で、「紅茶のティーバッグに粉末タイプのロイヤルミルクティーを混ぜると、さらにおいしくなる」という話が出て、そこから「製品化を検討してみよう」と動き始めた。

 茶葉にクリーミングパウダーを混ぜて、フィルターで包む。「発想自体は単純だが、そのおいしさに驚いた」と竹田氏。

 「モックサンプルを飲んでみると、茶葉の香りとコクが想像とは全然違っていました。現状のラインアップと比較して、明らかにキャラクターが秀でていて、おいしかったんです」(竹田氏)

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「アールグレイ」を購入して飲んでみたところ、茶葉のいきいきした香りを感じられた(筆者撮影)

 「過去のデータから、ティーバッグ紅茶の購入者のうち、約60%はストレートで、残り約40%は甘さを加えることが分かっています。後者のうち約50%がミルクティーにしていて、加糖と無糖の割合は1:1です」(竹田氏)

 こういった紅茶の嗜好(しこう)を踏まえると、「おいしい無糖のミルクティー」を家庭で簡単につくりたい人は一定数いるはずだ。ストレート紅茶用ティーバッグと牛乳、あるいはクリーミングパウダーを使えば、おいしいミルクティーはできあがるが、やはりひと手間かかってしまう。

 粉末タイプのインスタントミルクティーは販売されているが、日東紅茶、リプトン、トワイニングの紅茶業界大手をはじめ、その他のブランドでも加糖がスタンダード。無糖ミルクティーの需要や市場の状況を見て、「トライしよう」となったわけだ。

Twitterで10万いいねを獲得。3大コンビニでも販売へ

 発想は単純とはいえ、すぐに製品化できたわけではない。素材の選定、設備導入などの稟議を重ね、21年春にテスト販売するまでに2年弱の月日を費やしている。

 「フィルターには、クリーミングパウダーが外にもれず、お湯に入れたときにスムーズに溶け出る絶妙な通気性が求められます。クリーミングパウダーは、溶けやすく、かつ紅茶の香りを残したまま適度な甘みやコクが感じられるものでなければいけません。相当数の施策を重ねて、ベストを追求しました」(竹田氏)

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既存の生産ラインではつくれないため、設備にも投資した

 パッケージにはAI解析を用いた。膨大なデザインデータをもとに、デザインの「好意度」や「コンセプトの伝わりやすさ」などを示すものだ。同シリーズは、ティーバッグ紅茶のメイン購入者層より若い、30代女性をメインターゲットに据えた。とはいえ、優先したのは“分かりやすさ”で、どんな商品か直感的に分かるパッケージ、ネーミングとした。

 21年8月30日に発売したところ、想像以上の反響に。21年8月、「ミルクとけだすティーバッグ」の発売を紹介した一般ユーザーのTwitter投稿には1.6万件の「いいね」が、翌9月には実際に飲んだ感想をつづったTwitter投稿に10万件の「いいね」が付いた。

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10万いいねの投稿はすでに削除されたようだが、「お湯を注ぐだけで、ちゃんとしたミルクティー。ミルクも濃い」と味に満足した内容だった

 10万いいねの反響はすさまじく、日東紅茶のSNS分析によれば、21年10月に一気にTwitterでの関連投稿が増えた。同時にメディアでの露出も増え、認知度が広がった。一方で、商品の供給体制が整わず品薄になっていたため、買えない人も多くいたようだ。

 結果的に、22年3月時点で予想売上の3倍を達成。4月以降も好調を維持している。あまりの反響に、コンビニからも供給依頼があったほど。現在は、3大コンビニ(セブン-イレブン、ファミリーマート、ローソン)でも販売している。

なぜ、Z世代・ミレニアル世代にウケたのか

 メインターゲットを30代女性としていた「ミルクとけだすティーバッグ」だが、SNS分析(発売前のタイミング~22年3月)では、17~24歳のZ世代の支持が圧倒的だったという。25~34歳のミレニアル世代がそれに続き、逆にティーバッグ紅茶をよく購入している40~50代からの反応は、ほぼゼロだった。

 Twitterで同製品を支持した若年層が何をベネフィットに感じているかの調査では、「利便性の向上」がトップに。「贅沢(ぜいたく)」「おいしい」が続いた。

 「ティーバッグ紅茶の世界は保守的であり、業界大手3社(日東紅茶、リプトン、トワイニング)の位置関係は何十年も変わっていません。商品自体の新規性も薄く、2002年にリプトンさんがピラミッド型ティーバッグを日本でも採用したのが、唯一目に見える分かりやすい変化でした」(竹田氏)

 成熟している紅茶市場で明らかに目新しいコンセプトであり、分かりやすく利便性が向上した点が、Z世代に刺さった理由ではないかと竹田氏はいう。

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都内の大型スーパーでは見当たらず、ファミリーマートで「アールグレイ」だけ発見した(筆者撮影)

 ツイートでは、「職場でミルクティーを飲みたいときに便利」「粉末タイプみたいに甘くないのがいい」といった声が聞かれた。調べてみると、「甘さ」を抑えたことでZ・ミレニアル世代に売れた紅茶の事例はほかにもあった。

 直近のヒット事例であるローソンの「チルド紅茶」は、22年4月の発売から5カ月で740万本以上を売り上げた。240ミリリットルで100円という手頃さに加え、Z世代の声を生かして甘さを抑えた「アールグレイ #ちょい甘」(現在は販売終了)が人気の火付け役になったようだ。

 キリンの「午後の紅茶」は、甘さを理由に午後ティーを避けていた20代後半以降のワーカー層を取り込むため、19年に微糖タイプの「午後の紅茶 ザ・マイスターズ ミルクティー」を発売(現在は販売終了)。約7カ月で5000万本を売り上げるヒットになった。

 ザ・マイスターズ ミルクティーは、21年に売り上げが大幅に低下したことから22年3月で出荷が終了したが、同カテゴリーの商品として「キリン 午後の紅茶 ミルクティー 微糖」が22年4月に登場。ザ・マイスターズ ミルクティーより甘さを強調しつつカロリーは控えめで、顧客層を広げる目的があるそうだ。

新フレーバー「はちみつ紅茶」も絶好調。次の狙いは?

 このヒットを受け、日東紅茶では、22年8月29日から3つの新フレーバー「はちみつ紅茶」「しょうが紅茶」「ほうじ茶」を発売した。なかでも反響が大きいのは「はちみつ紅茶」で、カテゴリーそのものが市場の新たなトレンドとなっているようだ。

 「当社では、21年8月にストレートタイプの『はちみつ紅茶ティーバッグ』を発売しているのですが、新規性があるためかよく売れています。人気の火付け役は、紅茶専門店『ラクシュミー』さんかもしれません。2年ほど前から同店の『極上はちみつ紅茶』が話題になっているようです」(竹田氏)

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トレンドとなりつつある「はちみつ紅茶」は惹きが強いそう。粉末はちみつが使われている

 最初に発売した「オリジナルブレンド」と「アールグレイ」は砂糖不使用にこだわったが、この秋からは「紅茶の楽しい世界を広げてほしい」と、甘さのある「はちみつ紅茶」を投入。さらに、非紅茶領域の商品として、スターバックスのデザートにも起用されている「ほうじ茶」もラインアップに。「さらに種類を増やしていきたい」と竹田氏は期待をにじませた。

 全社的な展望を尋ねると、向かう方向は「新規性」と「健康軸」の2つだという。

 「当社は100年近い歴史があるためか、消費者のイメージ調査では『昔の会社』や『ダサい』などが聞かれます。価格競争が激しいティーバッグ紅茶において、安さをウリにしてきたこともブランドのチープ化につながっています。

 ですが、『ミルクとけだすティーバッグ』のように、差別化したコンセプトや価値を伝えられれば高価格帯の商品も売れる。マンネリ化した紅茶業界で、新しい発見や驚きを提供できる商品を目指します。

 もう一つは、研究所の長年の成果をもとにした健康軸の商品の提供です。健康意識の高まりに応えられるよう、紅茶の健康価値を理化学的にパッケージで体現できる商品の開発にも取り組みます」(竹田氏)

 SNSを見る限りでは「ミルクとけだすティーバッグ」の話題性は、10月中旬現在も続いているようだ。とはいえ、競合が傍観しているわけではない。リプトンではティーバッグ紅茶の新商品として、「リプトン 濃厚ミルクティー用 特別ブレンド アロマアールグレイ」と「リプトン 烏龍ミルクティー用 特別ブレンド ハニーウーロン」を22年9月から発売。自宅で簡単においしいミルクティーをつくれると訴求する。

 紅茶市場のマンネリ化に一石を投じ、ヒットにつなげた「ミルクとけだすティーバッグ」。コンスタントに新フレーバーを発売するなど、束の間のブレイクで終わらせない戦略は、引き続き求められそうだ。

写真提供:日東紅茶

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