波はすぐそこまで?食品×D2Cの海外トレンドまとめ

波はすぐそこまで?食品×D2Cの海外トレンドまとめ

ここ数年、米国の小売業界で盛り上がりを見せているD2C(Direct to Consumer)をご存知ですか? D2Cとは、自社で企画から製造までをおこなった商品を、主にオンラインの自社チャネルで販売するモデルを指します。

広告から販売、そして購買後のフォローまでをオンライン上で行うことにより、顧客の閲覧及び購買データを回収することが可能となり、顧客と直接コミュニケーションが取れることを強みとします。また直接販売により中間マージンが不要となり低価格に抑えることができるといったメリットもあります。このD2Cの波は食品業界にもあらわれています。この記事では、いくつか食品や飲料を扱ったD2Cのサービスをご紹介します。

1.Blue Apron

1556_bunner.jpg参照:https://www.blueapron.com/

ブランド名:ブルーエプロン
URL: https://www.blueapron.com/
創業者:Matt Wadiak(マット・ワディアック)、Matt Salzberg(マット・ソルツバーグ)、Iilla Papas(イリア・パパス)
創業年:2012年

ニューヨーク発の契約生産者の食材とおしゃれなトレンドメニューのオリジナルレシピを強みとする、全米最大手のレシピ付きミールキットのサブスクリプション(定期販売)です。創業者のマット・ワディアックらは、誰もがどこに住んでいようとも、どんなに忙しくとも質の高い食材を使って作る料理と美味しい食事を体験できることをゴールに創業しました。

1食あたりの販売価格は10ドル前後です。2017年までは全ミールキットサービスの中で首位を独走し100万人の定期購入者がいました。しかし、2018年を境に年々定期購入者数が減少しています。2018年以降、Amazon傘下のホールフーズを始めとする小売業がミールキットの販売、当日お届けのネットスーパーを開始した影響を受け、1食あたりが割高で原則毎週配達されるサブスクリプション型ミールキットの利用者は減ってきているという背景があります。

2.Daily Harvest

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参照:https://www.daily-harvest.com/

ブランド名:デイリーハーベスト
URL: https://www.daily-harvest.com/
創業者:Rachel Drori(レイチェル・ドローリ)
創業年:2015年

ニューヨークで生まれた新鮮なスーパーフードを中心としたフルーツスムージーのサブスクリプションサービスです。毎週届くカップにはフルーツや野菜などが冷凍されたスムージーベースが届けられ、好みのミルクと一緒にミキサーにかけるだけで簡単に美味しく栄養たっぷりなスムージーを作ることができます。

1杯あたり7〜8ドルとなっており、1週間単位で注文数が多いほど、1杯あたりが割安となる価格設定です。「TVディナー(※)」と呼ばれるものが中心の米国の冷凍食品は、手軽だけど身体に悪いと言ったイメージがありましたが、デイリーハーベストはそのイメージを払拭しています。「Farm to Frozen(農家から冷凍庫へ)」をブランドコンセプトに収穫後すぐに冷凍することにより、買ってきた野菜や果物で作るものよりも栄養価が高く、手軽におしゃれなスムージーが飲めるという価値がユーザーの高い評価を得ています。また冷凍食品を購入することはイケてない、できれば人に見られたくないといったイメージもありますが、自宅まで配達という形態をとることでその懸念を取り除くことにも成功しています。

(※)メインディッシュと付け合わせがすべてトレイにセットされた冷凍食品。テレビを見ながら食べられるアメリカンスタイルのお手軽ディナー。

3.YUMI

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参照:https://helloyumi.com/

ブランド名:ユミ
URL: https://helloyumi.com/
創業者:Angele Sutherland(アンジェラ・サザーランド)、Evelyn Rusli(エブリン・ルスリ)
創業年:2017年

NYで活躍する記者が立ち上げたプレミアムベビーフードのサブスクリプションサービスです。CEOのアンジェラ・サザーランド自身が妊娠をした際に、子どもが生まれてから1000日間で摂取するものがその後の身体を作るという話を聞き、生まれてくる子どもが口にするものに高い関心を持つようになり、スーパーへ行って並ぶベビーフードを見たときに、食べさせたいものがなく非常にショックを受けました。そうした体験から、全ての忙しい親に向けて栄養たっぷりのベビーフードの開発販売に乗り出し創業したのが同社です。

他社のベビーフードのサブスクリプションサービスはペースト状の離乳食しか提供していないのに対し、YUMIは離乳食初期から完了期のスナック(おやつ)までをカバーし、顧客を掴んでいます。個人向けの配送サービスが強くない米国において、独自の段ボール箱に大きな保冷剤を同梱し、作りたてのベビーフードの翌日配送を実現し、フレッシュな食事を全米の赤ちゃんに届けています。1食あたり4〜5ドル、1週間単位で8食からの販売となっています。

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原材料が全て表示されており、安心して子どもに与えることができます。ほんのり甘く素材の味が感じられ、大人が食べてもおいしいと感じられる味になっています。

オリジナルのかわいい箱にしっかりと固定されて届きます。

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4.Ripple

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参照:https://www.ripplefoods.com/

ブランド名:リップル
URL: https://www.ripplefoods.com/
創業者:Adam Lowry(アダム・ローリー)、Neil Renninger(ニール・レニンジャー)
創業年:2014年

植物性ミルクの選択肢が増えていく中で、最強の牛乳代替品はエンドウ豆ミルク(ripple milk)であると謳い、植物性ミルクの製造販売をおこなっているカリフォルニア発のブランドです。

酪農は大量のメタンガスを排出し、地球温暖化を招いていると指摘する専門家もおり、牛乳の代替品の開発がカリフォルニアを中心に盛んにおこなわれています。リップル社の主張によると、豆乳の大豆は遺伝子組み換えが頻繁に行われ、アーモンドミルクは製造の過程で大量の水資源を必要とし、ココナッツミルクは過敏性腸症候群の人は飲めない上にタンパク質を摂取することができません。しかしエンドウ豆は遺伝子組み換え種がほとんどなく、また製造過程で豆乳、ナッツミルク、ココナッツミルクと比べ9割以上も少ない水で製造することができます。タンパク質をはじめとした栄養素も豊富でありと述べています。味は豆乳に近く、飲用にも料理用にも使うことができます。ミルクの他に、コーヒー用クリーム、フレイバーミルク、ヨーグルト、サワークリーム、アイスクリームの幅広いラインナップを手がけています。現在は全米のオーガーニックスーパーを中心に広く販売されています。1本(約1.4L)あたり4〜5ドルで販売されています。

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パッケージには「タンパク質 含有8g」「牛乳と比較し糖分は半分で、カルシウム含有は1.5倍多い」を明記し、栄養価が高いことを訴求しています。

5.CALIFIA FARMS

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参照:https://www.califiafarms.com/

ブランド名:カリフィアファームズ
URL:https://www.califiafarms.com/
創業者:Greg Stenltenphol (グレッグ・ステンテンホル)
創業年:2010年

地球環境にも身体にも優しい植物性ミルクを誰もが簡単に手に取り、楽しめるようにと創業されたカリフォルニア発のブランドです。アーモンドミルク、オーツミルク、ココナッツミルクなど取扱い商品の幅が非常に幅広いのが特徴です。

現在は自社サイトでの販売に加え、全米の小売店でも販売されています。1本(1.4L)あたり4〜7ドルで販売されています。曲線で柔らかいデザインのボトルは売り場でパッと目を引き、これまで牛乳しか飲んだことがなかった消費者も思わず手に取って試したくなるようなおしゃれなものです。従来の米国の牛乳は無調整、低脂肪(2%)、無脂肪、チョコレートと昔から全く変化のないラインナップだったところに、ミルクの種類、甘みの有無、季節限定のフレイバー(例:クリスマスのノグ味)、バニラ味などのフレーバーと豊富なラインナップで自分のお気に入りを見つけられるようになっています。最近は、ミルクだけでなくコーヒー飲料の販売もおこなっており、やや無骨でどっしりとした男性的なデザインボトルを採用しています。

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特徴的なボトルは植物性ミルクコーナーでもひと際目を引きます。

ココナッツミルクと比べると、非常にさらっとしていてココナッツが苦手な人でも飲みやすいですが、ココナッツ好きの人からすると少し物足りない感じがするかもしれません。

D2Cが加速する市場背景とは?

私たちが普段口にする商品の選択肢は世の中にたくさん溢れています。その中で各ブランドでは、自社商品が選ばれるために、解決したい消費者の課題や企業のビジョンを明確に打ち出し、他社との差別化を推し出しています。アパレルやファッションのD2Cブランドは従来品と比べ低価格であることがポイントとして挙げられますが、食品・飲料においてはオーガニックなど原料にこだわって国内製造しているため、従来品より割高の価格設定となっています。価格優位性を示せないため、ブランドは消費者に寄り添い、より情緒的な価値を訴求しています。

例えば、これまでに紹介したサービスにもあるように、東海岸のニューヨークでは「時短」「健康」を、西海岸のカリフォルニアでは「環境保護」「健康」をテーマとしたブランドが多く誕生しています。米国は医療保険が非常に高く、都市部においては特に健康に対しての意識が高いことが背景の一つとして挙げられます。忙しい大都会のニューヨーカーは、効率的に健康に配慮して生活することに関心を抱いていて、そうした課題を解決するようなブランドの誕生を後押ししていることが考えられます。またリベラルな気風の西海岸においては、年々環境意識が高まっていて、それは毎日口にする食品、飲料にも及んでいるため環境保全を謳うブランドが生まれていると考えられます。(全米で初めてプラスチック製レジ袋を禁止したのも、エコカーの販売台数が群を抜いて多いのもカリフォルニア州です。)

また、企画から販売までを一貫して実施するD2Cブランドが主流の中で、食品、飲料についてはその限りではないことがわかります。米国は国土が日本の25倍ほどあり、冷凍冷蔵状態や翌日配送が約束できる物流システムが整っていないことが背景にあると考えられます。また食品、飲料は単価が安く、配送方法によっては商品価格より配送料の方が高価となるケースが多く、直接販売には大きなハードルともなります。そのため、多くのブランドは大手小売店への卸販売が主流となっています。ブルーエプロンはまだ小売店への卸売をおこなっていませんが、その他ミールキットブランドは一部小売店に委託販売を開始しています。

しかしながら、日本の卓越した物流システムであれば、米国の食品・飲料D2Cブランドが超えることのできなかったハードルを超えることができるかもしれません。





著者情報

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倉中真梨子
夫の渡米に帯同して、2019年7月より当時0歳の息子を連れて人生2度目の米国生活スタート。美味しいものと体に良いものが好きな食いしんぼう母さんです。
米国生活は通算16年目に突入。現在ピッツバーグ在住時々LA。