700人待ちの「シャトレーゼ体感ツアー」 ブランド理解を深める“スイーツ旅”誕生の裏側

700人待ちの「シャトレーゼ体感ツアー」 ブランド理解を深める“スイーツ旅”誕生の裏側

菓子メーカーのシャトレーゼは1泊2日で1万5000円(大人料金)の「シャトレーゼ体感ツアー」を2022年7月にスタートした。ツアーは好評で定員(40人)の20倍近い「待ち」が出る回も。しかもツアー参加者は、その後の来店頻度が2倍以上に跳ね上がるという。どのようなツアーなのだろうか?
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([堀井塚高]/2022年11月18日掲載)からの転載記事です。

 シャトレーゼホールディングス(HD)傘下のシャトレーゼ(山梨県甲府市)が2022年7月にスタートした「シャトレーゼ体感ツアー」が好評だ。週1回程度のペースで開催されるこのバスツアーは、1泊2日(3食+スイーツ付き)で大人(高校生以上)が1万5000円、小人(3歳以上・小・中学生)が1万円(3歳未満は無料)。

 ツアー1回の定員は40人だが、シャトレーゼ白州工場(山梨県北杜市)で人気・最新のスイーツを満喫できる上、シャトレーゼHD系列の「シャトレーゼホテル にらさきの森」に宿泊できるとあって、多いときは700人を超える待ちが出るほどの人気となっている。

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「シャトレーゼ体感ツアー」が好評だ(画像:シャトレーゼ体感ツアー公式Webサイトより)

 シャトレーゼ体感ツアーは、22年4月に終了した「白州工場見学」に代わってスタートした企画だ。新型コロナウイルス感染症拡大の影響で、白州工場見学は2年近くも休止状態だった。

ブランドの認知度向上から理解度の向上へ

 今川焼き風の菓子を製造していた甘太郎(山梨県甲府市)とアイスクリームの大和アイス(山梨県甲州市)が合併してシャトレーゼが誕生したのは1967年の12月。全国の工場直売店に向けた商品供給の中心的存在となる白州工場が完成したのは1994年のことだ。

 シャトレーゼ広報室の中島史郎室長は「完成当初から白州工場の見学はできたが、注目され始めたのはアイスクリームの食べ放題(無料)を始めた2000年代に入ってから。その後、テレビ番組や雑誌などで取り上げられるようになり、見学者が増えていった」と話す。この頃の見学者数は、多いときで年間30万人超え。特に夏場は無料のアイスクリームを目当てに工場を訪れる客が殺到したという。

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アイスクリームが無料で食べられる工場見学として話題だった 
※写真は2015年当時(画像:以下、シャトレーゼ提供)

 「アイスクリームの食べ放題を始めた頃はまだシャトレーゼブランドの認知度が低く、(たとえ無料のアイスクリームが目当てだとしても)工場見学に来てもらえるだけで良かった」と中島室長。

 実は創業者である齊藤寛会長の方針で、シャトレーゼには「宣伝広告費」という予算枠がない。テレビCMなどに頼ることもできない、TwitterやInstagramといったSNSも使いこなせていない状況でブランドの認知度を上げるには、工場見学が唯一とも言える方法だった。

バズりツイートがきっかけで、戦略を変更

 中島室長の認識が変わったのは、シャトレーゼの店舗数が約480店舗にまで増えていた2017年。ある地方在住ユーザーの「シャトレーゼは田舎にしかない」というツイートがTwitterでバズったことがきっかけだった。

 中島室長によると「最初は『シャトレーゼは都会にもある』みたいな論争だったが、そのうち『安くておいしいよね』『あの商品が好きだ』のような論調になっていき、一晩中、ツイートが途切れなかった」とのこと。「北海道から九州まで店舗を出していることは、全国ブランドとして強いんだということを改めて思い知らされた」(中島室長)

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シャトレーゼの白州工場

 これをきっかけにシャトレーゼでは初めてTwitterの公式アカウントを開設し、朝昼晩と1日3回はツイートするようにした。22年11月現在、シャトレーゼ公式のフォロワーは58万人を超える。

 新型コロナの流行を受けて白州工場見学が休止になったのは、ブランドの認知度向上から理解度向上へとシフトするきっかけになった。中島氏は「ステージが変わったので従来通りの工場見学再開はない。もうアイスクリーム食べ放題のステージではないと考えていた」と打ち明ける。

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ファン化戦略に舵を切ることに ※写真はシャトレーゼホテル にらさきの森

 工場見学から体感ツアーに進化するに当たって中島室長が重視したのが「夏場需要のみから通年へ」「原材料へのこだわりを伝えてファンをつくる」ということだった。もちろん、ブランドの理解度向上という意味では、シャトレーゼの歴史や原材料へのこだわりを紹介する仕掛けも白州工場に用意していたが、無料アイスクリームの前ではかすんでしまった……ということもあるだろう。

体感ツアー前後で来店率が2~3倍に

 「体感ツアーを通じてファンになってもらうためには、その行程にどれだけブランドに対する共感ポイントを盛り込めるかが重要」と話すのは、販売企画部の望月裕太部長。体感ツアーには、白州工場見学やシャトレーゼホテル にらさきの森での宿泊に加え、シャトレーゼ ベルフォーレ ワイナリーでのワインテイスティング会、こだわりの原材料を使った菓子作り体験、季節のフルーツの契約農園体験など、これでもかというほど共感ポイントを盛り込んでいる。

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菓子作り体験

 体感ツアー参加者の多くは、シャトレーゼが展開するポイントサービス「カシポ」の会員だ。100円につき1ポイントがたまり、会員は現金の代わりに1000ポイントを利用し体感ツアーに参加できる。

 参加者の約3分の1はこうしたポイント利用での参加だが、1000ポイントためるには10万円以上の商品購入が必要だ。それだけ熱量の高いファンが多いと分かる。

 望月部長によれば「体感ツアー参加前後で比較すると、シャトレーゼへの来店頻度が2倍から3倍に増える」とのこと。「体感ツアー後のアンケートでは、満足度について10点満点中10点を付ける参加者がほとんど。『以前よりシャトレーゼが好きになった』『原材料へのこだわりがよく分かった』といったコメントも数多く頂いている」(望月部長)

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ツアー中に提供される弁当 ※写真は一例

 体感ツアーには参加者の生の声を聞き出そうという狙いもあり、開発中の新商品を試食してもらうこともある。参加者からすれば「自分も商品開発に関わった」という意識が生まれ、シャトレーゼに対するエンゲージメントはさらに高まる。

 ブランド認知度向上から、ブランド理解度向上へと進化したシャトレーゼの体感ツアー。熱心なファンを増やすことで売り上げを伸ばし、店舗を増やす。店舗が増えることがさらなるファンの獲得につながる。シャトレーゼの施策には好循環を生み出す仕組みがあるのだ。

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YATSUDOKI TERRACE石和にも立ち寄り、手土産菓子を購入できるようにした

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