
食トレンド
【行った】新たなニーズか、立ち食い業態。気の置けない仲間とサクッと立ち食い寿司へ
行動制限がなくなってもうすぐ1年。繁華街へ行くと少しずつ人流が戻ってきていることを感じますが、2次会や大人数での飲み会が減り、外食の形が変わってきました。中でも最近よく耳にするのが「立ち食い」です。「よしだけいすけの飲食店最前線巡り」のシリーズ15回目は、立ち食い寿司へ。ハレの代名詞とも言える寿司が立ち食いではどう楽しめるのか、実際に行って体験してきました。
前回記事:【行った】韓国ポチャに流行の気配!新大久保韓国横丁で韓国の方とポチャを語る
ファストフードの一種?広がる立ち食いジャンル
KFCやサブウェイ、ラッキーロッキーチキンなど、コロナ禍でも売上好調なファストフード業態を記事で取り上げてきましたが、好調の裏側には、宅配や持ち帰りなど食べるシーンの拡大が大きな要因としてありました。サクッと食べて空腹を満たすという意味では、立ち食いジャンルもファストフードと近い業態かと想像していましたが、こちらもまた、食べるシーンの拡大による別の価値が生まれているようです。
立ち食いとは、江戸時代に仕事の合間の短時間でお腹を満たす飲食店として、屋台を中心に広がった文化だといいます。立ち食い業態で多いそばやうどんはその流れですよね。一方最近では、立ち食いのフランス料理、焼肉など、料理の質を追求したお店も生まれていて、必ずしも空腹を満たすだけが目的ではない印象です。
立ち食い業態のニーズとは何なのか、今回は新宿の「名前のない寿司屋」というお店を体験してレポートします。
立ち食いはそばに限らず。歌舞伎町の立ち食い寿司へ行ってみた
選んだのは新宿・歌舞伎町のど真ん中にある立ち食い寿司。「名前のない寿司屋」という店名の通り、入口に目立つような看板はなく、開かれたドアからのぞいて寿司店であること、先客が2組いることを確認してから入店しました。
立ち食いなので当然イスはなく、奥行きのある細長いスペースの両側にカウンターが設置されています。両側のカウンターに人が立つと、間の通路が通れなくなるほどの距離感。すでに2組、合計3人のお客さんがいて、3人で入店した私たちでほぼいっぱいという広さです。
空いているカウンターに案内されて周りを見渡すと、壁一面に寿司のネタが貼られています。特別高いわけじゃないことに一安心しつつ、ネタのバリエーションの豊富さに驚きます。立ち食いという業種は、厨房も狭く、メニューの種類も絞っているのではと想像していましたが、寿司という特性上、スペースが狭くても種類を用意できるのはメリットといえます。
店員は、厨房内の大将と、注文を聞いたり商品を提供してくれるスタッフの合わせて2人。このお店は夕方17時から深夜2時までの営業なので、夕食やちょい飲み、あるいは飲んだ後のシメとして使われているようです。お腹の空き具合に合わせて食べる量をコントロールしやすく、シメにも使いやすいのは、寿司ゆえの強みと感じます。
最大収容客数が7人として、私たちが店にいた時間を含めて1時間に6人が来店。営業時間9時間でコンスタントに入店があるとすると日客54人。寿司単価が200円ほどでアルコールとの組み合わせで客単価1,500円で試算すると、1日の売上は80,000円ほどでしょうか。
開店が早いこと、寿司は火を使うことが少なくオペレーションが比較的単純なこと(技術は別にして)を加味すると、効率の面でも寿司は立ち食いにマッチしてそうです。
本日の超特価。1貫10円で15貫まで!
一貫の金額は100~200円前後で、新宿繁華街の立地を考えると良心的なプライス。定番ネタからチェーンの回転寿司店では取り扱いのないネタもあり、酒のつまみを意識した構成が意図されているようです。
壁のメニューを眺めていて驚いたのは、「本日の超特価」の札。カレイとぶりが1貫10円とあります。目を疑いましたが間違いではなさそうで、その下の説明には「ドリンクを御注文のお客様に限ります」とのこと。さらに「一人様15貫まで」と続きますが、こういう超特価品は一般的には1人1貫とか、それくらいの量が多いですよね。15貫だとそれだけでお腹いっぱいになれる量なので、500円程度のドリンクと1貫10円の握り15貫で、650円という、信じられないお値段でいただけます。
この「本日の超特価」は日によってネタが異なり、その日によって何がお得に食べられるかは行ってからのお楽しみ。そういう偶然性のある出会いは再来店のきっかけになりますね。
立っていることを忘れる距離が近いカウンター
前置きが長くなりましたが、早速ビールをオーダーして立ち食いスタート。イスが無い分、人と人の距離が自然と近くなります。3人で横並びになりましたが、立っているからこそ話している人に体を向けやすく、話しやすく感じます。
10円のネタを中心に各々が食べたいものをオーダー。当たり前ですが10円だからといって極端にネタが小さいわけでもなく、しっかり美味しい寿司です。飲む、話す、食べるを繰り返しながら、いずれもまんべんなく進みます。
注文は口頭で伝えるスタイルですが、お店が狭く、スタッフがどこにいても聞こえるのは便利です。気兼ねなく食べたいと思った瞬間にオーダーできます。
狭いと言ってもカウンターの幅は一定あり、注文したものを並べてもゆとりがあります。そばなどの麺類と違い、丼を持ち上げたり顔を近づける必要がないのも、立ち食い寿司の良さかも知れません。
コロナ禍で立ち食いが増える理由は、気軽さと日常会話がカギ
コロナ禍で立ち食いのお店が増えているのはどういう理由なのでしょう。コロナが広がり始めたころは行動制限もあり、外食や飲み会の機会を作りにくくなりました。家で過ごす時間が増え、家飲みや宅配、テイクアウトを活用した食事が増えたのはご存知の通りですが、想定以上に我慢の期間が長くなる中、人とのコミュニケーションを求めるのは自然の流れです。
とはいえ、人によって感染予防に対する考え方が違うので、がっつりと飲み会に誘うことは気がひけるもの。長居しない立ち食いや立ち飲みであれば罪悪感も小さくて済むことから、需要が高まったという背景がありそうです。
リモートワークで浮彫になったコミュニケーション不足の課題に対して、何気ない日常会話の不足を補える場所として、立ち食いは価値を発揮しています。特段の相談があるわけではないけど、「最近どう?」なんていう気軽な会話がしやすい機会になっているのでしょう。
立ち飲みの場合は動機が「飲むこと」なので、お酒が苦手な人を誘うことは難しくなりますが、立ち食い店なら「食べること」が目的語になり、より手軽さが増します。
また、立ち食いはお店側にも利点がありそうです。店舗面積が必要ないので家賃の安い物件から選ぶことができ、少ない初期投資で、少ない客数で経営を成立させることができます。外食業界では採用難が続いていますが、必要人員も最低限でよく、大人数のお客さんを短時間で接客するためのDX投資も必要ありません。
飲食店は食べるだけじゃない。人を繋ぐ立ち食い
外食って面白い。立ち食いで改めて感じました。立つことによって同行者との物理的な距離が近く、体を向き合えることで会話が弾みやすいのです。現代の飲食店は「食べる」こと以外にも、コミュニケーションの場や、仕事や勉強をするなどさまざまな空間として使われます。立ち食いもファストフードとして短時間でお腹を満たすことのほかに、気軽なコミュニケーションが生まれる場所としての価値を提供しています。
【店舗情報】
名前のない寿司屋
住所:東京都新宿区新宿歌舞伎町1-12
営業時間:17:00~翌2:00
※2022年12月の取材時点での情報です
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著者情報

- よしだけいすけ
- 2020年5月よりカラビナハート株式会社に入社。10社ほどの企業SNSアカウントのコンサル・運用支援を行っている。公式アカウントのフォロワー増や投稿のノウハウだけではなく、目的に合わせた目標設計やビジネス貢献の可視化、再現性ある仕組み作り、SNS担当者のトレーニングが得意領域。2020年4月までは株式会社すかいらーくHDのマーケティング本部にてコンテンツコミュニケーションチームのリーダー。7つの公式Twitterアカウントを立ち上げて合計210万フォロワーに。広告宣伝のほかアプリ、メルマガ、公式サイト、ファン施策、ポイントプログラムなどを担当した。店舗勤務含めて15年間在籍。
Twitter:https://twitter.com/ruiji_31
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