お客は「どの弁当」の前で立ち止まっているのか ベルクの分析が面白い

お客は「どの弁当」の前で立ち止まっているのか ベルクの分析が面白い

店内のお客の動きを分析して、売り上げアップを図っているスーパーがある。関東で展開しているベルクだ。お弁当コーナーを分析したことで、どのようなことが分かってきたのかというと……。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([土肥義則]/2022年11月16日掲載)からの転載記事です。

 「のり弁、チキンカツ弁当、カレー、全部おいしそうだなあ。うーん、どれにしようか決められない」といった感じで、スーパーの弁当売場の周りをウロウロしたことがある人も多いのでは?弁当以外でもジュースであったり、総菜であったり、菓子パンであったり。店内のお客を見ていると、熟考している人をよく見かける。

 迷っている人たちは、どの弁当の前で立ち止まっているのか。店内にカメラを設置することで、お客の行動を分析しているスーパーがある。埼玉や群馬を中心に、関東で展開しているベルク(埼玉県鶴ヶ島市)だ。

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店内にカメラを設置して、お客の行動を分析

 2022年4月、千葉県の我孫子市に「フォルテ我孫子店」(以下、我孫子店)をオープン。そのときにセーフィー社のAIカメラ「Safie One」を設置して、お客はどんな行動をしているのか、立ち止まった人はどのくらいいるのかなどを分析して、売り上げを伸ばそうとしている。近い将来、スタッフの間で「月曜日の昼の時間帯は、から揚げ弁当をココに置かなきゃ。だって、数字で証明されているからね」といった会話が交わされることを想定している。

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4月にオープンした「フォルテ我孫子店」

 もちろん、ベルクはこれまで何もしていなかったわけではない。既存のカメラを使って売場でどのような商品が売れているのかなどを把握して、販売数を伸ばそうとしていた。しかし、である。店のスタッフは忙しい。モニターを「じーっと」見ているわけにはいかないので、映像は存在していてもじっくり分析することがなかなかできなかったのである。

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AIカメラ「Safie One」

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AIカメラ「Safie One」を設置することで、通過人数や滞留者数などが分かる(画像はイメージ)

 そんな課題を感じていたわけだが、AIカメラを設置することによって、張り付いている必要がなくなったそうで。となれば、次のような流れが生まれるかもしれない。張り付く必要なし→時間が生まれる→本来の業務に集中できる→空いた時間に数字を分析→新たな手を打つことできる。

「スタッフの思い込み」が浮き彫りに

 今回の取り組みは「実証実験」として取り組んでいるわけだが、具体的にどのような形で行われているのだろうか。

 我孫子店は「お弁当エリア」に2台のカメラを設置し、そのエリアを4分割して計測することにした。「エリアを通過する総人数」と「3秒以上立ち止まった人(滞留者)」この2つをカウントすることによって、4つのエリアの滞留率(通過人数÷滞留人数)を計測。曜日や時間ごとに分析したところ、どのようなことが分かってきたのだろうか。

 結論から先に言うと、「スタッフの思い込み」である。

 下の図を見ていただきたい。これは我孫子店の弁当エリアを4分割したものである。多くの人は左からやって来て、右に移動する。なぜかというと、Cの先(右下の方向)にレジがあるから。アイランド型の陳列台にお弁当を並べているので、お客が周囲をグルグル回ることができるのだ。

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お弁当エリアを4つに分割

 ところで、我孫子店では4つのゾーンにどのようなお弁当を並べているのだろうか。Aは一番人気の商品である。例えば、カツ重やから揚げ弁当など。CとDについては、Dのほうに売れ筋商品を置いている。

 なぜかというと、先ほどご紹介したように、多くの人は左から流れてくる。人気商品が並んでいるAの弁当を見て、次にDにといった動きがみられるので、CよりもDに、より売れている商品を配置しているのだ。ちなみに、取材当日、Dで「宮崎フェア」を展開していて、チキン南蛮弁当などを販売していた。

 最後のBについては、店内でつくっていないお弁当を扱っている。「鮮度」という視点でみると、どうしても店内で調理したものよりも落ちてしまうので、通過人数が少ない傾向があるBに並べているのだ。

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我孫子店のお弁当コーナー

 さて、映像を分析して、どのような結果が浮き彫りになったのだろうか。「そりゃあ、滞在者はAが最も多いでしょ。人気商品を置いているんだから」と思われたかもしれないが、滞留率をみると、Bが最も高い数字であることが分かってきたのだ。A、C、Dの滞留率はほぼ同じだったのに対して、Bは5%ほど高かったのだ。

昼と夜で通過人数が違う

 データ分析を担当している、販売運営部の久保田聡さんはこの数字を見て驚いた。「これまでの経験と勘で、滞留率が高いのはAかDと思っていたのに、Bという結果は信じられなかったですね」と振り返る。思い込んでいたのは、自分だけなのかもしれない。ということもあって、結果を知らせずに、他のスタッフにこのような質問を投げかけた。「滞留率が高かったのは、どのエリアだと思うか?」と。

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 多くの人は「A」または「D」と答えていて、「B」と答えたのは数人だけ。ただ、通過人数をみると、やはりAとDが多い。立ち止まって購入している人も多いが、通過している人も多いことが見えてきたのだ。こうしたデータを受けて、我孫子店ではどのような手を打つことができるのだろうか。

 「滞留率が高い『B』に置いている商品を『C』に並べたらどうなるのか。『B』よりも『C』のほうが通過人数が多いので、以前よりも『B』の商品が売れるようになるかもしれません」(久保田さん)

 このほかにも、考えられる手はある。例えば、夜の時間帯だ。夜になると、AとDの前を通る人が増える。なぜか。仕事が終わって「今日の晩ご飯は、お弁当にしよう。いつものカツ重かな」といった感じで、目的買いの人が増えるからである。

 一方、BとCの前を歩く人は少なくなる。なぜか。AとCの背後には総菜などを扱っているので、「晩ご飯のおかずはどれがいいかな」といった人たちも集まる。お弁当との相性の良さもあって、多くの人が歩いているわけだが、BとCの背後には、自炊が必要な商品が並んでいる。夜遅い時間に家で自炊を始める人は少ないようで、BとCを通過する人は減少するのだ。

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人気のカツ重

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BとCに陳列されているお弁当

 昼と夜で通過人数が違うことも、データで示されている。であれば、BとCに並んでいる商品をAとDに近づければいいのかもしれない。たくさんの人が通過しているので、BとCの商品が目に入って「買ってみようかな」といった人が増えることも考えられる。

 「AIカメラを導入する前は、商売人としての経験と勘に頼る部分がありました。『これまではこうだったから、こうなるよね』といった形で進めていましたが、いまは違う。『数字がこうなっているから、このようなことができるよね』といった話ができるようになりました」(久保田さん)。お客はお弁当の周りをグルグル回っているが、ベルクのスタッフは仮説と検証をグルグル回しているようである。

カメラを入口に設置すれば

 これからの話をすると、お弁当エリアのデータをさらに分析して、売り上げを伸ばすことが考えられる。もちろん、それだけではない。入口にカメラを設置して、データを分析することができるかもしれない。

 お客は店に入ると20分ほどウロウロして、会計を済ませることが多い。となれば、店内にいま何人いるのか、〇時〇分に何人が入ったのか、といったデータが分かれば、レジの稼働台数を増やしたり減らしたり、といった手を打つこともできる。

 スーパーにはたくさんの通路があるので、各列にカメラを設置することもできる。そこでも通過している人はどのくらいいるのか、滞在している人はどのくらいいるのか。そうしたデータを分析することによって、ほかの場所でも「スタッフの思い込み」が浮き彫りになるかもしれない。

 カメラを設置すればするほど、現場からこのような声が聞こえてきそうである。「ええっ、そうだったの?じゃ、対応を変えなきゃ」と。

元記事はこちら



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