ミッケラービールのブランド戦略を読み解く。世界中のクラフトビールファンを熱狂させる裏側を分析

ミッケラービールのブランド戦略を読み解く。世界中のクラフトビールファンを熱狂させる裏側を分析

SNSなどで話題の「マーケティングトレース」をご存知ですか? 基本のフレームワークを使いながら成功事例を分析し、マーケティング思考を鍛える方法です。今回は、考案者の黒澤友貴さんにブランド戦略を読み解くシートを使って、世界中で愛されるデンマーク発の「ミッケラービール」について読み解いていただきました。
前回記事はこちら:https://foodclip.cookpad.com/15027/

デンマークのクラフトビールブランド「ミッケラー」

1週間ほどデンマークのコペンハーゲンに滞在して、最も記憶に残った食ブランドが「ミッケラービール」です。

日本でも販売されており、特徴的なパッケージデザインが記憶に残っている方も多いのではないでしょうか。

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アメリカ人のグラフィックデザイナー、キース・ショアが手がけるイラスト。ジャケ買いしたくなります

ミッケラービールは、2006年にデンマークのコペンハーゲンで創業し、世界中でファンを増やし続けている人気ブルワリーです。

2007年には世界のビールマニアが集まるサイト「ratebeer.com」にて 年間最優秀醸造所に輝いています。また、デンマークにある世界No.1レストラン「ノーマ」のハウスビールも手掛けるなど、食通からも注目を集めています。

裏側のブランド戦略はどうなっているのか?

ビールマニアに認められるほどのおいしさ、イラストの可愛いさが注目されるミッケラーですが、ブランド戦略はどうなっているのでしょうか。各国で根強いファンをつくっていることから、多くの工夫がなされているはずです。

本記事では、デンマーク発で世界のクラフトビール文化をリードするミッケラーのブランド戦略を読み解いていきます。

顧客の心を突き動かすニッチな商品開発

まずは、ミッケラーの商品・価格戦略(Product+Price)を見ていきましょう。

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ミッケラーの特徴的な商品を見ていきます。
『Beer Geek Breakfast(ビアギーク ブレックファスト)』

ブレックファスト、つまり朝食…。名前だけでワクワクしてきます。
公式ECサイトの紹介文はこちらです。

An oatmeal stout with 25.0% oat-based ingredients and a nice touch of gourmet coffee.
A beer that goes extremely well with breakfast! Also good for the afternoon and the evening...
Good hints of coffee and smoke as well as dark chocolate and roasted malts. A Mikkeller classic!
オートミールスタウトは、25.0%のオート麦をベースにした原料に、コーヒーがほどよく加わっています。朝食と非常に相性の良いビールです。また、午後から夜にかけてもおいしく飲むことができます。
コーヒーとスモーク、そしてダークチョコレートとローストモルトの良い香りがします。
(公式ECサイトより引用)

「朝食と相性の良いビール」とは、なかなかニッチな領域を攻めていますね。

『Beer Geek Breakfast(ビアギーク ブレックファスト)』のような商品は、一部の限定商品として販売しているだけでは、と思われる人も多いと思います。

しかしミッケラーはほかの商品でも、他社ビールブランドが開発しないようなニッチなところを攻めています。
・らーめんビール(ラーメン専用のビール)
・世界最恐の苦味ビール「1000 IBU」
・クリームエール(ビール嫌いでも楽しめるオリジナルブレンドビール)など

コペンハーゲン空港の「RAMEN TO BÍIRU(らーめんとびーる) – NØRREBRO」では、ラーメン専用のビールが販売されていました。

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ミッケラーは、ビールマニアのニーズはあるけどニッチ過ぎて他社(とくに大資本の競合)が参入できない領域で、商品開発を進めていることがわかります。

価格としては、紹介したようなニッチで尖った商品では1000円を超えます。決して安くはありませんが、世界中のビールマニアがワクワクして購入しています。

他社商品に比べて高価格ではあるものの、特定シーンでの価値を最大化することで高付加価値を実現し、選ばれる商品となっているわけです。

なぜこのような仕掛け方ができるのでしょうか。裏側の流通(Place)の仕組みを読み解いていきます。

「ファントムブルワリー」の仕組み

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ミッケラーは、「ファントムブルワリー」と言われる製造スタイルをとっています。ファントム=幽霊。つまり自前の醸造場を保有しないスタイルということです。

自社で特定の製造所は持たず、世界中の醸造所とコラボして商品を届ける仕組みになっているため、ニッチな領域で攻められるということです。

例えば日本では、大阪府の箕面ビールがミッケラーとコラボして『Beer Geek Breakfast(ビアギーク ブレックファスト)』を日本らしくアレンジ。餡子を加えて和テイストにした商品を販売しました。

ミッケラーは、現地パートナーと商品開発・製造を行い、その地域の限定性を活かしながら販売するというスタイルをとっていることが特徴です。

最後に、ミッケラーのブランドコミュニケーション(Promotion)についてを読み解いていきます。

ブランドの人格がぶれないコミュニケーション

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ミッケラーのブランドガイドラインを読み込むと、ブランドコミュニケーションに一貫性を保つことや、言葉・ビジュアルなどの表現に人格を感じられるようにすることを、いかに大切にしているのか理解できます。

ミッケラーのブランドガイドラインは、ブランディングに関わる人はぜひ目を通してみることをおすすめします。

ブランドコミュニケーションの一貫性がありつつ、地域に合わせてカスタマイズしている点も注目ポイントです。各国でオリジナルのロゴが作られていたり、その地域特有の文化施設とのコラボレーションが行われています。例えばMikkeller TokyoのInstagramのアイコンは日本の国旗のようなデザイン。

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イベントでは、銭湯カルチャーの発信拠点となっている「小杉湯」とコラボして、「クラフトビールとヒュッゲの湯」が開催されています。

ブランド独自の人格の定義と運用が確立しているため、国を超えて、ユニークな活動をしている人や企業とのコラボレーションが可能になっていると考えられます。

コラボレーション方針に関しても、ブランドのガイドラインで定義されています。

A key element of Mikkeller's brand is collaboration. From world renowned Michelin restaurants and other amazing breweries to design brands, wineries, artists and rock stars, we pride ourselves in working with the best of the best.
ミッケラーブランドの重要な要素は、コラボレーションです。世界的に有名なミシュランレストランや他の素晴らしい醸造所から、デザインブランド、ワイナリー、アーティスト、ロックスターまで、私たちは最高の人たちと一緒に仕事ができることを誇りに思っています。
(公式サイトより引用)

有名人やブランドとのコラボだけではなく、ビールマニアとの交流も大切にしていて、みんなでランニングをした後にビールを飲むという「Mikkeller Running Club」や世界中からビールマニアが集う「Mikkeller beer celebration 」などを各地で開催しています。

ミッケラーは3つの価値をセットで伝えている

ミッケラーのブランドコミュニケーションを、機能価値・情緒価値・社会価値の3つの伝え方に分類して整理します。

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①ブランドの機能価値を伝える

・ミッケラーならではのこだわりのレシピで作るクラフトビールの味
・コンビニやスーパーなど手軽に手に取れる場に商品を用意

②ブランドの情緒価値を伝える

・キース・ショアが手がけるキャッチ―なイラスト
・地域文化に寄り添うデザインや情報発信

③ブランドの社会価値を伝える

・「Mikkeller Running Club」のように人と人の繋がりをつくる
・ビールマニアが集う場「Mikkeller beer celebration copenhagen」を開催

ブランド価値を伝えるためには、①ビールの味のような機能価値、②パッケージデザインのような情緒価値、③コミュニティのような社会価値の3つが、セットであることが大切だとミッケラーは教えてくれます。

まとめ

ミッケラービールが世界各国で熱狂的なファンをつくり、クラフトビールの文化をリードする存在になっている理由を読み解いてきました。

ミッケラーから学ぶ、食ブランド戦略を考える上でのヒントをまとめます。
①大手メーカーではできない「ニッチなシーンを研ぎ澄ます商品開発」
②特定シーンで価値を最大化することで高価格・高付加価値を実現する
③製造や流通の仕組みに捉われずに、顧客が求めるものを開発し続けられる仕組み(ミッケラーの場合のファントムブルワリー)
④ブランドの人格に一貫性を持たせるためのガイドラインをつくる
⑤機能価値・情緒価値・社会価値を3点セットで伝えて顧客を動かす

ミッケラーは、おいしいクラフトビールと可愛いイラストパッケージだけで売れているわけではなく、ビールマニアを熱狂させ続けるためのブランドの仕組みをもっていることがわかりました。

ミッケラーのブランド体験が気になる方は、ぜひ東京のお店にも訪れてみてください。きっと面白い発見があるはずです。



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著者情報

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黒澤友貴
1988年生まれ。ブランディングテクノロジー株式会社 執行役員 経営戦略室 室長。「日本全体のマーケティングリテラシーを底上げする」をミッションに6,000人近くのマーケターが集まる学習コミュニティ#マーケティングトレースを運営。2020年2月に書籍「マーケティング思考力トレーニング」を出版
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