「香りを漂わせるマシン」が登場 人の行動を変えられるのか

「香りを漂わせるマシン」が登場 人の行動を変えられるのか

「プシュー」という音がするたびに、香りが漂う装置が登場した。嗅覚を刺激することで集客効果を高めていくそうだが、人の行動を変えることができるのだろうか。装置を開発した社長に話を聞いたところ……。
※この記事は ITmediaビジネスオンライン([土肥義則]/2022年12月04日掲載)からの転載記事です。

 「プシュー」という音がするたびに、パンケーキの甘い香りが漂ってくる――。

 焼き肉やウナギの店などで、人がたくさんいる方向に向けて換気扇を設置しているところがある。食欲をそそる香りが漂ってくるので、「あー、焼き肉を食べたいなあ」と思って、フラフラと店に入ってしまった人もいるはずである。

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「プシュー」という音とともに、パンケーキの香りが漂ってきた

 焼き肉店の場合、実際に肉を焼いて、その香りが店外に漂っているわけだが、人工的に香りをつくりだして、集客効果を高めようという動きがある。「Scenery Scent(シーナリーセント)」という会社が手がけていて、その装置の名は「Ambiscent(アンビセント)」。小さな瓶の中に香りが詰められていて、それを機械にセット。冒頭で紹介したように「プシュー」という音がするたびに、香りが漂うのだ。

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さまざまな香りを噴射する「Ambiscent(アンビセント)」

 アンビセントの仕組みはシンプルである。機材の中に人感センサーを搭載していて、近くを人が通ると、噴射孔から香りがでてくるというもの。香りはピンポイントに届くので、ちょっと離れた人が「パンケーキの香りがするなあ」と感じることはなく、また微細なミストなので、衣服などに香りが付くリスクも低いそうだ。

 で、この装置を使って、どんなことに役立てようとしているのか。同社で社長を務めている郡香苗(こおり・かなえ)さんに聞いたところ「嗅覚を刺激することによって、集客力を高めたり、商品を印象づけたり、演出効果として期待しています」とのこと。

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焼き肉の香りも

 「ほんとかよ。香りを噴射するだけで、効果があるとは思えないね」と感じられたかもしれないが、Webメディアの「販促マップ」が都内のスーパーマーケットの特設カレーコーナーに、カレーの香りを出す機材(別のモノ)を設置して、どのくらいの人が購入したのかを調査した。

 どのようなプロモーションをすれば、消費者はカレーを手にするのか。(1)販促ツールなし(2)デジタルサイネージを設置(3)デジタルサイネージとPOPを設置(4)デジタルサイネージと香りを噴射。この4つのパターンで検証したところ、最も多くの人が購入したのは「デジタルサイネージ+香り」だった。つまり、「買ってみようかな」と感じさせるには、目と鼻を刺激することが効果的であることが分かってきたのだ。

「プシュー」装置を開発

 それにしても、なぜ香りを漂わせる装置を開発したのだろうか。郡さんはもともとアロマセラピストとして働いていたわけだが、ある人からこのようなことを言われた。「自分は舞台の特殊効果の演出をしている。煙を出したり、花火をあげたりしているが、芝居のワンシーンで香りを体感できるような演出をしたいと思っている。手伝ってくれないか」と。

 郡さんにとっては、畑違いの仕事である。香りをつくる技術や経験はあるものの、ステージで演出できるような機材は持っていない。「舞台演出ってなに?」といったレベルの素人だったが、依頼があれば仕事を引き受けることにした。大きな劇場だけでなく、ライブ会場、ファッションショー、企業のイベントなどで香りを演出することに。

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劇場などで使われている装置

 どのような仕組みで香りを漂わせているのかというと、舞台の袖にはスピーカーが並んでいる。その前または横に機材を設置して、大きなファンを回すことで、空間に香りを漂わせているのだ。1秒で5メートル先まで香りを拡散できるそうで、計算上では大きな会場でも問題なく漂わせることができる。が、しかしである。駆け出しのころ、経験が不足していたこともあって、うまくいかないことが続いたのだ。

 例えば、ライブ会場で香りを漂わせることになったとしよう。もちろん、リハーサルを行うわけだが、そこでうまくいっても、本番ではうまくいかないことがあった。なぜか。人の息である。当たり前の話になるが、人間は息をする。吸って吐くという行為によって、香りの滞留が違ってくるのだ。リハーサルでは人がいない、しかし本番ではたくさんの客が詰めかける。人数によっても違うし、会場の広さだけでなく形状によっても違ってくる。

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Scenery Scentの郡社長

 また、ライブによっては、観客が立つことがある。となると、鼻の位置が違ってくる。全員が座った状態を想定して、香りを噴射したものの、そのときのライブは盛り上がったこともあって、観客が立ち始めたのだ。そうすると、前列にたくさんの壁ができてしまって、後方の人たちにうまく届かないこともあったそうだ。

商機はあるのか

 劇場やライブ会場などで、郡さんは香りを漂わせてきた。その実績を受けて、どのような変化があったのだろうか。「自販機の横に設置したい』『スーパーの店内で香りを漂わせたい』といった声が増えてきました。人感センサーを搭載した装置を完成させたわけですが、デジタルサイネージと組み合わせることで、目と鼻から訴求できるのではないか。このようなことを考えていて、現在は新たな開発を進めています」(郡さん)

 アンビセントはまだ実用化されていないが、どのようなシーンでの使用が考えられるのか。冒頭で紹介したようなパンケーキの香りは、カフェのサンプル付近だと相性がよさそうだ。焼き肉の香りもかがせてもらったところ、確かに肉を焼いたときの香りがした。となると、店の看板付近での設置が考えられる。

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カフェなどのサンプルの近くに設置することも考えられる(提供:ゲッティイメージズ)

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デジタルサイネージと香りを組み合わせることで、集客力がアップ?(提供:ゲッティイメージズ)


 ここ数年、ラーメンやギョーザなどの自販機が増えているが、そこに設置すると購買率が上がるかもしれない。大型の商業施設には、フロアマップをデジタルサイネージで表示しているところもある。「この飲食店に行きたいなあ」と思ったときに、その場所をタッチすれば、店の料理の香りが漂う……といった使い方も考えられる。

 まだまだ未開拓の分野なので、消費者にウケるかもしれないし、ウケないかもしれない。未来のことは誰にも分からないが、同社の関係者は「そこに商機がある」と嗅ぎ分けているに違いない。

元記事はこちら



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